千葉法相、死刑執行命令書の威力 2010/7/28

2010-08-06 | 死刑/重刑/生命犯

〈来栖の独白〉
 千葉景子法相は7月28日の死刑執行後の記者会見で「国民的議論の契機にしたい」「開かれた場で幅広く外部有識者らからも意見を聞きたい」と、廃止を含む死刑制度の在り方を検討する勉強会の設置を表明していた。が、6日開かれた初会合ではメンバーは法相ら政務三役のほか、刑事、矯正、保護の3局長ら省内に限定された。
 一方、日弁連は5日、「勉強会の結果が出るまで、死刑執行は停止されたい」などとする要請書を法務省に提出。執行停止のほか(1)勉強会のメンバーに日弁連の推薦弁護士や外部有識者、市民も加える(2)勉強会の公開(3)終身刑導入の可否など幅広い議論―を求めたそうである。
 ため息をつく。死刑執行が官僚主導によるものなら、勉強会も官僚主導である。官僚の手際の良さばかりが目立つ。
 千葉法相の死刑執行命令につき、メディアの扱いにも、死刑反対のブログの意見(2~3読んだにすぎない)にも首を傾げるなか、やっと正鵠を射たと感じられる記事に出会った。昨日(08/05)の中日新聞「特報」である。死刑執行の報道に接し「官僚にやられた」と私は咄嗟に感じたのだったが、中日新聞も、官僚に視座を据えて書いている。
 官僚に押し切られて千葉さんが押した判の重みが、私の裡で日増しに強くなっている。
 私はカトリックの信徒であるが、「ものみの塔」(エホバの証人)という宗教教団の女性が次のように言ったのを思い出す。「私たちには、一般の(信仰を持たない)人に伝道するよりも、カトリックの人を入信させるほうが、何倍も大きな成果なのです」。
 今回千葉さんが執行命令書に判を押したのも、或る意味、それに似ていないだろうか。千葉さんは死刑廃止議連に入っていた経歴がある。その人が死刑執行を命令したのである。死刑制度を是認する法相が判を押したのとは、わけが違う。千葉さん一人の判は、100倍、それ以上の人の判にも相当するのではないか。
 また、千葉さんは、とりあえず、政権交代後の法相である。官僚主導で延々とやって来た自民党政権の法相ではない。政治主導を看板とする政権の法相が、死刑に判を押した。
 これらを勘案するとき、国民従来の死刑賛成・死刑支持の割合が86%から100%に近くなったような錯覚に私は陥ってしまう。それほどに、死刑反対の法相、革命政権の法相が判を押したことのインパクトは大きい。「何倍も大きい成果」である。そういう認識が千葉さんにあっただろうか。
 死刑執行の問題だけではない。国民はしっかり事の真相・内奥を見なければ、このままでは、この国は官僚に牛耳られてしまう。政治家(国民の代表)にではなく、官僚に支配されてしまう。
 陸山会の問題が正にそうであった。厚生労働省村木厚子被告(郵政)の問題が、そうであった。官僚(検察)の作ったストーリーのお先棒をメディアが担ぎ、その真相を国民は確かめようとせずエンタメにして、ただ騒いだ。そうしているうちに、政治はどんどん国民の手から離れ、官僚の支配するままとなった。現象の奥で何が起きているのか、国民はしっかり見極めねばならない。
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民主は官僚依存症?
2010/8/5中日新聞
 天下り禁止、普天間・・・相次ぐ掛け声倒れ
 民主党の看板政策が揺らいでいる=表参照。
 「税金の無駄遣いをなくす」ための天下りあっせんの全面的禁止や国家公務員の総人件費2割削減は宙に浮いたまま。
 鳩山由紀夫前首相が「最低でも県外へ」と公言した沖縄・米軍普天間飛行場の移転先は激しい迷走の後、前政権とほぼ同じ地点に着地した。
 鳩山前首相が「4年間は上げない」と強調した消費税。後任者の菅直人首相が「当面の税率は10%を参考にする」と増税の可能性に言及した。
 こうした「政策転換」は同党が官僚の術中にはまってしまった結果なのか、それとも主体的で意識的なものなのか。
 元経済産業省官僚の岸博幸・慶応大教授(政策論)は「現実を見詰めた転換と官僚依存との両面があるだろうが、菅内閣になってからは官僚依存が強くなっている」とみる。
 政治主導の要 「戦略室」格上げ迷走
  代表例は国家戦略室の扱い。同室は「局」に格上げされ、既存の官僚の権限をそぐ「官僚にとって面倒な組織」(岸教授)になるはずだった。
 仙谷由人官房長官は2日、局へ格上げする法案の次期臨時国会での成立を目指すと語ったが、参院選直後から、その方針はジグザグ。このため組織のあり方があいまいだと批判されている。「菅首相も仙谷氏も官僚とうまくやっていきたいという意識が強く、こうした迷走につながっているのだろう」(岸教授)
 閣僚経験者も、民主党の「脱官僚支配」に疑問の目を向ける。
 北海道・沖縄開発庁長官を務めた新党大地代表の鈴木宗男衆院議員は「普天間の移設先が戻ったのは外務・防衛官僚の主導だろう。50年以上続いた自民党政権の蓄積を払拭できなかった。とりわけ、官僚たちが裏で米国と連携していれば、抑えるのは難しい」と“官僚主導“の影を指摘する。
 ほかについても「菅さんが消費税引き上げを言い出したのは財務省に就任して以降。千葉景子法相は野党時代、参院で2度も取り調べ可視化法案に賛成しながら、法相になったらだめ。逆に死刑の執行命令書に署名した。法務官僚の手に乗せられている」と手厳しい。
 元環境相の小池百合子衆院議員も死刑廃止論者だった千葉氏の“変節”を「いままで言ってきたことは何だったのか。(官僚がどう説得するにせよ)最後に判断するのは大臣」と切り捨てた。
 「官僚主導」は国会答弁からも、うかがえる。
 ある省の政務3役の答弁は官僚が本紙記者に答えた内容と、ほぼ同じだった。内容は野党時代とは逆。この議員は市民との会合でも同じ話を繰り返し、参加者からは「昔とは言っていることが違う」という声が漏れた。
 巧妙な「ご説明」で“納得” 力不足の政治家も
 なぜ、政治家が官僚に取り込まれるのか。多くの関係者が官僚の「ご説明」を理由に挙げる。
 「政治家に比べて官僚は多い。そのうえ、官僚は国会のない日は朝から晩まで政治家を説得している」。官僚は政務3役の部屋へ入れ代わり立ち代わり通う。圧倒的な情報量に「政策への信念、情報がなければ、政治家は官僚の説明に染まってしまう」(岸教授)。
 さらに相手を持ち上げてプライドをくすぐり、時には泣き落とす。
 元財務官僚である嘉悦大の高橋洋一教授(政策研究)は「理屈を付けてより多くの議員と接触する。誠意を見せるため、まめに足を運ぶ。基本的には相手を持ち上げる。ここぞ、という時は土下座する人もいる。だいたい政治家はそれで説得された」と振り返る。
 「課長以上なら、議員との接触が仕事の中心になる。うまくいけばマルがついて出世できる」
 「ご説明」を受けた政治家にも印象を聞いた。法務副大臣を務めた自民党の河野太郎衆院議員は「副大臣なのに『大臣』とおだてる官僚が、法務省関連の手数料見直しで省の外郭団体に有利な案を持ってきた。改めさせると言うと、一緒にいた官僚が『政治が機能しているのを初めて目の当たりにしました』と驚いた」と語る。
 鈴木宗男衆院議員は「官僚は官僚なりの正義を理路整然と話す。与党の経験がないと、そうかと受け止めてしまう」とその“威力”を説く。
 政務3役に官僚のを絞った鳩山政権以前は一般の与党議員にも「ご説明」があった。その際には、官僚は地元ネタですり寄る。ある省庁の現役官僚らはこう話す。
 「議員が『(地元が希望する)補助金がなかなか通らない』と口にしたとする。すかさず『こんな制度がある』と説明する。貸しができる」「情報を早めに伝える。地元では『先生の情報網は早い。さすが』となる。これが結構、感謝される」と効果を自慢する。
 そんな官僚の活動を世間は「洗脳」と揶揄し、政治家が「籠絡」されたと感じる。しかし、岸教授は「その言葉は適当でない」と言う。「官僚は自分たちの仕事を理解してもらおうとしているだけだ。むしろ、政治家の能力が低いことが官僚依存の原因ではないか。
 対策に「ブレーンそろえ対抗」
 民主党のあるベテラン国会議員秘書も体験から議員側の力不足を嘆く。
 「政務3役を務める議員が自分の売りにしたいテーマに沿った政策を作りたいという。そこで省の側に根回しした。勉強会の席で、役所側が作った政策素案を官僚が示した。いわゆる『振り付け』てくれたわけ。だが、議員は、その内容すら理解できなかった。勉強不足もはなはだしい」
 この秘書は「官僚に『取り込まれる』側の力不足こそ深刻」という。
 そうだとしても、岸教授は官僚の提案は「およそ自分たちにとってベストであるだけで、国民にとってではない」と批判。だからこそ「政治家は官僚を論破し、納得させなければならない」と訴える。「政治家はまずブレーンをそろえ、官僚と対決する態勢を整えなくては」
 高橋教授はより具体的に「民主党には元官僚の議員が多い」という点に注目、こう提案した。
 「彼らをもっと有効に使うこと。各省庁に10人づつでも政務官として入れれば、官僚依存から随分と抜けられるはずだ」

  従前の主張   現状
公務員制度改革  天下りのあっせん全面禁止。
国家公務員の総人件費2割削減(衆院選マニフェスト)
 ⇒  2011年度の新規採用を09年度比で39%削減方針。現役職員の独法への出向容認
普天間
飛行場移設
 「最低でも県外」(鳩山前首相)    沖縄県名護市辺野古崎への移設で日米合意
消費税増税  「4年間は上げない」(鳩山前首相)    「2010年度内に、消費税のあるべき税率などの改革案とりまとめを目指したい。
 「当面の税率は10%を参考にしたい」(菅首相)
死刑制度  死刑の存廃だけでなく、当面の執行停止や執行方法なども含めて幅広く議論を継続(2009政策集)    先月28日に2人の死刑を執行


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篠沢一男・尾形英紀死刑囚に死刑執行=政治が官僚に負けた2010-07-28 
〈来栖の独白〉
 本日、千葉法相の命令により、死刑が執行された。政権交代によって一先ずは果たせたかにみえた「政治主導」が、「官僚主導」に復した格好だ。
 政権交代前後から起きていることは、誰が日本を支配するのか、の闘争であった。国民(選挙)によって選ばれた政治家か、あるいは資格試験(国家公務員試験、司法試験など)に合格したエリート官僚か、という闘いである。
 エリート官僚から見れば、国民は愚かな有象無象だ。有象無象から選ばれた国会議員は、正に愚者の代表で、こんな輩に国家は預けられないという自負が「風紀委員」たる官僚には、ある。
 官僚は、検察・外務・防衛一体となって政治家小沢氏に襲い掛かる。「検察の現場が、旧日本陸軍の青年将校のようになって自分に向かっている。連中は諦めないだろう」と小沢氏は鈴木宗男氏(新党大地代表)と佐藤優氏に述懐している。検察官僚には、小沢氏の目指す「取り調べの可視化」が、極めて具合が悪い。取り調べができなくなるほど、具合が悪い。また、検察が調査活動費等を裏金として溜め込んでいたこと(霞が関の利権)は、三井環氏の苦難によって、つとに知られている。加えて、小沢氏が検察庁人事に手を出すと言ったことも、検察の命取りである。
 官僚は、何としてでも鳩山政権を葬らねばならなかった。そこで打った手が、我武者羅な陸山会でっち上げ事件であり、普天間問題であった。
 これの走狗となったのがメディアである。危機感から遠いポピュリズムであった。折角成し遂げた「官僚から政治(国民)へ」という支配の転換を、国民は官僚とメディアに操られ、手ばなそうとしている。
 千葉法相への法務官僚からの締め付けは相当のものだったろう、特捜の取り調べににて巧みでもあったろう、と推測できる。けれども、閣内に福島瑞穂氏や亀井静香氏がおり、自らも国民の負託を得ているうちは、辛うじて持ちこたえることができた。
 しかし、民間人となって法相の座にい続けることの苛酷を私は痛ましさの中で思う。国民の支持を得てこその「政治(家)」である。「政治」とは「国民」と言い換えられるべきものだが、「官僚」は、断じてそうではない。
 死刑の場から見るとき、折角始まりかけたに見えた政治主導(大臣主導)が、7月11日の参院選によって官僚主導に戻ってしまった。法務官僚に屈服させられたのだと痛感した。心して見なくてはいけないのは、本日の死刑執行が、死刑制度を支持する国民世論に押されてというよりも、世論を梃子に執拗に命令書サインを迫る官僚に負けて為されたということだ。「政治」が「官僚」の言うことを聞かせられた。ここを見極め警戒しなくては、この国は、今後官僚に支配されてしまう。検察とメディアにそそのかされ踊らされて、官僚に全権を明け渡すことになってしまう。その意味で、本年末にも始まるだろう石川知裕衆議院議員の公判、そして小沢氏に係る検察審査会の行方も、その真実を見届けてゆきたい。
 官房機密費が明かされたのも、核機密の問題が明かされたのも、記者クラブ外への閣僚記者会見オープン化も、政権交代のかぐわしい果実であった。
 千葉さんが死刑執行命令書に判を押した。「政治」が官僚に負けたことだ、と国民はしっかり分からねばならない。
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仙谷氏の政敵、小沢一郎が屠られた経緯「検察は政権と取引をした」三井環元検事2010-10-29 
北海道補選.民主党敗因は「政治とカネ」ではない。TPPへの抗議の表れだ/菅・仙谷「殺小沢」の汚い手口2010-10-26
官僚の助言なく政策を語れる政策人間小沢氏/菅政権:政治主導から官僚支配に戻る/「官僚答弁禁止」は断念
日本政府にとって小沢と沖縄は邪魔者でしかない=米国のご機嫌とりのため手段を選ばない謀略作戦に出てくる
「小沢はクロ」という大新聞やテレビの印象操作のウソ
検察能力の劣化--明らかな失敗捜査でも大手マスコミの殆どが批判しないため、過ちが繰り返される 
陸山会事件--二つの議決 / 検察審査会=実にくだらないもの


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