「よし、時間だな。行くとするか」
黒ずくめでこれから葬式へ向かうようないで立ちの俺は、出勤用のカバンを持って家を出た。
大晦日の冷気が体を包む。だが寒くはない。喪服のような黒いスーツは都市国家からの支給品だが、単なるスーツではない。この大晦日の作業用に作られた特注品ユニフォームで群を抜く保温機能を備えている。
俺は、そのまま自宅前に駐車してあるマイカーに乗り込んだ。
ダッシュボードにある画面に、若い女の顔が浮かびあがり、にっこりと微笑んだ。車に標準装備されているカーコンピュータだ。
「こんばんは、ダイゴ様。お仕事ですね。お疲れ様です。行先はいつもの警備隊詰め所でよろしいですか」
ダイゴは俺の名前、職業は国家警備隊の隊員だ。
「ああ、ユキさん。こんばんは。うん、詰め所でいいよ」
最近は、自分の車のカーコンピュータに名前を付けて呼ぶのが流行っている。
AI技術が発達して、運転を含めたすべての車の操作はカーコンピュータがやってくれる。会話もほとんど人間と変わらなくできるため、名前があったほうが便利なのだ。
ちなみに、名前は自由につけられる。「ユキ」という名前に特に根拠はない。
なんとなく響きがいいからそう呼んでいた。