★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(85)

2012年11月29日 | 短編小説「彗星の時」
「これがアンドロイドというものか、人の形はしているものの不気味なものよのう」
遺体安置所に置かれたケインを襲ったアンドロイドを見てジュンサイが言った。
 アンドロイドはシャインが倒した時と同じく、全身のっぺりとした銀色のまま横たわっていた。
「では時間がもったいない。早速はじめるとしよう。覇道の105番、霊魂の一体じゃ」
 ジュンサイはそう言うと銀の輪の付いた杖を大きく振り、音を響かせ始めた。
 その音に呼応して、シャインの魂はまた渦を巻いて回り銀色のアンドロイドに吸い込まれるように重なっていった。
 しかし、しばらく経っても横たわった銀色のボディには、何の変化も無い。
 ジュンサイの傍らに降り立ったヤーコンの霊が言った。
「うーむ、どういうことですかね。ピクリとも動きませんね。生きている霊魂が入ったのですから何かしらの動きがあるはずですが・・やはり、超古代の遺物には覇道は効かないのでは・・」
 杖を動かしながらジュンサイは確信を持って否定した。
「いや、覇道とは森羅万象、この世界の全て、万物の事象の真理を示したもの。たとえそれが時間を隔てた超古代のものであっても、この宇宙の理から外れるものではない。未熟な我々の導きが誤っているだけじゃ。よーく考えるのじゃ」

彗星の時(84)

2012年11月28日 | 短編小説「彗星の時」
 ジュンサイの傍らに立ったヤーコンの魂が言った。
「しかし、シャイン殿の霊魂が実体化しなければ操りの間にはいることができません。いったいどうしたら・・・」
「・・その通りじゃ、なにか良い手はないかのう・・」
 ジュンサイとふたつの霊魂は、行く手に詰まってしまった。
 その時、上で回っていたシャインの魂が聞いた。
「・・人間ではなくアンドロイドならば入れるのか」
 ヤーコンの魂が震えた。
「そうだ、ケイン様を襲ったメイドはシャイン殿と同じ超古代の機械だ。あれならば、なんとかなるかも・・」
「なんじゃ、それは?」
 ケイン達が自室でメイド型アンドロイドに襲われたことを知らないジュンサイにヤーコンが説明した。
「なるほど、他に良い考えもないし時間もない。やってみるしかあるまい。その機械は今どこに・・」
「死んだ人間と同じであれば、地下の遺体安置所のはず」
「地下か・・ふーむ。よし、では急ごう」
 ふたつの魂と白魔導師は、今いる塔の最上階からあたふたと地下へ向かった。


彗星の時(83)

2012年11月20日 | 短編小説「彗星の時」
 ジュンサイは目をつぶり、手に持った杖の動きを激しくし銀の輪の音を大きく響かせ、
不思議な調べの呪文を呟き始めた。
 すると、その波のような響きに呼応し、そのそれまでゆっくり回っていたシャインの霊魂が、渦に吸い込まれるように円を小さくしながらジュンサイの頭部に吸い込まれていく。
 やがて、霊魂の全てがジュンサイに収まった、と同時にジュンサイの呪文も銀の輪の動きも止まり、カッと目を見開いた。
 眼が血走っている。
 その口は苦しみにゆがみ、唸るような嗚咽を漏らし始めた。
 次の瞬間、全て収まったはずのシャインの魂が、沸騰した蒸気のように頭から抜け出て廊下の天上を回り始めた。
 ジュンサイは血の気の失せた白い顔をし、腰を落とした。
「だ、だめじゃ。こ、この者は人間ではない。魂を取り入れることができぬ、まさに超古代の文明で造られた異型のもの、我々とは根本的に違うものじゃ・・」
 荒い息遣いで天井付近を回っているシャインの魂を見ながら呟いた。

彗星の時(82)

2012年11月19日 | 短編小説「彗星の時」
 王宮では、ヤーコンから覇道で連絡を受けたジュンサイが、操りの間の前でシャインの魂が来るのを待っていた。手に持った杖の銀の輪をゆすり清涼な音を響かせている。霊魂を呼び寄せる覇道を使ってシャインの魂を導いていた。
 その呼びかけに従ってシャインの魂は、すでに王宮に到着しジュンサイの真上を回っていた。
「おう、来たか。シャインよ。ご苦労である。おぬしの魂は見かけによらず実に純粋な色をしておるな。まるで子どものようじゃ。おっ?ヤーコンではないか。そなたも来たのか」
シャインの霊魂に続き、ヤーコンの魂も到着したらしい。
「ジュンサイ様、幻の100番台の覇道、どうしても最後まで見届けたくて、あえて私もやってきました。お許しください」
「うむ、よかろう。早速はじめるぞ。霊魂が身体から離れていられる時間は短い。あまり長いと戻れなくなってしまう。では、覇道105番、霊魂との合体じゃ」