糖尿病治療のため入院してすでに8日間過ぎた。こんなに長くなるとは予想してなく、10年前に両眼の緑内障手術で2週間入院して以来の長期入院となった。緑内障と同様、糖尿病も完全に治らない病気と言われ、せめて今以上に悪化させず、死ぬまでうまく付き合っていく要領を習得するのがこの入院の目的であった。
最初の2日間は、治療方針を決めるためのデータ収集で、定時に血糖値を測るだけであった。特に2日目は3食の前後と寝る前の計7回、わずかだが指先から採血を強いられた。結果はやはり予想通りいつも値は高く、3日目から血糖を下げるインスリン注射をすることになった。自分には初めての摂取である。最初いきなり6単位のトレシーバが打たれ、5時間後に激しい低血糖症状を起こし、看護婦が慌ててブドウ糖液を作り服用し平常に戻った。低血糖は意識不明のまま昏睡状態に陥り死亡することもある。その初期の症状を体験し、その寸前の兆候が分かり、むしろいい経験になった。その後、毎食前と就寝前に測定し、その値の高低に応じてインスリンの種類と量が担当医の判断で決められ接種が続き、5日目位から徐々に値が下がり安定しつつある。昨日の医師の説明では、外部からのインスリン注入に触発され、今まで機能していなかった膵臓からインスリンが分泌し出だすこともあり、低血糖を引き起こすこともあるらしい。厄介な病気である。
退院後は自分で血糖値の測定とインスリン注射をしなければならない。若年性糖尿病の子供たちも自分でやっていることで、慣れれば簡単である。ただ現在の自分は、毎日摂取するインスリンの種類と量が変わり、それに従いていけずまごつき、監視する看護士の女性に絶えず叱られている。万一ミスが起これば、担当の看護士の責任となり、患者の回復よりそちらを気にしているようだ。投与する薬を実際に患者が飲んだことを示すために、空いた袋を持っていく看護士もいる。
入院して1週間以上になるが、稀に担当医が来て、状況と方針の説明がされる他は、終日看護士だけの対処である。それも決まった看護士でなく、毎日毎晩、担当者が変わり顔も名前も覚えられない。お互いの引き継ぎはコンピューターに入力されたデータだけで、街の開業医のような親しさはない。担当医は別の場所で、看護士が入力した値をコンピューターで見て指示を与えている。医師と患者の人間的な接触はほとんどない。大病院の宿命であろう。しかし、大病院には町医者にはない最新医療機器がそろっていて、各種検査結果など直ぐに分かるというメリットがある。まだ当分入院生活は続きそうだ。