千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

「六本指のゴルトベルク」青柳いづみこ著

2009-06-18 21:50:49 | Book
「ETUDE」のromaniさまが面白すぎると絶賛されている「モノ書きピアニストはお尻が痛い」と同じ著者、青柳いづみこさんの近著が本書である。文章も書けるピアニストから、経歴もりっぱにピアニスト・文筆家に昇格された青柳いづみこさんは、作家活動にも益々旺盛にとりくんでらっしゃるようだ。タイトルから察するに、ピアノに向かえば固めの椅子に腰掛け、モノを書く時も椅子に座り、痔主にまで昇格してしまうのではないかと余計な心配をしちゃうのだが、「六本指のゴルトベルク」も主にミステリー小説に主にクラッシック音楽をかけあわせた全部で30の小品ながら、どれもこれも鍵盤をなめらかに転がる白い指(『羊たちの沈黙』のレクター教授は指が六本あった!)のように、筆ものりのり実に冴えているのだ。それもそのはず、青柳さんは今話題沸騰中の村上春樹さんの書評を雑誌から頼まれて、二週間でほぼ全作品読破したという読書家なのだ。ピアノを弾き、文章も書き、生徒にレッスンをして、、、と何足ものわらじをはく多忙な身の上なのに、と私も時間の使い方を見習いたいくらい。

閑話休題。
音楽のエッセンスをふりまいた作品にアプローチした青柳さんの文章は、そのまま恰好の読書案内でもある。当然、とりあげる本の登場人物には、ピアニスト、ヴァイオリニスト、指揮者と、実物、架空の人物を含めて音楽関係のお方たちが中心となっているのだが、思うに元々奇人変人が多い音楽家を主役にしているなら、それでおもしろくなかったら作家の力量不足というもの。それを考えると、企画者の発想はいいところをついているし、青柳さんに執筆依頼をされたのも大正解。映画でも五感を充分に開いて観ているミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』やジェーン・カンピオンの『ピアノ・レッスン』すらも、青柳さんの調べで深く音楽的にほりさげられると、原書も読んでみたくなってくる。まして、タイトルすらしらない本になると、実際のピアニストや歴史上の音楽家のエピソードをからめてフィクションにも現実の重みとドラマがかぶさり、ドラマチックで深層心理の彩も複雑で深く、読書意欲をおおいにそそられる。そして、フィクションなのに自身のピアニストとしての体験を重ねてたとりあげた本や主人公達によせる著者の感想は、ちょっぴり苦くもありせつなくもある。音楽家の道のりは、仮想世界でも現実世界でも厳しく険しい。このセツジツさは、名著「ボクたちクラシックつながり」が、ここでもつながっているような気がする。

けれども、幼い頃から完璧な演奏を求められ、『ピアニスト』のエリカのように強迫観念にとりつかれて自傷行為をくりかえし精神が崩壊していくさまに同じくピアノ弾きとして共感しながらも、「音楽の力」を信じている。ペルーの日本大使公邸人質事件を取材したアン・パチェットの「ベル・カント」では、パーティに招待されていたオペラ歌手のロクサーヌもテロ事件にまきこまれる。女性は解放したテロリストたちも、ロクサーヌだけはたてこもった館に監禁状態で手離さない。何故か。テロリストたちも、人質たちも、想いはロクサーヌの歌声と、高い声域のもつ甘い輝きに向けられた。ほどなく、一日が三つの時間にわかれるようになった。
「彼女の歌を待つ時間、彼女の歌に聴きほれる時間、そして彼女の歌を待つ時間」
さてさて、この続きはどうなったのか。原作の力のあるのだろうが、伴奏者のリードもうまいのだ。

■語るピアニスト
「ピアニストが見たピアニスト」
「ボクたちクラシックつながり」


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