とね日記

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確率論:伊藤清(第2章:確率測度)

2011年10月29日 14時05分48秒 | 物理学、数学
確率論:伊藤清」第2章:確率測度

第1章では「有限試行」の場合の確率論で第2章からは「一般」の場合の確率論ということなので、無限回数試行のことかなと思ったが、そうではなく集合論をベースに理論を構築していくのだとすぐ気がついた。章のタイトルも「確率測度」となっているわけだし。

つまり集合論から定義される「完全加法族」を確率変数とした確率論だ。ここでいう「族」とは「集合族」のことで、「集合から構成される集合」のことだ。こうすれば確率変数が離散的であっても、連続的であっても、さらに「カントール集合」のような形であってもカバーできる。「一般的」というのはそういう意味だった。だから「集合論」+
測度論」をベースに定義や定理とその証明が本章の大部分を占めている。本書の前提知識として測度論をベースに築かれた「ルベーグ積分論」が必要なのもこのためだ。

「測度」のうち「確率の公理」を満たすような「確率測度」というものを定義し、その「量としての」存在性や収束性を厳密に証明していく。このような数学における一般化と厳密な証明手続きは、とりわけ20世紀に始まった現代数学において大切なことだとはわかっているが、地味な証明が延々と続くのでよほどの数学好き(証明好き)でないとやりきれないものがある。こういうのばかり読んでいると、あっという間に歳をとってしまうような気がする。

確率変数を広義にとらえた本質的なものは「集合」なのだという一般的な立場をとったのだから、本章ではもちろん物理的な現象の不確定性(非決定論)=未来はどうして確率的になるのか、を解き明かしてくれるわけではない。神様はあらかじめサイコロを振ることになっているわけで、1から6までの目は確率変数としての集合に織り込み済みである。そしてサイの目の集合のそれぞれが出現する確率の値を確率測度と呼んでいる。

厳密に言えば確率変数を一般の集合とするのでは条件が広すぎて確率測度に意味を持たせることができない。しかし確率変数を位相空間の「可算分離族」などと表現してしまうと一般の方には意味が通じなくなるので「集合」ということでご容赦を!一般の方にとっての「集合」のイメージは「可算分離族」に近いと思う。

確率的現象がおこる瞬間の運動やそれをもたらす要因が、確率測度に与える変数としての集合の位相構造と関連しているのだろう。しかしブラウン運動ならともかく、株価や金利、商品の価格のような対象の変動要因とそれらに対応する確率測度や位相構造の間に僕は数理的な関係を見いだせると思えない。数学者マンデルブロは綿花の価格変動パターンをフラクタル構造だと想定した。(参考記事:「Excelで学ぶデリバティブとブラック・ショールズ:藤崎達哉」)

そもそも第2章までの範囲では「時間」の概念すら取り上げられていないので「未来」について語れるはずがない。「時間」を取り上げるのは第5章の「確率過程」からである。

また「神様がサイコロを振る原因は何か?」とか「そのサイコロはどのようにして振られるのか?」などの問いに集合論や測度論などの数学が答えてくれるわけではない。これは物理学など、変動する対象の研究から明らかにされる事柄である。

この章で議論される「一般の」というのは、「全確率の和が1となる条件のもとで考えられうる限りのあらゆる種類のサイコロ」という意味だ。

もしかすると神様が振るサイコロは必ず1が出るという特殊なものかもしれない。この場合、未来は「決定論」に従うことになる。逆説的に聞こえるかもしれないし理論としての面白みは全くなくなるが、確率論は決定論の場合も含んでいる。

僕が詳しく学びたいのは第5章の「確率過程論」なので、早くそこにたどり着きたいという気持ちを抑えながら、地道に読み進めていった。章の半ばでそろそろ忍耐力が尽きかけ、読み飛ばしてしまおうかと思ったことを白状するが、「特性関数」のあたりから解析学っぽくなってきたので気力を持ち直すことができた。いろいろな確率分布と特性関数(フーリエ変換)の対応付けは面白いものだ。物理学的な応用という立場で見ると、一般の試行においても確率測度が定義できれば確率分布やその特性関数が定まることが証明できることは、この章で特に有用な記述だと僕には思えた。

章全体の理解度は60~70パーセント。話の大筋は見失っていないので、次の章に進むことにしよう。僕の目的は証明をすべて理解することではなく、話の筋を知ることにあるのだ。


第2章の内容は次のとおり。

第2章:確率測度
- 一般の試行と確率測度
- 確率測度の拡張定理
- 確率測度の直積
- 標準確率空間
- 1次元の分布
- 特性関数
- 分布族の中の位相
- d次元の分布
- R^∞の上の分布

第2章のキーワード:確率測度、σ加法族、確率密度、ガウス分布、コーシー分布、ポアソン分布、ボレル集合族、可測写像、P可測、ルベーグ拡大、完備確率測度、完備確率空間、乗法族、ディンキン族、正則確率測度、外測度、劣加法性、カラテオドリーの定理、初等確率測度、確率測度の拡張定理、分布関数、確率測度の直積、標準確率空間、標準確率測度、強同型、K正則、ルージンの定理、像測度、ルベーグの分解定理、連続分布、絶対連続、純不連続分布、特異分布、分布の能率、ヘルダーの不等式、平均値、分散、たたみこみ、一様分布、三角分布、指数分布、特性関数、フーリエ変換、レヴィの反転定理グリベンコの定理レヴィの収束定理、Bochnerの定理、積分的凸集合、ポリアの定理、弱位相、レヴィ距離、d次元分布、多項分布、コルモゴロフの拡張定理


本書を読むためには集合論、位相、ルベーグ積分、解析学などの理解が必要だ。それぞれについてのお勧め本は次のとおり。

入門者向き:「集合への30講:志賀浩二著」および「位相への30講:志賀浩二著
中級者向き:「集合・位相入門: 松坂和夫著
入門者向き:「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一
中級者向き:「ルベーグ積分入門:伊藤清三
入門者向き:「定本 解析概論:高木貞治


関連ページ:

ネットで学びたい方は、以下のページをご覧になるとよい。

確率論入門:(横田 壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/prob/prob.html

計画数理演習(確率微分方程式)
http://takashiyoshino.random-walk.org/memo/keikaku_ensyu/web.html

以下のブログ記事では「著者は大学の数学科にいる数学者の卵が金儲けの「戦場」に投入されている現状を非常に憂いています。そして、彼らを数学研究の場に戻してくれ。」と書かれている。

伊藤清「確率論と私」を読みました
http://niddm.at.webry.info/201012/article_17.html


関連記事:

確率論:保江邦夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e61db01708357715d1d758b5c1308f5


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確率論:伊藤清


はじめに

第1章:有限試行
- 確率空間
- 実確率変数、確率ベクトル
- 混合、直結合、樹形結合
- 条件付確率
- 独立性
- 独立な実確率変数
- 大数の法則

第2章:確率測度
- 一般の試行と確率測度
- 確率測度の拡張定理
- 確率測度の直積
- 標準確率空間
- 1次元の分布
- 特性関数
- 分布族の中の位相
- d次元の分布
- R^∞の上の分布

第3章:確率論の基礎概念
- 可分完全確率測度
- 事象と確率変数
- 分割とσ加法族
- 独立
- 条件付確率測度
- 条件付確率測度の性質
- 実確率変数
- 条件付平均値作用素

第4章:独立確率変数の和
- 一般的事項
- 独立確率変数の級数の概収束
- 中心値、散布度
- 独立確率変数の級数の概発散
- 大数の強法則
- 中心極限定理
- 重複大数の法則
- Gaussの誤差論
- Poissonの少数の法則

第5章:確率過程
- 関数空間CとD
- 確率過程に関する一般事項
- 情報と増大情報系
- 停止時
- 離散時変数のマルチンゲール
- 連続時変数のマルチンゲール
- Gauss系
- Wiener過程(Brown運動)
- 多項配置、Poisson配置
- 加法過程
- 無限可解分布
- Markov過程と転移確率
- 生成作用素
- 確率微分方程式論の直観的背景
- 確率積分
- 確率微分
- 確率微分方程式
- 1次元拡散過程

あとがき
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4 コメント

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確率とは何か? (rikunora)
2011-11-01 18:58:06
一時期、「確率とは何か」ということが気になって、この本と格闘しました・・・が、正直、難しかったですね。
未消化気味ながら、確率を公理的に考えるとはこういうことなのかと納得させられました。
現在積ん読リストに入っているのですが、とねさんのこの記事をきっかけに見直してみます。

Re: 確率とは何か? (とね)
2011-11-01 20:56:37
rikunoraさんへ

コメントありがとうございます。
rikunoraさんもこの本にチャレンジしたことがあったのですか。
僕も未消化な証明がたくさんあります。

確率というと普通はトランプからカードを抜き取ってダイヤが出る確率とか、袋の中から玉を取り出したりするのが多いですが、こういう確率現象と今回僕が紹介したような力学的な現象を確率事象とするのでは、ずいぶん感覚的に違いますね。

僕もめげずに読み進めることにいたします。
Unknown (hirota)
2011-11-11 12:28:38
こういうものは基本概念に具体的なイメージを持つと分かった気になれます。
「確率空間」の僕的解釈は「多元宇宙」ですが、イメージ分かりますか?
確率空間の1点が「1つの全宇宙歴史」で、「事象」は「特定条件を満たす歴史全部の集合」なんですが。
hirotaさんへ (とね)
2011-11-11 14:26:11
> こういうものは基本概念に具体的なイメージを持つと分かった気になれます。

伊藤先生は本書「確率論」の「はじめに」でも「確率論を真に楽しむためには、確率現象に対する直観的理解を背景として確率論の発展方向を見きわめなければならない。」とお書きになっています。

抽象的な数学概念についても、具体的な現象との結びつきは大切なわけですね。

> 「確率空間」の僕的解釈は「多元宇宙」ですが、イメージ分かりますか?

僕にもそれはイメージできます。膨大な数の歴史集合の中のたった1つの中で私たちは生きてんいるわけですね。

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