★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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義腕の男2(51)

2016年03月15日 | 短編小説「義腕の男2」
「ほう、負傷兵になったのか。ん?足だな。ふっふっ万全のキサマとやりたかったが、まあいい。俺のバージョンアップしたパワースーツの威力をその体で直に感じるといい。嬲り殺してやるぜ」
 ヤツはそう言うと、歩きながら銃をホルスターにしまい、両手を挙げていきなり走り寄ってきた。
「キャッ..」
 小さく悲鳴を上げたクリス博士を横目に、俺はかけてあった毛布をまだ通常モードの右腕で掴み、Mr.Rの顔目がけて投げ拡げた。
 俺が全く動けないと思っていたMr.Rは、結構油断していたようだ。以前、人間捕獲用ネットランチャー「ブラッディスパイダー」をもろに浴び顔中傷だらけになった時と同じように、全く避けることなく広がった毛布を頭からまともに被った。
 一瞬、何が起こったのか戸惑ったのだろう、突進するスピードを弱め、被った毛布をがむしゃらにはがし始めた。なるほど、パワースーツは怪力が発揮できるが、首より上は生身の人間である。頭に引っかかった毛布をパワースーツの力でむりやり引き剥がそうとしたら、下手をすると首の骨が折れてしまう。その微妙な力加減をMr.Rのパワースーツはできないらしく、頭に絡まったたった一枚の毛布にもがいている。
 俺は、その隙をついてベッドから降り、傍らにいるクリス博士を抱きかかえ、とりあえず敵がいない部屋の隅へダッシュするため走り始めた。痛みも違和感も無かったため取り替えた足だとは全く意識せず力いっぱい左足で床を蹴った。
「!」
 第一歩は、おおよそ2メートル程先に着地し、そこから数歩走って数十メートル先の部屋の隅に到達するつもりだったが、最初の左足の蹴りひとつで、目指した部屋の隅にたどりついた。
 それどころか、勢いが衰えず壁に激突しそうになり、危うく義碗の右腕を突き出し衝撃を受け止めた。コンクリートの壁には右手の手形がくっきりと刻み込まれた。

義腕の男2(50)

2016年03月09日 | 短編小説「義腕の男2」
 新たな標的に設定されたクリス博士は、意外と後先考えないタイプらしい。
 危機が迫ってきてから現実に戻ったようだ。舌なめずりしながら近づいてくる乱入者を見て俺のベッドのそばまで後ずさりしてきた。
 当然、ヤツに俺の顔は丸見えだ。
 やっと気がついたらしい。ヤツの顔から不気味な笑いが消え、目をむいて俺を見つめている。
「き・きさま・・・ケンジか・・なぜこんなところに・・」
 声が上ずっている。よほど嬉しいのか、まあそんなことはあるまい。かなり恨みを持っているほうが正しいだろう。
「やあ・・久しぶりだな Mr.R、元気だったか」
 妙な場所で思いがけない相手に出会ったせいで間の抜けた返事をしてしまった。
 やはり間違いない。ヤツだ。ザビ共和国の工作員Mr.Rことリチャード・リンクス。
 以前、とある作戦で戦った相手だ。あの時のことがよほど思い出深いらしい。声が震えている。
「・・・ふ・・ふふ・・会いたかったぞ。この傷がうずく度に、貴様のそのいやらしい顔が目の前に浮かぶのだ。こんなところで会えるとは!この世も捨てたものではないな。まだ神はいるようだ」
 ヤツは興奮した赤い顔で口角につばを溜めながら吐いた。
 こんなヤツにいやらしい顔と言われてしまった。そっくり返してやる。
 しかし、この状態でそんな強がりを言っても全く意味がない。
 Mr,Rにとっては千載一遇、俺にとっては一番会いたくないやつに一番やばい状況で出くわしたということだ。
 ヤツは銃を構えたまま俺たちに近づいてくる。
 その時クリス博士が俺の影に隠れながら、耳元でささやいた。
「あなたの足はもう治っているわよ」
 俺の見間違いだろうか。そう言っているクリス少女の顔は、ニヤリと笑っている小さな悪魔のように見える。
 この表情は、見覚えがある。
 確か、俺が初めてこの義腕をつけ模擬戦をした時、義腕製作者である技術部のジャックがこんな目をしていた。人の命より自分の作品の結果に興味がある技術者のさがなのか。

義腕の男2(49)

2016年03月07日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺は、頭から毛布を被り、その男からなるべく見えないようにしつつ、隙間から様子を伺っていた。癇に障る口の利き方とその男の顔の傷跡には心当たりがある。
 間違いない、あいつだ。
 だが、なぜあいつがここに・・。
 突然、今まで俺のベッドの影に隠れていたクリス博士が飛び出し、その乱入者に向かって叫んだ。
「だめよ、そのデータは。あなた達の手には負えないわ」
 俺はとっさに身を起こして少女の腕をつかみ止めようとしたが、タッチの差で空振りに終わってしまった。それどころか、せっかく毛布で顔を隠していたのに、上半身がまるごとベッドの上に露出してしまい、その癪に障る乱入者に晒されてしまった。
 しかし、乱入者は俺よりも先に少女に引っかかったようだ。
 片目のレンズを光らせてクリス博士を見つめ、耳障りな笑いをさらに強めて言った。
「ほう、お嬢チャン、こんなところにこんな子供がいるなんて。さてさて・・」
 ヤツの片目のレンズは特殊なセンサーとモニターになっていて、見たものを瞬時に分析できるようになっているはずだ。
「おおっと、これはこれは・・クリス博士か!」
作ったような笑みから、これが本来なのだろうという残忍な笑いに変わった男は、今までガッチリつかんでいたジェファーソン博士を、まるで遊び終わったおもちゃのように部屋の隅に放り投げ、俺たちに向かって近づいてきた。
 ジェファーソン博士は、糸が切れたマリオネットのように床に叩きつけられ、動かなくなった。締め付けからは開放されたが、気絶したようだ。