[改正少年法] 更生の理念を忘れずに
南日本新聞社 社説( 4/12 付 )
厳罰化を柱とする改正少年法が参院本会議で可決、成立した。5月中に施行される見通しだ。
施行後は罪を犯した少年に言い渡す懲役や禁錮の有期刑の上限が、現在の15年から20年に引き上げられる。
現行法は、成人なら無期刑に相当する犯罪でも犯行時18歳未満の少年であれば「10~15年に緩和する」と規定する。改正は、量刑が軽すぎるという犯罪被害者団体などの声に応えたと言える。
判決時20歳未満の少年に対して刑期に幅を持たせて示す「不定期刑」についても、現行の短期5年、長期10年の上限を短期10年、長期15年とそれぞれ重くした。
法務省は「選択肢を増やしただけで、厳罰化に結びつくとは限らない」と説明する。谷垣禎一法相は「少年への適切な科刑が可能になる」と改正の意義を強調した。
成人の有期刑の上限を30年に引き上げた改正刑法が施行された2005年以降、懲役20年を超す判決が相次いだ。少年事件でも厳罰化が進みそうだ。
特に裁判員裁判で裁判所は、処罰よりも更生に重きを置く少年法の理念を、裁判員に丁寧に説明する必要がある。
少年事件で家族を奪われた遺族が「犯した罪の重さと向き合うには時間も必要だ」と重い処罰を求めるのは理解できる。
一方で「施設に閉じ込めることで社会復帰の機会を奪うべきではない」という意見もある。
中でも不定期刑は受刑者の更生や社会復帰を重視する処遇だ。成長過程にある少年に配慮して判決時に量刑を確定せず、刑期中の改善更生の具合を見極める。
この上限が15年に延びれば、比較的社会に順応しやすい20代で刑期を終えられないケースが出るだろう。実社会を経験しないまま社会に出て、また罪を犯すという悪循環に陥っては本末転倒だ。
「適切な処遇による立ち直り」を掲げる少年法の理念を尊重し、更生と再犯防止に十分配慮して刑の適用に当たってもらいたい。
今回の改正では、検察官が立ち会える対象を殺人や強盗だけでなく、窃盗や傷害にも拡大した。教育的福祉的でなければならないとされる審判手続きの性質がなし崩しにならないか懸念もある。
これに併せて国選付添人の弁護士が立ち会える対象も広げた。審判内容のチェックなど少年の権利保護に生かしてほしい。
「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に性格の矯正と環境に関する保護処分を行う」という少年法の目的を再確認することが重要だ。
◎上記事の著作権は[ 373news.com ]に帰属します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
少年犯罪を防ぐのは「厳罰」か「教育」か 相次ぐ少年法改正の背景は
THE PAGE 2014.05.09 06:00
4月11日、参院本会議で可決、成立しました。今月中には施行される見通しとされています。少年法はこれまでにも何度か改正されていますが、改正にはどんな背景があるのでしょうか。また、どのような懸念点が考えられるのでしょうか。
*今回の改正でさらに「厳罰化」進む
今回の改正で、少年法はさらに「厳罰化が進んだ」と言われています(「適正化」という言葉が正しいという人もいます)。厳罰化と言われるのは次のような点です。
■有期刑の上限引き上げ
刑期の上限に関して、少年法の量刑では、成人の場合は死刑を下すような罪の場合は「無期刑」にしなければならない、無期刑を下すような罪の場合は「10~15年の有期刑」にすることができると定められていました。改正法では、この有期刑の上限が20年にまで引き上げられました。
■不定期刑の引き上げ
不定期刑とは、判決時に懲役年数を確定させず、〇年~〇年以下と幅を持たせた刑期を与え、その後の更生度によって処遇を決めることです。これまで不定期刑の長期の限度は10年、短期は5年でしたが、これがそれぞれ15年と10年に引き上げられました。
■検察官の立ち会い
改正前は、検察官が関与する少年審判は殺人や強盗などの重大事件のみに限られていましたが、改正後、長期3年を超える罪にはすべて検察官が立ち会うこととなりました。これまで検察官が立ち会う事件は5.5%程度でしたが、今後は約80%以上となると予想されています。同様に、国選付添人が選任される事件の範囲も拡大しました。
*2000年、2007年にも大きな改正
少年法は2000年と2007年にも大きな改正がなされています。それぞれの改正での主な変更点は次の通りです。
《2000年の改正》
刑事罰対象を「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げ。16歳以上の重大犯罪を原則として逆送すると定めた。
《2007年の改正》
少年院の年齢下限を「14歳」から「おおむね12歳」に引き下げ(少年院送致の年齢下限撤廃)。14歳未満でも警察による強制的な調査が可能に。
少年法の厳罰化が進んでいる背景にあるのは、神戸連続児童殺傷事件(1997年)、西鉄バスジャック事件(2000年)、長崎男児誘拐殺人事件(2003年)、山口女子高専生殺害事件(2006年)など、少年による重大事件が発生したことによる国民感情です。2007年の改正以降も、石巻3人殺傷事件(2010年)など、少年による重大事件は発生しています。少年事件が起こるたびに、「少年にも、犯した罪に見合った罰を与えるべき」という声が上がります。
*減少傾向にある「少年犯罪」
それでは、厳罰化によって少年犯罪は本当に減るのでしょうか。
少年法が大きく改正された2000年の少年による刑法犯総数は13万2336件 、そのうち凶悪犯(殺人・強盗・放火・強姦)は2120件でした。2001年には13万8654件(凶悪犯2127件)、2002年には14万1775件(同1986件)と増加します。
ただ、2003年の14万4404件(同2212件)を境に減少となり、今年2月に発表された「少年非行情勢」では、刑法犯は2004年から2013年までは10年連続で減少していることが報告されています。2004年の検挙人員は13万4847人(同1584人)でしたが、2013年には5万6469人(同786人)にまで減っています。また、同年齢層人口1000人あたりの検挙人員も16.8%から7.8%へ減少しています。ただし、成人の場合は10年間2%前後で推移しており、成人と比べて少年が高い確率で検挙されていることが分かります。
*「少年法の精神」を重視する考え方
近年、少年犯罪が減少傾向であることが分かりますが、それでも厳罰化に異を唱える専門家は少なくありません。ひとつは、2000年以降も少年による重大事件は起こっており、厳罰化では防げない事件があること。そしてもうひとつは、少年法は罪を犯した少年に対し保護と更生の機会を与えるものという考え方があるからです。
そもそも罪を犯してしまう少年については、その成長過程で充分な教育や愛情を受けられなかったり、虐待を受けていたりというケースもあります。罪の重大さを理解できないからこそ残酷な罪を犯してしまうという場合もあり、罪の重さを認識させるためにも、適切な教育が必要です。
少年法は少年の可塑性に着目しているとされています。可塑性とは、成長によって人格が柔軟に変化していくことであり、すなわち少年は成人よりも更生の余地が大きいことが期待されています。更生して社会復帰することが許せないと考える人もいますが、本当の更生とは自分が犯してしまった罪の重さと生涯向き合わなければならないことであり、罪と向き合いながら社会生活を送ることも、償いの一つという考え方もあるでしょう。
厳罰化に賛成する人、反対する人の両方で一致しているのは、「罪を犯した少年はきちんと罪と向き合い、内省を深めなければならない」ということです。そのために行うべきことは厳罰化なのか、更生への教育なのか、その両方なのか。議論をこれからも続けていく必要があるでしょう。
◎上記事の著作権は[THE PAGE]に帰属します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 川崎中1(上村遼太さん)殺害事件 活発化する少年法見直し論議 公選法改正案が成立するならば…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 裁判員裁判で死刑判決を受けた少年事件「石巻3人殺傷事件」仙台高裁 控訴棄却 死刑言渡し 2014/1/31
......................