*管理人の便宜上2つのカテゴリー「地震/原発」「政治」でエントリ
古賀茂明(経産省キャリア)×長谷川幸洋(ジャーナリスト)「原発問題の裏にある経産省・東電『天下り・利権の構図』」退職勧奨を受けた改革派官僚を直撃 VOL.1
現代ビジネス2011年07月12日(火)
長谷川: 古賀さんは、6月24日に松永事務次官(松永和夫経産省事務次官)から退職勧告と受けたと聞いてます。その日の夜の『朝まで生テレビ』で初めてその話を公にされています。事務次官から、「早期退職干渉を受けた」ということでしょうか?
古賀: そうですね。
長谷川: そもそも、今でも役所は、「退職干渉ができる」のですか?
古賀: もともと民主党政権は、「早期退職干渉をやると天下りを斡旋しなくてはならないので、退職干渉は止めるべき」と、政策として掲げていたんですね。一時期は、禁止する法案を提出したこともあったほどです。つまり、本来は「早期退職干渉はやらない」というのが民主党の建前なのですが、実際には政権についてからずっと行われている。なぜかというと、ウラで「天下り斡旋」があるからです。証拠はありませんが、斡旋がない限り、そんな干渉を受諾する人はいないですから。
長谷川: 実際には、天下りの斡旋を受ける代わりに、"肩たたき"に応じているということですね。でも古賀さんの場合は、天下り先はなく、文字通り「辞めてくれ」ということなんですか?
古賀: そうです。そもそも私は、天下りは絶対にしません。
長谷川: 国家公務員法上では、退職干渉は、本人がイヤだと言ったら拒否できるんですよね?
古賀: できます。
長谷川: 古賀さんは今後どうしようと思っているのですか?
古賀: 現段階では回答は留保しています。ただ、もともと私は、「幹部職員が身分保障をされていて、絶対に辞めなくていい」というのはおかしいと思っています。幹部職員に対しては、身分保障をなくした上で仕事を評価をし、いつ首を切られても仕方がないという制度にしろと自分で言っていたので、クビにされること自体はあまり問題にするつもりはありません。
ただ、大事なことは、政治主導において、大臣が政策に見合った布陣を作ることなんです。つまり、大臣の政策をきちんと行ってくれる官僚を集めて、実施できる体制にしなくてはいけない。ところが、官僚が、自分の役所のために働かない人間をクビにしたいがために大臣を使うのであれば、これは本来の趣旨とはまったく違うわけです。
ですから、まずは、「身分保障をしない」というルールを作ることですね。そして、辞めさせる際の決まりを作ることです。「明日から来なくていい」というのではあまりにもひどいので、三ヵ月の猶予を与えるとか。僕はもともとクビになる覚悟があるから良いのですが、その後に続く人たちのことも考えたいなと思うのです。
海江田大臣は答えるべきだ
長谷川: 民主党政権は2年前の総選挙で「脱官僚」、「政治主導」という建前を掲げて300を越える議席を得ていますが、この主張の根幹に関わる問題ですね。
また、原発問題においても、政権の根幹に関わる問題であると思います。原発事故は、地震や津波という自然災害が直接の引き金であったとはいえ、これだけの惨事に発展した遠因には、政、官、行、学、場合によっては報道も含めて、すべてがもたれ合いの関係になっていたことが背景にあるのではないでしょうか。
つまり、古賀さんを経産省から追放しようとするのは、原発問題の根幹に関わることだと私は認識しています。実は、古賀さんの問題が28日に行われた海江田大臣(海江田万里経産相)の記者会見で取り上げられているんです。テレビ朝日の記者が一体どうするつもりなのか大臣に質問したところ、大臣の回答は、「私と話したい人がいれば、いつでも大臣室に来ていただき、お話するのはやぶさかではありません」ということでした。正直、記者の質問にまったく答えていないのですが、古賀さん自身も自分が"肩叩き"に遭った理由について真意を問いたいとのことなので、いずれ大臣と話し合う予定はありますか?
古賀: 大臣がそのようにおっしゃっているのであれば、出来ればお会いしてお話しさせていただきたいと思います。大臣は、地震や原発への対応でお忙しいだろうと思っていたのですが、前向きなお考えだということであれば、ぜひお話ししたい。
長谷川: 私たちメディアの人間としても、重要な問題だと思っています。海江田大臣は記者会見で質問を受けたわけですから、自分がどのようにこの問題をとらえているのか、考えを示すべきです。会見で問われた質問に対しては答える責任がありますよね。
加えて、『朝まで生テレビ』でも言ったんですが、国会でもきちんと答えるべきですね。ある野党議員は、「この件について、国会で必ず質問する」と言っていますし、みんなの党では答弁書、質問趣意書を用意しているそうです。今回は、記者の質問から逃げたわけですが、いずれ国会で大臣としての考えも語らないといけないと思います。
原発問題の裏にある天下りや利権の構造
古賀: 私の人事についていえば、海江田大臣がどのようにお考えなのか聞いてみないと分からないですが、官僚が人事もお膳立てして、大臣に上げているという印象を受けています。大臣は限られた時間と情報の中で判断を迫られる立場です。私は、非常に不思議に思うのが、「なぜ今の時期なのか」という点です。普通、大臣のことを慮れば、今の時期に私を辞めさせるよりも、国会が閉会して、代表選などで混乱している時にしたほうが、大臣に傷が付かないと思うのですが・・・。
今、経産省は強引ともいえる勢いで原発を推進していますよね。ですから、国会の質問で私が呼び出されることがあるかもしれませんし、多少大臣に傷が付くことがあっても私を早目に辞めさせたほうがいいと考えたのではないでしょうか。海江田さんがどのように考えているのか分からないですが、これまでせっかく静かにしていたのに最後にこんなババを掴まされるとはお気の毒ですね。
原発問題は単に技術的な問題ではなくて、組織のガバナンスの問題です。東京電力は、根本的には競争がなく、消費者や国民の方を向くという姿勢になりえない。公務員もそういう意味で一緒です。絶対に潰れないですから。つまり、国民不在の組織になっていると思うんです。本来は経産省や保安院も、国民の側に立ち安全を守らなくてはいけない。電力会社は、経産省や保安院に規正される側であり、両者には緊張感がないといけないのに、同好会的な感じになっていた。そのウラには天下りや利権の構造があるわけです。
長谷川: つまり、公務員改革の問題と原発の問題が表裏一体だということですね。僕も今度の原発で経産省はいったいどこに目が向いている組織なのかがかなりハッキリしたなと思いますね。
たとえば、私が書いた細野哲弘資源エネルギー庁長官のマスコミの論説委員懇談会での話です。エネ庁は東電処理案を作っているわけですが、その本質は東電をまず守ることなんです。でも、賠償しないわけにはいかないので、そのツケは国民に回す。そういう構図を描いていたワケですね。
本来は、国民負担を少しでも和らげるためには、東電を解体し、株式を100%原資し、金融機関の債権を放棄させる。それによって多少なりともといっても国民負担を下げるというのが、基本のはずです。
しかし、枝野官房長官が銀行に債権を放棄させる考えを示したときに、細野長官は「今さら官房長官がそんなことを言うのなら、私たちの苦労は一体なんだったのか?」と発言したのです。つまり、「国民に負担をまわそうと思っているのに何を言っているんだ」という意を正直に言ったわけです。経産省というのは、つくづく東電の利益を代弁しようとして爆走している感じがしますね。
古賀: そうですね。もともと民主党が政権を取った時に、「幹部に辞表を出させる」などの議論ありました。でも、あの時鳩山前首相は、「公務員が身分保障があるからクビにできない」言っていたんです。ですので、皆クビにならないと思っていたんですが、今回私はクビになる。非常に矛盾がありますよね。
では、なぜ私がクビになるのかですが、もしも、経産省に都合の悪いことを言ったからもしクビになるのであれば、今まで民主党が主張していたことは非常におかしいということになります。原発推進や東電擁護のために人事権を行使する---つまり、官僚の論理のために大臣が使われる構造は、政治主導の逆の官僚主導です。それが人事に端的に現れている気がします。
圧殺される「改革派官僚」
長谷川: 今、省内に改革派はいないのですか?
古賀: 隠れ改革派のような人はまだいると思いますが、昔みたいに威勢よく表に出て主張する人はほとんどいなくなりました。東電についても、東電を守るべく、銀行の債券放棄はさせないという大きな方針が最初に次官から発せられているので、それに逆らうことはできなかった、と若い官僚から聞いています。
先日、エネ庁の担当者が、ある国会議員のところに賠償機構法案について説明に来たそうです。議員は、法案の疑問点などをどんどん突いて問い詰めたところ、担当者は答えられなくなってしまったそうです。でも、どうやらその担当者は改革をしたい人のようで、奥歯に物が挟まったような顔しながら言い訳をしていたそうなんですよ。
そして、「これ以上は勘弁してください」という表情になり、帰り際に「こういうことに一番詳しいのは古賀さんなので、古賀さんに聞いてください」と言って帰っていったそうです。つまり、"隠れ改革派"は存在しているんです。でも、自分の口から改革を主張することはできないんでしょう。
長谷川: 圧殺されてしまっているんですね。経産省の立ち居地は今回の古賀さんの件で非常に鮮明になったと思います。そして、海江田大臣がどのような判断をするのか、問われることになるでしょう。
古賀茂明(経産省キャリア)×長谷川幸洋(ジャーナリスト)「経産省は電力会社に天下り役員の退職を要請せよ」退職勧奨を受けた改革派官僚を直撃VOL.2 現代ビジネス2011年07月21日(木)
長谷川: 菅首相は、公債発行特例法案と再生エネルギー特別措置法案、第2次補正予算案の3つを成立させると言ってます。
最近は、菅首相は「原発派」であるかのように振る舞っています。しかし、現状の再生エネ法案では、自然エネルギーは広がらないと思いますよ。というのも、現状の法案では、自然エネルギーを買う価格や機関は経産相が、つまり政府が決めることになっている。この法案がいかに社会主義的かを象徴しています。古賀さんはどのように思っていますか
古賀: 再生可能エネルギーの普及を後押しするための法案なので、何らかの形で政府が市場に関与することは、本来の目的からすると自然だと思います。
ただ、長谷川さんがおっしゃたように、経産相が定める機関、あるいは価格で買い取りますとあるのですが、「全量買い取る」とは書いていないんですよ。一般的には「全量買取法案」と言われているのですが、たとえば太陽光の全量買取となると、太陽光発電は、家庭にも普及しているので、家庭の太陽光の電力もすべて買い取るということになるので、かなり面倒です。
案の定、条文を見たら、「全量買取」と明記されていなかったので、本当に全量が買い取られるのか不安ですね。それが出来ないとなると、「看板に偽りあり」ですから。
では、なぜ「全量買取」だけがクローズアップされ、この事実が広く報道されていないのでしょうか。実は、会見で記者に説明するときに、条文全体は長くて分厚くなってしまうので、概要のみが書かれた紙を配布するんです。
その概要には書いていないのですが、条文では「電力の安定供給に支障が出る場合には買取をやめられる」という意の条項がついています。電力会社は、「風力発電光や太陽光のシェアが増えると、天候によって発電量が大きく変化する。それが送電ネットワークに負荷を与えて、安定供給に支障が出る」と常々主張しています。
つまり、もし風力や太陽光の競争力が増してきたら「変動が大きくて安定供給が危ない」とばかりに恣意的にカットすることができる条項だと読めるわけです。
長谷川: 発電方式や買取価格を明らかにすることで、買う側が電力会社を選択できるのが一番良い。「原発は危険だから、多少コストが高くても太陽光を応援しよう」といったようにね。
そうなれば、太陽光発電で競争が起き、技術革新も盛んになるでしょう。風力や地熱も太陽光に負けじと頑張るようになるかもしれません。おのずとマーケットが収斂されていくわけです。
その出来上がりの姿を想像すると、経産相が機関と価格をまず決めるというのは、頷けない。その裏側には、官僚の思惑や既得権益がついてきてしまう。
*何がなんでも東電を守りたい
古賀: 非常に好意的にみれば、これは過渡的な措置だと考えることもできます。むしろ、過渡的なものとして扱わなければならないと思いますね。
いずれにしても、何らかの形で、原発はものすごく優遇されて、有利な条件で整備されてきた。実際は立ち上がりの時期から今日まで補助金漬けで出来上がっているんです。
そのような意味では、再生可能エネルギーも何らかの形で政府の後押しが入るのは悪いことではないと思いますが、最終的にはマーケットにゆだねられていかないといけません。その道筋がこの法律には用意されていないんです。本当は、段階的にシフトしていけるような仕組みを入れておくべきでしょう。
長谷川: 出来上がりの電力供給市場をどうやって整備していくのかがまったく見えないですよね。電力供給市場を整備する話と東電の処理は表裏一体。先日、東電の株主総会ありましたが、東電存続の姿勢は変わりません。何が何でも東電を守りたいということですね。
古賀: 現状の原子力損害賠償支援機構法案(以下、賠償機構法案)は、様々な意味で最悪の選択だと私は思っています。東電という企業から見ても、先が見えない。永久に塩漬けの会社になるという前提なので、東電で働いている人にとっても暗く、将来のない案になっている。
もちろん、東電は賠償を払わなくてはいけません。どう考えても、賠償はもちろん、原子力を安定化させるだけでもものすごく費用がかかりますよね。廃炉にするコストだってかかります。すべて合わせて10兆、いや数十兆円かかるかもしれない。それが本当に国民負担ゼロで払うなんて無理だと国民も分かっている。だけど、民主党政権はそれを認めない。
長谷川: 海江田経産相も認めていないですね。
古賀: まずはそれを認めるところから始めないといけません。私は以前、「不人気政策をきちんとやることが責任政治家だ」と財務省官僚に言われたことがあるのです。菅首相は消費税増税の時だけは、不人気政策をきちんと言いましたが、東電問題については国民に不人気なことは一切言いませんよね。金額が分からないからハッキリしたことは言えませんが、国民の皆さんに何らかの形で負担してもらわざると得ないと説明することから始めないといけません。
*電力会社から天下り経営者を追放せよ
長谷川: 今までの政府の説明は、国民負担を極小化するために最善の努力を払うということでした。「東電は、資産売却やリストラもやるし、国がチェックしていく」と海江田大臣も言っていましたが、そんな言葉を信じる国民はもはやいないでしょう。虚構の話をするのはもうやめろということですね。
古賀: もう一つ、大事なことを経産省は忘れています。今回の問題は技術の問題だけではありません。人と組織の問題なんです。事故が起きたことやその後の対応を巡り、政府も信用できないし、東電も信用できないと国民は皆思ってるでしょう。それなのに、東電を塩漬けにして、政府の有り方も同じままで、「心を入れ替えて頑張ります。信じてください」と言われたって、信用できませんよね。
今まで原発を推進してきたのは自民党と官僚。その仕組みで失敗したわけです。ですから民主党政権は、正直に「とんでもない間違いを犯してしまった。だからケジメをつけたい」とまず言わなくてはいけない。
「どうせ経産省も電力会社も癒着しているのでしょ」と国民は思っているのですから。
癒着の一つの象徴が天下りです。だから、電力会社に天下りしている役職員については、経産相が直接各社長に退職させるよう要請しないといけません。また、保安院の幹部や経産省の幹部で原発に携わっていた人たちは、現在のポジションから引かせ、若手を抜擢して改革する体制を作るべきでしょう。
保安院の幹部や経産省の幹部といったって、もともと原発の素人だったわけですから人員を変えても問題ありませんよ。大臣が人事改革を実行すれば、大臣は官僚や電力会社と一体ではなく、官僚と政治の間には仕切りや緊張感があり大臣が官僚をコントロールしてると国民も実感できると思うんです。
*経産省の「最終防衛ライン」
長谷川: 保安院は経産省から分離すると言われていますが、私は少し疑っています。保安院の切り離しは事故直後から指摘されていましたが、ようやく認めたのはIAEAの報告の中でなんですよ。
本来なら、政府の組織改革に関わるような政策方針の変更は、まず国内で記者会見を開いて、大臣や総理が会見して発表するべきなんです。つまり、IAEAをさすがにだませないし、もっともらしい改革をやっているフリをしないといけないから、事後的に「保安院切り離し」を唱えたと考えることができます。少なくとも経産省は切り離しに対して反対姿勢だということは明らかですよ。
内閣改造で、細野豪志氏が原発担当相になりましたが、海江田さんは依然として経産相のまま。原発対応のために、たとえば細野大臣が自分の方針を決めて動かさそうとしても、海江田は法律の改革や政令については自分がやると言っている。つまり、経産相が所管する法律や予算は一切、細野氏には触らせないといっているわけですよ。
海江田大臣がもし改革派に立つならば、お手並み拝見ということになるわけですが、もしも海江田が経産省の役人から羽交い絞めに合っているのだとすれば、物事はいっこうに進まないでしょう。
古賀: 海江田大臣には頑張っていただきたいのですが、おそらく経産省が保安院の切り離しについて、キッパリ宣言しないのは、なるべく高く売りたいという思惑があるのだと思うんです。
さすがにこれだけの問題があって、引き続き今までの体制でやるというのは国民から考えて許されないですから、最終的には分離の覚悟はできていると思います。
ただ、経産省官僚が考えているのは、それで終わりだということです。それ以上踏み込ませないためには、最初に保安院分離というカード切ってしまうと、世間が「それだけで本当に良いのか」という風潮になったときに、本当に困った問題に突っ込まれると経産省の解体になりかねない。ですから、そうならないようにするために、ギリギリまで粘って最後の最後についに保安院を分離し、「よく決断した!」という論調に世間が傾くようにしたいのです。
長谷川: 官僚は「防御ラインをどこに引くか」という発想が常にあって、最初のうちは出来るだけ本丸から遠いところに防御ラインを引く。そして、危険が身近に迫ってくると、最終的に本丸の手前で落としどころを見つけるということですね。そうすると本丸はそのまま守られることになる。
古賀: 保安院のもともとの成り立ちについて説明しましょう。以前、日本中に鉱山があった頃、経産省に鉱山を保安監督するという組織があったのですが、次第に鉱山がなくなり組織存続の危機に瀕していました。一方で、その頃原発が拡大化してきたので、合併した、それがいまの保安院のルーツです。リストラすべき人もそこで救われたんです。
そのように保安院は、経産省から見るとそれほど花形の部署というわけではないんです。ですから、そこは切られても仕方ないとは、早い段階で考えていたと思うのです。しかし、それ以上侵食されたら大変だと考えているでしょう。
古賀茂明(経産省キャリア)×長谷川幸洋(ジャーナリスト)「民主党から旗をかかげる人よ、出てこい」退職勧奨を受けた改革派官僚を直撃VOL.3
現代ビジネス2011年07月25日(月)
長谷川: 福島第一原発の状況ですが、小出裕章京都大学原子炉実験所助教は、「もはやメルトダウン、メルトスルーの段階ではなく、チャイナシンドロームの段階だ」と指摘しています。地中の中に溶けた核燃料がめり込んでいるとすると、もう冷やすことはできないとのことなんです。つまり、冷却水を循環させて冷温停止に持ちこむという基本戦略自体が間違っているのかもしれない。
古賀: 私の技術の専門家ではないので、長谷川さんが今おっしゃった以上のことはハッキリ言えません。ただ、メルトダウンしているという話が最初に出たときに、保安院の中村審議官がそれを正直に認めたため、更迭された。その後のいきさつを見ていると、小出先生のような方がもともと指摘していたことは後から考えると合っている。しかも、今になって原子力安全委員会の先生たちも「実は私もそう思っていた」と言ったりしている(苦笑)。
もちろん、小出先生の説が間違っている可能性もありうる。今回の事態においては常にそうなのですが、「絶対に当たっている」という証拠は誰にもないのです。そして、「確証はない」→「だから、危険だとは言えない」という流れで、どんどん議論がすりかえられていった経緯がありました。
チャイナシンドロームに関しても、おそらく保安院は、「論理的にはその可能性あるけど、そうではない可能性だってあります。ということは、そうではないと考えていいです」と、なってくるでしょう。
また、チャイナシンドロームを認めてしまうと、とにかく急いで地下ダムを作らなくてはならないという話になる。東電も地下ダムの準備をしていることは認めましたが、一刻も早く作るとなると、1000億単位あるいはそれ以上の巨額の費用がかかります。4月~6月期の決算時にその費用を計上することになれば、その分損失や負担が発生し、4月~6月に債務超過になってしまうのではないかということになる。
実は、ほとんど知られていませんが、賠償機構法案には最後の切り札があって、「タダで東電にお金をあげます」という意の条案が入っているんです。条案の中の交付国債に関する部分に、但し書きで「ものすごく大変な時にはただでお金あげます」という条文が入っている。
だから、法案が成立すれば、何が起きても最後は国がただでお金をくれる。しかし、現状、賠償機構法案はまだ成立するか分からないので、確実に成立するまでは負担を増やしたくないわけです。
長谷川: それは、記者に発表した要項には入っていないのですか。
古賀: いえ、それが入っているんです。要するに、「資金を交付する」と書いてあるんですよ。交付という言葉が入っているので、交付国債なのかと皆思ってしまうみたいなんですが、別の話なんです。
長谷川: 保安院は地下ダムの建設をそんなに急ぐ必要はないというニュアンスを言うのだけど、細野大臣は早くやらないといけないというニュアンスを言っている。どうも現状認識と対応方針がグラグラしているような印象がありますね。
でも、この問題はいずれ隠すわけにはいかないと思っています。私は『朝まで生テレビ』で「未確認情報ですがプルトニウムが(海水から)出ている」という話をしたんです。一部の方からは「確認もしてないのに、なぜそんなことが言えるのか」という批判も受けたのですが、これは政権側から出た情報なんです。野党の側から出た話ではないんです。
そこが私は大事だと思っていて、すなわち官房長官や総理も「海水からプルトニウムが出た」という話を認識している可能性がとても高い。それくらい、事態は深刻度を高めているということです。
そこまで事態が悪化しているのだとすると、東電を存続したまま収束が可能なのか疑問ですし、東電は存続意義可能性があるのかも謎です。
古賀: あくまでの架空の世界で、「上手く行ったらこうできるかも」という希望的観測をいまだにやっている気がします。東電がゾンビ企業になってしまうということに対する反論として、「5年後には配当の再開を考えているし、そのような資料も出回っている」と言う人もいます。かなり能天気ですよね。
*公務員改革のキモとは
長谷川: 東電の賠償案をどうするかについては、再生可能エネルギーを今後どのように推進していくかと表裏一体です。
自然エネルギーを広げようと思ったら、地域独占をやめ、発電部門と送電部門を分離する必要があります。そうなると、東電は解体しなくてはならないとなるわけです。
東電の賠償問題はもちろん、公務員制度改革問題、増税問題の3つが次の政治を考える上での大きな軸になると思うのですが。そのあたりの見通しはどうですか?
古賀: 国民から見ると自民党も民主党もいろいろな考えを持っている人がいて、似たように見えるんです。主流派はどちらもあまり改革をやりたくないという感じなので、万一大連立した場合、"改革しない大連立"が出来上がってしまうわけです。
でも、国民は、本当に国民のためになる改革をやってくれる人たちの連立を望んでいます。そのための一つの踏み絵として、増税だけで財政再建していくのか、というのが一つ。公務員改革については、いくつかやるべきことがあると思いますが、一番キモになるのが、幹部の身分保障です。
私をクビにできるということは、幹部の身分保障はなくせるという証明なので、働きが悪かったり、政権の政策のテーマが変われば自由にクビにできるということがテーマになりえる。
東電の賠償については、将来像として発送電分離、発電の分割、家庭までの小売の自由化の3つを掲げられるかが焦点ですね。東電の再生の問題としては、100%減資して株を紙切れにできるか、、銀行に債権カットをきちんとやらせられるかがテーマです。選択肢をはっきり、選びやすいような形に提示する。それがこれからの議論の中で行われる可能性がある。
*民主党に旗をかかげる人が出てくれば
長谷川: いまだに、新聞やテレビがそのような報じ方をするので、自民党対民主党の枠組みでものごとを理解しようとしてしまうけど、でも古賀さんがご指摘のように、自民党の中にもいろいろな考え方がある。増税はダメ、公務員制度改革はやるべき、東電は存続させたらダメ。こういう人もいるんです。
古賀: 電力関係の話と公務員の話って波長が合うんです。東電解体を唱える人は公務員改革にも意欲的という具合に、セットになっていることが多いです。自民党でいえば、河野さん(河野太郎衆議院議員)が代表的ですね。塩崎さん(塩崎泰久衆議院議員)や中川さん(中川秀直衆議院議員)もだいたい同じです。中川さんは増税反対という姿勢もはっきりしていますし。
なかなか表に出てきませんが、同様の姿勢の人は、民主党にもいると思いますよ。東電の処理や公務員改革問題に関しても、長妻さん(長妻昭元厚生労働大臣)や細野大臣だって、両方実行したいと思っているのではないでしょうか。主要閣僚の中にもそうだと思っている人がいるなと私は感じているんです。
もし、民主党内に旗を揚げる人が出てくれば、その人を応援する形でだんだん集約されていくのではないでしょうか。
長谷川: 世間一般の認識は、"菅降ろし"が成るか成らないか一色ですね。しかし、菅降ろしの話は議論が破綻していると思う。内閣不信任案に賛成した人、もしくは小沢一郎幹事長のように棄権した人が「もう辞めろ」というのなら首尾一貫していると思う。
でも、「六人組」と呼ばれている、仙石、枝野、岡田、玄葉、輿石、安住らは、皆内閣不信任案に反対しているわけです。政権の中枢である人たちが、「総理は早くやめろ」と言っているなんて滑稽です。自分たちが菅政権そのものなんだから、真っ先にご自分がまず辞めたらどうなんですかと私は思いますが。
*自民党は生まれ変わったのか
古賀: 民主党の代表は菅総理で、幹事長とか国対委員長は彼に仕えて動くべき人たちであるというのが大前提なはずです。でも、その人たちが野党の幹事長や国対委員長と相談して合意した結果を、菅総理に相談したら反対された。そういう場合に責任問題が生じるのは、幹事長と国対委員長ですよ。
自分たちが勝手に相談して決めて、それが総理の意向に沿ってなかったら、幹事長と国対委員長が腹切るのが当然。岡田さんとは通産省時代に一緒に仕事したこともあり、好きな政治家の一人なんですが、今の動きを見るとなんだがおかしいですね。民主党は組織のルールをまったく無視した動きになっている。
それから、自民党のほうも、民主党の中の争いに上手く乗じて、得しようという魂胆が見え見えです。6月に自民党の浜田和幸参議院議員が一本釣りされて、総務省復興担当政務官に起用されましたが、浜田氏としても、「自民党にいても仕方がない」と思っているわけですよね。民主党が魅力とも思わないけど、自民党が魅力とも思わない。
塩崎氏は、自民党改革委員長として改革案をまとめようとしたら周囲に罵倒されて、委員長を辞めることになってしまいました。
自民党とは、そういう政党なんです。何かというと長老の所にお伺いにいくという体質は変わっていません。
自民党は、一昨年の衆議院選で、国民にレッドカードをつきつけられて退場している。戻ってくるのであれば、「今までの自民党とは違います。生まれ変わりました」と宣言しないといけないのに、まったく変わっていない。「党員を引き抜いたから信義則違反」だとゴネて、「審議には応じられない」だなんて、呆れて物も言えません。
*国民はそんなに愚かではない
長谷川: 民主党"六人組"の多くは、小沢氏の造反に期待して、倒閣後は、自分たちがその後を乗っ取れればと期待していた。ところが小沢氏の造反が失敗したので自身でクーデターを起こそうとしている。何のために"菅降ろし"をするのか、その大義の旗が民主党執行部にもみえないし、自民党もその大義の旗を掲げられないまま来てしまったわけです。
一方、菅総理は「脱原発」という旗を掲げましたが、その中身は真っ赤なデタラメ。東電をのこしたまま、地域独占で発送電分離をしないまま自然エネルギーが伸びるわけがないですからね。しかし、菅総理がまがりなりにも脱原発の旗を立てたことで、「菅総理はこれから自然エネルギーを推進していこうと頑張っているのに、なんで皆で寄ってたかって降ろそうとするの?」という具合に、騙されてしまう人たちもいて、私は心配しています。
古賀: 私は、国民はそんなに愚かではないと思いますよ。菅総理は、その時その時にいろいろな政策を掲げるけれど、すぐに放り出すというのを国民は何度も見せ付けられていますからね。そんな人が突然、「脱原発」と言ってもね。総理本人は、「突然ではなく、以前から考えていた」と言っていますが、だったら就任した時から推進していたのではないでしょうかと言いたいです。
長谷川: そうですね。しばらく国会も開かれていますし、本当のところについて議論を深めて行きたいですね。(了)
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◆官僚・古賀茂明氏の出処進退にみる 公務員制度の摩訶不思議2011-07-14 | 政治