PFI刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」受刑者に盲導犬となる子犬を育てさせる矯正プログラム

2010-03-06 | Life 死と隣合わせ

eye:盲導犬育てた受刑者 慈しむ心・寛容の心、教えてもらった
 「慈しむ心、寛容の心をオーラが教えてくれた」。別れの日、60代の男性は目に涙を浮かべて話した。オーラは盲導犬候補のレトリバー。男性は服役中の受刑者。交わらないように思える両者が出会った場所は、刑務所だった。
 民間が運営に参加するPFI刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」(島根県浜田市)は昨年4月、希望する受刑者に盲導犬となる子犬を育てさせる矯正プログラムを始めた。国内初の取り組みで、不足する盲導犬の育成と、受刑者に責任感を身につけさせ、更生に役立てることを狙う。11人の受刑者が計3頭のレトリバーを、生後2カ月からの約10カ月間、寝食を共にして育てた。
 受刑者は30~60代の男性。刑期や出身地もさまざまだが、それぞれが子犬に精いっぱいの情熱を注いだ。「オーラ、グー」。トイレでおしっこができた子犬を、大きな声でほめる受刑者。6・6平方メートルの個室で、作業をする訓練室の片隅で、コンクリートの建物に囲まれた運動場で、受刑者が子犬に語りかける声が響いた。
 体重7キロ前後だった子犬たちも、今年1月の修了時は25キロ程に成長。「元気で幸せになれよ」「ありがとう」。受刑者は抱き上げられないほど大きくなった子犬に語りかけた。そのまなざしは、成長の喜びと巣立ちの寂しさが入り交じった、父親のようだった。<写真・文 小川昌宏>
■PFI刑務所■
 PFI刑務所は、公共施設の建設・運営に民間資本やノウハウを活用するPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)方式が導入された初犯の受刑者が入る刑務所。殺人等の重罪を犯していない刑期8年未満の受刑者が入所する。07年に山口県美祢市で国内初となる「美祢社会復帰促進センター」がオープンし、現在は全国に4カ所ある。
 出所後すぐに就職できるようにと、資格取得などに力を入れた職業訓練も特徴で、医療事務やホームヘルパーの資格取得、手話講座を導入したところもある。島根あさひでは、受刑者の教育にも力を入れ、盲導犬育成プログラムに加え、昨年7月に馬の世話を通じて力に頼らない人間関係構築法を学ぶ「ホースプログラム」も開始している。
 法務省によると、PFI刑務所の設立により、07年末で7年ぶりに全国の矯正施設の収容率が100%を下回った。四つのPFI刑務所には現在約4000人が収容されている。
 毎日新聞 2010年3月4日 東京夕刊
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盲導犬を見かけたら=渡辺眞子
 ぎゅっと瞼(まぶた)を閉じてみる。数秒のことなのに、周囲の人々が行き交う気配に不安が湧(わ)き立つ。再び目を開くと、都心に雪が降った翌日の灰色の空を、鳥の編隊が横切っていた。ありふれた光景が、今の私には愛(いと)おしい。
 光のない世界。それがどのようなものか想像したことはあるだろうか。その中で生きることを受け入れるだけで相当の葛藤(かっとう)だろうし、日常生活を送れるようになるための試練は並大抵ではないはず。さらに社会復帰し、単独で旅に出るまでとなればなおさらだ。櫻井洋子さんが失明の宣告を受けてからの道のりは決して平たんではなかった。しかし彼女の清廉とした横顔は、それらを微塵(みじん)も感じさせない。
 盲導犬ユーザー(使用者)になろうと決めるまでは「犬に連れられて歩くなんて」と思っていた。でも訓練を開始して知ったのは、あくまで指示を出すのはユーザーであり、盲導犬は障害物など危険を避けて安全な歩行を誘導するということだ。だから彼女の頭には、その日の目的地の地図とルートがしっかり入っている。盲導犬を迎えて、櫻井さんは本来の歩きを取り戻した。季節の移ろいを感じる外出が楽しみになり、社会に出る勇気も得た。
 ユーザーと盲導犬は一心同体であり、いかなる公共施設も交通機関も利用を拒否できないことは身体障害者補助犬法にある通りだが、いまだに浸透しておらず断られることがある。そんなとき彼女は、自分が拒否されたような寂しさを味わう。また、路上で往生して「すみません」と声に出しても、携帯電話で話し中だったりイヤホンで音楽を聴いている人には届かない。
 盲導犬を見かけたら、犬でなくユーザーを見てほしい。困っている様子なら、話しかけてほしい。盲導犬に声をかける、触る、食べ物を与える、それから目を見つめることは仕事中の犬の注意力を削(そ)いでユーザーに危険が及ぶ可能性があると覚えておこう。
 舞い散る花びらが頬(ほお)にかかれば、見ることが叶(かな)わない彼女も桜を感じられる。そう考えて桜の樹(き)の下へ連れてきてくれたお父様が亡くなった年に、大切な役割を引き継ぐように盲導犬アンソニーがやって来た。奇(く)しくも今日は、お父様の7回目の命日にあたる。(作家)
 毎日新聞 2010年2月23日 東京朝刊
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◇ サフィー「盲導犬は視覚障害者の目の代わりとなり、精神的支えともなる。単なる歩行補助具ではない」
主かばい盲導犬事故死 「サフィー、歩くから応援してね」 盲導犬事故死で主人の熊沢さん
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