瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

オレンジの森の姫君 その5

2010年07月08日 20時54分15秒 | ワンピース





丸々とした月が空の1番高くに昇る頃、ナミは妖精達の手で草原に引き摺り出されました。
ナミの体は蜘蛛の糸を縒り合せて作った糸で、しっかりと縛られていました。
その周りを硝子の様に透き通った小さな妖精達が、幾人も取り囲んでいました。
中でも1人は、小さな小さな金の王冠を被り、ナミの正面に立っています―それが妖精の女王でした。

ゾロは妖精達の中に飛び込み、ナミを抱え上げました。
周りに居た妖精達は驚き、金切り声を上げて逃げ惑いました。


「・・・・人間の男か・・・神聖な儀式を邪魔するとは随分無礼な奴だねぇ。」


女王はゾロに、憎悪を篭めた声で言いました。


「ナミは俺が貰う。あんたの憎しみがどれ程のものだかは知らないが・・・300年も苦しめたんだ、もう充分だろ?」


ゾロは少しも怖れず言い返します。


「その娘が欲しけりゃ持って行くがいいさ、そんな姿で構わないならね。」


女王が呪詛の言葉を呟いた途端、ナミは醜い疣の沢山付いた蟇蛙に姿を変えました。
ぬるぬるとした気味の悪い手触りに怖気が立ちました。


「どうだい、うっとりする程の美女だろう?」
「ああ・・・こんな別嬪、見た事無ぇよ・・!」


ゾロは、それでも手を離しませんでした。



『ゾロ、私の話をよく聞いて。
 月が1番高くに昇る頃、女王は私を生贄にする儀式を執り行うわ。
 そこから私を連れ出してちょうだい。

 女王は怒って私の姿を様々な物に変えるだろう。
 だけど決して掴まえた手を離さないで。
 離したら、私は2度と人間には戻れない。
 あんたの命もどうなるか判らない。

 変身が止って元の姿に戻ったら、私の全身にオレンジの汁を振り掛けて。
 そうすれば・・・私は、人間に戻る事が出来る。

 お願いよ、ゾロ・・・私がどんな姿に変わっても、決して手を離さないでいて・・・!』



「しつこい男だね・・・あんまりしつこいと、その娘に嫌われてしまうよ。」


女王はまた言葉を呟きます、途端に、ナミは恐ろしい毒蛇へと姿を変えました。


「ぐあっっ・・!!」


鎌首を擡げた蛇は、牙を剥いてゾロの肩に噛み付きました。
毒が回り、どんどん体が痺れていくようでした。


「ほら、その娘が怒っているよ・・・女に噛まれる気持ちはどうだい・・?」
「・・・ああ・・・痺れる位に良い気持ちだよ・・・!」
「ふん、減らず口の多い男だね!」


女王は三度言葉を呟き、ナミを今度は、ゾロの身の丈程も有る針山に姿を変えました。


「・・・うっっ・・・ぐっっ・・・がぁっっ・・・!!」


無数の鋭い針が、ゾロの体を串刺しにします。
顔から、首から、肩から、腕から、胸から、足から、幾筋もの赤い血が流れ出しました。



『・・・手を離さないで・・・お願いよ、ゾロ・・・。』



「まだ諦めないのかい!?しぶとい男だねぇ・・!!」


女王は更なる言葉を呟き、ナミの姿を赤々と燃える石炭に変えました。


「ぅぐあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁーーーー・・・・!!!!」

「面倒だよ!いっそ恋の炎とやらで、黒焦げになっておしまい!!」


気の遠くなる程の熱さを感じました。
自分の腕や胸が焼け爛れていくのが解ります。
肉の焦げる様な匂いも漂ってきました。


―それでもゾロは、手を離しませんでした。



『・・・ナミ・・・泣くな、ナミ・・・。

 もう・・・独りで泣いたりするな・・・ナミ・・・。

 俺が必ず、お前を自由にしてやる。
 一緒に外へ出るんだ・・!

 外の世界には、愉快な事が沢山有る。
 悲しい事も、腹立つ事も、不安になる事だって・・・偶に、有る。

 お前、海って知ってるか・・?
 信じらんねぇ位広くて、何処まで行っても水なんだ。
 此処を出たら、一緒に見に行こう。

 世界は、お前が想像もつかねぇ程広いんだ。

 だから・・・独りで閉篭って泣いたりするな、ナミ・・・!!』



「いいかげんにその手をお離し!!早くしないと月がどんどん傾いてしまうじゃないか!!」


苛立たしげに、女王は新たな言葉を呟きました、と、ナミの姿は真っ白な鳩に変わり、空へ飛び立とうと羽ばたきます。
ゾロは逃がさぬよう、必死になって押えました。

その変身を最後に、ナミの姿は元の人間に戻り、そのまま気を失ってしまいました。

ゾロはマントの下に隠し持った皮袋を取り出し、中に搾り入れていたオレンジの汁をナミの全身に振り掛けました。
そうして、ナミを抱えると、オレンジの森へと逃げ走りました。


「・・・おのれ・・・さては全てナミの企みだったんだね・・!解っていればあの男を物考えられぬ木偶にでも変えてしまえばよかった!それかナミを早い所、地獄の王に献上してしまうべきだったよ・・!」


女王は悔しさを堪え切れずにそう叫びました。




「ナミ・・・!ナミ・・・!」


森に逃げるとゾロは、ナミを縛る糸を引き千切って揺さぶり起こしました。


「・・・・・・ゾロ・・・?」
「無事か・・・?」

「・・・ええ・・・どうやら、上手くいったようね・・・。」

「・・・ああ。」


ゾロはナミを抱えたまま、強く抱き締めました。


「そういや俺の体・・・火傷も何も全て消えちまってるけど・・・何でだ・・・?」

「そりゃそうよ、ゾロが見た変身は全て幻覚だもの。」

「・・・・・幻覚??」

「女王はオレンジの香の中では魔力が弱まってしまうの。直接手で触れない限り、物を変える事は出来ないわ。」

「・・・お前な・・・そういう事は先に言えって!!!・・・何で言わなかったんだ!!?」


ゾロの言葉にナミはぺろりと舌を出して、悪戯っぽく笑いました。


「!!・・・まさか・・・お前・・・俺の心を量るつもりで・・・?」

「だって・・・口では何とでも言えるでしょ?」

「・・・っはぁ・・・やられたよ・・!」


がくりとゾロは肩を落とし、照れながら頭を掻きました。


「あんたも大した大馬鹿者よねぇ。悪戦苦闘の末、手に入れたは女1人だけ・・・一流のトレジャーハンターの名が泣くわよ?」

「一流のトレジャーハンターだぜ、俺は。宝だって一流にしか興味が無ぇのさ!」


それを聞いてナミはにっこり笑い、ゾロの胸にしがみ付いてキスをしました。

オレンジの甘く爽やかな香が2人を包み込みました。



消える前に人間に戻った為、ナミの傷は一生残ったままでした。
ナミは、『これはあんたに逢えた事を忘れない為の証なの』と言って笑いました。



そして2人は何時までも幸せに暮らしました。





【おしまい】



…自分初のパラレル、初のゾロナミ、初のシリアス(?)と、初物尽くしな作品。
発表時、結構な反響を頂けた理由は、こんなのも書けたのかと、驚かれたからだと思う。(笑)
実は話の元にした伝説が在りまして。
伝説には著作権が無いから助かる。(笑)



・2004年5月3日、投稿部屋投稿作品

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