千の天使がバスケットボールする

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「国際連合」明石康著

2007-02-16 22:44:13 | Book
ニコール・キッドマンが国連本部に勤務する通訳者を演じた映画「ザ・インタープリター」は、国連が撮影に全面協力をしたことでも話題を提供したことが記憶に新しい。映画の舞台になった国連の総会議場は、ドーム型で高さ25メートルの大天井のもとで展開されている。総会議長や事務総長が座る大理石のひな壇が正面、それを中心に放射状に各国の議席が広がっているという。世界の殆どの国の要人が参加する国連を、著者は「世界の鏡」と呼んでいる。

著者は1957年から国連に勤務して、79年から事務次長を勤めた日本国連事務学会理事長である明石康氏の日本の加盟50年周年を期に、前作の「国際連合-その光と影」の内容を全面的に刷新したのが本書「国際連合-軌跡と展望」。我が国が国連に加盟したのは、1956年12月18日のことだった。原爆の被害を被った世界唯一の国から国連の強化と紛争解決のために日本の活躍を期待され、当時の重光外相が杖をついて不自由な脚をひきづりながら世界の桧舞台としての国連総会議場での、格調高く、すぐれた見識の加盟演説を明石氏は生涯忘れ難いという。それは以後の日本の国連外交を図る尺度、座標軸ともいえるくらい23年ぶりに国際社会に復帰した日本の決意と理念がこめられていた。本書は、文字どおり国連の歴史とともに歩んできた国連の生き字引ともいえるような明石氏が国連の誕生から、米ソのふたつの大国の冷戦時代、冷戦後の国連が果たした具体的な役割と成果、そして残念ながらルワンダ代表から「国連は我々がルワンダの歴史の中で最も無力で助けを必要としている時に、PKOの縮小を決定した」と嘆いた悲劇の過去も含めて、現代の国連の問題も浮き彫りにしている。
60年前に採択された国連憲章に記された「基本的人権と人間の尊厳および価値についてに信念を確認する」ことや、「自由の中での社会的進歩と生活水準の向上を促進する」という基本的な理念からさらに広がり、04年公表されたハイレベル委員会の報告では人類に対する6つの脅威を指摘している。

①経済的・社会的脅威
②国家間の紛争
③国内紛争
④大量破壊兵器
⑤テロリズム
⑥超国家的な組織犯罪

過去60年国家間の紛争は横並びだが、内戦は増加している。またハイレベル委員会では、どんな大国でも一国だけで対処できるわけではなく、世界中のどこで現れるとしてもすばやく予防的な対応措置をとる必要があると強調している。
後半は歴代の事務総長の仕事ぶりと人物評価で、それはまた興味深く読ませられる部分でもある。日本の安保理常任理事国入りは、なかなかかなわない。そこにはいみじくも、国連憲章で謳っている高く美しい理想や目的とは離れた国連の行動と、各国の利害や計算、思惑が伺われる。国際社会における理想と現実の乖離は、国内社会の理念と現実のよりも矛盾も大きい。これは世界の人々にとって、永遠の課題だ。

まさに「世界の鏡」としての国連がゆがんで、そこに映る世界像が醜いときもある。しかし著者の語るとおり、この鏡が今のところ最良の鏡であることは間違いない。

■アーカイブ

映画「ホテル・ルワンダ」
厳しい安保理常任理事国入り
「戦争広告代理店」
中国流ODAのゆくえ


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