KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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「サムライ・ブルー」は瀬古か宇佐美か谷口か?

2006年07月11日 | その他のスポーツ
イタリアの優勝で幕を閉じたワールド・カップドイツ大会。我等が日本代表は、1次リーグ3戦2敗1引き分け。勝ち点1。

やはり「惨敗」というより他はないだろう。8年前のフランス大会では取れなかった勝ち点を取れたとは言え、得失点差が-5というのはひどい。なかなか直らぬ決定力不足という欠点を、守備力で補ってきたのだから、ディフェンスが崩壊してしまえば、後は坂道を転げ落ちるようなものである。

監督の采配や、代表メンバーの力量や意識についてコメントできるほどの見識はないので、ここではそれらについて多くを語らない。現役時代はパンチ・パーマを売り物にしていた元プロ野球選手が、他のスポーツを野球に喩えてコメントして失笑を買っているみたいに、やはり、マラソンに無理矢理置き換えてみようか。

問題は惨敗したことではなく、それが日頃サッカーの試合など見たこともない人たちの目にまで触れたことではないかと思う。

過去に高視聴率を記録したスポーツ中継というのは、東京五輪の女子バレーの決勝や全盛期のファイティング原田氏のタイトルマッチ、そして力道山対デストロイヤーのプロレス('62年以降のプロレスではこれが最高)などだが、日本が惨敗した試合が高視聴率を記録した例は、ワールド・カップの日本戦の他には、オリンピックの男子マラソンなのである。

最も視聴率を多く獲得しているマラソンのレースは、'84年のロス五輪の男子マラソンで、48.8%。瀬古利彦さんのメダル獲得は確実、と言われた大会である。平日(月曜日)の午前9時スタートにしてこの数字である。仕事を休んで見た人が多かったであろう(僕はアルバイトしながら、ラジオで聴いていた。)。

モスクワ五輪のボイコットから4年。以後出場したマラソンで、チェルピンスキー、ロジャース、ゴメス、イカンガー、宗兄弟らをことごとく打ち破っていった瀬古さんは文字通りに「世界最強」のランナーだった。誰もが、彼のメダル獲得を確信していた。彼が表彰台に立つ姿が、ロス五輪の閉会式のメイン・イベントになるはずだった。

結果はまさかの14位。NHKのアナウンサーまでもが、
「どうした、瀬古利彦!」
と絶叫した。粘りの走りで4位に入賞した宗猛さんの快挙も霞んでしまうほどの衝撃だった。

今回の日本代表の不振は、その時以来の衝撃・・・なのだろうか?

1次リーグ通過は確実、というのはあまりにも楽観的な予測ではなかったのか?少なくとも、ロス五輪の瀬古さんの敗退よりも、起こり得る可能性が高かったのではないか?

むしろ、30年前のモントリオール五輪のマラソン(当時は、マラソン、と言えば男子のみの競技だった。)に近かったのではないか?

びわ湖マラソン3連勝の実績を携えたベテラン、宇佐美彰朗さんに、若手のホープ宗茂さんに水上則安さん。結果は宗さんの20位が最高、という惨敗だった。メダリストは全て五輪新記録という高速レースで、チェルピンスキーの優勝記録は、当時宇佐美さんが持っていた日本記録を越えていた。日本が既に世界と大きく差をつけられていたことを思い知らされた大会だった。(この時、連続優勝が期待されながら、2位に終わった、フランク・ショーターは今回のワールド・カップにおけるブラジルだろうか?)

あるいは、アトランタ五輪の男子マラソンが近いかもしれない。若手が育たず、谷口浩美さんにすがるしかなかった、当時のマラソン・ニッポン。代表選考レースでサブテンを記録した大家正喜さん、実井謙二郎のコンビの台頭は、今思えば、大黒や巻らのアジア予選での活躍と重なるが、本大会では、実績を残すチャンスが無かった。

このアトランタのレースがマラソン中継の歴代視聴率で3位だったのである。ちなみに2位がソウル五輪の男子マラソン。瀬古、中山、谷口であっても五輪のメダルを取れなかったという事、そんなレースを日本人の5人に2人はテレビで見ていた、ということが、日本のマラソン界にとって、大きなトラウマになっているように思う。

今回の日本代表について、事前に
「日本が1次リーグ突破する可能性よりは、来年の世界陸上で男子マラソンがメダルを獲得する可能性の方が高い。」
というような事を書いた。2年前のアテネ五輪の前にも同様の事を書いた。実際にサッカーは予選落ちし、男子マラソンは2人が入賞した。

サッカーが嫌いなわけでも、バカにしているわけでもない。しかし、ダメになったとか落日とか言われても、まだまだ、日本のサッカーに比べたら、日本の男子マラソンは世界のトップとの距離は離されてはいないと思っているだけである。

しかし、今年前半のメジャー・マラソンでの日本男子勢のレース振りや、トラック・シーズン入りしても10000mで28分も切れない現状にはこの楽観的予測も怪しくなってきた。

思えば、「サムライ・ブルー」の戦いぶりは、今の男子マラソンのレース振りに重なってしまうのだ。得点したのも、川口能活がPKを止めたのも全て前半だったし、後半になって逆転されたり、得点のチャンスをみすみす逃したりした。レース前半は、ペース・メイカーの作るペースにしっかりと乗りながら、30km以降は失速し、勝負さえできなくなってしまう。

「走れない者は去れ」
が、新監督(就任の経緯は、やはりいただけないと思う。所属チームのフロントやサポーターが憤りを覚えるのも当然だ。)の方針のようだが、
マラソン・ランナーに対して、同様の叱責をせねばならぬとは・・・。

札幌ハーフにて、例年同様、ケニア人とエチオピア人らが形成する先頭集団に、日本人ランナーがついていけない姿に、なかなかゴールを決められないFWにいらいらを募らせるサポーターの如き心境になっていたのだった。



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