仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

焦燥ばかりが募る

2009-08-21 05:03:09 | 生きる犬韜
春学期の成績をほぼ付け終わったと思ったら、今度は大学の某プロジェクト(研究ではない)にかかりきりで、まったく研究ができないでいる。知人の研究者らから「ようやく原稿が書けているよ~」などという話を聞くと、焦燥感と倦怠感ばかりが募る。どうやら、9月にならないと時間は作れないようだ。うーむ。

世間的にも嫌な話ばかりが耳に入ってきて精神的によろしくない。
まず、横浜市で幾つかの区が自由社版の歴史教科書を採用した問題。『日本史の脱領域』以来批判はしてきたが、いわゆる「新しい歴史教科書」を採用しようという人々には、論理で訂正を求めても無駄だということがよく分かった。情念で動いているのだから。『脱領域』の主張を繰り返すようで芸がないが、とにかく大学人の役割としては、「新しい歴史教科書」で学んできた学生たちの歴史認識をどのように解放してゆくかを真剣に考えてゆかねばならないだろう(もちろん、それは他の歴史教科書についても、多かれ少なかれいえることなのだが…)。
それから、勤務校で前首都大学長のN氏が学院顧問に就任したとの話題。性急で浅薄な改革を行った大学で様々な問題が表面化し、実学重視・経済効率優先を謳った株式会社大学が軒並み破綻しているなか、都立大人文学の解体を進めたN氏を招いて、何を始めようとしているのか(N氏については内田樹氏の揶揄が記憶に新しい)。最近、旧態依然としたグローバリズムにしがみつく傾向も顕著なので、先々が非常に心配される。そう遠くない時期に、文学部解体・再編もありうるだろう。
そんなこんなで一日中PCに向かっていたら、昨日は激しい頭痛と吐き気を伴う眼精疲労でダウンしてしまった。悪循環である。

しかし、本当に些細だがいいこともあった。
レポートの採点のためにネットを検索していた折、25年前に観たくて仕方なかった映画の情報を発見したのだ。早川光監督の『アギ・鬼神の怒り』。『今昔物語』に取材した怪奇映画で、当時、特殊メイクで話題になった『ハウリング』『狼男アメリカン』などのテイストを、和の世界に持ち込んだ画期的な作品だ。アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭でも高く評価されたが、今と違って当時は邦画冬の時代で、無名の新人監督の作品が日の目をみるはずもなく、二、三の小劇場で上映されたに過ぎなかった。中学生のぼくは『宇宙船』や『スターログ』などの雑誌で情報を得てはいたが、結局今まで一度も観ることができないでいた。それが偶然早川監督自身のホームページを発見し(現在は漫画原作などの領域で活躍されているようだ)、完全版のビデオが発売されていたとの情報を得た(DVDは未発売)。すでに廃盤になっていたが、幸いなことに、ネットで検索してみるとレンタル店落ちの中古品が1点のみ引っかかった。嬉しい限りである。早速購入してすでに手許にあるが、いまは手一杯でとても視聴している時間がないので、いずれちゃんと鑑賞してレポートしたい。

※ 写真は、高木信さんから頂戴した『日本文学からの批評理論』と、上橋菜穂子『獣の奏者』の文庫版。前者は、ハーバート大学での国際シンポジウムの成果を書籍化したもの。現代思想の諸理論を駆使して、「精神分析」「歴史叙述」「他者との邂逅」の観点から日本文学を語り尽くす。日本史でもこういった本を出したいですね。後者は、云わずと知れた上橋文学の最新シリーズ。アニメ版は不出来だったので、ちゃんと原作を読み直したいと思って購入したが、それもまた先のお楽しみ。
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