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「iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?」③田中幹人著

2008-10-13 17:23:21 | Book
山中研究室のiPS細胞が評価されると、クローン羊ドリーを作成した英エディンバラ大学のイアン・ウィルムット教授もiPS細胞に着手し、多くの優秀な研究者が実現した際は市場規模50兆円を越えると言われる再生医療の分野になだれこみ、山中氏の後を猛追している。駅伝で言えば、第一区間をトップで走った成果は、いずれ山中氏にノーベル賞受賞という名誉をもたらすとは誰もが期待するが、著者の予測では、実際に再生医療がもたらす利益の多くは米国がもっていく可能性が高いそうだ。日本も手をこまねいているばかりではない。
「オール・ジャパン」体制を要請する山中氏に報い、「iPS細胞コンソーシアム」組織のたちあげ、「iPS研究センター」設立、「再生医療実現化プロジェクト」の発足等、迅速に対応しているのにも関わらずだ。再生医療だけでなく、もっと根本的な日本の研究環境に問題がありそうだ。

日本では、漂流する博士が1万人以上いると言われている。難関国立大学で博士課程まで学んでも、フリーターにならざるをえない彼らが集うネットの掲示板では、ポスドクは「ピベド」と言う。実験道具のピペットと奴隷の”ド”を組み合わせているのだが、今後、再生医療の実現化に向けて膨大な安全確認実験は、彼ら彼女ら「ピベド」の論文にならない作業の積重ねのうえに成り立つおそれがある。こうした事態を回避するためには、西欧のように産学協同システムを構築して、利潤が大学に還元されて新しい課題に取り組める連関があってもよいのではないか。

以下、2008年10月12日の毎日新聞社説ウオッチングより。
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◇若手の育成が急務
今日の日本の科学分野における課題や、読み取るべき教訓を読者に提示することが社説に最も問われた点である。
 毎日は、基礎研究の重要性と対比する形で「日本の科学技術政策が経済偏重に向かっていると思われる」と懸念を示し、「政府は大学の研究にも効率や応用を求めている。しかし、第一級の発見は経済効果を第一に考える環境からは生まれないはずだ」とクギを刺した。さらに、今回の受賞が60~70年代の業績に与えられたものであることを踏まえ、「現在の研究環境はノーベル賞に結びつく人材を育てるにふさわしいか。改めて考えたい」と問題提起した。

 この点は朝日も、独創的な研究は若いときに生み出されるとして「いま優秀な若手をいかに育て、優れた研究をどれだけ支援していくのか。それが日本の未来の科学力を左右する」と指摘した。日本の研究開発予算は欧米や中国と比べて見劣りし、「もっと思い切った投資がほしい」とも訴えた。日経も「若手研究者育成に力を注ぐことが重要だ」と力説した。

東京は、南部、下村両博士が米国への「頭脳流出組」であることをとらえ、「日本人研究者が海外で活躍するのは歓迎だが、その理由が国内では自由に研究できないためであれば、研究体制を根本的に反省しなければならない」と促した。

◇43年前の教訓

 「日本にいては十分な研究ができないために、若い優秀な頭脳が、海外に『流出』する現象は最近目だった傾向である」。朝永振一郎博士が日本人2人目のノーベル賞受賞者に決まったことを受けた65年10月23日毎日社説はそう嘆き、研究環境整備の即時実行を求めた。今に通じる課題である。

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カルフォルニア州知事シュワルツェネッガー知事は、10年間で3000億円、マサチューセッツ州では1200億円の研究資金提供を発表。日本とは文字通り桁違いのサイズだ。サンフランシスコでおこなわれた生命科学の学会では、市長自らが「再生医療実現に向けて素晴らしい研究環境を用意し、人材、優秀な頭脳のお金を使う」とまで宣言する柔軟さ。その一方、日本では『TIME』詩のレオ・ルイス記者からは「ヤマナカは、研究をすすめるうえで、日本の科学技術研究をがんじがらめにしている、実に馬鹿げた官僚とも戦わねばならなかった」と書かれる始末である。日本の官僚は優秀であることに異論はない。しかし、長期的な戦略がないとしばしば指摘される。研究助成金公募の期間は、一般に3~5年で成果がでなければ打ち切りである。実験結果に時間のかかる生命科学で、3年で成果をだせとはそもそも無理である。

レオ・ルイス記者は、「今回は、ヤマナカ教授と世界中の人々にとっては幸運だった。世界第二の経済大国(日本)では、政府の不手際のせいで驚くべき発見や発明の数々が闇に葬り去られているであろうことを想像する」と結んでいる。しかし、山中氏にとって米国との競争は、ビジネスではなく一日も早い再生医療の実現によって患者を救うための競争である。お得意の柔道のような勝ち負けではなく、陸上のように記録が重要であり、患者のために日米は切磋琢磨すべきだと。
それでは、その記録はどのような再生医療に結びつくのか


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