「広島女児殺害事件 高裁破棄、地裁へ差戻し」楢崎裁判長、光市事件の時と同様の振る舞い〈3〉

2008-12-24 | 死刑/重刑/生命犯

 2008年12月9日楢崎裁判長による「広島女児殺害事件 高裁破棄、地裁へ差戻し」判決につき、2度エントリし、考えてきた。危機感、警戒感を抱いた点を、箇条書きしてみる。
1、被害死者1名に対し(本件は営利誘拐事件でもない)、死刑を志向する判決であったこと=楢崎裁判長の重刑指向
2、光市事件差し戻し審においても、楢崎裁判長は弁護側証拠・意見書を多く採用し(十分に審理を尽したとみせて)、結果、それら多くを斥け、死刑判決に導いたこと=楢崎裁判長の重刑志向
3、「評論家」の大方が、そしてメディアの大半が、判決のもたらす量刑(極刑)に関心を払わず、裁判員制度のみに視点を置いた論調、報道に終始したこと
 本日、過去2件のエントリを以下に再掲し、お仕舞いとしたい。

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 「広島女児殺害事件 高裁破棄、地裁へ差戻し」楢崎裁判長、光市事件の時と同様の振る舞い〈1〉 (2008-12-11 エントリ)
〈来栖のつぶやき〉
 三大紙始め中日、日経など、有力紙に目を通した。裁判員制度施行前夜とあって、広島高裁楢崎裁判長の判決に大方が「裁判員制度控え課題」といった高い評価を下していた。
http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/column11-hirosimajoji.htm
 慎重な審理に、私も異論は無い。拙速が冤罪を生んではならないからだ。
 ただ、楢崎裁判長といえば、反射的に想起するのは、光市事件差し戻し審に於ける手法である。これを抜きには、考えられない。
 光市事件差し戻し審で「慎重な」ところを見せ(弁護側証拠を全面採用し)、結果、自らの想定する量刑---最高裁から差し戻され楢崎氏が担当となった時、氏の裡では早期に量刑(極刑)が固まっていたと私は考えている---に不都合なものは徹底して捨て去った。今回、それと同じ手法を下級審に指導した。「慎重に審理するように」と。楢崎氏がヤギ被告の前科前歴に言及したのも、負の前歴であったからではないか。これがもし被告人に有利な前歴であったなら、どうだったか。
 以下は、光市事件控訴審(楢崎裁判長)判決公判後に行われた弁護団記者会見(抜粋)である。

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/bengodan-kaiken4,22.htm
“安田好弘弁護士「最高裁の判決に忠実に従った極めて不当な判決だ。証拠の評価方法は基本的に間違っている。弁護団では、自白ではなく客観的事実からその信用性を見直して吟味すべきだと主張していた」「加害者が右手で逆手で押さえたものとしか認定できないにもかかわらず、裁判所は逆手であることを全面的に否定した。こういうふうな認定はあちこちにあった。被告人の新供述は死刑をまぬがれるためにやった虚偽の供述と断定しているが、事実と反している。むしろ彼はひとつひとつ事実について思いだして、記憶に忠実に話してきたんです。死刑を免れるというものではなく、有利不利を問わずすべてを話すという気持ちから話しているのに、裁判所は被告人の心を完全に見誤っている」
井上明彦弁護士「判決では新しい供述を信用できないとされた。その理由は、1審でも控訴審でも争っておらず、今いきなり出てくるのは信用できないということだ。しかし、この不合理な判決を下す裁判所が存在する限り、被告人は怖くて争うことができない。少し争っただけで反省の気持ちがないということになり、死刑になってしまう。そんなリスクがあるのに、争っていないことについてあそこまで断じられてしまうなんて。私は非常に憤りを感じます」”

 井上明彦弁護士は、広島女児殺害事件の弁護人でもある。光市事件被告人がやっと真相を口にし始めたら、それを「反省が足りないから」と言い、反省を妨げたのは20名を超える弁護士である、と断じたその裁判長が、広島女児殺害事件1審を「審理不足」と言う・・・。
 被告人に有利な前歴の故に地裁へ差し戻したのであれば、これは名判決(大岡裁き)と評されるのだろうが、死刑を指向する判決(破棄・差し戻し)のゆえに、そうは云い難い。合理的理由に見えても、死を内包した判決文は寝覚めが悪い。
 この裁判長、光市事件の時と同様の振る舞いをした。
http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/zenbun6.htm

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 「広島女児殺害事件 高裁破棄、地裁へ差戻し」楢崎裁判長、光市事件の時と同様の振る舞い〈2〉 (2008-12-19 エントリ)
ろーやーずくらぶ http://yaplog.jp/lawyaz-klub/archive/3242 「被告人に有利な証拠厳選・平易な判決文は許さない?」 2008年12月15日(月) 10時39分
 広島高裁(楢崎康英裁判長)「朝日新聞」や仙台高裁(志田洋裁判長)「河北新報」で相次いで、裁判員制度実施をにらんだ迅速処理(公判前整理手続で主張や立証方法を厳選し、審理期間を短縮して、判決文も簡素なものにする)について、問題が指摘されたことに対して、メディアでは、高裁が地裁のゆきすぎた迅速処理を批判しているとの論調で報じられることが多いようです。
 そうした記事によって、拙速審理が修正されるのであれば大歓迎なのですが、これらの判決(楢崎コートでは過去にも採用すべき調書を採用していないとして破棄して審理を差し戻した判決を出しています。)がいずれも被告人に不利益な罰を科す方向で1審の審理を批判していることについては、あまり警戒感がないように思います。被告人に有利な拙速審理・証拠厳選・説明不足判決について、高裁でスルーされている現状もあわせて批判してほしいところです。

【関連資料】
仙台高裁(志田洋裁判長)「河北新報」
元東北大院生に懲役6年 女性暴行名誉棄損
 同じ法科大学院の女性院生2人に対する名誉棄損や女性暴行致傷などの罪に問われた仙台市青葉区北目町、元東北大法科大学院生池田誠一被告(34)の控訴審判決で、仙台高裁は9日、懲役3年(求刑懲役7年)とした仙台地裁判決を破棄し、懲役6年を言い渡した。
 地裁判決は、暴行事件をめぐり「被害者の記憶が、被告に不利なように形成された疑いがある」として、起訴事実の一部を認定しなかったが、高裁の志田洋裁判長は「信用できないとした一審判決の根拠は不十分。証言はむしろ事実を裏付けている」と判断。
 その上で「匿名性を悪用した名誉棄損行為も、女性の泥酔に乗じた暴行も卑劣。全面否認し、被害者に責任を転嫁する不合理な弁解に終始した」と述べた。池田被告は無罪を主張し、検察側も一審判決を不服として双方が控訴した。
 判決によると、池田被告は院生の女性の名でブログを開設。昨年8月下旬―9月初旬に計4回、みだらな内容の文章を書き込んだ。同年10月下旬には、別の女性に暴行しようとして約2週間のけがをさせるなどした。
◎「一審判決は説明不足」/高裁、裁判員仕様に苦言
 量刑が一審の2倍になった元東北大法科大学院生池田誠一被告(34)の控訴審判決は、一審仙台地裁が裁判員制度を見越して試行している簡潔な体裁の判決を「説明不足」と指摘し、「裁判員仕様」に苦言を呈した形となった。
 地裁は4月の判決で、暴行被害者の女性の証言の一端について「ほかの証言や証拠と食い違いがあり、被告にことさら不利に作られた疑いがぬぐい去れない」と言及。起訴事実通りの認定はせず、事実上、一部無罪の判断をした。
 高裁判決は「どの点が食い違うのか、一審判決は具体的に摘示していない。証言を信用できないとする根拠が不十分だ」とした上で、女性の証言を正反対に評価した。
 争点を必要最小限に絞り込み、判決まで切れ目なく開廷する裁判員裁判では、従来のように詳細で長大な判決を書く余裕はなく、全国的に判決書の簡略化が進むとみられている。
 裁判員裁判の対象となる今回の事件で、地裁は初公判から判決まで土日曜を除き7日間連続で開廷し、判決言い渡しも約十分で終えた。一審判決後、弁護人は「求刑の半分以下の量刑となった理由が判決に一切書かれていない」と疑問視した。
 別の事件で「裁判員仕様」の判決を体験した弁護士も「『被告の供述は信用できない』と判示した理由が分からず、納得できない」と話していた。こうした弁護士側の異論や違和感を、図らずも高裁が「身内」の地裁に示した。 2008年12月10日水曜日
*広島高裁(楢崎康英裁判長)「朝日新聞」
 広島女児殺害殺害事件 高裁が破棄、差し戻し
朝日新聞2008年12月10日
 広島市安芸区で05年11月、下校中の小学1年生木下あいりさん(当時7)が殺害された事件で、殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄などの罪に問われたペルー国籍のホセ・マヌエル・トーレス・ヤギ被告(36)の控訴審判決が9日、広島高裁であった。楢崎康英裁判長は「一審は審理を尽くしておらず違法」と述べ、無期懲役とした一審・広島地裁判決を破棄して審理を地裁に差し戻す判決を言い渡した。弁護側は殺人などについて責任能力を争って無罪を主張しており、差し戻し判決を不服として上告する方針。
 一審は来年5月に始まる裁判員裁判のモデルケースとして、争点を事前に絞り込む公判前整理手続きを採用。証拠調べを初公判から5日間、計25時間で終える集中審理も実施した。高裁判決は一審の訴訟指揮や検察側の立証活動の不備を指摘しており、裁判員となる市民の負担軽減のための裁判の迅速化と、必要な審理を尽くすことの両立の難しさを強く印象づけた。
 06年7月の一審判決は、検察側が犯行場所を被告の「アパート自室内」から「アパート及びその周辺」と広げた訴因変更を認めた。高裁判決はこの点を問題とし、室内であれば「どのように連れ込んだか」で犯行形態が大きく異なる▽通行人に容易に見られるような場所での犯行であれば、刑事責任能力に疑問が生じたり、逆に悪質性が強まったりする――と指摘。刑事裁判には真相を明らかにする使命があることからも「あいまいなまま判断するのは相当でない」と一審を批判した。
 また、一審は被告本人の捜査段階の供述調書を証拠採用しなかったため、犯行場所について事実を誤認したのではないかと考えざるを得ないと指摘。ヤギ被告の自室から押収された毛布には被害女児のものと思われる毛髪と血が付いており、被告の「事件当日、毛布を部屋から外へ出していない」と受け取れる供述が信用できれば、犯行場所は室内と認定できたはずだと述べた。
 そのうえで、一審の訴訟指揮について、公判前整理手続きで被告の供述調書について弁護側が不同意と述べた際、検察側と弁護側に具体的な主張や釈明を求めず放置したことは「手続きの目的に反する措置」と非難。公判でも証拠調べの請求を却下したのは訴訟手続きの法令違反だと判断した。さらに検察側についても、犯行場所特定のために必要だとはっきり主張しなかった不手際があると述べた。
 被告がペルーで少女に性犯罪をした前歴を証拠採用したことについては「量刑や公判供述の信用性を判断するうえでも有用」とした。
 一審判決は、確定的な殺意に基づくわいせつ目的の犯行と断定。被害者が1人で前科がないことなどから「矯正不可能な程度までの反社会性、犯罪性があるとは言い切れず、死刑をもって臨むには疑念が残る事案と言わざるを得ない」と判断し、検察側、弁護側双方が量刑を不服として控訴していた。


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