「辺見庸 ある死刑囚との対話」 連続企業爆破事件死刑囚・大道寺将司全句集『棺一基』

2012-04-14 | 死刑/重刑/生命犯

辺見庸、ある死刑囚との対話…『ETV特集』
マイナビニュース[2012/04/11]
 作家・辺見庸(67)の故郷、宮城県石巻は、去年3月11日の東日本大震災で壊滅的な被害を受け、夏頃から文章を書くことができなくなった。辺見は言う、「言葉は3.11を表現できなかった。我々の言語表現のやすっぽさが暴かれた」と…。
 そんな辺見が、一冊の本を出すために奔走していた。本の著者は、死刑囚・大道寺将司(63)。1974年、東京丸の内で爆弾テロ事件を起こし、8人の死者と300人以上にのぼる負傷者を出した。1987年に死刑が確定。逮捕以来37年間獄中にいる。辺見が出版したいのは、大道寺が東京拘置所でつくる俳句を集めた句集である。
 東京拘置所に通い、大道寺との面会を続ける辺見は、透明なアクリル板をはさんで向き合う男に言ったことがある。「獄中にいるあなたと、獄外にいる我々と、どちらがすさんでいるか、わかったものじゃない」と。辺見は、外の世界から切り離された大道寺という存在を通して、3.11後のいま失われてしまっている「言葉」を探そうとしていた。
 辺見と大道寺は4歳違い。同じ時代を生き、老い、どちらも病に冒されている。残された時間で二人はそれぞれどんな言葉を紡ぐのか。作家と死刑囚の対話を見つめる。
■『ETV特集』失われた言葉をさがして 辺見庸 ある死刑囚との対話
2012年4月15日(日)22:00~23:29(NHK Eテレ)
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言葉と向き合い、紡ぐ 「辺見庸 ある死刑囚との対話」NHKEテレで15日
東京新聞2012年4月13日 朝刊
 NHKのETV特集「失われた言葉をさがして 辺見庸 ある死刑囚との対話」が、十五日午後十時からEテレで放送される。死刑囚・大道寺将司(63)との対話を通じて、東日本大震災のあとに失われた言葉への信頼を取り戻そうとする作家・辺見庸(67)とその周辺を追った番組だ。(中村信也)
 辺見の故郷、宮城県石巻市は、昨年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた。被災地を語る言葉は優しさにあふれていたが、どれも現実をとらえていない-と感じ、辺見は昨年の夏ごろから文章を書くことができなくなったという。「言葉は3・11を表現できなかった。われわれの言語表現のやすっぽさが暴かれた」と話す。
 そんななか、大道寺の全句集を出すために奔走していた。大道寺は一九七四年に東京・丸の内で起こした爆弾テロ事件で、八人の死者と三百人以上の負傷者を出し、一九八七年に死刑が確定。逮捕以来三十七年間、獄中にあり、ある時から俳句を作ってきた。
 咳(しわぶ)くや慚愧(ざんき)に震(ふる)ふまくらがり
 外界と隔絶された拘置所で、多くの人びとを傷つけあやめた自分自身と、ひたすら向き合うことで生み出される数々の俳句。それらを辺見は「大道寺の体内と記憶から絞り出された、自発的な供述調書」と表現する。
 東京拘置所で大道寺との面会を続ける辺見は、透明なアクリル板ごしに言ったという。
 「獄中にいるあなたと、獄外にいるわれわれと、どちらがすさんでいるか、わかったものじゃない」。外の世界から切り離された大道寺という存在を通し、3・11後に失われてしまっている「言葉」を探そうとしていた。
 二人は四歳違い。激動の時代を生き、老い、どちらも病に侵されている。残された時間で二人はそれぞれどんな言葉を紡ぐのか-。番組では、七〇年代の街頭闘争や、被災地・石巻、大道寺の故郷・北海道、東京拘置所などの映像を交え、二人の対話を見つめる。なぜ対話するのか、全句集の出版に尽力するのか、それが3・11後の言葉の信頼を取り戻すことと、どうかかわるのか。法務当局の監視下で作られる大道寺の俳句を字幕とナレーションで紹介しながら明かしていく。
 再放送は二十一日深夜零時五十分から。番組が取り上げた「棺一基(かんいっき) 大道寺将司全句集」(序文・跋文(ばつぶん)は辺見庸)は太田出版が刊行。 (文中、敬称・呼称略)
 <大道寺将司(だいどうじ・まさし)>1948年生まれ。東アジア反日武装戦線“狼”部隊のメンバーで、お召し列車爆破未遂事件(虹作戦)や、三菱重工爆破を含む3件の「連続企業爆破事件」を起こし、75年逮捕、79年東京地裁で死刑判決、87年最高裁で死刑が確定した。2010年、がんと判明、獄中で闘病中。著作に「明けの星を見上げて」「死刑確定中」、句集に「友へ」「鴉の目」。
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棺一基 大道寺将司全句集 [著]大道寺将司
 BOOK asahi. com[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化) [掲載]2012年06月17日 [ジャンル]人文
 著者:大道寺将司、辺見庸  出版社:太田出版 価格:¥ 2,100
 

       

■自らの死と向き合うまなざし
 『棺一基』という書名は、本書の中の句「棺一基四顧茫々(しこぼうぼう)と霞(かす)みけり」から採られた。霞は春の季語。「四顧」とあるからには、そこにまわりを見渡す者がいる。それは誰なのか? 木棺に横たわる死者か。
 私はここに、霞の中にたたずんで自らの屍(しかばね)が入っている棺をみつめる、死者その人のまなざしを感じる。白い闇が際限なく広がる。その中心に木棺が一基のみ、孤絶に、そこにある。このように死と向き合って一日一日を生きる。それが死刑囚の毎日だ。
 大道寺将司は「東アジア反日武装戦線」のなかの「狼(おおかみ)」というグループのメンバーだった。一九七四年の三菱重工爆破事件で逮捕され、死刑が確定している。この直前、狼は昭和天皇お召し列車の爆破を計画し、未遂に終わった。それは「虹作戦」と呼ばれていた。一九六〇~七〇年代に運動する者たちは、戦中戦後、東アジア諸国で日本がおこなってきたことを、自らの問題として問うていた。
 「狼は檻(おり)の中にて飼はれけり」という一九九七年の句から私は、大道寺がその記憶を身体に刻み込み、決して手放していないことに思い至る。二〇〇二年「国ありて生くるにあらず散紅葉(ちりもみじ)」、二〇一一年「げぢげぢの地を這(は)ひ回り逆徒臥す」。娑婆(しゃば)の経済は忘却で成り立っているが、この句集はますます濃密になる記憶と、季節の移ろいへの鋭敏な言葉で出来上がっている。「水底の屍(かばね)照らすや夏の月」「戻られぬ地の片陰(かたかげ)に笹子(ささこ)鳴く」——二〇一一年の震災後、津波で連れ去られた人を水底に観じ、原発で誰も戻らない場所を全身で受け止めている。そして、幾度も傍らにおこなわれた死刑執行。「垂るる紐捩(ひもねじ)れ止まざる春一番」。季語という共有の場でのみ、唯一無二の彼に出会うことができる。
 序文と跋文(ばつぶん)を辺見庸が書いている。一読の価値大いにあり。それこそこの句集のもっとも見事な書評であって、それを越えることはできない。
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太田出版・2100円/だいどうじ・まさし 48年生まれ。著書に『明けの星を見上げて』『死刑確定中』など。
 ◎上記事の著作権は[BOOKasahi.com]に帰属します
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