荻窪鮫

元ハングマン。下町で隠遁暮らしのオジサンが躁鬱病になりました。
それでも、望みはミニマリストになる事です。

ブラディ・ドールの巻。

2013年01月22日 | 枯渇した生活に豊潤な読書を
二日酔いが抜けない夜はブラッディ・マリーをよく飲みます。

レッド・アイの時もありますが、要するにトマトジュースが二日酔いに合うんでしょうね。

だったら飲まなきゃ良いんですが。

【血まみれのマリー】があるんだったら【血まみれの人形】があっても良いな、と北方謙三御大は思い、上梓したのが北方ハードボイルドの金字塔【ブラディ・ドール】シリーズであります。

尤も、シリーズ第1弾【さらば荒野】時点においては連作の意思はなかったとの事でしたが。

ブラディ・ドールとは、日本でいちばんステゴロ喧嘩が強い経営者・川中良一の持つ酒場の名前。

洒落て落ち着いた内装で、女の子も置いている、架空の街・N市の高級店であります。

この酒場に、次々とクセのある男たちが集まって来ちゃあ事件が起きるって寸法なんですが、他と毛色が違うのが、主人公が1作ごとに変わるってトコですね。

前のシリーズの主人公は、次のシリーズになると脇役にまわるんですな。我が家のコントみたいに。

しかも各話通し、主人公による一人称で描写されておりますので、視点が完全に毎回異なるトコがまことに面白いのです。

勿論、全体での主人公は先の川中なんですが。

この時期の北方御大はノリにノっておりましたな。【さらば荒野】時、36歳。最終巻【ふたたびの荒野】時、45歳。まさに男盛り。

御大と川中の年齢はおそらく同一です。

このシリーズは北方御大のこだわりが無添加で凝縮されておりますので、御大の好きなモノしか出て来ません。

クルマ、クルーザー、釣り、葉巻、ジョージ・ウィンストンの【オータム】、【ニュー・シネマ・パラダイス】、【ひまわり】、そしてシェイクしたマティーニ・・・。

クルマの描写はかなり書き込むんですが、バイクの描写は【バイク】ってだけってトコも素敵。

何CCかすらも書かないんですから。バイクの事知らないんでしょうけど。

まぁそれにしても、いちいちカッコ良いんです。

僕はこのシリーズで男の生き様や立居振舞というものを学びました。

御大初期の【高樹警部】物も面白いのですが、こちらはどこか退廃的というか絶望感が濃かった。

高樹警部は狂言廻し的立場で登場する為、川中とも立ち位置が異なりますしね。

ブラディ・ドールもヒトが死にまくるのですが、北方御大が言う様にこのシリーズのテーマは【継承】。

すなわち、未来を感じさせる結末でありました。

あれから20年、僕も川中のおじさまと同い歳。

ブラディ・ドール難民の渇望がそうさせたのか、はたまた北方御大の創造性の枯渇がそうさせたのか、最終世紀末2000年に約束の街シリーズ第6弾【されど君は微笑む】にて川中軍団再登場となります。

『いや・・・これは・・・ちょっと・・・違うんj・・・』。

藤木が死んだ時の坂井の気持ち、下村が死んだ時の高岸の気持ちが判った気がしました。

『戦うことを決めた人間にとって、死ぬまで負けはないよ。途中で負けたって、それは一時的な負けであって、どこかで盛り返してやればいいだけなんだよ』北方ラーメン謙三(ニッポンの小説家・1947~)


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