千の天使がバスケットボールする

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『輝ける青春』 La Meglio Gioventu'

2006-12-26 21:59:20 | Movie
喜びがあれば悲しみもあり、笑いもあれば涙もある。そして時には怒りや憎しみもある。けれども、ただそこに在るだけで世界は美しい。

1960年代ローマ、イタリアの中産階級カラーティ家は今日もにぎやかである。小さな会社を経営する父の資金繰りをめぐる教師の母とのいさかいも、この家庭の活気すら与える。この夫婦から生まれたのが、2男2女。イタリア人は、生命力に溢れ子だくさんでもある。(以下、かなり内容にふれております。)
なかでも1歳違いの兄ニコラ(ルイジ・ロ・カーショ)と弟マッテオ(アレッシオ・ボーニ)は、それぞれ医学部と文学部に籍をおく共通する感性をもつ仲の良い兄弟だった。しかし無難に試験をきりぬけ優秀な成績を修める明るい性格の兄に比較して、文学好きで繊細だが気難しいマッテオは、口頭試問の最中に試験官の教授と対立する。そんなマッテオは、精神病院にボランティアに行き、そこで一人の患者と知り合う。その少女の名前は、ジョルジア。精神病院における彼女の不当な扱いに怒り、兄弟は真夜中にジョルジアを病院から連れ出し、3人で友人と待ち合わせた場所まで旅に出る。
検事になった姉のジョヴァンナに相談するも、誘拐という犯罪行為だと厳しく反対される。しかしジョルジアを彼女の父のもとに届け、家族の愛情で立ち直らせようという彼らの決意がひるむことはなかった。ようやく突き止めたジョルジアの父は、新しい家族との生活で精一杯で娘は邪魔な存在なだけだった。現実の壁にぶつかり悩んでいたところ、ジョルジアは警察に見つかり連行され、結局精神病院に戻ることになった。彼らの企ては、失敗したのだった。なすすべもなく、連れていかれるジョシアを見つめるだけのふたり。

そしてジョルジアの魂を救うことに必死になった行為の底に、口には出さなかったが、旅の途中ずっと美少女の彼女へのほのかな恋心をお互いに気がついていたニコラとマッテオ。この一夏の旅で、彼女のような患者を救うために精神科医の道に進むことを決意するニコラだった。そして駅で兄と別れ、父親が一番期待した頭脳をもちながらも大学も中退して警察官になっていくマッテオ。このイタリアの田舎の小さな駅で別れた兄弟は、この駅がふたりのその後の人生の分岐点になることをこの時は知らなかった。

精神科医として、着実に患者の人権を主張して医療現場をかえることに奔走していくニコラ。精神の自殺のように体制の組織に組み込まれることを望んで警察官になりながらも、社会の闇を知れば知るほど現実とおりあうことができずに、奔流のような感情をおさえていくことができないマッテオ。このふたりの対比が鮮やかに印象に残るのが、兄とその親友たちに娼婦を紹介するマッテオの醒めた表情と、娼婦とベッドに入り行為を躊躇する兄の恥らう表情だ。彼らを心配しながらも見守る母や検事として公害を垂れ流す企業やマフィアと戦う姉、イタリア銀行で活躍するニコラの親友と結婚し家庭を守る妹に、その家庭を捨ててまで「赤い旅団」のテロ活動にのめりこんでいくニコラの妻。女性の立場で登場人物たちを観ていくと、それぞれ全く別のタイプの女性像でありながら、そのすべての人物に小さな自分の分身すら見つける。国籍や人種は異なれど彼女たちに感じる胸のしめつけられるような共感性が、欧州でこの映画が絶賛された理由なのだろう。
366分という長い上映時間が話題になった「輝ける青春」であるが、66年代から現代までおよそ40年に渡るイタリアのひとつの家族の物語をおった一大叙事詩は、時間の長さを忘れてしまうくらいだ。最近の二時間程度に起承転結がはっきりして要領よくまとまったセンスの良い、まるで職人技のような映画を見慣れていると、このスケールのおおらかな物語は往年のイタリアらしい名作映画を彷彿させる。ローマ、ボローニャ、ミラノ、シチリア島、映画の舞台はどこも絵になる。

さらに兄と弟のふたりの主人公を主軸にして、その時代のイタリアの重要な事件や文化が彼らの人生にも影響を与えている。
フィレンツェの大洪水、学生運動と赤い旅団、シチリアのマフィア、フィアット社の大量レイオフ・・・。光もあれば、影も濃いのがイタリアか。1950年ミラノ生まれ、若い頃政治活動に傾倒していたマルコ・トゥリオ・ジョルダーノ監督の本作品も、政治的思想が色濃く反映された映画である。ニコラの大学時代の試験の時、老教授がいみじくも「この国は、美しいが無益だ。いつか滅びればよい。」と感慨深くと語る場面がある。「輝ける青春」とは、そんな退廃美に染まる夕暮れのイタリアという国への、ジョルダーノ監督の限りない慈しみに満ちた映画でもある。これはイタリア人によるイタリア人のためのイタリア讃歌と言ってもよい。このような映画は、アメリカでは撮ることができない。
今度は、声を大にして伝えたい。「イタリア映画万歳」。年末最後をしめるのにふさわしい映画だった。
尚 「La Meglio Gioventu -- 輝ける青春」とは、映画監督にして詩人であり、1975年に謎の死を遂げたピエル・パオロ・パゾリーニの詩のタイトルでもある。


■これまでのジョルダーノ監督の名作

「ベッピーノの百歩」
「夜よ、こんにちは」
「13歳の夏に僕は生まれた」


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