核機密 「全容は今も闇の中だ」=西山太吉さん  検察を支配する「悪魔」(田原総一朗+田中森一)

2010-03-10 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

密約追及38年 西山さん「全容、今も闇の中」
朝日新聞2010年3月10日
「外務省が資料を出したのは革命的だが、これで終わりじゃない」。西山太吉さんの追及は続く。
 9日に公開された外務省の機密文書は、日米両政府のいわゆる4密約のうち1972年の沖縄返還の財政をめぐる密約の存在も裏付けた。元毎日新聞記者の西山太吉さん(78)が機密電文を入手してから38年。秘密外交という厚い壁が崩れた。だが、なぜ、これだけ時間がかかったのか。なぜ、一部の資料が欠けているのか。疑惑のすべてが明らかになったわけではない。
 「肝心の書類がなく、誰が破棄したのかも問われていない。全容は今も闇の中だ」
 沖縄の原状回復補償費をめぐる密約の証拠をつかみ、現在も東京地裁で国と争う西山さんは、外務省と有識者委員会による報告書の内容に怒りの表情を見せた。
 外務省は関連資料にもとづき、日本が400万ドルを肩代わりする形になることを知っていたと認め、有識者委員会も「広義の密約に該当する」と認定。38年間密約を否定してきた国にとっては百八十度の方向転換となった。それでも心が晴れないのは、一つには、報告書が数ある密約疑惑のうち、ごく一部しか取り上げていないからだ。
 西山さんが裁判で公開を求めてきた密約文書は主に三つ。(1)2000年に米国で開示された400万ドルの肩代わりに関する「議論の要約」(2)沖縄にあった短波放送中継局の国外移転費1600万ドルの日本側負担に関する文書(3)返還協定にある日本側負担3億2千万ドルと別に米国に約2億ドルを支払うとした文書だ。
 密約の当事者だった自民党政権が倒れ、外務省のかたくなな態度も変わるのではないか――。西山さんは期待を募らせていた。だが、(1)は外務省内で発見されず、報告書は(2)(3)について触れなかった。あるべきものが、なぜないのか。その疑問に対する答えもなかった。
 西山さんは、外交機密を漏洩(ろうえい)したとして有罪判決を受け、天職と自負した新聞記者を辞めた。故郷の北九州市に戻って暮らしたその後の約30年を「形骸(けいがい)だった」と振り返る。00年に「議論の要約」が見つかって再び脚光を浴び、05年に名誉棄損で国を訴えたが敗訴。昨年には密約文書の公開を求め、再び提訴した。
 沖縄返還をめぐる密約にこだわり続けるのは、傷つけられた名誉を回復するためだけではない。密約が現在の日米関係にも影を落としていると考えるからだ。
 米軍再編にともなう在沖縄米軍のグアムへの移転計画では、06年に結んだ協定で日本は28億ドルを上限に、司令部庁舎や隊舎などの建設費を直接支出することになっている。「沖縄返還で米国に支払った金額に、積算根拠なんてなかった。今回も、同じ構図の『つかみ金』だ」
 有識者委員会は「『本土なみ』や早期返還の実現という要請のなかで、不透明な処理を余儀なくされた場合も少なくなかったであろう」などと、当時の社会状況を理由に密約に一定の理解を示した。
 西山さんの見解は異なる。「400万ドルを肩代わりしたなら、堂々と言えばいい。こそこそしたのは、沖縄をカネで買ったと言われたくない佐藤栄作総理の面目を保つためじゃなかったか。国益と政権益を混同したんじゃないか」
 密約関連文書は、01年4月の情報公開法施行前に、当時の外務省幹部が破棄を指示したとの証言がある。見つからなかった「議論の要約」も、処分された可能性がある。
 西山さんは「外交交渉の最中に過程をすべて明らかにしていたら、相手国と交渉できないという外務省の論理はわかる。だが、その記録を闇に葬れば、事後に誰も検証できない。それは民主主義にとって、あってはならないことだ」という。
 今年2月、東京地裁での最後の弁論で、西山さんら原告団はこう主張した。
 《国民自身が政府の政策を検証・評価し、歴史のゆがみの原因を発見することによって、過去の誤った政策を正道に戻す政治の民主的復元力を担保する》
 判決は1カ月後。「晩年の戦い」の幕は下りていない。(古田大輔)
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 〈外務省機密漏洩事件〉 沖縄が日本に復帰する直前、毎日新聞記者だった西山さんは外務省の女性事務官を通じ、沖縄の土地の原状回復補償費400万ドルを日本が肩代わりする密約を示唆する機密電文を入手した。国会でも取り上げられたが、外務省は密約を否定。西山さんは国家公務員法違反で逮捕され、78年に最高裁で有罪が確定した。
 ところが、00年には米国立公文書館が、吉野文六・外務省アメリカ局長(当時)とスナイダー駐日米公使(同)のイニシャルが入った公文書「議論の要約」を開示した。密約の内容が記されていたが、外務省は認めなかった。
 西山さんらは昨年3月、東京地裁で国を相手に情報公開訴訟を起こした。裁判は今年2月16日に結審し、判決は4月9日に言い渡される。
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日米密約:西山太吉氏ら参考人質疑へ 衆院外務委
 衆院外務委員会(鈴木宗男委員長)は10日の理事懇談会で、日米間の「密約」問題に関し、19日午前に西山太吉元毎日新聞記者ら4人に対する参考人質疑を行うことを決めた。他の参考人は▽斉藤邦彦元外務事務次官▽東郷和彦元条約局長▽森田一元運輸相。核持ち込みについて「密約がない」と政府が答弁してきた経緯や、72年の沖縄返還を巡り日本が財務負担の肩代わりをした密約などについて意見を聞く。
 西山氏は米側が支払うべき土地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりした密約をスクープしたが、国家公務員法違反容疑で逮捕され、有罪判決を受けた。森田氏は沖縄返還交渉当時の大蔵省法規課長補佐で、肩代わり密約の交渉にかかわったと証言している。
 東郷氏は、核持ち込みに関する密約の記録を残した東郷文彦元駐米大使の次男。斉藤氏は93~95年に次官を務めた。他に吉野文六元アメリカ局長や村田良平元事務次官らにも出席要請したが、「体調不良」などと回答したという。【野口武則】毎日新聞 2010年3月10日 18時28分
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沖縄密約国賠訴訟(西山記者) 
検察を支配する「悪魔」(田原総一朗+田中森一) 
 情報操作によって世論を喚起した事件として思い出すのは、沖縄返還協定を巡って1972年に毎日新聞政治部記者、西山太吉と外務省の女性事務官が逮捕された外務省機密漏洩事件です。
 西山記者が逮捕されたとき、「言論の弾圧だ」「知る権利の侵害だ」という非難が国民の間で上がった。
 そこで、検察は起訴状に「西山は蓮見(女性事務官)とひそかに情を通じこれを利用し」という文言を盛り込み、批判をかわそうとした。この文言を入れたのは、のちに民主党の参議院議員になる佐藤道夫。
 検察のこの目論見はまんまと成功、西山記者と女性事務官の不倫関係が表に出て、ふたりの関係に好奇の目が注がれ、西山記者は女を利用して国家機密を盗んだ悪い奴にされてしまった。
 本来、あの事件は知る権利、報道の自由といった問題を徹底的に争う、いい機会だったのに、検察が起訴状に通常は触れることを避ける情状面をあえて入れて、男女問題にすり替えたために、世間の目が逸らされたわけです。
 西山擁護を掲げ、あくまでも言論の自由のために戦うと決意していた毎日新聞には、西山記者の取材のやり方に抗議の電話が殺到、毎日新聞の不買運動も起きた。そのため、毎日は腰砕けになって、反論もできなかった。
 さらに特筆すべきは、検察の情報操作によって、実はもっと大きな不正が覆い隠されたという事実です。『月刊現代』(2006年10月号)に掲載された、元外務省北米局長の吉野文六と鈴木宗男事件で連座した佐藤優の対談に次のような話が出てくる。吉野は西山事件が起きたときの、すなわち沖縄返還があったときの北米局長です。
 その吉野によると、西山記者によって、沖縄返還にともない、日本が400万ドルの土地の復元費用を肩代わりするという密約が漏れて、それがクローズアップされたけれど、これは政府がアメリカと結んだ密約のごく一部にしか過ぎず、実際には沖縄協定では、その80倍の3億2000万ドルを日本がアメリカ側に支払うという密約があったというのです。
 このカネは国際法上、日本に支払い義務がない。つまり、沖縄返還の真実とは、日本がアメリカに巨額のカネを払って沖縄を買い取ったに過ぎないということになる。
 こうした重大な事実が、西山事件によって隠蔽されてしまった。考えようによっては、西山事件は、検察が、佐藤栄作政権の手先となってアメリカとの密約を隠蔽した事件だったとも受けとれるんです。
 西山事件のようにワイドショー的なスキャンダルをクローズアップして事件の本質を覆い隠す手法を、最近とみに検察は使う。
 鈴木宗男がいい例でしょう。鈴木がどのような容疑で逮捕されたのか、街を歩く人に聞いても
ほとんどがわかっていない。あの北方領土の「ムネオハウス」でやられたのだとみんな、思いこんでいるんですよ。しかし、実は北海道の「やまりん」という企業に関係する斡旋収賄罪。しかも、このカネは、ちゃんと政治資金報告書に記載されているものだった。
 興味本位のスキャンダルは流しても、事の本質については取り上げようとしないメディアも悪い。いや、大衆迎合のメディアこそ、検察に暴走を許している張本人だといえるかもしれませんね。


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