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ETV「東と西のはざまで書く~ノーベル賞作家オルハン・パムク」

2008-07-14 22:38:06 | Nonsense
読売新聞の購読者の方は、ノーベル賞受賞者によるフォーラムで大江健三郎氏との対談が紙面に掲載されていたからご存知であろうが、2006年にノーベル文学賞を受賞したトルコの作家オルハン・パムク氏が、5月にこの日本を訪問していた。7月13日にNHK「ETV」では、京都を訪問したり、大江氏や石牟礼道子氏と対談するパルク氏を追った特集が放映された。

ストライプシャツに濃紺のダーク・スーツを着こなすオルハン・パムク氏は、日本人の目から見たら、欧米人と区別がつかないだろう。しかし、パムク氏は、東西文化が交錯する首都、イスタンブールに生まれ、現在もこの町に書斎を構えている。ノーベル賞受賞のきっかけとなった代表作の「雪」(02年)は、国内では比較的最近出版されたが、世界49ヶ国で出版されている。評価の高い理由として、9.11後のイスラム過激派の動きを預言していると言われているところにある。また、パムク氏これまでタブーだったトルコ人によるアルメニア人虐殺を認める発言で、群集から危うく袋叩きにされそうになる映像も紹介された。

旅行に行くと必ず立ち寄るという古書店を、東京は神田の街を散策し、大好きな作家の谷崎潤一郎の本を早速見つける。政治の世界に背を向けて、ひたすら美しい様式に満ちた世界のみに耽溺した谷崎の文学に、自身の立場を重ねるところがあるのだろうか。移動中、デジタル・カメラでしきりに目にとまった風景を写真に撮る。日本に滞在中に、パムク氏が撮った写真は1000枚以上にも及ぶ。どの写真も、鮮烈な印象があり、パムク氏の知性と感性の鋭さにふれたような思いがする。若い頃、画家を志したこともある美術に関心の高いパムク氏によると「我、見る。ゆえに、我在り」ということになる。

京都では、襖絵の工房を訪問する。京都の伝統の奥の深さに、私自身もあらためて感じ入ったのだが、ノート・パソコン程度の大きさの型に刷けで色を塗って一枚一枚、紙に染色し、手作りで襖絵を制作する工房には、代々受け継がれたその型が640枚以上も備蓄されている。型の模様から、唐や、それこそもっと遠い異国の文明の影響がうかがえる。さらに、絵の顔料を売っているお店も訪れ、豊かな色彩の海の中から、鮮やかな紅を選び、その色が小さな小さな虫をつぶして色を出していることをあてる。
一躍世界的にパムク氏の名前を知らしめた出世作の歴史小説「わたしの名は紅」(98年)は、主人公を「紅」という色においたミステリー仕立ての小説であることが、紹介される。「わたしの名は紅・・・」と小説の中の数行がナレーションで流れたのだが、その文章の独創性と華やかさに、私はビールを呑んだ後の日曜日のゆるみきった脳髄を思いっきりしびれさせられたような気がした。
この本、絶対読まなきゃ・・・。

ドフトエスキーにとってのサンクトペテルブルグのように、パムク氏にとってはイスタンブールは特別の地になっている。
「私は現実の世界に閉じ込められた囚人」というパムク氏の言葉に、「雪」の主人公Kaや加賀乙彦氏の「フランドルの冬」を思い出した。そして、トルコの諺から「人は苦悩したときに何かを求めて旅をする」と「人は旅をしても何も変わらない」という言葉に、パムク氏の複雑な思いと諦観をみたような気がする。

■アーカイブ
・「雪」
・ノーベル賞作家パムクの政治小説
本題の主旨とは離れるが、売れる本を出版する幻冬社とは一線を画し、国内では知名度も低く確実に売れないとわかっていたオルハン・パムク氏の本を出版した藤原書店の社長、良質の本にこだわる藤原良雄氏に感謝を申し上げたい。


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