「個別」「集団」の区別は世界の非常識 集団的自衛権の基礎知識
Diamond online 高橋洋一の「俗論を撃つ」【第93回】2014年5月15日 高橋洋一[嘉悦大学教授]
安倍晋三総理は、15日に有識者懇談会(安保法制懇)から提出される報告書を踏まえて、政府としての検討の進め方の基本的方向性を示す。本稿執筆時において、まだ確認できていないが、各種情報から、集団的自衛権を考えるための基礎知識を提供したい。
総理のこうした動きに対して、護憲派のマスコミは、反発している。朝日新聞は、14日「安保掲げ憲法逸脱 法制懇の報告、全文入手」と報道し、「他国を守るために武力を使う集団的自衛権の行使は憲法9条の定める「必要最小限度」の自衛権の範囲内だとして、憲法解釈の変更を求めるなど、憲法の根幹を揺るがす内容」としている。
3日付け社説でも「日本近海での米艦防護を例に挙げ、「個別的自衛権で対応できる」「ことさら集団的自衛権という憲法の問題にしなくても、解決できるということだ。日本の個別的自衛権を認めたに過ぎない砂川判決を、ねじ曲げて援用する必要もない」と書かれている。
しかし、「個別的」、「集団的」と分け「個別的」はいいが、「集団的」はダメというロジックは国際社会で笑いものだ。国際常識としては、海外において自衛権が、どこの国でも刑法にある「正当防衛」とのアナロジーで語られているのだ。
*正当防衛には他人の救済も含む
まず、日本の刑法第36条第1項を見ておこう。
「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」
ここでのポイントは、「他人の権利を防衛するため」が含まれていることだ。自分を取り巻く近しい友人や知人、同僚が「急迫不正の侵害」にあっていたら、できるかぎり助けてあげよう、と思うのが人間である。そうでない人は「非常識な人」と見なされ、世間から疎まれるだけである。少なくとも建前としてはそうだ。もちろん、実際の場合には、「他人」と「自己」との関係、本人がどこまでできるかどうか、などで助けられる場合も、助けられない場合もあるが。
国際社会の論理も、これとほとんど同じだ。「自己」や「他人」を「自国」「他国」と言い換えれば、つまるところ国際社会では「急迫不正の侵害に対して、自国又は他国の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」。そのまま自衛の解釈として成立することがわかるだろう。ちなみに、英語でいえば、自衛も正当防衛もまったく同じ言葉(self-defense)である。
正当防衛をめぐる条文は、万国問わず「自己および他人」への適用が原則で、「自己および他人」はセットである。したがって自衛権の定義において「個別的か集団的か」という問いが国際的に通じない。
*私は自分の身しか守らないということに
冒頭の社説のような「個別的自衛権で対応できる」というのは、他国が攻撃されても、自国が攻撃されたとみなして個別的自衛権で対応できるので、集団的自衛権は不要という意味だ。
一見もっともらしいが、国際社会では通じない。というのは、正当防衛でも、「他人」の権利侵害を防ぐために行う行為を、「自己」の権利侵害とみなすと、定義するからだ。つまり、他国への攻撃を自国への攻撃とみなして行うことを集団的自衛権と定義するのであるから、冒頭の社説を英訳すれば、集団的自衛権の必要性を認めているという文章になってしまう。
その後で、集団的自衛権を認めないと明記すれば、「私は自分の身しか守らない。隣で女性が暴漢に襲われていようと、見て見ぬふりをして放置します」と天下に宣言しているのと同じになる。
いくら自分勝手な人間でも、世間の手前、右のような発言は表立っては控えるのが節度であろう。戦後の日本政府は、この社説と同じ態度を海外に示し続けていたと思うと、日本国憲法前文にある「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」を恥ずかしく思ってしまう。
ついでにいえば、憲法前文で「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とも書かれている。個別的自衛権のみを主張するのは、この理念からも反している。
もちろん正当防衛と同じように、国際法のなかでは自衛権の行使にあたって歯止めとなる条件が存在する。正当防衛の条文が示している「緊迫性」があることに加えて、その防衛行為がやむを得ないといえるために、「必要性」と同時に、限度内のものである「相当性」が求められている。防衛の範囲を超えた攻撃すなわち「過剰防衛」になってはいけない。さらに、他国の「要請」があることが条件となる。民家で襲われている人が隣人の助けを拒否するとは考えにくいが、それでも最低必要限度にしなければならない。
こうした国際常識を無視して、長い間、日本の憲法の制約から集団的自衛権行使を容認しないという憲法解釈が存在してきたこと自体が驚きである。それは、アメリカが日本を封じ込める意図があったことが大きいが、政府の一部門に過ぎない内閣法制局における官僚の役割も日本独特だった(2月20日付け本コラム)。
*各国憲法と安全保障の関係
日本の常識、世界の非常識を見るために、各国憲法と安全保障の関係を見ておこう。しばしば、日本の憲法第9条の制約で、集団的自衛権の行使は認められないという。しかし、日本の第9条のような規定を持っている憲法は、世界では珍しくない。
先のオバマ大統領のアジア歴訪国である韓国やフィリッピンも戦争否定の規定がある。ヨーロッパでもイタリアやドイツの憲法には戦争否定の規定がある。ところが、これらの国で集団的自衛権がないという話は聞いたことがない。日本を含めて、似たような安全保障条約を結んでいるが、日本以外の国は全て集団的自衛権の行使は当然の前提である(表参照)。〈表は略しました=来栖〉
集団的自衛権の反対論者が言う、「巻き込まれ論」は、国際的に日本だけは「見て見ぬふり」を公言しているのをわかっていない。
それと、地球の裏側まで行くのかという議論も、極論である。正当防衛論から見れば、「緊迫性」、「必要性」、「相当性」が求められているので、地球の裏側というのは、そうした要件に該当するものとはなりにくいので、極論といえるわけだ。
報告書では、2008年に示された4類型(公海における米艦の防護、米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃、国際的な平和活動における武器使用、同じ国連PKO等に参加している他国の活動に対する後方支援)のほかに、次の6事例があげられている。
事例1:我が国の近隣で有事の船舶の検査、米艦等への攻撃排除等
事例2:米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援
事例3:我が国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域(海峡等)における機雷の除去
事例4:イラクのクウェート侵攻のような国際秩序の維持に重大な影響を及ぼす武力攻撃が発生した際の国連の決定に基づく活動への参加
事例5:我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊(はいかい)を継続する場合の対応 事例6:海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行う場合の対応
これらに対して、次の3つの対応が考えられる。
A. 対応を行わない
B. 個別的自衛権の延長として、行う
C. 集団的自衛権として、行う
A~Cのどれでいくのか。ただし、これまで述べたように、Bは国内でしか通じないロジックで、国際的にはCと見られる。
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◇ 改正自衛隊法が成立 在外邦人保護で陸上輸送可能に 2013-11-15 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
改正自衛隊法が成立 在外邦人保護で陸上輸送可能に
産経ニュース2013.11.15 11:10
緊急時に在外邦人を救出するため自衛隊による陸上輸送を可能とする改正自衛隊法は15日午前の参院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で成立した。日本人10人が犠牲になった1月のアルジェリア人質事件を契機に、「輸送手段が空海路に限定されていては、安全確保の上で支障が出かねない」として邦人保護の在り方を見直した。
改正法は飛行機と船舶に限定していた輸送手段に車両を追加。当事者らに限っていた輸送対象者は、現地で面会する家族や企業関係者、医師などを念頭に「家族その他の関係者」に拡大した。
陸上輸送は飛行機や船舶での輸送に比べ、テロ攻撃の標的になりやすいとの懸念があるため、与野党協議の結果、輸送時の安全確保などを求める付帯決議も採択した。
政府は改正法の成立を受け、拳銃と小銃、機関銃に限定されている自衛隊員の携行武器を増強する方向で検討を始める。
改正法は4月19日に閣議決定され、通常国会に提出された。ただ、当時は参院で与党が少数で法案成立の見通しが立たなかったため、政府・与党は衆院で継続審議としていた。
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◇ 日本「金払うから…」でいいのか 邦人救出へ自衛隊法改正を急げ 2013-01-30 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
日本「金払うから…」でいいのか 邦人救出へ自衛隊法改正を急げ
産経新聞2013.1.30 03:19 [正論]帝京大学教授・志方俊之
アルジェリアの人質事件への対応は、007で有名な軍情報部第5班(旧称MI5)を持つ英国ですら手遅れだったのだから、わが国の国家的な情報、対応能力で何ができただろうか。アルジェリア政府が関係諸国と人質解放に関して何ら調整せず、直ちに武力制圧に踏み切ったことを平和な東京から非難しても始まらない。
≪邦人輸送に非現実的条件3つ≫
いまなすべきは、犠牲になった10人の日揮関係者が尊い命に代えてわれわれに残した教訓を分析して、国家と企業の国際的な危機管理能力を強化することだ。
今後、海外で邦人が危険に遭遇する機会はますます増える。危険地で個々に活動するジャーナリストやボランティアの場合も、多数の人々が働く進出企業の場合もある。ペルー大使館事件のように在外公館が襲撃されるケースや、地域全体が危険になり在外邦人全員を緊急に退避させなければならないケースなど多様である。
在外邦人の緊急退避で人数が少なければ、最寄りの在外公館や警察庁の「国際テロリズム緊急展開班(TRT-2)」が現地の救出活動に協力することもある。人数が多ければ、自衛隊を派遣して輸送(自衛隊法第84条3)させられることやその際の権限(同法第94条5)も規定されている。
だが、問題は現行法に大きな制約が課されていることだ。
第1に、外務大臣の依頼が必要であること、輸送の安全が確保されていること、自衛隊の受け入れに関わる当該国の同意を要すること、という3つの前提が満たされるときに限定されている。
外務大臣の依頼は当然だが、現地で輸送の安全が常に確保されているとは限らない。そもそも安全が確保されていないからこそ、邦人の緊急避難が必要になるのだ。当該国が混乱して自衛隊の受け入れに同意しない最悪の状況も考えておかなければならない。
「行動権限」も極めて非現実的な範囲に限られている。自衛隊の行動はあくまで「輸送」であって「救出」はできない。使用する輸送手段も輸送機(今回は政府専用機)、船などに限定され、陸上輸送は想定外となっている。
≪ついでに助けての小切手外交≫
輸送の安全が確保されているのは、緊急避難が極めて早期に発令されてまだ現地が安全な場合か、現地に危険があっても、当該国や他国の部隊が在外邦人を安全な空港や港湾まで輸送してくれる今回のような場合か、である。
邦人が輸送されて安全な空港や港湾に集まっているのなら、自衛隊の航空機や艦船が迎えに行くまでもなく、民間航空機か、チャーター機が迎えに行けばよい。今回は、迅速性を重視した政府の特別判断で政府専用機(航空自衛隊が管理・運航)が使われた。
多くの邦人が危難に直面する場合、邦人だけが大挙して緊急避難することはほとんどなく。多国籍の避難者多数がその場にいることが多い。そうした状況下では、避難者の多い関係国が、協働・調整・協力して救出活動や輸送活動をするのが国際常識である。
緊急避難すべき外国人の中で在外邦人がかなり多いと、現地の日本大使や領事、防衛駐在官は関係国の担当者と会談して、次のような交渉をすることになる。
「日本の国内法で、自衛隊は安全が確保された地域での海空の輸送に限った任務しかなく、救出に当たれない。申し訳ないが、貴国の避難者を救出するついでに日本人も救出して安全な所(空港や港湾)まで運んでいただきたい。経費と礼金は必ず支払う。そこから先の輸送は自衛隊が行う」。まるで「小切手外交」である。
≪国際非常識の武器使用権限≫
わが国特有の制約はもう一つある。現場での自衛隊の武器使用権限を極端に制限していることだ。輸送の安全が確保された場所で航空機や船舶を守るため、保護下に入った邦人などを航空機や船舶まで誘導する経路で襲撃された場合に限り、正当防衛・緊急避難としての武器使用が許される。
テロ集団と銃火を交え、自国民だけでなく日本人も救い出し安全な場所まで警護してくれた諸外国の避難者が、空港などの別の地点で襲撃されているのを見ても、自衛隊は自国の避難者と保護下に入った者を経路上で守るためにしか武器を使用できない。恩ある国の避難者を見殺しにして国際的な顰蹙(ひんしゅく)を買っても、である。
根底には、集団的自衛権の行使に関わる問題や憲法上の自衛隊の位置づけに関わる問題もあって、憲法改正には時間を要するが、第二、第三の人質事件はそれを待ってくれない可能性がある。
輸送の安全の確保を避難措置の要件としないこと、外国領内での陸上輸送も含めること、避難を妨害する行為の排除に必要な武器の使用を認めることである。そのための自衛隊法の一部改正は喫緊の課題だ。今回の人質事件は、それを悲痛な形で教えてくれた。
参院選などが理由となって、自衛隊法の改正が遅れることがあってはならない。国民の生命を守れない政治は政治ではない。(しかた としゆき)
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〈来栖の独白 2013/01/30 Wed. 〉
正論である。同様のテーマを扱った中日新聞のコラムは的外れであり、まったく意味をなさない。
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◆ アルジェリア人質事件と自衛隊法改正 中日新聞 【核心】 2013-01-27 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
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◇ 【アルジェリアの邦人拘束】日揮の5人か 石油関連施設でイスラム過激派勢力 2013-01-16 | 国際
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◇ 『憲法が日本を亡ぼす』古森義久著 海竜社 2012年11月15日 第1刷発行 2012-11-28 | 読書
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