原口一博×郷原信郎 菅政権を語る 第2回「尖閣問題の対応で露呈した民主党の野党体質

2011-01-14 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

  〔原口一博×郷原信郎 菅政権を語る「仙谷官房長官”改革の情熱”はなぜ消えたのか」〕からの続き

原口一博×郷原信郎 菅政権を語る 第2回「尖閣問題の対応で露呈した民主党の野党体質」
2011年01月14日(金) 永田町ディープスロート
 

郷原: 昨年の具体的な問題というと、まずは尖閣の中国人船長釈放問題ですね。
原口: そうですね。
郷原: いま私は検察の在り方検討会議に入って、大阪地検を巡る不祥事の問題を中心に、検察の改革の在り方を議論しています。私は検察にとってこの問題は大阪地検を巡る問題よりも、むしろはるかに大きな問題じゃないかと思ってます。
 政治という面から見るんじゃなくて、私は検察という面から見るんです。検察が絶対に逸脱してはならない、とにかく政府としての責任で行わないといけない外交の問題に、自分たちの権限を逸脱してそこに手を出した。そういうコメントした。それを訂正もしてない。それを官房長官が了とした。
 私はこの問題は、検察の百年の歴史の大きな汚点になりかねない、大変な問題だと思うんですね。
原口: 仰るとおりですね。日本の検察は公訴権から何から、よその国と比べてもかなりいろんな権限がありますね。
郷原: 強いです。
原口: ものすごく強い。それに政治的判断を、国際的判断まで負わせるとしたらオールマイティです。
郷原: そうです。
原口: そんな権限は誰も与えてませんし、私はそれを内閣が追認したのも疑問です。一番申し訳ないのは国民に対してであって、国家・国益・主権を侵されるようなことは決してあってはならない。
 尖閣の事件でいうと、船長も船員も身柄をしっかり拘束し、船も押さえ、接見禁止をかけて、その中で結論を出すべきでした。
 その後、政治の判断としてどうするか。僕は外交は毅然とした対応が一番だと思います。毅然とした屁っ放り腰ってないんですよね。しかもあれを検察の判断に委ねたような答弁っていうのは・・・。私が内閣にいたときに起きた事件なんです、9月7日ですから。
郷原: 逮捕の時ですね。
原口: ええ、逮捕の時はですね。そのときの閣内の議論は外に出せませんが、なんであそこまで違うのかなっていうのが、私には同じ党の中にいてもまだ分からないんです。
郷原: 政治が介入したんじゃないかということばかりが強調されています。しかし、その問題と別に、少なくともいまは内閣側から、官房長官側から言われているのは、検察が独自に判断したんだと、その独自の判断の中に外交上の配慮が含まれていると。
 このこと自体が大問題で、検察は外交上の判断をするんだったら法務大臣に請訓を上げて、法務大臣から指揮を受けてやる。それによって政治の責任を明らかにする。これが当たり前のことだと思うんですね。ところがそうはなっていない。検察の権限を逸脱して終わってしまっている。
 それとは別に、どうも検察が独自に判断したことではなくて、やっぱり官邸からやらせたんではないかという疑いが相当指摘されています。もしそうだとすると、今度は逆に政治は責任を負わないといけないわけだから、「検察が勝手にやったことだ」ですまされる問題ではないですね。
原口: ないですね。
誤解されている指揮権発動
郷原: ところがこの間、テレビのBSの番組で仙谷さんが言われたのを見ていたら、「一旦司法の手に回ったものは、そんなに簡単に政治が手を出せるものではない」と。どこからそんな解釈が出てくるんですかねえ。
原口: 指揮権の発動ってことも前に郷原先生とずいぶん議論しましたけど、指揮権発動の定義と運用について誤解している人たちが多いんですね。
郷原: そうです。
原口: そこのところを少しお話しいただければ、これを見ている人にもよく分かると思います。
郷原: 指揮権というのは、検察庁法14条の本文と但し書きの問題なんです。
   < 検察庁法第14条/法務大臣は、第4条及び第6条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる >
 本文とは、法務大臣の検察庁職員を含む法務省職員全体に対する一般的な指揮監督の問題です。ただ、その指揮監督の中で個別具体的な事件の権限行使に関わる部分は、但し書きで、検事総長を通じてしか指揮が出来ませんよ、と書いてあるんですね。
 本来は検察も行政機関ですから、すべての問題について法務大臣の指揮監督下にあるというのは、行政機関であれば原則なんです。
 しかし検察が行う事務、権限行使のかなりの部分が刑事事件について、法と証拠に基づいて淡々と、政策判断もなにもなく、証拠があれば起訴する、なければ不起訴にする、こういう作業です。この部分は政治的な判断、行政的な判断に馴染まないということで、原則は検察官の独立性を認めているんですね。
 ただ、それは原則であって、そういったことに馴染まない刑事事件もあるんです。例えば証券市場に重大な影響を与えるライブドア事件のような事件、あるいは政治資金規正法なども、これは政治のルールですから、政治のルールをどう運用していくのかという問題、これは政治的な影響も非常に大きい。
 これは単に検察が法と証拠に基づいて適切に判断していくというだけでは、なかなかすまない問題です。そういった問題に関しては、指揮権をどういうふうに機能させていくのかということは当然問題になります。
 ただ、そこが問題になる、ならないということ以前に、絶対に検察だけでは判断できない、当然指揮権によってやらないといけない部分があるんですね。それが外交問題です。これは誰が考えたって検察の権限外です。それともう一つは、検察庁法14条の本文の問題ですが、検察自身が組織的に問題を起こしたとき。これは検察の独立性を問題に出来ないんです。問題の性格上、当然法務大臣が関わるべきです。
 今回の大阪地検の問題がまさに14条本文の問題であり、そして尖閣の船長釈放の問題が但し書きの問題です。典型的な指揮権発動の問題が二つ出てきてます。それが実際にどういう実情であったのかが、あまり明らかになってないですね。
検察の権力と統帥権干犯
原口: 指揮権発動というと、西松建設事件の時でしたか、郷原先生が指揮権発動について言及されましたけども・・・。
郷原: 政治資金問題第三者委員会の報告書の中で、ですね。
原口: 要するに指揮権発動というのは、情報をマスメディアだけから受けている人たちは、国会議員がなにか悪いことをしたと、それを仲間が覆い隠すためにやる悪い権力なんだと刷り込まれているんです。でも法文を見ればまったく違うんです。
郷原: それと、やっぱり一つその原因になっているのは、造船疑獄事件に対する誤解ですね。あれは、検察の正義の行く手を政治が不当に阻んだというものではなくて、実態は検察の暴走だったんですね。
 もう検察自身が前に進めない状態になっていたところを、時の総理大臣の側に検察の幹部が働きかけて指揮権の発動をうまく引き出した。
 で、あたかも行く手を阻まれて泣く泣く撤退したような形を作ったんですね。これがその後、指揮権発動に対する誤謬、誤解を生んでしまう。
原口: イメージを固定化しましたね。
郷原: 検察の権限は絶対的なものだと、ちょうど戦前でいえば統帥権干犯のように、一切外から手を出してはならないというイメージを作り上げてしまった。では、実際に検察の権限に対してまったく外から介入が行われなかったかといえば、そうではなくて、法務官僚は事実上、裏でいろんな働きかけをしているわけです。これは非常に困るんです。
原口: それほど民主主義にとっては危ないものはないんですよ。
郷原: そうなんです。
原口: 一回先生も危機管理で講演されましたね、ジュリアーニ(元ニューヨーク市長)さん。あの方とお話ししたときに、アメリカの司法、あるいはアメリカの警察制度が、州警察、連邦警察と、それぞれ分かれているのはなぜかと言うと、相互チェックが効くからだと。チェックの効かない権力の暴走ほど恐ろしいものはない。
 そのことを私たちも是非国民のみなさんにご理解いただいて、正しい指揮権ってなんなのかっていうことをですね・・・。
郷原: そうですね。それで、よしんば政治的に不当な介入が行われたんであれば、検察は堂々とその事実を表に出して政治的な責任を問うべきです。それをマスコミは批判すればいいわけです。
 マスコミはそうやって政治と検察との間の力のバランスを、中立的、客観的に批判し評価機能を果たすことによって、権力を正しい方向に導くことが出来ると思うんですが、逆に最初から検察とマスコミが一体化してしまっている。その結果、政治に対して好き放題出来るような形を作ってしまったら、これはもう健全な民主主義とは言えないですね。
メディアと検察のスクラムが壊れ始めた
原口: 起訴された者は99%有罪になるというなかで、検察と一部のメディアが結び付けば、罪を作ることが出来ます。そしてその人たちを政治的に抹殺することも出来るわけです。
 私も大臣時代に「関係者」っていう発言で攻撃された。少なくともどこの関係者かを言わないとそれはアンフェアではないか。それがないメディアリークは・・・。今回、尖閣のビデオを流出した海上保安官が免職処分になりましね。じゃ、弁護士と検察しか知らない情報を誰が外に出しているのかと。それが意図的なリークによって出されているんだったら、それこそ国家公務員の守秘義務違反ではないかと。誰ってイニシャライズして堂々と言えばまだ別ですけども。
 ただ、こういうユーストリームだ、ニコニコ動画だって新しいメディアが入ってくると、そのスクラムが壊れかけてきましたね。今年アメリカでは地上波の広告収入よりも、インターネットメディアの広告収入が上にいったと聞いてます。つまり、国民がより多様で真実に近いものを・・・。地上波メディアがウソを言っているとは言わないけども、より現物に近いナマのデータに近いものを、国民のみなさんが欲しておられるということが、インターネットの登場によって生まれてきているような感じがしますね。
郷原: 尖閣の船長釈放問題に続いて発生した大きな問題が、あのビデオの流出問題ですね。日経ビジネスオンラインというサイトにも書きましたけども、あの問題が国家公務員法違反に当たるか当たらないか、逮捕すべきかすべきじゃないかという二分法的な発想で議論されてきたことが、問題の本質から議論を遠ざけてしまったんじゃないかと思っているんですね。
原口: なるほど。
郷原: 国公法の規定は、ある意味ではいまの情報化社会に合わない規定で、最高裁判例によると守秘義務違反が成立するかどうかは、非公知の事実で保護すべき事実を漏洩したかどうかということなんですよ。事実なんですね、あくまでも。
 事実というレベルで考えたら、あのビデオに非公知の事実が含まれてるのか。あの中の事実は、せいぜい中国船が意図的に巡視船に体当たりしたことくらいですね。そんなことは那覇地検の次席がもう公表しちゃってるんですよ、その事実自体は。
 あれはなにが重要だったかと言うと、あの模様を五感の作用で認識できる映像という素材、この取り扱いをどうするのかが問題だったわけです。
 それを政府として外交問題として責任ある対応をしようと思えば、これは釈放問題とも相通じるんですけども、一方で情報素材をどこで表に出すか、どの範囲を表に出すか、これもすべてしっかりした外交上の判断、政策上の判断をしていかないといけない。
 ところが逮捕は勇ましく決定された国交大臣が、その後の外務大臣が、情報というものに対してどう考えていたのか。情報素材をどういうふうにして表に出すのか。韓国なんてすぐ出しましたね、ぶつかられたら。そこについて責任ある対応が出来てなかったんじゃないか。
 それが結局、神戸海上保安部の海上保安官の、これはもう組織の決定に反する許されない行為ですけども、ああいう行為を招いてしまった。それが政府の管理の杜撰さをものすごく露呈してしまって、国の威信を著しく傷つけましたね。
岡田幹事長からかかってきた電話
原口: いままでは追い返していたと思うんですよ。前の政権と同じようなことをやっていたら今回の事件は起きていない。だから、様々なことを民主党政権が挑戦している、これはフェアに言っておきたいと思う。
 問題はいま先生が仰ったようにその後なんですよ。映像は公開するはずだったと僕は思います。それが証拠に、恥をかくのは中国であると当時の国交大臣はどこかで言ってるはずです。私もそれを言いました。
 だからオープンにすることが一番強いことであり、正しい情報を国民に知ってもらうことが、外交上のいろんな問題を収めるにも一番いい方法。それをあそこで閉じた。閉じた理由は私は・・・。「出さないとは言っていませんよ」と政府はずっと言って来ているわけです。
 で、求められたら出していって・・・。佐々(淳行)先生がよく仰ってましたけど「狐狩りの論理」。狐狩りは、狐を放しただけじゃ犬がすぐ捕まえちゃうんで、臭いをあちこちに付けて狐が捕まる時間を稼いでスポーツ性を高めるということらしいですけど、国会で野党が求めるものをそのまま出していいのかという「狐狩りの論理」が・・・。要するに内なる論理の部分的正しさであれを処理してしまったことが、僕は大きな禍根だと思います。
郷原: ここも政府としての責任ある判断と対応が求められていたわけですから、それをしっかり言わなくてはいけないじゃないですか。この情報素材については政府として慎重に判断して、公表、公開するタイミングを考えようとしているんだ、ということをしっかり言わないといけないのに、ここでまた検察とか司法の判断が出てきちゃうんですね。
原口: 要するに、他の人に責任を変えていくんですね。
郷原: そうなんです。刑訴法47条があるから、まだ刑事事件が終わってないから、自分たちは判断できないって言うんですよ。
 これはまことにもう国民に対して失礼な話だと思うんですね。なぜ権限が与えられているのか、権限が与えられているのにそれを行使しない。自分たちは判断しないっていうのは、言ってみれば、国民が犯罪者にピストルを突き付けられているのに、ピストルを持った警察官が守らないというのと同じだと思うんですよ。
原口: そうです。仰るとおりです。主権者から付託して私たちが持っている権限は、正当に行使しなければいけない。
 私はあの事件が起きたすぐに、尖閣に飛んだんですね。前の晩に岡田幹事長から電話があって、人質を取られているいう認識なんですね。「フジタの社員が拘束されています。入ってはならないところに入ったという容疑です」と。もし明日、あなたたち議連が、国家主権と国益を守るために行動する議員連盟が尖閣に飛べば、この人たちの命はどうなるか分からないという論理だったんです。
 「それはあり得ないでしょ」と。中国政府はこの問題と尖閣の問題は違うと明らかに言っている。この問題は、まさに遺棄化学兵器を処分しに中国に行った人たちですから。
 あの時、岡田幹事長はどういう責任において言ったのか分からない・・・、まあ、「前の外務大臣としてあなたに言うけど」と言っていたけども、もしあの時私たちが飛ばなかったら、中国政府に間違ったメッセージを出すわけです。
 私たちは、国内は与野党で一致して主権をしっかり守ろうと考えている。もし行かなければ、いつでも人質に取られてしまう。上海だけで13万人日本人がいらっしゃる。そんなことは絶対にやっちゃいけない。
 部分的にはその懸念は正しい、あるいは論理性を持っているんだけど、全体から見るとそれは大きな間違いってことが、ちょっと民主党政権は政権与党なんですけども、まだ野党のような振る舞いをときどきすることがある。そこを早く軌道修正しないといけないと私は考えています。
郷原: 結局、その結果どういうことが起きているかと言うと、検察の側でものを見て言わせていただくと、検察がゴミ溜め化しているわけですよ、なにからなにまで。
 人事のことがどうなのか分かりませんけども、とにかくなんか具合が悪くなったら全部、司法だとか検察のところに押し込んでしまえばいい、ということを内閣がやり始めたら・・・。いま検察は国民の信頼を相当失墜していますから健全じゃないんですよ。健全じゃないところにボンボンボンボンいろんなものを放り込んでいくと、収拾が付かないことになっていくんですね。
 戦前起きたことを改めて見直してみないといけないと思うんですね。権力の行使がどういうプロセスで歪んでいくのか、それはやはり権限を持った人間がしっかり責任を持った判断をしていかないと、その積み重ねが大変な国のかたちの崩壊に繋がってしまうんではないかということを、非常にいま危機的な状況にあると思うんですね。
原口: まさに法と正義を守る砦ですね、検察は。私も身内に検察官がおりますから、どれだけ苦労して・・・。やはり安全な思いだけじゃないですね。これだけ情報化社会になると検察官そのものに対する危機というのもある中で、その上で職場としてもモラルまで低下させられたら、これ戦えないです。
言い訳コンプライアンス
郷原: それは、検察がしっかり責任を持った判断と権限行使が出来るようなピュアな環境を作ってあげないといけない。
 ところがいまのようにゴミ溜めみたいにいろんなものを突っ込まれたら、それはまともな組織としての判断が出来るわけないですよ。外交上の判断までしろと言われる、外交上重要な情報素材を公開するかどうか検察が判断する、そんなバカな話はないですよ。
原口: ないです。いま見えてきたのは、ある意味では責任の所在。独禁法もそうでしたね。どこに一番の責任の所在があるのかを明らかにして、それを未然に防ぐ。コンプライアンスって先生がずっと唱えておられる、ここに核心があるんだと思います。
 先生の言葉で言うと、「やった振りのコンプライアンス」だとか、「言い訳コンプライアンス」だとか、そういったものは絶対に政権の中から排除しないと。「取り敢えずやっときましたよ。結果はどうなるか分かりません」では、これは政治ではないです。
郷原: 確か、仙谷行政刷新担当大臣が就任されたときの深夜の会見の中で、私の名前を出されたんですね。
原口: あっ、そうですか。
郷原: 公務員に対する処分がどうのこうのと聞かれたときに、「郷原教授が言っている虫とカビじゃないけども」と言って私の名前を出されたんで、まあ・・・。
原口: 一緒に勉強してきましたからね。
郷原: それを覚えているんですけども、いまではまったく反対ですね。私の考えていることのまったく正反対のことをやってるとしか言いようがないんですね。
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