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『マイ・バック・ページ』

2011-06-02 22:31:08 | Movie
内務官僚の父をもち、麻布高校から東京大学法学部に入学。卒業後は朝日新聞社に入社。
ところが入社して3年目の秋、過激派グループ「赤衛軍」による「朝霞自衛官殺害事件」で犯人隠匿及び証拠隠滅の罪により逮捕され、容疑を認めたため、会社は、即日懲戒免職となった。浦和地裁にて懲役10ヶ月、執行猶予2年の有罪判決を受ける。

―このすごい経歴に、私は驚いた。あの温厚なイメージの評論家の川本三郎さんが?「君美わしく 戦後日本映画女優讃」では、少年が憧れの美しい女優にインタビューしたような含羞を秘めた清々しい文章を書く川本さんが、、、この物々しい経歴は川本さんの青春の挫折の軌跡でもある。けれども、時代が1960年代後半の政治の季節だったら、真面目な青年の執行猶予のついた逮捕歴なんぞそれほど特異ではなかったのではないだろうか。完全に遅れてきた少女だった私の世代では考えられない事件だが、逆に言えば、誰にでも起こりえた、当事者になっていたかもしれないあの時代とは。。。

本作は、1944年生まれの川本三郎さんのノンフィクション『マイ・バック・ページ』をベースにした映画である。
1969~72年、ベトナム戦争を背景に普通の若者たちがよりよい国家、社会をめざいて学生運動に身を投じていた政治の季節。しかし、全共闘運動の衰退に伴い、先鋭化してきたのが直接的な武力行動で変革をせまる過激な運動だった。そんな時代の転換期での1969年の東大安田講堂攻防戦は、象徴的な事件だった。傍観者でしかなかった早すぎた青年「週間東都」の記者・沢田雅巳(妻夫木聡)とあの事件を見て「これだ」と思った遅れてきた青年、大学生の梅山(松山ケンイチ)が出会う。ジャーナリストと革命をめざす大学生。それぞれが理想を追い求めながらも、それぞれに挫折して完全にうちのめされた。しかし、今ここで私たちが観るべきは、彼らの理想ではなく”挫折”にあると、そしていかにして彼らは挫折していったかを、私は本作を鑑賞しながら考えていた。

そこで思い出したのが、「鉄の女」という名誉ある?愛称で知られた英国の元首相のマーガレット・サッチャー夫人の言葉である。
私の時代の人々は、何かを”したい”と考えた。今の人たちは、何かに”なりたい”と考えている
全共闘世代の人々は私たちしらけ世代の人間が想像もできない次元で、自分のためではなく人々のために世界を変えたいと真剣に考えていた。雑誌記者の沢田も、大学生の梅山もそんな青年たちのひとりだった。しかし、彼らは早過ぎたために、或いは遅れてきたがための焦りを感じていたのではないだろうか。やがてその焦燥感は、時代末期の残り火を浴びて、何かをすることよりも何者かになろうとすることに変節していってしまった。ジャーナリストになろうと新聞社に入社して雑誌に配属になった沢田にとっては、社会部に負けないようなスクープが欲しかったし、カリスマ性のある梅山は、更に大きな何者かになろうとした。そんな彼らが、陥穽に落ちていったのは当然の流れだった。(以下、一部内容にふれてまする。)

沢田が逮捕された取調室で、刑事から、ある人物が君達に会いたがっていると言われるのだが、彼はその名前に心当たりがなく怪訝な顔をして、誰ですかと尋ねる場面がある。私も唐突に出てきたその名前に違和感を感じたのだが、刑事の口からその人を知り、沢田がその名前に気がつかなかったということに衝撃を受けた。これはラストの、数年後の沢田がひとりで入った小さな居酒屋で涙を流すシーンにきっちりつながっていく。彼らの革命が失敗して、挫折するのも道理である。そして、昔、身分を偽り一時的に暮らしをともにした取材対象の気の良いチンピラの「生きているだけでいいさ」と声をかけられ、涙を流すのだった。本作で最も重要で深い意味のある場面である。

めったに、本当にめったに観ることのない日本映画をわざわざ劇場で鑑賞したのだが、予想以上にひきこまれた。
時代背景も丁寧に再現しているだけでなく、キャスティングがお見事!山下監督は、出演者の魅力について、キャスティングの時点で7割から8割決まると言い切っているが、日本の映画界を背負っていくであろう妻夫木君と松山君の演技力は勿論だが、脇役を含めてこれほど素敵なキャスティングはそうそうお目にかかれないのではないだろうか。脚本家の向井さんによると「ここ数年いいなと思う役者のストックを全部投入」したそうだ。東大全共闘議長を演じた長塚圭史は、映像に出た瞬間に只者ではないオーラが漂い、一気に緊張感で映画がぴりっとしまるし、対する京大全共闘議長役の山内圭哉は、経済学部卒業の助手らしく現実派で理論で責める圧倒的な存在感。赤邦軍隊員、記者、学生を含めて、タイムマシンであの時代から連れてきたのではないかと驚くばかりの昭和の顔が並んでいる。そして、お決まりの煙草を吸う場面。(ついつい、時代は異なるが、昭和の学生時代の友人たちの顔が目に浮かんだ。彼らもまぎれもなく昭和顔・・・。)そんな中で、ひときわ鮮烈な印象を与えたのが、「週間東都」の表紙のモデルを務めた倉田眞子役の忽那汐里だった。同じ年の周囲の群れになじめない、早熟な女子高校生。ただの美少女ではないが、昔は確かにこんなタイプの女の子っていた。

それにしても、1961年生まれのプロデューサーの根岸洋之さんの、すでに絶版になっていた川本三郎さんの原作から映画化を思いついたところに感心する。ところで、全共闘世代の人たちが、この映画から何を感じるのか。将来のノーベル賞候補と期待されながらも、大学を去り、某予備校の講師となった山本義隆氏の感想を、私は聞いてみたいのだが。

監督:山下敦弘
2011年製作

■そう言えばこんなアーカイヴも
「望みは何と訊かれたら」小池真理子著
「ペトロスの青い影」三田雅広著
映画『夜よ、こんにちは』マルコ・ベロッキオ監督←お薦めです!
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4 コメント

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 (えい)
2011-06-03 23:27:43
こんばんは。

ぼくも、あの「名前」に思い当らなかったことと、
最後の「涙」は繋がっていると思いました。
ただ、この「涙」には
いろんなとらえ方があるようで、
それが、また映画の魅力とも言えるのですが…。
こんばんは (ノラネコ)
2011-06-04 00:07:00
>何かをすることよりも何者かになろうとすることに変節していってしまった

これですね。
私は昨日の鳩菅のやりとりをTVで見ていて、この映画の梅山と沢田を連想しました。
何かをなし遂げるために首相を目指したのではなく、首相になる事が目標だったのではと。
40年前を描いた映画と、現代が私の中で完全につながりました。
嫌な現実ですが、やはり今の日本がこの時代の延長線上にあるのだという事を思い知らされました。
えいさまへ (樹衣子)
2011-06-05 16:28:45
映画の中の涙にはいろいろな感じ方があることを私も他の方の感想で知りました。

>日々を一生懸命、営んでいる人の嘘いつわりのないセリフ

フォーンちゃんの感想ですが、空虚な理論よりも、生活者の嘘いつわりのない言葉の重みがいきていて、重みを感じました。
これって、日常でも感じることがあります。
ノラネコさまへ (樹衣子)
2011-06-05 16:35:57
>昨日の鳩菅のやりとりを

本当にさえないですよね・・・。日本人は優秀な国民だと思うのですが、何故?という感じです。

>今の日本がこの時代の延長線上にあるのだという事を思い知らされました

ノラネコさまのこの感想は、いろいろな意味で考えさせられています。いつか考えをまとめてブログにアップしたいです。

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