中日新聞【特報】2011/4/27Wed.
原発の「ごみ」行き場なく 使用済み核燃料の行方は 中間処理施設 建設中も
福島第1原発の事故では、発電を終えた核燃料が敷地内に置かれている危険性を知った。使用済み核燃料は青森県六ヶ所村の再処理工場の貯蔵施設で受け入れているが満杯に近く、各原発内の貯蔵プールなども余裕がなくなりつつある。一方、この燃料を再びエネルギー源として使う核燃料リサイクルは実現していない。同じ下北半島に建設中の中間貯蔵施設の現場を歩き、原子力政策の限度を考えた。(篠ケ瀬祐司、小国智裕)
まだ肌寒く、フキノトウが顔を出し始めた青森県むつ市関根。使用済み核燃料をいったん貯蔵する中間施設の建設現場付近からは、津軽海峡を挟んで、うっすらと北海道函館市が見える。
昨年8月に着工され、貯蔵建屋は基礎を終え床部分を造る段階だ。大震災で資材は被災地に優先されて本体工事は中断するが、来年7月の稼動開始目標は変わらない。
貯蔵能力は三千㌧。最終的に建屋はもう1棟造られ、最大で計五千㌧を貯蔵する予定だ。同施設を造るのは「リサイクル燃料貯蔵株式会社」で、東京電力と日本原子力発電が出資している。
・最長50年保管
使用済み核燃料は、まず発電所内のプールで冷やされる。それから六ヶ所村の再処理工場に送るまでの間、キャスクと呼ばれる金属製容器に入れて、空冷式のこの貯蔵建屋内に保管される。
「中間」とはいえ期間は最長50年間。再処理が滞り、使用済み核燃料がたまり続けたり永久貯蔵化したりしないか。
リサイクル燃料貯蔵社の江村公夫広報渉外部長は「年限や容量などは地元との約束だ」と、予定量や期間以上の貯蔵はないと断言する。
同施設から海まで5百㍍と近いが、周囲に防潮堤は見当たらない。江村氏は「東電の自社評価では、6、3㍍の津波発生可能性を想定。施設は海抜20㍍の場所にあり、防潮堤は必要ない。キャスクは(固定の台から)転落したり、水没したりしても耐えられる」と安全性を強調する。
・背景に交付金
施設はむつ市が誘致した。2000年6月の法改正で、原発敷地外でも使用済み核燃料を貯蔵できるようになった。5ヵ月後、当時の杉山粛(まさし)市長(故人)が東電に対し、市内に立地可能かの調査を依頼。OKが出ると杉山氏は03年の市議会で誘致を正式に表明した。
誘致の背景は、見込まれる巨額の交付金や固定資産税だ。市は破綻寸前で02年度の財政規模が約90億円に達し、累積赤字は約14億円。杉山氏は「財政確保を模索する中で、誘致する考えに至った」と議会で述べた。
財政的な効果はすぐ表れた。03年度に市に入った初期対策交付金は約9億7千万円。10年度決算では、原発関連で約22億3千万円の交付金を受けている。
市は09年にショッピングセンターを改修して現市庁舎に移った。費用総額約27億円のうち13億円以上が東電と日本原電の寄付だった。
下北半島は今、隣の東通村で東通原発、大間町で大間原発が1基ずつ建設中で「核半島」とも呼ばれている。誘致する背景はいずれも同じだ。
・「福島の事故後 不安に」青森・むつ市民
中間貯蔵施設をむつ市民はどうみているか。
会社員男性(56)は「地元には特別な産業がない。誘致でカネを引っ張ってくるのは苦渋の選択では」と、誘致に理解を示す。年配の男性も「息子が東北電力の東通原発で働いている。ここらでは自衛隊か原発関連の仕事しか働き口がない」と、施設の建設はやむを得ないとの立場だ。
福島の事故後に考えが変わったという住民もいる。ある商店主は「実は中間貯蔵とはどんなものかよく知らなかった。福島の事故をみて不安になった」と漏らす。
誘致・建設に反対してきた「核の中間貯蔵施設はいらない! 下北の会」の野坂庸子代表は「施設の核燃料を50年後にどうするかについて、事業者は『40年目までに協議する』と言っている。それは子どもたちにツケを回すことではないか」と不信感を募らせている。
原発の使用済み核燃料の行方はどうなっているのか。ウラン燃料は3~4年燃やした後に、使用済み核燃料が残る。その燃え残りのウランや新たに生成されたプルトニウムを再処理し、燃料として原発で再利用するのが「核燃料サイクル」。輸入に頼るウランを有効利用できる上に、核の「ごみ」を大幅に減らせるというメリットがある。
その拠点が日本原燃の再処理工場だ。使用済み核燃料は3年かけて百度以下に冷まして、剪断や溶解、精製してプルトニウムを取り出す。それをウランと混ぜて「MOX燃料」に加工し、既存の原発で燃やすのがプルサーマル発電だ。現在は海外で製造されたMOX燃料が使われている。
ところが、この再処理工場はいまだに稼動していない。1997年の運転開始予定だったが、相次ぐトラブルから延期され、現在は12年10月の運転開始を目指す。
原発54基から出る使用済み核燃料は、使用前のウランの重さで年間約1千㌧。再処理工場の貯蔵施設受け入れ容量は3千㌧なのに対し、既に約2827トンが運び込まれて満杯に近い。
日本原燃は「試験工程の組み直しなども考えながら進めていく必要があるかもしれないが、現時点では、予定通り竣工へ向けて取り組んでいきたい」と説明する。
再処理工場が稼動しても処理能力は8百㌧で、2百㌧程度が毎年残ってしまう。一方、各原発の総貯蔵量は昨年9月現在で約1万3千5百20トンに及ぶ。福島第1原発の場合、共用プールや各原子炉建屋の容量2千百トンに対し、千8百20トンが入れられていた。
貯蔵能力使用率を見ると、東電の原発を上位に、その他もあと数年で容量を超えてしまう。貯蔵場所がなければ、ウラン燃料を取り換える事ができず原発は稼動できなくなる恐れもある。
問題はこれだけではない。再処理した後に残る核分裂生成物など高レベル放射能廃棄物の最終処分についてはめどさえ立っていない。液体は特殊なガラスで固め、ステンレス容器に封じ込めて30~50年かけて冷やした後、地下約3百㍍の深さに埋める。だが、最終処分場の建設場所はまったく決まっていない。
フランスや英国に再処理を依頼してきたが、今や自国内処理が原則。最終処分場が必要なことは原発の稼動当初から分かりながらも見切り発車した。原発が「トイレのないマンション」といわれるゆえんだ。原発の是非については、安全性はもちろんだが、最終処分問題も国民的議論を行うときが来ている。
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