サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 08345「ぼくの大切なともだち」★★★★★★★★☆☆

2008年12月21日 | 座布団シネマ:は行

人生の半ばを過ぎた2人の男が、偶然の出会いをきっかけに、不器用ながらも友情を育んでいくハートウォーミング・ストーリー。監督は『ハーフ・ア・チャンス』など、新作をコンスタントに発表し続ける名匠パトリス・ルコント。主演は『あるいは裏切りという名の犬』のダニエル・オートゥイユと『戦場のアリア』のダニー・ブーン。シンプルだが深みのあるテーマをかかげながら、男同士の友情を繊細(せんさい)につづったストーリーが温かい感動を呼ぶ。[もっと詳しく]

「親友のいる風景」というものを、僕もしみじみと考えてしまった。

50代半ばにもなって、しみじみと思うことでもないかもしれないが、「ぼくの大切なともだち」という作品のテーマにもなっている「親友」ということを、あらためて考えている。
それは「親友のいる風景」というものに対する、僕の中での記憶の検証からはじまる。
実際の自分自身の記憶なのか、周囲の人間模様を観察していての感想なのか、ドラマや物語から受け取ってきた印象なのか、たとえ、混合しているとしても・・・。
ひとつは、幼児から少年期の像である。
地方都市の生まれ育った「路地」の感覚がすぐに甦ることになる。
毎日毎日、飽きずに、夕暮れ近くまで遊びまわっていた。
幼稚園から小学生へと、そんなに行動範囲が広いわけではない。
でも、毎日なにかしらを発見し、笑いころげ、ある意味で僕の黄金期であったかもしれない。
でも、そんな幼馴染みとは、もう何十年も会ってはいない。
僕が、「故郷」を棄てたせいである。
同窓会もない。遊び仲間たちのその後も知る由がない。
いまでもたとえば下町の呑み屋に入って、おやじたちの会話に耳を傾けていると、幼稚園や小学校やそんなときからの地元のつきあいを当たり前のように懐かしんだりからかいあったりしている姿を見るにつけ、羨ましくなったりすることがある。
狭い生活圏の中で、お馴染みさんたちは、なにも気取りあったりする必要はない。
飽きずに同じことを、繰り返し繰り返し会話している。それはとても贅沢なことかもしれない。



中学・高校の仲間たちも、いまでも見かければ、ヨォ!と言って、懐かしいヤンチャなあれやこれやをちょっと照れくさく思いながらも、会話できるのかもしれないし、数年に一度、同窓会の案内が来るので、参加することもある。
けれども、そこでも、僕の居場所は本当のところはない。
「いま、なにをしているの?」「いやぁ、まああれこれね」
別に誤魔化しているわけでもなく、それ以上は踏み込まないし、踏み込んでこない。
ほんとうはじっくり話せば疎遠であった10年、20年の人生を交歓できるのだろうが、立ち話では共通の基盤もない。
「いつ、帰ったの?」「いつ、東京に戻るの?」。
同級生たちの誰よりもロンゲの白髪という奇妙ないでたちの僕は、ここでは異邦人のようになっている。

大学の数年は、まったく新たな交友関係の中で、ボへミアン的な時を過ごした。
思想に、芸術に、人生論に、口から泡を飛ばしながら、論じ合った。
授業はほとんど受けず、サークルボックスや、あちこちの溜まり場や、友人のアパートで、モラトリアムな時を過ごしながら、「青春ごっこ」をしていたのかもしれない。
社会に疎外された(ふりをしていた)青年たちは、いまも夢中になって異議申し立てに余念がないのか、思想の拠点を変えたのか、それなりに「大人」になったのか・・・ほとんどといっていいほど知らない。
そのときの「青年」たちは初老にさしかかっている。
いまだ独身生活者もいるし、相方に死に別れた人間もいるし、早くも孫をあやしている人間もいる。
自死した人間もいるし、余生を享受しているらしい人間もいるし、外地で行方不明になった人間もいる。
相手も僕も、「じゃあおまえたちは親友か?」と問われれば、首を傾げるかもしれない。



大学を出て、ほどなくして先輩たちがつくった会社に縁をもち十年余り、そして独立して事務所を構えたりして、20年が経過する。
ここからは、仕事仲間あるいは仕事が縁でつきあった関係の世界が中心になる。
仕事がらもあるかもしれないが、この30年間で名刺の数だけは1万枚ぐらいもらったかもしれない。
でも顔をあわせて記憶が甦るのは1000人ぐらいだろう。
名刺管理などろくにやらないし、年賀状交換ももう十数年怠っている僕にとって、いまではメールアドレスをコンピュータに登録している人間が数百人だ。携帯電話にはめったに使わないが、電話番号を登録してある人間が百人ぐらいだろうか。
別に「仕事」の利害関係には属さない、酒をいっしょに飲める人間は数十人はいるし、10年ぶりであろうと20年ぶりであろうと、「元気かい?なつかしいね、生きてる?」といって、途絶していた時間をすぐに巻き戻せる人間も百人ぐらいはいるかもしれない。
でもそれが「親友」かというと、ここでもまた、たぶんお互いに小首を傾げてしまうような気がする。

山登りや釣りやテニスや・・・といったなんでもいいのだが、そんな趣味的な集まりやサークルに属しているわけではない。
いっしょに車庫を開放したりして、バーベキューをするようなご近所づきあいをしているわけでもない。
旅も、散歩も、展覧会なども出かけるのは好きだが、がんらい僕は単独行だ。
集団での気の合う仲間たちとの馬鹿騒ぎも、場合によっては嫌いではない。
けれど、男同士で誘い合って遊びに行くというのは僕自身が無意識に避けているのではないか。
そしてそういう無意識がある分、知人たちもあまり僕を積極的には、誘わないのかもしれない。



主人公フランソワ・コスト(ダニエル・オートゥイユ)は、たった7人しかこなかった葬儀の参列の模様を小馬鹿にしたような口ぶりで、仲間との食事会で話題にする。
仲間たちは口々に、「だけどあなたに心から参列してくれる親友なんていないよ」と逆に咎める。
コストは「親友なんてたくさんいるさ」と反論するが、その場の人間たちには「君の事を親友なんて思わないよ」と辛辣に言われてしまい、10日以内に親友を披露するよ、とムキになって約束してしまう。
コストは、利己主義者である。どこかで、人を利用できるかどうか、役に立つかどうかで、その距離を測っているようなところがある。

いざ、「親友」という命題を与えられて、コストは次第に焦り出す。
友情は定義付けられるのか?
何かの役に立たなければならないのか?
どこからが親友なのか?
親友探しのコストにたまたま同行したのがタクシー運転手のブリュノ・ブーレー(ダニー・ブーン)。
クイズ番組を見るのが好きで、困っている人が要れば思わず駆け寄ってしまうような愛他主義者である。
すぐに人と仲良しになれる(かのように見える)ブーレーは、とんでもない勘違いをしているようなコストを観察する中で、次第に「親友」づくりの指南役のようになっていく。
そうこうするなかで、ふたりは交流を深めていくのだが・・・。



利己主義者と愛他主義者。
正反対の資質のものが、次第に心を通わせていくという、古典的な友情物語の王道のようなストーリーではある。
コストは、ほんとうは近くに彼のことを愛情深く見守っている人間たちがいるのに、それに気づかない。
骨董商を営みながら、「モノの価値」には評価をくだせるかもしれないが、「ココロの価値」に関しては無頓着で無神経なところがある。愛情や人の気持ちは、金で買えると思っている。あるいは、愛想良く話しかけたり、隣人に酒をおごれば関係が成立すると思っている。
けれども、自然体で、本心から微笑したり、頷いたりすることができない。

一方で、ブーレーは博識だが、極度のあがり症的なところがある。
愛する妻を、近所仲間の「親友」にとられたことで、深い傷を負っている。近所に住む、両親の愛情に依存してしまっているところがある。愛想はいいが、ほんとうは博識すぎて、職場の仲間たちからは浮いているようなところもある。
ブーレーもまた、どこかで引き籠もり的なところもあり、関係不安、孤独癖を持っている。
このふたりは、ともに欠損を持っている。そして、その欠損を埋めあうような関係であることに、徐々に気づいていく。
それは、「親友」というものが自明に存在しているのではなく、互いの欠損をいたわり気遣う中で見出されてくるものである、ということを暗喩している。



君にとって
僕はたくさんいるキツネの一匹
でも互いになじめば
大事な存在となる
君は僕のたった一人の人
僕は君のたった一匹のキツネ

サン・テグジュペリ「星の王子さま」より

「あるいは裏切りという名の犬」(04年)では、あんなにも渋く暗いフィルム・ノワールで、あるいは「隠された記憶」(05年)では、あんなにも鼻持ちならないニュースキャスターという知識人役で、僕たちをひきつけた名優ダニエル・オートゥイユが、情けない途方に暮れたような中年男を、ユーモラスに演じている。
ダニエル・ブーンは「戦場のアリア」(05年)ではじめて出会った役者さんだが、フランスで現在もっとも脂がのっているアクターだとも評されている。
パトリス・ルコント監督は、どの作品も味わい深いが、「ぼくの大切なともだち」は、奇妙な男同士の友情を描いているという意味でも「列車に乗った男」(02年)を想起させる。
主人公の仕事のパートナーや愛人や娘役を演じる女優さんたちも、とても素敵だ。

kimion20002000の関連レヴュー

あるいは裏切りという名の犬
隠された記憶
パトリス・ルコントのドゴラ









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10 コメント

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こんばんは。 (ryoko)
2008-12-28 00:03:21
TBありがとうございました。
>「親友」とは、互いの欠損をいたわり気遣う中で見出されてくるもの
相手のその欠損が、許し受け入れられるものかどうかが「親友」になれるかどうかの分かれ目ですね。
誰かの「たった一匹のキツネ」になれているのかなぁ?

kimionさんがロンゲの白髪というところに反応してしまいました(笑)
ryokoさん (kimion20002000)
2008-12-28 03:58:03
こんにちは。

結構、学生時代以来のロンゲになっていますね。
背中に届いています。
髪は、ほとんどシルバーです。
太王神記のヨンさんのようにしたいのですが、単なるチョンマゲ結びでうまくいきません(笑)
痛いところ・・・ (sakurai)
2008-12-29 09:01:49
笑いに包まれながらも、痛いとこついてましたよね。
私は別のところからこっちにお嫁に来てしまいましたので、周りは知らない人ばかり・・・。
でもほとんどの女性は、そうやって新しい世界で順応させていかないといけないんですよね。
いや、女性だからできるのだから、女性がその道に行くようになったのでしょうか。
亭主は、生まれたときからずっとここ。
いまだ保育園の時からの友達とつるんでます。
でも、親友って言うものでもないのかな。
親友ってなんだろう??というものすごく難しい命題を与えられたような気もしました。
sakuraiさん (kimion20002000)
2008-12-29 10:39:22
こんにちは。
相棒、同志、朋友、義兄弟、くされ縁、仲間・・・似たような言葉は、たくさんあるんでしょうけどね。
文字通り、「親しい友」。でも、その「親しい」というのが何を指しているのか?と。
男性と女性では、少し成立の仕方に差があるかもしれませんけど。
ルコント監督♪ (mezzotint)
2008-12-31 14:32:35
kimion20002000さま
えぇ~~!ルコント監督、引退なのですか。
残念ですね。さて今年も今日でお終いですね。
kimionさんにとってはどんな一年だったでしょうか?
映画館にはほとんど足を運ばれないのかな。
来年も変わらず宜しくお願い致します。
良いお年をお迎え下さい。
mezzotintさん (kimion20002000)
2008-12-31 18:14:36
こんにちは。
しみじみと、年をとったなと思った1年でした(笑)
来年もヨロシク。
あけましておめでとうございます☆ (latifa)
2009-01-01 14:17:38
kimionさん、こんにちは~
kimionさんの幼少時代ってとても良い感じだったんですね~。私もふるさとを大人になって離れてしまったんです。故郷の友達とたまに話すと、そこにずっといる人たちにはいる人たちならではの、しがらみや、色々あって大変そうです。
誰も昔の自分を知らない場所で、ちょっと寂しいくらいだけど気楽なのが、自分は良いかな~と思っています。
去年も色々お世話になりました。また今年もどうぞよろしくお願いします
latifaさん (kimion20002000)
2009-01-01 15:25:52
こんにちは。
実際は、僕もすぐ窒息感におちいるほうなんですけどね(笑)
今年も、よろしくお付き合いください。
TB有難うございます (MIEKO)
2009-10-25 10:56:02
昨日TBを有難うございました。やはりこちらへのTBは効かないようで、記事はURL欄でコメントにてで、失礼します。

この作品は、それぞれの個性の2人、ぎこちなくも紡がれていく男の友情模様の味わいで、終盤のクイズシーン等も、ちょっとスパイスでした。「列車に乗った男」も、2人の人生の交錯劇で、渋味あって印象的でした。
MEIKOさん (kimion20002000)
2009-10-25 12:11:08
こんにちは。

僕はルコント大好きで、こういう映画はちょっと英米にはないですね。
ヒューマンコメディというのとは、ちょっと違うような気がするんですね。

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