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「お買もの中毒な私!」
いやいや、私はレベッカ・ブルームウッドほど中毒患者にはなっていない。
レベッカ(アイラ・フィッシャー)は、一流ファッション雑誌の記者を夢に、とりあえず園芸雑誌でちまちま文章を書いている乙女。彼女の趣味は、ストレス解消もかねたお買物。毎日の如く、理屈をつけて無計画にショッピング三昧。るんるんとショッピング・バックをいくつもさげて、支払にすすむとカードの利用限額オーバーの無常さ。すわ、一大事!おまけに自宅に帰った彼女に届いたのは、1万ドルを超過する支払請求書だった。自己破産寸前のレベッカは、一念発起してファッション誌「アレット」の面接試験に挑むが、何故か同じ出版社の難しい経済誌の面接に成功して採用される。場違いなファッションで会議に出席する彼女は飛び交う意味不明の経済用語にあせるのだが、いち消費者の視点で書いた記事が意外にも大評判!おまけになかなかいい男の編集長の信頼までえるのだったが。。。
映画では、NY在住の25歳のレベッカのアパートの部屋も舞台として登場する。10畳のワンルームほどの狭い部屋に大量の服装や靴が氾濫する様は、そうそう我が国でも誇る「着倒れ方丈記」にそっくりではないか。但し、「着倒れ方丈記」に登場する彼、彼女たちは、お買物というよりもそのブランドにほれてしまったある種のファッション・フリークで所有することに価値を見出しているのだが、レベッカはファッションが大好きで単なるお買物大好き人間である。”お買もの中毒”というタイトルは、実に微妙なつけ方だ。”買物依存症”だったらどうであろうか。実際、ここまできたらレベッカも映画に登場する自助グループのメンバーと同じ依存症だろうが、”お買もの”という表現で、ちょっと可愛い許される範囲の女の子限定の弱点におさまっている。それに、セールに突撃するレベッカの気持ちもわからなくもない。
そして彼女の前に登場する編集長のお決まりの王子さま。こんな条件のよい男性と即いい雰囲気に?なんたるご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、レベッカのポップでフランスのシックさとは異なるあかるいポシティブなファッションは見ているだけで楽しめるし、編集長(ヒュー・ダンシー)のような生真面目なタイプは、案外知性的な女性よりも自分にパワーをくれる豆タンク系の彼女みたいなタイプに弱いかも。ここで映画『プラダを着た悪魔』のファッションを担当したパトリシア・フィールドがレベッカのために用意した衣装は、殆ど渋谷の109で選んだものだそうだ。確かに映画の物語としての彼女の行動と発想の転換を考えると、ブランドとしては協力しにくいだろうが、レベッカ役のアイラ・フィッシャーは背が低めで胸が自己主張するようにふくよか、元気印の渋谷系ファッションがとてもよく似合っている。唯一、レベッカが着るドレスのブランド名として登場するサン・ローランがあのようなカタチで協力しているのは、大恐慌と言われる景気の中でなかなかの余裕ではないか。
ところで、アメリカ人は消費者天国の国でる。ゴミ袋に大量の古着をリサイクル・ショップにもっていくのに、帰ってくる時は、再び大量の古着を購入した袋を下げているという話を読んだ記憶がある。お買もの大好きなのは、むしろ珍しくないのだろう。レベッカのパパの体格のように、無駄な贅肉を買い込んでいるのもアメリカ人だ。トーマス・フリードマンの「グリーン革命」を読んだのだが、さまざまな分野の科学者によるエネルギーに関する報告書「インターアカデミーカウンシル(IAC)」によれば、人間が生きるために必要なエネルギーは、一日2000ないし3000カロリーだそうだ。。ところが、アメリカ国民の一人当たりのエネルギー消費量の平均は年間3500億ジュールで、一日あたり23万キロカロリーに相当する。ひとりのアメリカ人は、人間が生物として必要とするだけのものを100人分消費している。(日本のような他の先進国では50人分の生命維持のカロリーを消費している。)別の視点から考えると、フリードマンには悪いが世界経済はこのようなアメリカ人の大量消費、浪費に支えられている。
だから私は言いたい。レベッカがショッピングの時間をフィンランド語の学習にあてるのは、けっこう。グリーン革命も大事だ。けれども、みんなが質素にお買ものをやめてしまったら、この未曾有の不景気はいったいどう回復するのだ。「もったいない」という単語はアメリカ人の辞書にはないはず。
だから、レベッカはおしゃれでお買いものが”ちょっと”好きなレベッカでいて欲しい。かくして、私もやっぱり「SALE」に走る・・・べき?
監督:ウィリアム・ゴールデンバーグ
■アーカイブ
・「着倒れ方丈記」
・『プラダを着た悪魔』
・「着るものがない!」中野香織著
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