【憲法96条改正が動き出した そして民主党は分裂、朝日新聞は迷走する】 高橋昌之

2013-04-24 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

憲法96条改正が動き出した そして民主党は分裂、朝日新聞は迷走する
 産経新聞2013.4.14 18:00 [高橋昌之のとっておき]
 日本維新の会が3月30日の党大会で策定した綱領に、憲法改正を盛り込んだことをきっかけに、憲法改正論議、とくに第一弾としての96条改正が一気に現実味を帯びてきました。
 憲法改正は衆参各院の3分の2以上の賛成で発議されます。現在の参院の勢力では発議は不可能な状況ですが、参院選後は日本維新の会が勢力を大幅に拡大することが予想され、他党議員も含めると96条改正に賛成する議員が3分の2以上になる可能性が高まったためです。
 自民、維新両党などは96条の改正について、発議要件を「3分の2」から「2分の1」以上の賛成に緩和することを打ち出しています。憲法改正をめぐっては、9条など他の条文も含めると、憲法改正賛成派の間でもさまざまな意見が出てまとまらない可能性がありますが、96条の改正一点に絞ればまとまることができます。
 これを受けて、各党の動きも本格化しました。自民党は参院選前、つまり今国会に96条改正案を提出することを検討し始めました。野党でも民主、維新、みんなの3党有志議員による「96条研究会」が勉強会を重ねていますし、与野党を超えた超党派の「憲法96条改正を目指す議員連盟」も活動を再開します。
 「護憲」を掲げる社民、共産両党は当然、反対ですが、党内がもめて醜態をさらしているのが民主党です。民主党は10日、憲法調査会を開き、96条改正が議論になりましたが、枝野幸男元官房長官は「憲法を変える以上はこの程度(衆参各院の3分の2以上)のコンセンサスが必要だ」と改正反対を表明、これに対し、長島昭久前防衛副大臣は「改憲政党を前面に出し、96条は改正すべきだ」と主張するなど、党内の意見は真っ二つに割れています。
 この状況では、民主党が憲法改正について明確な見解を示すことはできないでしょう。現に2月の党大会で結党以来ようやく策定した綱領でも、憲法については「国民とともに未来志向の憲法を構想していく」としただけで、改正するのかしないのかは明確にしませんでした。
 この民主党の体たらくがあらわになったのが、6日に放送された「ウェークアップ!ぷらす」でした。番組には自民党から高市早苗政調会長、民主党から細野豪志幹事長、維新から橋下徹共同代表が出演し、憲法改正がテーマになり、高市、橋下両氏は憲法改正に本格的に取り組むことで一致しました。痛快だったのは橋下氏の細野氏に対する突っ込みでした。
 橋下氏「民主党さんは結局、(憲法を)改正するんですか、どうなんですか」
 細野氏「私どもは憲法提言をまとめている」
 橋下氏「じゃあ改正するんですね」
 細野氏「前向きにそうしたことについて議論して方向性を出すことについては、基本的に方向を出しています」
 橋下氏「民主党は改正するかどうか絶対に言わないんですよ。改正のための議論ですか、議論のための議論ですか」
 細野氏「もちろん改正のための議論です」
 橋下氏「じゃあ改正するんですね」
 細野氏「改正するかどうかっていうのは中身なんです」
 橋下氏「これはね、(民主党は)絶対(憲法改正を)言いません(笑)。国民の皆さん、ここを見ていただきたいんです。僕らは改正。中身は国民の皆さんと議論しますけど、改正はやらなきゃいけない。しかし、民主党さんはそれを絶対に言い切りません」
 私だけでなく、この番組を見たほとんどの方には、橋下氏の「圧勝」と映ったことでしょう。普段は能弁な細野氏が口ごもってしまうのは、民主党内の意見がまとまっていないからに他なりません。
 しかし、参院選で憲法改正とくに96条を改正するかどうかが大きな争点になるのは必至で、民主党が憲法改正について見解をまとめられないまま参院選に臨んだら、大敗北を喫するのは明らかです。選挙戦で先ほどのような議論になれば、「民主党はいまだに何を目指す政党なのか分からない」となって、さらに支持を失うでしょうから。
 また、民主党には「党が見解をまとめられなくても、自分は憲法改正賛成を主張する」という候補者も多くいますから、民主党は参院選で憲法改正に「賛成」か「反対」かをめぐり「分裂選挙」になると予想されます。
 そして、参院選後は憲法96条改正案が本格的に審議されますから、それをめぐって民主党は分裂すると見ています。私はこのコラムで「党の理念や基本政策で一致できない民主党は分裂すべきだ」と何度も書いてきましたが、いよいよ憲法という政治の根幹をめぐって民主党が分裂し、憲法改正の「賛成派」と「反対派」に割れてそれぞれの道をゆくなら、分かりやすくなって大いに結構なことです。もう上辺だけの「結束」はやめてほしいと思います。
 ここまで原稿を書いていたところで、朝日新聞11日付朝刊の天声人語を呼んで呆れました。私には到底理解不能な摩訶不思議な論理展開、内容だったからです。以下、要点を抜粋します。
 「常識的な見解である。日本維新の会の橋下共同代表が9日、自らの憲法観を語った。『憲法というのは権力の乱用を防ぐもの、国家権力を縛るもの、国民の権利を権力から守るものだ。こういう国を作りたいとか、特定の価値を宣言するとか、そういう思想書的なものではない』『きちんとした憲法論を踏まえなければいけない。国会での議論を聞いていると大丈夫かなと思う』。その通りだと思いつつ新たな疑問が湧く。憲法改正を進める点では同じ自民党の憲法観と橋下氏のそれは相いれないのではないか」
 と疑問を提起し、「自民党は憲法で何かと国民を縛りたがる。家族は互いに助け合えなどと個人の領域に手を突っ込みたがる。こうしたそもそも論の違いを残したまま双方が改憲で手を組むというなら、質(たち)の悪い冗談というほかない」と断じました。
 要は「護憲」の朝日新聞としては、憲法改正の発議を容易にする憲法96条改正には反対だから、同条改正で維新は自民党と協力すべきではないと言いたかったのだと思います。それならそれで、なぜそうはっきり書かないのでしょうか。それにこの天声人語の筆者には3つの大きな認識の誤りがあります。
 第一に、橋下氏の憲法改正に対する主張の認識に対する誤りです。橋下氏は「まず衆参各院の3分の2以上の賛成という高いハードルを規定し、憲法改正の議論を『改正するための議論』ではなく『議論のための議論』に封じ込めてきた96条を改正して、2分の1以上の賛成に変えよう。そのうえで各党がそれぞれの憲法改正案を示し、国民とともに真剣に憲法改正を議論しよう」という考え方です。
 維新はまだ憲法全体の改正案をとりまとめていませんが、まずは憲法96条を改正して発議要件を緩和し、「改正のための議論」に踏みだそうというのが、橋下氏の主張です。そこをこの天声人語は理解していません。
 第二に、自民党の憲法改正案に対する認識の誤り、表現の不適切さです。「自民党は憲法で何かと国民を縛りたがる」としていますが、自民党案をきちんと読んだのでしょうか。確かに自民党案は「国民の義務」をいくつか盛り込んでいますが、私はおおむね妥当な内容だと思いますし、義務規定が少ない現行憲法の方が問題で、それが現在の日本社会の秩序の乱れにつながっていると考えます。
 一方、自民党案は現行憲法の基本的人権の尊重や思想、信教、表現などの自由は保障しており、「何かと国民を縛り付ける」という表現は不適切で正確さを欠いています。
 第3に、「憲法のそもそも論の違いを残したまま手を組むというなら、質の悪い冗談というほかない」としていますが、これは自民党と維新の憲法改正に対する考え方に認識の誤りがあるうえ、96条改正の意義が全くわかっていない見解です。
 維新はこれから憲法全体の改正案を検討していくことになりますが、私が取材している限り、改正内容の方向性は自民党とかなり近いものがあります。「そもそも論の違い」はありません。
 また、仮に「そもそも論」の違いがあったとしても、96条の改正で一致することは「質の悪い冗談」などではありません。現行憲法が96条で改正の発議要件について「衆参各院の3分の2以上の賛成」という政治的に極めて高いハードルを課してきたために、これまで一度も改正が発議されてこなかったのです。
 そのため、いくら国会で憲法論議が行われても「机上の空論」にしかならず、結果として国民も憲法に関心がなかったわけです。その発議要件を「衆参各院の2分の1以上の賛成」に緩和すれば、日常的に憲法改正が発議されることになります。発議された後は国民投票が行われ、国民が決めるのですから、憲法がやっと「国民のもの」になるのです。96条改正はそれほど意義のあるものなのです。
 このように憲法96条改正の動きを「質の悪い冗談」とちゃかした言葉で批判したこの日の天声人語こそ、「質の悪い冗談」だと思います。現在の憲法を一言一句変えるべきではないという立場の朝日新聞は、憲法改正がいよいよ現実味を帯びてきたため、慌てふためているのでしょう。
 それが天声人語に表れたのでしょうが、この朝日新聞の姿勢は「見苦しい」の一言に尽きます。「護憲」なら「護憲」で堂々と論調を張るべきです。それを表面上は隠しながら、茶化した表現で現在の憲法改正の動きを牽制(けんせい)しようとするのは読者を欺く行為であり、潔くありません。
 読者の方にも憲法改正に「賛成」「反対」両方の意見があるでしょう。しかし、憲法は国家、国民にとって根幹のテーマです。正々堂々と議論しようではありませんか。
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