政治資金の丸ごと「相続」こそ問題だ

2009-05-29 | 政治
新聞案内人 島脩 元読売新聞編集局長 2009年05月28日
政治資金の丸ごと「相続」こそ問題だ
 民主党に続いて自民党も世襲候補の制限に動き出した。引退する小泉元首相の子息など後継候補の「公認外し」が話題の中心だが、立候補の機会均等、公平の観点からいえば、世襲候補が無税の政治資金をそっくり「相続」できる制度を放置していることの方がもっとおかしい。
 資金継承者にくらべ、そうでない一般の新人候補には、国政を志してスタートした時点でもう大きなハンディキャップが生じている。こちらの規制措置を講じることの方が先決ではないか。
○3割が「世襲議員」の異常さ
 世襲議員が国会議員全体の3割を占めるという異常な構図は、こうした不合理な政治資金制度と、中選挙区制の長い歴史の中で形成されてきた。
 定数4人の選挙区なら、投票総数の10%台後半の得票率で当選ラインに手が届く。こんな計算の下で、政治家は互いに後援会作りを競い合い、そのために多額の金と労力を注ぎ込んだ。
 国の補助金を選挙区に流して橋や道路を建設し、その見返りに票を固める「集票メカニズム」ができあがり、後援会は、そうした利益誘導型選挙のパイプ役を果たした。後援会幹部にとっても、既得権益を守り続けるには「世襲」の方が何かと都合がよかった。
 俗に選挙は、地盤、看板、カバン(資金力)と言われるようになり、この「3バン」がなければ、当選はおろか自民党公認で立候補すること自体が困難という時代が続いた。
 小選挙区比例代表並立制の導入は、こうした個々の政治家中心の選挙を、政党と政策主体の選挙に切り替えるものであった。新制度の下でも世襲議員が何人も立候補して当選しているが、若手官僚といった、かつては自民党が獲得した人材が民主党に流れるなど明らかに選挙情勢は変化している。
 1996年(平成8年)10月、小選挙区制が実施された最初の選挙で、自民党からの出馬を模索したが不調に終わり、民主党の誘いで当選を果たした若手官僚がいた。
 当時、「自民党が相手にするのは、中央官僚出身でも有力者の女婿とか幹部ばかり。自民党から出ようと思っても出られない」と語っていたこの議員は、その後4回、小選挙区で連続当選を重ねている。
○世襲制限に根強い自民党内の反発
 野党勢力の結集で民主党が力をつけ、与野党の政策の垣根が低くなった今、民間人を含めこの傾向はさらに加速されている。自民党が数年前から候補者の公募制を導入し、今回は民主党に対抗して世襲立候補の制限で党のイメージを変えようとしている背景にはこんな危機感がある。
 とはいえ、世襲議員が4割近い自民党内では反対論が根強く、メディアにも党改革の「本気度」を疑問視する向きがある。一方で、「世襲候補に対抗馬を立てず、無所属で当選すればすぐに復党」と冷めた声もある。
 民主党は、世襲候補と同様、政治資金管理団体の代表者についても「3親等以内への親族に引き継ぐことを禁止」する規定を政権公約に掲げることにしている。
 政治資金は、法律で「浄財」と明記され、企業や団体、個人からの献金など、すべてに税金はかからない。国からの政党交付金もある。政治活動に関係があれば、ゴルフでも飲食代でも使途は自由だ。その資金を管理し、収支報告書を作成する政治団体の職員と保有資金をいわば“居抜き”で継承できるメリットは大きい。
 解散、選挙をめぐって昨秋から長期間にわたって臨戦状態が続いている。選挙事務所費やポスター、ビラの印刷、郵送費などの工面に苦労する新人候補のことを考えると、同情を禁じ得ない。既得権と不公平の是正、政治資金の明朗化に向けて法改正を急いでもらいたいと思う。
 ところで、親族に引き継がずに引退した政治家の政治資金団体は、どうなっているのだろうか。
 今も新聞、テレビなどを通じて発言を続ける野中広務、塩川正十郎の両氏について総務省に問い合わせてみたら、野中氏の政治団体は解散の届け出があり、塩川氏の団体は存続していた。
 政治活動の資金として過去に集めたお金の残余の処理に関心があったが、「実態はわかりません」と、予想通りの総務省の回答であった。

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