日米資源同盟で中国と対峙せよ/櫻井よしこ×山田吉彦 『Voice』2013年6月号

2013-06-08 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

日米資源同盟で中国と対峙せよ/櫻井よしこ(ジャーナリスト)、山田吉彦(東海大学教授)
『Voice』2013年6月号
《中国の狙いは東シナ海の制海権確保》
山田 今年3月中旬、政府は静岡から和歌山の沖海域(南海トラフ)におけるメタンハイドレートの洋上産出に世界で初めて成功しました。中国船が尖閣諸島周辺の領海をたびたび侵すのは、日本周辺、とくに東シナ海に眠る海洋資源の獲得を狙っているため、との見解もあります。しかし、現在の中国は海底資源にさほど興味をもっていない。日本近海の資源開発に投資をしても、開発コストに見合う採算が取れないことを知っているからです。その証拠として、白樺や樫といった東シナ海の油田開発は最近、まったく話題に上りません。
  中国政府の最優先課題は安定した制海権を確保することです。当面、アフリカで採っている資源を中国へスムーズに運べなければ、現在の経済成長を維持できない。中国の本音は、自国のシーレーンを世界中に張り巡らしていくことにあるはずです。
櫻井 東シナ海における中国の近年の動きには、明らかに軍事戦略的な意図があります。とくに彼らが渇望する海域は、沖縄トラフ周辺の海です。最深部では1000mもあり、そこに核と長距離戦略ミサイルを積んだ原子力潜水艦を隠しておけば、アメリカへの核攻撃が可能になります。中国周辺の海は浅く、東シナ海の深度はせいぜい100mから200m。空から肉眼で見て、潜水艦が発見される恐れさえあります。
  海底資源については、東シナ海が支配可能になった時点で、いつでも採掘可能と考えています。将来は当然、メタンハイドレートも獲得する狙いでしょう。中国の悲願は「第二列島線の制圧」であり、太平洋の西側とインド洋を押さえ、これらの海域にいるアメリカ軍を排除するという究極的な狙いがあります。
山田 南シナ海の状況は、東シナ海と少し異なります。中国がベトナムやフィリピンとこれまで共同開発してきた石油資源や天然ガス資源をすべて独占してしまおうと、両国へ軍事的圧力をかけている。これと同様に、中国は日本と東シナ海を共同開発すれば、投資額の半分を日本に負担させて、海底資源が本当に必要になったときに、わが国の領海を一気に侵犯してくるでしょう。
櫻井 山田さんのご指摘はそのとおりです。中国は「平和的に交渉しましょう」といって時間稼ぎをしながら、そのあいだに領土領海を力で奪います。共同開発といっても、時が来れば一方的に奪います。つまり、中国の言葉は信用できないと、わきまえていなければなりません。
  中国は南シナ海を制覇するうえで、台湾を押さえておく必要があると考えています。台湾は、南シナ海北東の出入り口です。台湾が中国の支配下に入れば、アメリカの第七艦隊が台湾周辺を通って南シナ海に入ることは困難になります。さらに中国が台湾を取るためには、東シナ海の尖閣諸島周辺や白樺周辺海域を制覇しなければいけない。中国の戦略においては南シナ海、台湾、尖閣諸島、東シナ海という各海域がすべて連動しているのです。
  中国の海洋戦略と陸上戦略を一体のものとして考えないと、彼らの本当の恐ろしさを知ることはできません。中国のシーレーンはペルシャ湾からホルムズ海峡を通ってインド洋を渡り、マレー半島を南下してマラッカ海峡を経て、南シナ海へ出ていきます。万が一、南シナ海で何らかの紛争が起き、船舶がマラッカ海峡を通れなくなれば、中国経済は資源不足により、大きな混乱に陥ります。
  そこで今年2月、中国はパキスタンのグワダル港の運用権と施設建設権をシンガポールの企業から獲得しました。この港はホルムズ海峡のすぐ近くにあります。中国は南シナ海までのシーレーンが途切れても、資源をグワダル港で陸揚げしてパイプラインで通せば、雲南省方面から輸送できるようにしました。資源を中国国内へ確実に送れるよう、海路から途中で陸路に変えるという戦略をとっています。
山田 習近平氏はチベットや新疆ウイグル地区を刺激すると、国際的な批判を浴びることを学習し、内陸部の少数民族も弾圧することについては躊躇している。
  国民にたまった不満を海外、とくに海洋問題に向けようとしています。今後、中国はミャンマーやベトナムに対する圧力を強め、東南アジアを通過するシーレーンを確保してくるでしょう。日本も東南アジアやインド洋、さらには中東の情勢も睨んだうえで、東シナ海の戦略を構築しなければいけません。日本人は、どうしても目先の問題に目を奪われがちです。もっと広い視野をもって日本近海の管理や利用を考え、世界と日本をつなぐ海を守る方策を講じなければなりません。
《離島に押し寄せる中国漁船》
山田 じつは、中国が東シナ海でもっとも関心をもつ資源は「魚」です。海底資源のほうが金額的にははるかに大きいのですが、中国政府は食糧難をいまもっとも恐れている。中国4000年の歴史を振り返ると、王朝が代わる原因はたいてい食糧問題です。いまは鳥インフルエンザの流行などもあり、魚は中国人にとって安心して食べられる貴重なタンパク源です。中国漁船は魚の乱獲を続けており、昨年9月には、100tから500t級の船が1日でなんと700隻も東シナ海の日本近海に現れ、虎網を使って魚を一網打尽にしていきました。さらに、中国漁船は台風からの緊急避難を理由に五島列島の玉之浦湾をわがもののように使っています。一時は、およそ3000人もの中国人が港に押し寄せてきました。
櫻井 現地の人たちが受けた衝撃は、計り知れません。山田さんは現地に行かれましたが、土地の人びとが怯えていたとのことでしたね。黄砂もPM2.5も日本に降ってくる。中国こそ日本にとって多くの問題の元凶です。
山田 壱岐や五島列島の漁師は怯えています。住民には、中国に対する危機意識が高まっています。海上保安庁が一、二隻の巡視船に中国漁船を監視させても、船の数が多すぎて手に負えない。彼らは日本の港を漁業の拠点の一つと見なし、勝手に使っています。さらに、すべての中国漁船が魚群探知機で海のなかを監視し、米国潜水艦の動きを調べています。各漁船は政府からの指示に従って、次の行き先を決めている。中国は安全保障と漁業を連動させながら、漁をする海域を膨張させている。この動きに直面して、日本の漁師たちは漁に出られなくなりました。船の油代が上がっていますし、中国船の乱獲のせいで魚も昔のようには獲れなくなったからです。多くの漁師は年金受給者なので、漁に行かなくても細々と暮らしていける「年金漁師」です。五島市福江の漁協には約1000人が加盟していますが、年間8億円しか水揚げをしません。一人当たりにすると、わずか80万円。漁業だけではとても暮らしていけません。
櫻井 2013年4月10日、安倍政権が日台漁業協定を締結しました。画期的なことです。戦略的に考えて日本は正しい道を進んでいると思います。以後、日本は中国の領海侵犯に対して、台湾と緊密な連携に基づいて対処していくことができます。日本は少しずつ進むべき道を歩もうと努力しており、成果も上げています。戦略論は正しい。しかし、問題はその戦略を実現する実際の力をどれだけ備えているか、ということです。政府関係者は、取り返しがつかなくなる前に有効な海洋政策を推進しなければいけません。
山田 日本が台湾を味方に付ければ、今後取り組むべき課題も見えてきます。具体的には、中国の言いなりではなく、わが国が漁獲量を管理できるよう、日台漁業協定を基に、日中漁業協定を正しく整備されたものに変えなければいけません。現在、日中両政府が27度線以北の海域における漁業目標をそれぞれ策定し、自国の漁船を管轄することになっています。しかし中国政府はろくに管理もせず、漁船の乱獲を放置しています。27度線以南は野放しの状態です。
櫻井 韓国は近年、急速に左翼化しつつあります。日本政府は韓国の反日運動の原因を政治的イデオロギーにあると認識しなければ、戦略的対策を打てません。日本は韓国と文化面で共有するものが多く、歴史的にも負い目を感じていて、結果として許してはならないことも往々にして、許してしまっています。それは誤りであって、日本の政府関係者が韓国に遠慮するようでは、外交などとうてい不可能です。韓国は職業的な反日左翼・親北朝鮮勢力が実権を握っている国である、と見なければいけません。その状況下で、朴槿惠大統領は自らの心情や政治的な自由を事実上、奪われています。だから朴槿惠氏個人の考えが保守だからといって、韓国が親日的な政策を選ぶとは、思えません。私たちは日本国の対外イメージを確立させ、たとえば歴史問題などで、「時と場合によっては許さない」という姿勢を韓国に見せる必要があります。
山田 韓国はもはや中国の属国といっていいくらいですね。経済的にはすでに中国経済に取り込まれてしまっている。そう考えると、日本は明確なスタンスをもって韓国に臨まなければいけない。両国が友好であればいいという甘い発想は、韓国や中国にはもはや通用しません。
櫻井 北朝鮮も中国の圧力下にありますが、最近の動きを見ると、中国の指示を聞いているとは思えません。たしかに、北朝鮮は経済的に中国抜きではやっていけない国です。しかし、中国の影響力はまったくといってよいほど及んでいない。そうしたなかで、中国は北朝鮮の国民が大量に飢死をしない程度に食糧を支援するけれども、それ以上は供給しない。中国は北朝鮮を生かさず殺さずの状態でとどめておくことで、北朝鮮の決定的な崩壊と難民の流入を防ぎ、アメリカの朝鮮半島への介入を阻止することができると考えています。
  しかし、前述のように中国の対北影響力はないと見るべきです。6カ国協議は北朝鮮の核とミサイル開発阻止のためにつくられましたが、中国は過去一度もミサイルの発射も核実験も止めることができませんでした。北朝鮮は核実験を三度も繰り返しています。
  さらに怖いのは、その北朝鮮の影響下に韓国があるといわざるをえないことです。韓国と北朝鮮を比べると、経済でも軍事でも優れているのは韓国です。にもかかわらず、北朝鮮の工作活動が韓国で効果的に働き、韓国人が心理面で北朝鮮にのみ込まれつつあります。報道された盧武鉉氏と金正日氏の会話を読むと、あたかも「北朝鮮のしもべです」と韓国側がいっているように見受けられます。朴槿惠大統領がそのような政治風土の上に立っている点に注意が必要です。中国が北朝鮮を占領することになれば、有事の際には韓国も中国に追従してしまい、朝鮮半島全体に中国の影響力が及ぶことになります。
山田 たとえば、習近平氏は国家主席就任直後にモスクワへ行っています。中国はロシアにもアメリカにも、中国の外交カードのなかに北朝鮮があることをちらつかせている。将来的には、中国が北朝鮮を占領していることを想定すれば、北朝鮮対策というのは妥協の余地などまったくないはずです。北朝鮮の核開発にしても、日本のスタンスをもっと明確にすべきでしょう。
櫻井 盧武鉉氏や李明博氏が大統領の時代に、日韓の保守派が連携して日本政府が韓国をサポートする体制を築こう、と主張する声が両国の保守派から上がりました。ところが、李明博大統領が竹島に不法上陸したとき、韓国の保守派は誰も声を上げませんでした。2012年8月、李明博大統領が「天皇は韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった方々を訪ね、心から謝るなら来なさい」(2012年8月14日付『朝日新聞』電子版)と発言したときも、何も発言しなかった。その後、慰安婦の銅像を大使館の前に建てる行為を放置するなど、韓国には本当の意味の保守派はいないのではないか、と思いさえします。
  日本は韓国の保守派を支える基本路線を一方で保ちつつ、もう一方で「韓国の真の敵は北朝鮮であり、中国です」と主張して、韓国が民主主義国の価値観をもてないのであれば、わが国にもそれなりの対応の仕方があることを示さなければいけません。
山田 ところで、北朝鮮はミサイルを本当に飛ばすのでしょうか。そのとき、中国はどのような動きを見せるのか。
櫻井 オバマ大統領が4月16日、北朝鮮にその力はないだろう、と発言しています。そのとおりでしょう。しかし、もし発射したら彼らは唯一の交渉カードを失い、外交手段をなくしてしまいます。それは北朝鮮の独裁体制の終わりを意味します。ただし、中国は絶対にアメリカの朝鮮半島への介入を阻止するでしょう。
山田 今年3月、森本敏前防衛相たちとモスクワを訪れた際、日本のプレゼンスの低さを十分感じました。やはり、ロシアの関心事は中国なのです。習近平もすぐにモスクワに行ったことからもわかるように、中露はもう密接にしていこうという立場です。わが国もまずはモスクワと手を握ることを考えるべきです。日本が思っている以上に、ロシアはエネルギー資源をはじめとした貿易相手国として中国を重要視しています。
新潟市の土地が買い占められている!》
山田 いま、私がとくに不安を感じるのは日本海のことです。というのも、日本海における北朝鮮の200カイリ内の漁業を、中国船がほとんど牛耳っている。中国は北朝鮮の漁業をお金で買っているという状態です。日本海北部でイカを乱獲していて、南下してくるイカが少なくなっている。それどころか最近は、中国漁船が日本海の真ん中である大和堆まで入っています。水産庁もこの件について目をつぶっていますが、中国漁船の出没情報はたくさん寄せられています。
  もう一つ心配なのは、北朝鮮の清津港のカウンターパートとして利用できる新潟東港です。中国は万景峰号のつくった闇社会を含めて、新潟に拠点をつくろうとしています。中国政府の新しい日本海の戦略上、北朝鮮の役割が浮上しています。いずれ、中国の漁船が北朝鮮の海域で獲ったカニは、境港などに運ばれることになるでしょう。
櫻井 たとえば、日本海にある佐渡島も中国の拠点になりつつあると聞いています。それから、新潟市もいまや土地の買い占めが入り、中国の拠点になっているという。すると、北朝鮮の港である清津や羅津から船が出航した場合、目の前には佐渡が、さらに行くと新潟がある。そこから航路を東にとると津軽海峡、北にとるとオホーツクからすぐ北極航路に抜けることができます。これは、日本海が中国の内海になることを意味します。新潟県や市はそのことに気付かず、中国に土地を売ってしまっているのです。
山田 中国は都合のよい航路を勝手につくろうとしているわけです。このような状況では、津軽海峡が危険だと思います。津軽海峡は、領海を3カイリとして真ん中を公海として開けています。政府の見解は、国際航路だから開けたという。しかし、マラッカ海峡でもそんなことはしていません。じつは、核搭載船や潜水艦が通行しても問題とならないように、津軽海峡の真ん中を公海にしたといわれています。日本の領海であると、潜水艦は浮上して国旗を掲揚して通過しなければいけない。しかし、当時の日本はアメリカやソ連に対して、それを要求できなかった。だから、この件について目をつぶるために、宗谷海峡、津軽海峡、大隅海峡、対馬海峡の東水道、西水道については、領海を3カイリまでとしてしまったようです。これらすべての領海を本来の12カイリとすべきです。そうすれば日本海に入る船は、日本がすべて管理することも可能になります。
  中国は、日本海側の都市や離島の疲弊を知っていて、佐渡にも五島にも壱岐にも土地を買って着々と拠点をつくっている。韓国が対馬に入っていくのと、まったく同じ動きです。二束三文の土地を日本人ならば誰も買ってくれないのに、興味のある人が出てくると、地主は裏事情なども調べないで売ってしまう。
櫻井 普通の状況下であれば、日本人が中国人に土地を簡単に売るとは思えません。しかし、日本政府が地域活性化策を十分に行なってこなかったばかりに、地方の人が土地を売らざるをえない状況になってしまったことは、官民ともに大いに反省しなければならない点です。安全保障の面で重要な土地は国有地にするのが当然の政策です。
山田 中国には海島保護法という法律があります。沿岸部の開発は地方単位でやることになっているのですが、人民解放軍との調整がすべて必要だというルールになっている。ということは、軍がすべての沿岸を管理するのです。中国で勝手な開発はいっさいできません。日本も沿岸開発について安全保障上重要な場所については、地方行政あるいは国との調整が必要であるという規制を設けるべきです。開発にあたっては、土地を買っても使用に制限を加えるべきです。そうすれば、外国企業に水源地を買われても取水制限はあとからできる。国土の最終的な管理者は国家なのですから、その役割を果たさなければなりません。
《アメリカと契約したほうが得策》
山田 アメリカはシェールガスの実用化に目処がつくまで、日本のメタンハイドレート開発にも慎重な対応をしてきました。アメリカのシェールガス戦略にとって、日本の市場は重要な位置を占めています。日米関係を重んじるうえでアメリカの立場に配慮しつつ、その一方でエネルギーに関する技術力をしっかり蓄えておくことが賢明だと思います。いつでも自前で資源確保できるようにしておけば、これを外交交渉のカードに活用することができます。
櫻井 去年8月、第三次アーミテージ・レポートのなかで、興味深い記述がありました。日米は軍事同盟だけではなく資源同盟も結ぶべきである、というものです。アメリカがシェールガスの開発に成功して、2016年ごろまでにネットでエネルギーの輸出国になります。そしてパナマ運河の拡張工事が2014年度中に完成すると、大西洋側から太平洋に至る航路は至便になり、輸送コストも格段に下がります。船がパナマ運河を通って真っすぐに太平洋を西へ渡ると、行く先は日本です。日本は現在、天然ガスの世界最大の輸入国ですが、日米の資源同盟が成立すれば、ロシアなどから高値で資源を買う必要がなくなります。
  日本は安全保障の面も考慮して、少なくともロシアに資源供給を頼るより、アメリカと契約をしたほうが得策ではないでしょうか。日本がシェールガスの大切なお得意先ということになれば、米国における日本の存在感は大きくなるわけです。日米が経済的な結びつきを保っておくことが必要です。
山田 アメリカがパナマ運河の整備を急いでいるのは、ロシアの北極海航路を睨んだものです。北極海航路が出来上がれば輸送コストは下がり、世界の海の勢力図が大きく変わります。アメリカは、日本がエネルギー面でロシアに依存しはじめることを警戒しています。日米は安全保障もエネルギーも、そして食糧についても緊密に連携する必要があり、そのなかにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)という概念があるのです。だから、TPPだけを単一の問題として切り取って考えると、日米関係のあり方について本質を見失ってしまいます。
櫻井 中国はいま、アメリカの戦略に対峙すべく、戦略的に着々と布石を打っています。それに対して、第1期のオバマ政権はアジア・太平洋を守るという宣言をしました。ヒラリー・クリントン国務長官(当時)は尖閣諸島問題も日米安保第5条を適用し、施政権というのは日本にある、と述べています。
  ところが、第2期のオバマ政権はここに来て政策のスタンスを変えてきています。オバマ大統領の就任演説と一般教書演説、ジョン・ケリー国務長官の演説、それからチャック・ヘーゲル国防長官の演説を併せて聞くと、いまのアメリカは大変に内向き志向です。オバマ大統領の演説から、世界の安全保障や秩序維持という言葉が消えつつあり、比重が落ちています。米国政府は貧しい人やお年寄りのための医療福祉や教育、移民やホモセクシュアルなど、少数の人びとの権利など、社会福祉政策に力を入れようとしている。これらはいずれもお金がかかることです。しかし「財政の崖」といわれるように、米国政府はお金がないため、軍事費を削減しはじめています。空母12隻のうちの4隻を休ませて8隻体制になり、アジア・太平洋に配備する軍事力も縮小される事態が眼前で起きようとしています。中国と摩擦が起きたときに、日本人が期待するようなアメリカの軍事的支援体制を敷けるかどうか、大いに疑問に感じます。そのぶん、日本人自身が有事に向けて準備をしないと、国を過つことになると思うのです。
《警戒すべき中国海警局》
櫻井 中国は2013年3月の全国人民代表大会で、中国海警局という機関を新たに創設して「海洋強国化」の推進を表明しました。四方を海で囲まれたわが国にとって、きわめて警戒すべき問題です。
山田 これまで中国政府には「五龍」と呼ばれる5つの組織がありました。海洋調査・管理を担当する「海監」(国家海洋局所属)、海の治安部隊である「海警」(公安省)、漁民と漁場を管轄・管理する「漁政」(農業省)、航行安全を守る「海巡」(交通運輸省)、そして密輸を取り締まる「海関」(税関総署)。今回、「海巡」以外の四つの組織が一本化されて、「中国海警局」が誕生した。
  中国は日本の行政組織をよく研究したうえで、この組織に警察権を付与しています。この点は、対中防衛を考える上できわめて重要です。たとえば、中国が尖閣諸島に漁民を送り込んできた場合、武装巡視船をもつ中国海警局が漁民を監理する名目で動きます。これに対して、日本は自衛隊を投入することができず、海上保安庁に対応させるほかありません。というのもこの場合、相手国は警察権で対応しているので、警察権をもつ海上保安庁の所管になってしまうのです。中国政府は警察権をもつ中国海警局を前面に出すことで、軍事問題化を避けることに成功し、日米安全保障条約第5条の適用外にしてしまった。さらに、中国海警局が警察権を行使して、日本の漁船を拿捕することも可能になりました。ソ連時代のように、日本人は身ぐるみ剥がされ、ソ連に泣き寝入りして漁場を失ったのと同じ事が起こりえてしまう。
櫻井 中国は海警局を日本近海に繰り出すことで、海軍を温存することができます。日本が中国海警局の領海侵犯に対して海上自衛隊を出動させてしまうと、中国は日本のほうが先に軍事的に手を出した、と国際社会にアピールして日本を非難するでしょう。結果として、世界各国は「先に手を出した」日本よりも、中国の意見に同意してしまうかもしれません。
  それだけに、わが国は海上保安庁の機能を強化しなければいけません。尖閣諸島を含めた南西諸島を守る海上保安庁の1000t以上の大型船は、わずか6隻。政府はもう6隻ほど増やして人員を600人に拡大する予定ですが、配備に5年もかかるそうです。誰が5年も待ってくれるのでしょうか(笑)。これに対して、先ほど山田さんが説明した中国海警局は3000隻の船をもっています。おまけに、中国漁船のすべてが中国海警局の所管に入ります。漁船も中国は新しく建造したものが主流になりつつあり、それは高い性能を備えていますから、対日攻勢で力を発揮すると見られます。まさに多勢に無勢といった状況で、日本と中国では装備・人員の規模がまったく違うのです。安倍政権が海上保安庁の予算を増やした点は評価しますが、危機の深刻さから見ればまだ十分ではないように思います。
山田 わが国の法体系を根本的に変えなくてはいけない。海上保安庁法は、日本人の生命・財産を脅かす他国の公船を含むすべての船を取り締まれるように改正すべきです。中国は日本人を本国に連行していく可能性があるわけですから、日本がそれに対して何もできないのはあまりにおかしい。
  また、中国海警局の規模に対抗するためには、海上保安庁の名の下に海上自衛隊も海保支援を行なえるような法整備が必要です。政府は警察行為のなかに自衛隊が組み入れられたことを国内外に宣言して、自衛艦が中国の公船に対抗するのです。そのためには、総理の指揮の下、防衛省と海上保安庁が指揮系統でしっかり連携をしていくことです。
櫻井 省庁を超えての戦略を考える発想が見られないのが日本の問題です。まず政治家が現場のことをよく知ったうえで、官僚に任せず、縦割りの構図で物事を考えることをやめなければなりません。外務省、経済産業省、農林水産省、海上保安庁がバラバラでは、海洋資源と国境問題について戦略を立てることはできません。安倍総理は国家安全保障会議を立ち上げ、縦割りの構図を打ち破ろうとしていますが、世界の動きに後れを取らないよう、すべてのことが急がれます。かつてのわが国は、李承晩ラインの勝手な策定や北方領土問題など、各国の野心に注意を払わなかった結果、国益を損なう事態を招きました。日本は過去の失敗に学ぶべきだ、と強く感じています。なぜ、十分に学ぶことができないのか。それは海なら海の防衛というように、一つのテーマを長期にわたって研究・蓄積する人材や機関がないからです。
《島のレベルに議論を矮小化してはならない》
山田 実際、ロシアや韓国との問題については、各研究者がまったく別々のことをいっている。そのようなバラバラの情報を総理のスタッフが一元的にまとめられるかというと、まず無理です。外務省内ですら、ロシアスクールとアメリカスクールが個別に外交問題を考えている。人事で組織内を少しいじったところで本質的に何も変わらないわけです。省庁間が横につながる組織づくりと、総理が英断を下せる枠組みづくりが必要だと思います。
櫻井 少なくとも政府がいま、五島列島や新潟市の問題について真剣に危機感を抱いている様子は見えませんね。
山田 安倍総理はアベノミクスを優先的に進める一方で、国境や海洋資源に関する問題を重要視していますが、実際にはなかなか具体的な行動をとっていない。
  このたび、内閣官房の総合海洋政策本部では、無人国境離島問題を扱う委員会が発足します。素晴らしい見識をもつ人びとを集めましたが、現地で行動する人はいない。本来は「知」と「行動」を組み合わせることが重要です。また、総合海洋政策本部は国土交通省、水産庁をはじめとした各官庁からの寄せ集め所帯になっていて、「知」はあるのですが、機能させるためには「行動」をプラスすることが必要です。自民党の領土に関する特命委員会では、石破茂さん、新藤義孝さん、佐藤正久さんが主要メンバーでしたが、お三方とも政府与党の要職に就かれているので、いまは開店休業状態です。
櫻井 それは困ったものですね。領土問題については、島のレベルに議論を矮小化することによって、ただ島のことだけしか考えないのでは、領土問題というより大きな課題に対処することはできませんね。わが国にとって島とは領土領海であり、国家そのものです。わが国のあり方を長期的観点から考えるために、大戦略としての海洋政策が必要です。
山田 日本に防衛大綱があるのですから、海洋戦略大綱があってもいいと思います。2、3年前、海賊がたいへん問題になって、海賊対策の大型船を建造することが決まっていました。ところが、これが現在に至るまで完成していなかった。今年度にようやく完成する予定です。しかし、肝心の海賊は最近減ってきている。現状では1000tから2000tクラスの小型船を中心とした、沿岸警備体制が必要になっています。政府は機動的な対応が不十分であることを認めたうえで、5~10年後に再び世の中が変わっていることを見越した対応策を複数、講じておくべきです。そうした想定をつくるのが本来、総合海洋政策本部の役割のはずです。政治家も官僚も、目先のメタンハイドレートの話だけで喜んでしまってはいけないでしょう
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「尖閣問題は、国際法と国連に期待せず、棚上げせず、強い姿勢で臨むことが中国に有効」ペマ・ギャルポ氏 2013-01-23 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
 Professor PEMA News and Views ペマ・ギャルポ この国、日本に生き、一握の土となることを願う者のひとりとして
 尖閣問題とチベット問題の共通点
 2013年1月23日 (水)
 近年中国は度重ねて尖閣諸島問題で日本に対して挑発的行為を続けている。
 これに対してごく一部の良識ある人々以外のマスコミなどは冷静に対応しろ、とか、国際法と国連に頼るような発言も目立っている。中には叡智を結集して両国間で当分この問題を棚上げにすべきだと、いう極論を言う人もいる。
 この人たちの言い分だと、大人であった小平と田中角栄は、この領土問題を棚上げすることで日中の友好関係を築いてきた、とのことである。
 私がチベットの体験からはっきり申し上げたいのは、棚上げなどとは中国にとって、時間稼ぎ以外の何ものでもなく、中国が一九五〇年軍事力でチベットを侵略し五一年に十七条協定なるものを押し付けたことに対し、東チベットを中心にして猛烈な反発が出始めた頃、一九五四年毛沢東はダライ・ラマ法王に、
「我が祖国の他の領土と違ってチベットには特有性があるので、革命的改革を当分押し付けない」
 という約束をして法王を安心させた裏で、着々とチベットへの道路をつくり、多量の工作員を「チベットに奉仕する」という名目で送り込み、彼らがチベットを軍事的支配しやすいような環境を整え、最後にダライ・ラマ法王を捕まえようとした。
 その時チベット国民は決起し、ダライ・ラマ法王はインドに亡命した。一九五九年のことであった。
 もしチベットが一九五〇年代初期に一致団結して戦っていれば、中国の侵略を阻止できたかもしれない。当時の中国はチベットに簡単に入れるような道路もなかったし、兵士を養っていくだけの食料も不足していた。国民党との内戦で兵力も弱まっていた。
 その上毛沢東と人民解放軍の軍部、そして劉少奇との対立が始まっており、内部の団結力をはかる必要があったので、時間稼ぎにチベットへの改革を押し付けない、という姿勢を取っただけで、それは小平の棚上げ論と同質のものだった。
 やむを得ずインドに亡命したダライ・ラマ法王のチベット政府は国連に訴え、国際法と正義に期待した。アイルランドとマラヤ(現在のマレーシア、シンガポール)が提唱者となって国連で三度にわたって中国を批判し、非人道的行為をやめ、即時チベットから軍を撤退することを促す決議が採択された。
 また、ICJ 国際司法委員会(国際法律家委員会ともいう)はチベットにおいて中国軍による計画的組織的大虐殺があったこと、そして中国がチベットに侵略したとき、チベットが事実上の独立国家であったことを認める結論を出した。
 しかし中国は国連の決議を無視し、国際法に基づく正義も無視した。こうしたことからわかるように、中国にとって歴史的正当性、国際法の正当性、そして国連の存在は、自国の利益に合致しない限り、無視するのが当たり前のことである。
 一九四九年中華人民共和国誕生のとき、中国が有効に支配していたのは現在の中華人民共和国の三七%に過ぎない。それ以外の領土はすべて軍事力を背景に獲得し、ある時期においては友好関係にあったロシア、インド、ベトナムなどとも一戦交えているように、中国の本質は領土拡張主義以外の何ものでもない。
 日本はこうした事実から学び国際法と国連に甘い期待を抱くのをやめ、棚上げの畏にも採らず、自国の領土を守る強い姿勢を持って臨むことのみが中国に有効な対策である。
『われわれ日本人が尖閣を守る』(高木書房)所収。
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パキスタンのグワダル港を得た中国 「真珠の首飾り」に神経をとがらせるインド 2013-03-17 | 国際/中国/アジア 

    

 WEDGE Infinity 世界潮流を読む 岡崎研究所論評集 2013年03月15日(Fri)岡崎研究所
 米海軍大学のホームズが、Diplomat誌ウェブサイトに2月9日付で掲載された論説で、中国はパキスタンのグワダル港の運営権を得ることとなったが、同港は軍港には適さず、また、余程のことが無い限り、パキスタンが、同港の有事における軍事利用を中国に認めることもないであろう、と述べています。
 すなわち、中国が多額の資金を投じて開発してきたパキスタンのグワダル港の運営権が、シンガポールのPSA社から中国の国有企業に移管されることとなった。この移管は長年の懸案であったので特に驚くべきことではない。
 しかし、インド政府関係者は、インド亜大陸の西の脇腹に中国が進出してくることへの懸念を表明している。グワダルのコンテナ港を改良すれば、軍艦の入港も可能になるので、インドを取り囲む中国の海軍基地ネットワーク「真珠の首飾り」の一環になるのではないかとの懸念である。
 インド・太平洋地域で一種の連鎖反応が起きており、西部太平洋では、中国が海洋覇権国の米国に包囲されることを懸念し、南アジアでは、インドが将来の覇権国たる中国に包囲されることを懸念している。
 但し、現時点では、インド側は心配し過ぎである。この点は、マハンの海軍基地評価基準に照らし合わせれば明らかである。マハンの第一の基準は、地図上の位置であり、重要なシーレーンやチョーク・ポイントに近いか否かである。第二の基準は、強度であり、自然の要塞か或いは要塞化が可能か否かである。第三は、資源であり、周辺地区からの補給または船舶による補給が可能か否かである。
 グワダル港は、インドの西にありホルムズ海峡にも近いので位置は問題ないが、強度は無く、補給も駄目である。同港は、海岸から突き出た狭い土地にあり、航空機及びミサイルによる攻撃の絶好の標的になる。補給は、反乱に悩まされているバルチスタン経由となる。マハンならば、中国にグワダルは推薦しないであろう。
 マハンの三つの基準に、新たに、同盟関係への配慮という四つ目の基準を付け加えたい。パキスタンが平時に中国海軍による同港の利用を認めるとしても、有事にも認めるとは言えない。同港の潜在的な経済的価値が極めて大きいからである。パキスタンの体制が危機的状況になることでもない限り、「真珠の首飾り」に同調することは避けるはずである。その代償が大きすぎるからである。
 中国がインド洋への海軍力進出に関心を持っていることは確かであるが、当面は、将来のオプションを確保しようとしているにすぎない。インドは、警戒はすべきであるが、怖れ過ぎてはならない。天が落ちて来ることがあるとしても、今ではない、と述べています。
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 この件に関しては、シンガポールのPSA社は、グワダル港の40年間の運用権を獲得していましたが、運用実績が上がらず撤退を望んでおり、パキスタン政府が中国側に頼み込んで運用を引き継いでもらったというのが実情と伝えられています。
 ホームズが指摘する通り、中国は、将来のための駒を取りあえず確保しただけのことであり、グワダル港の軍事基地化が直ちに進むようなことは無いという見通しが正しいのでしょう。また、インド海軍は、マラッカ海峡の出口にあたるアンダマン諸島に根拠地を持っており、仮にグワダル港が中国海軍の基地となったとしても、必ずしも、中国が有利になるとは言えません。
 ただ、客観的情勢は上述の通りとしても、アジア太平洋の重要な友邦であるインドが「真珠の首飾り」に対して神経をとがらせていることも事実ですから、そういう観点からも、海洋安全保障の分野で日印が連携を深めることには大きな意義があります。
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