27年目のロス疑惑ー洞爺湖サミットー共謀罪(中日新聞2008/3/7) 「三浦元社長逮捕」の行方2008/6/3

2008-06-05 | 死刑/重刑/生命犯

27年目のロス疑惑ー洞爺湖サミットー共謀罪
 中日新聞夕刊(大野孝志 関口克己)2008/03/07
共謀罪法案“解凍”へ渡りに船---洞爺湖サミット前成立、急ぐ政府
  27年の歳月を経て亡霊のようによみがえったロス疑惑事件。因縁を感じさせるのが、久しく影をひそめていた「共謀罪」が、事件を契機に再び脚光を浴びていることだ。それも難事件を解決できる「伝家の宝刀」として。そういえば日本の共謀罪法案は、いまだ継続審議中。いつでも「解凍」でき、鳩山邦夫法務相は今夏のG8サミット(主要国首脳会議)に向けて成立に意欲を見せている。事件は、渡りに船であるにちがいない。要注意だ。
 ロス疑惑事件で逮捕された元会社社長、三浦和義容疑者(60)。逮捕容疑は、第一項が1981年11月18日ごろにロスアンゼルス市内で当時の妻、一美さんを殺害した疑い。第二項が81年7月14日から82年7月9日にかけ、元女優や氏名不詳の者らと、一美さんを殺害して保険金を得るという犯罪の共謀行為をした疑い。日本では無罪となった殺人罪とは別に共謀罪が加わった。
  このあたりの事情を共謀罪に詳しい関東学院大学の足立昌勝教授が分析する。
  「処罰可能な共謀罪とは、最低二人の人間が犯罪の実行を合意し、加えて何らかの行為(徴表的行為=overt act)をしていること。今回の事件は、日本でも有罪となった元女優による殴打事件を徴表的行為とすることで、十分に共謀罪が成立すると判断したのではないか」
■皮肉な因縁
  それにしても、「共謀罪」という言葉を聞かされた三浦元社長の心中は、どうだったか。なぜなら、これまで日本に共謀罪を導入することに三浦元社長は一貫して反対する立場を表明してきたからだ。インターネットのサイトでは、共謀罪反対の呼びかけ人にも名を連ねている。
  作家の宮崎学さんは数年前、大阪で開かれたシンポジウムで聞いた三浦元社長の発言を覚えているという。
  「『共謀罪が出てくると、司法取引が盛んになり、大変な世の中になる』というような意味のことを言っていた。自分のような烙印を押された人間は不利になる、そんな社会はいやだ、という意味だろう」
  三浦元社長は共謀罪が自分に適用される可能性を見越して、研究を深めていた・・・といった推測も成り立つ。が、宮崎さんは「彼はそこまで用心深くはない。脇が甘い」と否定的だ。
  いずれにしても、三浦元社長にとっては、きわめて皮肉な結果になった。しかし、足立氏は「それだけで済む話ではないかも」と、こう続ける。
  「共謀罪を日本に持ち込みたい人にとっては、これほどありがたいキャンペーンはない。テレビで一美さんの遺族が被害者感情を吐露して涙を流すたびに、共謀罪があった方がよいと考える人は増えるでしょう。共謀罪の危険な側面が忘れられてしまう」
■「継続審議」
  共謀罪とは、どんな犯罪か確認しておこう。
  目的は、テロリストやマフィアなどの国際犯罪組織による犯罪抑止にあるという。犯行に至らなくても、話し合っただけで罪に問われる新たな犯罪類型だ。政府が批准を目指す国際組織犯罪防止条約に合わせ、共謀罪を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案は対象犯罪を「懲役・禁固四年以上」のものとしている。該当する犯罪は刑法犯を含む600以上と膨大だ。
  法案は2003年3月に国会提出された。しかし、野党が「労働組合や市民団体などの活動にも適用されるおそれがある」などと猛反発を続けており、廃案と再提出、継続審議を繰り返している。
  自民党は昨年2月、共謀在を「テロ等謀議罪」と名称変更し、対象犯罪も当初の4,5分の1程度に削減する修正案の要綱骨子をまとめた。しかし、政府・与党は昨年夏の参院選への悪影響を懸念し、法案成立は先送りしたままとなっている。
  今年7月の北海道洞爺湖サミットでは、地球温暖化対策に加え、テロ対策も重要な課題に上る見通しだ。それだけに、政府は共謀罪がいまだ制定できていない状況に危機感を募らせている。
  参院選後の昨年8月に就任した鳩山邦夫法相。就任会見の言葉は率直だった。
  「(国際組織犯罪防止)条約に国内法がないから入れないのは情けないことであって、きちんとやらないといけない。サミットに並行して、法相・司法相サミットみたいなものが同時開催される時に、(日本が)条約締結していないのは非常に困る」
  鳩山法相は通常国会前半までに成立を目指す方針を重ねて表明。国会審議でも「組織的な犯罪が怖いという時代の変化がある。それはテロでもあるし、いろんなシンジケート団が暗躍する(こともある)。そういう中で、日本だけがG8の中で締結していない」と、日本の“孤立”ぶりを強調。野党の理解を得ようと必死だ。
  法務省サイドとすれば、6月15日までの国会会期を控え、1日も早く法案審議に入りたいところ。しかし、法務委関係者は「委員会が開かれるのは、参院の予算案審議が動き出す今月中旬以降。しかも参院は共謀罪に反対の野党が過半数を握っており、成立は困難な情勢は間違いない」。
■世論の変化
  そんな状況で突然降ってわいた三浦元社長の逮捕だった。
  共謀罪に反対する日本弁護士連合会の共謀罪等立法対策ワーキンググループ事務局長を務める海渡雄一弁護士は「今の国内世論は『すごい武器を使って、悪者を捕まえた』という雰囲気になり、恐ろしさが薄れた」と国民の認識が微妙に変化しつつあることを危惧する。
  「別の人を容疑者や被告に置き換えて考えてほしい。ある犯罪で有罪にできないからといって、共謀罪で立件しようとする事態がまかり通ってよいのか。冷静な議論が必要だ」とも。
  同グループ委員の山下幸夫弁護士も「政府・与党は三浦元社長逮捕をおおいに活用するのではないか。共謀罪に厳しかった世論が変わり、廃案を求めてきた民主党も修整に応じる可能性がある。サミットを前に、鳩山法相は民主党案を丸のみしてでも成立させかねない」と危機感を募らせている。
 〈2008/03/08 up》
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「三浦元社長逮捕」の行方 追い詰められたロス検察
 阿部伸哉(ニューヨーク支局) 中日新聞夕刊2008/06/03
 1981年の米ロサンゼルス銃撃事件で、米捜査当局による三浦和義元社長(60)=日本で無罪確定=逮捕の違法性がカリフォルニア州ロス郡地裁で審理されている。検察側は公判請求手続きに入れず、弁護側は元社長釈放に自信を見せ始めている。
  元社長は2月にサイパンで逮捕され、身柄はそのままだ。逮捕をめぐり、弁護側は、同じ事件で再び訴追されない「一事不再理」原則に反するとし、逮捕無効を申し立てている。罪状認否や公判が妥当かどうかを決める予備尋問にも至らない入り口段階だ。
  検察側は、重犯罪容疑者の出廷義務を盾に、「一事不再理」の議論に入らず審理を突破するシナリオを描いていたが、根底から崩れている。
  「三浦氏の(サイパンからの)移送は意味がない」。ロス郡地裁のバンシックレン裁判官は5月9日の審理で明言し、元社長の身柄移送は棚上げされた。さらに、裁判官は日本の公判記録を取り寄せるように求め、逮捕の違法性について実質審理入りする姿勢を明らかにした。
  弁護側請求の「門前払い」を望んだ検察側の思惑はくじかれた。「一事不再理」が正面から問われると、検察側に分が悪いとの見方が強い。
  逮捕当初、ロス郡検察局は「一事不再理」原則について、外国の判決を対象から外した2004年の州法改正を指摘し、「日本の判決は影響しない」と説明した。
  ただちに弁護側から、元社長の事件は州法改正前で、日本の判決は考慮されるべきだと反論が出た。新しい法や改正法は、過去にさかのぼって適用されないとする「遡及処罰の禁止」という考え方があるからだ。
  同州で4月、母国メキシコで殺人の有罪判決を受けた男について、同州での訴追を違法とする司法判断が出た。この事件も州法改正前で、元社長のケースと類似している。
  このためか、元社長の審理で、検察側は04年の州法改正に触れず、「法的議論は罪状認否の後で」として「一事不再理」の議論を避けている。
  次回の6月16日までに、日本の公判資料が裁判官に出されることになっている。米国の逮捕状を見る限り、容疑は日本の公判で審理された事実と違いはない。
  仮に逮捕状取消の決定が出た場合、注目されるのは元社長の身柄。検察側は「不服なら控訴する」としているが、サイパンの裁判所はカリフォルニア州での司法手続きに縛られず、拘置続行か釈放か、独自の判断ができる。
  これまでのところ、捜査当局がなぜ、事件発生から4半世紀が過ぎて身柄拘束に踏み切ったのか、全く見えてこない。逮捕当初にうわさされた「新証拠」はあったのか。検察は追い詰められている。
  〈2008/06/04 up〉
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三浦和義元社長が手記 月刊誌「創」5月号(2008/3月23日付) 逮捕への憤りあらわに
弘中惇一郎著『無罪請負人』 (2014/4/10初版発行) / 三浦和義氏手記
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