千の天使がバスケットボールする

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『ホテル・ルワンダ』

2006-01-25 22:13:18 | Movie
ルワンダ、ルワンダ。ホリエモン逮捕劇をライブで楽しむ東洋の島国において、そこは遠い遠い国。だからほんのつい”最近”ルワンダで起こった大量虐殺事件など、、、知ったこっちゃない。

「何故、ツチ族を嫌うのか。それは歴史に聞けばよい。彼らは侵略者で略奪者だ。そして彼らはゴキブリだ。」
(ルワンダで多数派のツチ族と少数派のフツ族が分裂するきっかけを作ったのは、国際連盟によって第一次世界大戦後の戦利品として与えられたベルギーの政策による。黒くて平らな鼻をもつフツ族に比較して、背が高くて色の薄いヨーロッパ人に近い顔立ちのツチ族を、IDカードを作って経済的にも教育的にも優遇してきた。そして人種差別の思想をすりこんでいったのである。)
長年争ってきた彼らは、和平協定が結ばようとしたその矢先、ツチ族の大統領が何者かによって暗殺された。これまでの不穏な空気が、一気に暴発する。1994年アフリカ中部で、未曾有の大量虐殺開始の合図は、プロバガンダ専門ラジオ局RTLMの「高い木を切れ」というメッセージからだった。

首都ギワリでベルギー系の四つ星ホテルミル・コリン・ホテルでは、政府軍のビムジング将軍や国連の平和維持軍、観光客、ジャーナリストでにぎわっている。そこで働くポール・ルセサバキア(ドン・チードル)は、優秀な支配人だ。ツチ族の大虐殺がはじまるという義兄夫婦の忠告もにわかに信じられなかった。
世界中の人々の監視の中で、そのようなことが起こるとは。しかし、突如それは始まった。
ツチ族の妻の安否を気遣い、慌てて自宅に戻ると荒されて略奪された一室に難を逃れた隣人達と肩を寄せ合い、おびえてふるえる妻とこどもたち。行方不明の長男を狂ったように庭の隅から探し出しひきずりだすと、何者かの血を全身にあびて血まみれで錯乱していた。その姿を見て、善良で人間の良心を信じるポールは考えられない、考えたくない事態が発生したことを知って慟哭する。そして自分の職場であるホテルにみんなを車で運び、一時的に非難させる。

ポールは、はじめは兎に角自分の家族を守ることしか頭になかった。しかし、目の前で救いを求めている隣人たちを見殺しにすることはできない。部族が異なっていても彼らは隣人なのだ。仕事で培った気配りや機転で、なんとかツチ族の隣人達も助けようと奮闘する。そこへ今度は、孤児たちがホテルへ避難してきた。ものも言えずにおびえている小さな命を前に、彼は愕然とする。ここで彼は、なんとかひとりでも多くの人々を救う決意をする。

ジャーナリストが世界に流した大量虐殺の映像によって、国際救助がくると信じるポールにカメラマンは悲しげに応える。
「世界の人々は、あの映像を見て、”恐いね”と言ってディナーを続ける。」
やがてベルギーの国連軍がホテルに到着する。これで助かったと歓喜をあげる人々だが、平和”維持”軍は仲裁はしないと、国連兵士や職員、ルワンダにいる外国人だけを退避させるためにやってきたのだ。悲しく残酷なのは、雨の中、ホテルに残されたルワンダの避難民1268人と、バスに乗り込み去っていく彼らとの別れの場面であり、世界がルワンダを見捨てたことの象徴である。

ポールは、しかしあきらめなかった。ホテルで不安を抱えている彼らのために、食料を調達にツチ族の商人であり、民兵グループのリーダー、ジョルジュを訪ねる。ジュルジュは、友人としてアドバイスをする。「川沿いにそって帰れ、検閲がないからな。」
それは実に、現実的なアドバイスだった。夜明けとともに走っていく車が、突然障害物に次々とぶつかっていき走れなくなった。まだあけきらない薄い朝の光とともにぼんやりと浮かんできたのは、道路の向こうに延々と虐殺されてころがっている死体だ。これは、ポールへの警告であり、家族の命も奪うという脅迫だったのである。それでもポールは、勇気と人としてのあり方を失わなかった。

この映画を「アフリカのシンドラーのリスト」とわかりやすいコピーで紹介されている記事をみかけるが、本質は別のところにある。
当初主役のポールには、私も好きな俳優デンゼル・ワシントンも候補にあがっていた。演技力もあり、人間のあつみも感じさせて魅力的な容姿のデンゼル・ワシントンが起用されたら、話題性充分で興行的にも成功しただろう。しかし彼が演じたら、ひとりの英雄の美談色が強くなり、製作者たちと現在ベルギーに亡命しているポールが映画を通じて真に伝えたいことがずれていく可能性もある。(ポール役のドン・チードルと現在のポール・ルセサバイナ⇒)

映画鑑賞や読書は、きわめて個人的な感性にゆだねられるものである。だから私は、趣味を多少なりとも理解している友人以外は、そうそう映画をすすめたりしない。けれども、この「ホテル・ルワンダ」だけは、時間が許されるなら映画館へと是非足を運んで欲しい。部族間の単純で残虐な争いではない。そして共感性をもって、なにかを感じとることを願う。これは感動を与えてくれる映画でも、泣ける映画でもない。
国連軍が外国人救出のために到着した時、平和維持軍の指揮官であるオリバー大佐は、苦渋に満ちた顔でふりしぼるようにポールに伝える。
「君が信じている西側の超大国は、”君らはゴミ”で救う値打ちがないと思っている。君は頭がよく、スタッフの信望も厚いが、このホテルのオーナーにはなれない。君らは”ニガー”以下のアフリカ人だ。だから軍は撤退する。虐殺をとめもしない。」

100日間で惨殺された人間は、100万人。無抵抗のこどももツチ族の根を絶やすために、殺された。
エンディングのタイトルロールで、こどもの合唱と男声の歌があかるく重なり流れていく。

「ルワンダ ルワンダ アメリカがアメリカ合衆国なのに
なぜアフリカは アフリカ合衆国になれないのだろう」

*現在は民族別差別を排除した改革と教育プログラムを実施。ツチ族、フツ族という言葉も差別用語として使用禁止になっている。
また25日日経新聞夕刊に来日したポール氏の談話が載っている。「映画化を契機に1人でも多くの人が、平和のために声をあげてもらいたい。」
公式HP


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2 コメント

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これ、見たいんです。 (映画侍)
2006-01-27 01:27:32
さすが樹衣子さんは問題意識が明確ですね。この映画はぜひ見ようと思います。いま、様々な理由で時間が取れなくて毎日もどかしい思いをしています。



娯楽ばかりが映画ではありませんね。がつんとショックを受けるのも映画の大事なところです。安っぽい民放テレビや、尊大なNHK(いい番組もかろうじてありますが・・)ではなかなか作れない作品ですね。



見たらまた伺います。ご無沙汰してごめんなさい。もう少し落ち着いたらたくさん書けると思います。
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映画侍さんへ (樹衣子)
2006-01-27 01:38:43
速攻で責められましたね。^^

私が是非観てくださいと申し上げるのは、僭越なのですが、きっと映画侍さんも関心をもっている映画だと思っていました。

この映画を観て、自分の無知と非力を痛感しました。お忙しいと思いますが、ご覧になられると良いですね。

音楽の使い方もよかったです。特に一番最後の歌は、歌詞も含めて、いかにも黒人らしい声に圧倒されました。
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