浮かぶ「経産省」と沈む「財務省」、経済政策発表の舞台裏
NEWS FILE 2013年1月10日(木)
PRESIDENT 2013年1月14日号
安倍を“たらし”込んだ“大物”経産官僚たち
圧倒的な勝利で政権を奪取した自民党。その圧勝劇の裏で霞が関にも地殻変動が起きている。解散が現実味を帯び始めていた2012年11月16日、自民党の経済財政政策の中枢となる「日本経済再生本部」が政権公約ともいえる経済政策の骨子を発表した。“「縮小均衡の分配政策」から「成長による富の創出」”“あらゆる政策手段を導入して名目3%以上の経済成長を目指す”。こうした目標を掲げた新首相、安倍晋三が唱える“アベノミックス”のコアがここにある。
「ニッポン産業再興プラン:世界で勝ち抜く製造業の復活と付加価値(所得)の高いサービス産業の創出」。こう謳われている政策には、製造業を復活する手立てとして、「産業競争力強化法(仮称)」を制定することによって、「設備投資を促進させ」、政策金融の分野においても法律的な改正を行うことで、「融資から出資への流れ」をつくり出すとされている。
この骨子には、安倍が衆議院解散直後から“絶叫するように”訴えていた日銀法の改正、物価目標2%の設定などが強い調子で記述されているが、目を引くのが「官民協調ファンド」の設立の件だ。
前段で触れた製造業復活プランと連動するプランがある。それは、国際価格競争力で明らかに日本が後れをとっている韓国の外債を購入することを可能にするプランで、韓国国債などを購入し、意図的に韓国ウォンを現在のウォン安からウォン高に誘導するというものだ。
こうした経済政策は、自民党政調会長である茂木敏充とともに、経済産業省の官僚らが、内々に練り上げたものだ。
政権交代が現実味を帯び始めた夏過ぎから財務省、経産省の官僚たちは、頻繁に自民党幹部らと接触し始めていた。安倍政権でそれぞれ秘書官を務めた幹部官僚たちは安倍、そして安倍の側近たちを次々と訪ねるようにもなっていた。
こうしたなかで、安倍の懐に深く入り込んでいったのが、今井尚哉(資源エネルギー庁次長)だった。かつて安倍政権で首相秘書官を務めた今井だが、民主党政権下では、政権の“影の総理”と言われた仙谷由人の懐刀となり、政権の目玉と言われた原発などのシステム輸出を取り仕切った経緯もある。また今井は、福島第一原発事故の対応では、資源エネルギー庁の内部をまとめあげるとともに、関西電力大飯原発の再稼働への道筋をつけた。
かつての旧経済団体連合会(現日本経済団体連合会)の会長を務めた今井敬(新日鉄社長)、元通産省(現経産省)事務次官・今井善衛といった2人の叔父を持つ官界のサラブレッドは、“人たらし”の才にも恵まれていた。そして、今回“たらし”込まれたのが安倍だった。新首相と太いパイプをつくった経産省は、そこに省を挙げての政策を流し込み始めたのだ。
「ここで失敗はできない。福島第一原発事故への対応だけでなく、経産省が担ってきた原子力政策への根本的な批判への対応に忙殺されるばかりで、前向きな政策を何も打ち出せないままだった」
この経産省幹部の言葉には、経産省が組織崩壊の直前まで追い込まれた危機感が滲んでいる。そして経産省復活の政策であり、安倍政権の目玉の1つとなる製造業再生プランをつくり上げたのは、経済産業政策局審議官・柳瀬唯夫である。
柳瀬は、東日本大震災で頓挫したが、日本の産業構造に根本的な構造変革を促そうとした「産業構造ビジョン」を、10年に手がけた。今回は技術を有するものの、世界的な「価格支配力」がないために疲弊している製造業、特に電機産業の再生を柱とした経済政策を練り上げた。その象徴の1つがシャープである。今回の提言では、電機産業に投資を促すために足枷となっている生産性の低い工場をリース会社にいったん売却し、そこからリースを受ける形にして、バランスシートから過剰投資分を落とす政策なども盛り込まれている。
その経産省と対照的なのが、民主党政権下でわが世の春を謳歌した財務省である。経産省の今井と同様に、かつて安倍の秘書官だった田中一穂主税局長を安倍の下に送り込んだが、安倍からはっきりと「来る必要はない」と撥ね付けられた。
田中は3度面会を申し込み、そのたびに断られたというのだから、事態は深刻だ。
さらに悩ましいのは、事務次官・真砂靖の右腕である官房長の香川俊介が体調不良から登庁できなくなっていることだ。
1度、政権を投げ出した十字架を背負う安倍に役所としての起死回生をかける経産省の目論みは、果たして日本経済を再生させることができるのだろうか。
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