花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

国立西洋美術館「ピカソとその時代展」サクッと感想。

2023-01-21 22:36:11 | 展覧会

会期末の滑り込みで、国立西洋美術館「ピカソとその時代ーベルリン国立ベルクグリューン美術館展」を観た。ベルクグリューンさんの現代美術愛が詰まったコレクションで、優れた鑑識眼と画廊経営者としての手腕もが偲ばれる展覧会だった。

https://picasso-and-his-time.jp/

会場は私のような駆け込み客でかなり混みあっていたが、やはり現代美術は若い観客層が多い。で、嬉しかったのは今回も写真撮影(フラッシュ禁)OKで、スマホで写真を色々撮ることができたこと

さて、オープニングはセザンヌ《セザンヌ夫人の肖像》で...

ポール・セザンヌ《セザンヌ夫人の肖像》(1885-86年頃)

その後に意表を突くようにジャコメッティの素描が並んでいたのだ(それも西美所蔵)。

アルベルト・ジャコメッティ 左:《セザンヌの模写ーセザンヌ夫人の肖像》               右:《レンブラントの模写ー窓辺で描く自画像》(1956年)国立西洋美術館

今回の展覧会は「ピカソとその時代」を扱ったものであり、確かにジャコメッティも同時代の芸術家なのである。

ジャコメッティは彫刻家だからか、セザンヌ夫人もレンブラントも立体としての顔の彫り込み線が印象的だ。この素描もだが、彼の絵画作品を観ると、線がどんどんエネルギーを凝縮していくように見える。

そして、思ったのだが、セザンヌもレンブラントも、ジャコメッティにとってリスペクトする画家たちなのではないかと。それに、自画像を描いているレンブラントを描くって、なんだか自己投影っぽいよね。

ちなみに、渡辺晋輔氏の「国立西洋美術館所蔵のジャコメッティの素描について」を読むと、ジャコメッティは昔から多くの絵画作品を模写しており、画家として特にセザンヌとレンブラントがお気に入りだったようだ。

https://nmwa.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=738&item_no=1&page_id=13&block_id=21

セザンヌはルネサンス以来の西洋絵画の表現形式を壊してしまった。この展覧会に登場する画家たちは皆、セザンヌの破壊を糧に自らの方向性を模索し、彼らの更なる破壊の軌跡が展示されていたと言えるかもしれない。

なにしろ、ピカソだってセザンヌ紛い(?)の作品を描いているし😉。まぁ、キュビズムと言うべきなのだろうけど。

パブロ・ピカソ《丘の上の集落(オルタ・デ・エブロ》(1909年)

で、今回の展覧会で私的に特に興味深かったのは、ピカソの頬杖をつく「メランコリア」ポーズの女性像シリーズ!! なんと多様な「メランコリア」だこと!!!

パブロ・ピカソ《水差しを持ったイタリア女》(1919年)

パブロ・ピカソ《緑色のマニュキアをつけたドラ・マール》(1936年)

パブロ・ピカソ《横たわる裸婦》(1938年)

パブロ・ピカソ《多色の帽子を被った女の頭部》(1939年)

パブロ・ピカソ《女の肖像》(1940年)

ピカソがこの時代、頬杖「メランコリア」(デューラーやレンブラントを想起させる!)ポーズの女性像を多く描いているのがわかる。私にはメランコリーな時代の空気がこのポーズに凝縮しているように思えた。

会場内の解説「両大戦間のピカソー女性のイメージ」でも、彼自身の女性観や不穏な時代の空気を反映しながらますます多様な形式に展開した、とあり、蓋し!とうなずいてしまった。

今回の展示作品を眺めていても、ピカソは長生きしたからこそ、その表現形式の多様さと変遷は実に興味深い。そのピカソと同時代の画家たちも、それぞれの表現形式の変遷が作品から窺うことができ、本当に面白かった。キュビズムの盟友ブラック、ドイツのパウル・クレーの変遷、フォービズムのマティスのその後の展開、そして見えるがまま彫刻のジャコメッティ...。

今回のボリュームのある展示作品の数々は、画家達がいかに独自の表現を創造するか、その挑戦と模索の軌跡をも教えてくれたような気がする。

ということで、サックっと感想ではあるが、現代美術とは言え、かなり満足感のある展覧会だったと思う


追記:バーゼル二日目。

2018-04-12 23:56:49 | 海外旅行

フランス鉄道ストライキ対策のため書き損ねていたバーゼルとディジョンについて書いておきたいと思います。私的忘備録ですから

バーゼルは日本人として殆どストレスを感じることのない街でした。バーゼルのホテルに宿泊すると観光パス「バーゼルカード」が貰えます。トラムが全線無料で乗り放題だし、美術館が半額になるという便利で素敵なカードです(笑)。そのトラムも清潔で時間表示通りに運行しているし、どこに行くのも便利です。なので、バーゼルの二日目はトラムに乗って「バイエラー財団美術館」を訪れてしまいました。

 

「バイエラー財団美術館」入口へ。

レンゾ・ピアノ設計の大きなガラス窓が印象的な美術館建物です。展示作品は近現代美術中心で、窓からの自然光と広々とした展示空間が気持ちよく鑑賞させてくれます。

 

モネの《睡蓮》やジャコメッティ作品もあります。もちろん、殆どは現代美術ですけどね。

修復ルームのガラス窓から興味深い作品も覗くことができました。

帰りは前日と逆のライン川向こうから大聖堂を眺められたのですよ。この後、大聖堂内部も見学できたし、お天気にも恵まれたし、バーゼルは本当に気持ちよく過ごせました。

ということで、午後のTGVでディジョンに向かったのでした。


大人の休日作戦-初夏篇

2017-06-29 22:36:29 | 国内旅行

今週は大人の休日作戦でかなり忙かった。まずは、Oご夫妻と秋田へ。

秋田県立美術館「平野政吉コレクション」。十数年ぶりで訪れたら、旧館とは別に新館ができていた(・・;)。目玉は藤田嗣治作品。

新館の設計は安藤忠雄。2階のカフェから眺める千秋公園の見晴らしが素晴らしい!!窓の外には水を湛えたプールが広がり、安藤作品らしさが感じられる。

秋田の詳細は後で触れたい。ということで、翌日には東京へ。

で、密かに楽しみにしていた国立新美術館「ジャコメッティ展」。音声ガイドの山田五郎さん解説がとてもわかりやすくGoodだった♪。ジャコメッティはさすがイタリア人で、女性はナイスバディ好みだったとか(笑)。創る彫刻は細長いのにね(^^;;

こちらは三菱一号館美術館「レオナルド×ミケランジェロ展」。女性よりも男性がお好きだったんじゃないかと思われる(?)ルネサンスを代表するイタリア人(フィレンツェ人)巨匠二人の対決(^^;

展覧会の感想も後日書きたいものである(^^;;


密かに楽しみ「ジャコメッティ展」(国立新美術館)

2017-01-08 02:10:53 | 展覧会

実は、国立新美術館「ジャコメッティ展(仮称)」を密かに楽しみにしている。

・期間:2017年6月14日(水)~9月4日(月)

・会場:国立新美術館 企画展示室1E

2012年春「イタリア美術プチ縦横断旅行」から(ちょっと長くなるが)一部を再録したい。

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・ラヴェンナ市立絵画館(Museo d’Arte della citta di Ravenna)

「Miseria e splendore della Carne Caravaggio, Courbet, Giacometti, Bacon...」展

この展覧会はロベルト・ロンギの弟子で評論家ジョヴァンニ・テストーリ(Giovanni Testori 1923-1993)に捧げるものだった。このテストーリおじさんはミラノ近郊出身でロンギの弟子だから当然カラヴァッジョ研究もしている。テストーリがロンバルディアの画家たちを愛し、カラヴァッジョを通じて、現代に至る画家たちを批評した軌跡が展示されたとでも言って良いだろう。やはり、クールベやジェリコーはわかるし、現代に至ってのサザーランドやベーコンへ受け継がれていった共通項は「リアリティ」なのだよね。今回私的になるほど!と思ったのがジャコメッティだった。並べてみると、ベーコンはジャコメッティとサザーランドに影響を受けているのではないかと思ってしまった。それ以上にジャコメッティって凄いかもしれない。

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アルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti, 1901- 1966年)の彫刻は以前にも観ていたが、この展覧会で彼の「絵画」を初めて観た。ああ、凄いなぁ!!と、何と現代美術苦手の私が思ってしまった。ジャコメッティの描く対象へと鬼気迫るエネルギーが絵の中に凝縮していたのだ!!

また、例えば、フランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1909 - 1992年)作品と、ジャコメッティの肖像画作品を見比べてみると、美術ド素人眼ではあるけど(汗)、ベーコンの空間構成も含めてジャコメッティの影響が見られるように思うのだよね。 

更に、去年の初夏、ローマのヴィラ・ジュリア(国立エトルリア考古学博物館)で、細くて長いエトルリアの人物彫刻を観て、ジャコメッティの彫刻みたい!と思った。

 

それで、Wikipediaでジャコメッティをチェックしたら、「なお、古代イタリアのエトルリア文明にも細長く引き伸ばされた人物彫刻があり、それとの関連も指摘されている」とあり、やはり!だった。 

と言う訳で、今回の「ジャコメッティ展」は、気になるジャコメッティ勉強ができる良い機会だし、もしかしてベーコンとの関わりについてもわかるかもと、現代美術苦手の私も密かに楽しみにしているのだ(^^ゞ


イタリア美術プチ縦横断旅行

2012-04-22 12:18:05 | 海外旅行
相変わらずの駆け足旅行に行ってきた。去年見逃した展覧会を想うと悔しいが、今年できるだけ観たいものだと思う。さて、今回は...

■ローマ
・スクデリエ・デル・クィリナーレ(Scuderie del Quirinale)
Tintotrtto


「ティントレット展」垂れ幕

ヴェネツィア派は好きだがどうもティントレットは苦手だった。今回の展覧会では少しでも苦手意識を取り除きたいと思ったのだが...(^^;;
出展作品はやはりアカデミアやサン・ロッコなどヴェネツィアからの作品が多数を占める。今回の展覧会で収穫だったのは、ティントレット作品の中にトスカーナの手法が確認できたこと!マニエリスム画家であることが私的に了解できたことが何よりだった。
オープニングが自負心に溢れるV&A《自画像》で、最後が全てを見てしまったというような晩年の何か虚ろな眼差しのルーヴル《自画像》という、作品以上にティントレット自身を物語っていたような気がする。

・パラッツォ・バルベリーニ(Palazzo Barberini)
Guercino 1591-1666
「常設展」


パラッツォ・バルベリーニ入口の「グエルチーノ展」垂れ幕

グエルチーノの故郷Cento市立絵画館からの出展が多数を占めていた。中でも《Cristo risorto appare alla madre》は特にエモーショナルで、上手すぎる涙腺刺激傑作だった。グエルチーノにラファエッロの影響が見え、カラヴァッジョ的明暗作品から古典主義へと移行するのは、グイド・レーニと同じかもしれない。
常設展示の方はカラヴァッジョ3作品《ナルキッソス》《フォロフェルネスの首を斬るユディット》《瞑想する聖フランチェスコ》が出張なしで常勤状態だった。ユディットの背後の紅いカーテンのうねりはフォロフェルネスの血の増幅表現じゃないのか?

■ボローニャ
・国立絵画館(Pinacoteca nazionale


ボローニャ国立絵画館

3度目の国立絵画館になったが、ラファエッロ《聖チチェーリア》の展示位置が異なっていた。実は今回、ジョット《聖母子と4聖人》の衣文表現の美しさに改めて目を奪われた。青色(多分ラピスラズリ)の諧調と深みにが素晴らしい。ボローニャ派展示室はそのままで、ローマでのグエルチーノ展の続き的チェックをしてしまった。で、グイド・レーニの晩年と思われる肖像画があり、なんだか苦労が偲ばれてしまった。

・サン・コロンバーノ(San Clombano)


サン・コロンバーノ(教会・美術館)

サン・コロンバーノとパラッツォ・ペポリはボローニャのFさんに案内していただいた(Fさんに感謝!)。それぞれ古い教会とパラッツォを修復して美術館にしたそうだ。サン・コロンバーノは個人収集家の集めた楽器類(主にチェンバロなど)が展示されているのだが、元々の教会部分にボローニャ派によるフレスコ画が残っている。ある意味で豪勢だと思う。

・パラッツォ・ペポリ(Palazzo Pepoli Campogrande


パラッツォ・ペポリ Campogrande 国立絵画館などからの委託展示が多いようだ。

パラッツォ・ペポリはフレスコ画装飾が美しいパラッツォで、古典~現代美術の展示を行っており、バロック作品も多く展示されていた。カラヴァッジョ的作品もあり目が吸い寄せられる(^^ゞ
ペポリの美術館リンクにYOU TUBE 動画を貼ったのでご参照ください。

■ミラノ
・パラッツォ・レアーレ(Palazzo Reale)
Tiziano e la nascita del paesaggio moderno


パラッツォ・レアーレ玄関前の垂れ幕。風の強い日だった。

ヴェネツィア派絵画における風景画の変遷を観ることができた。風景が作品背後に広がる人物主体から風景重視になる展開も実に興味深かった。なにしろオープニングがジョヴァンニ・ベッリーニ《Crocifisso con cimitero》で、懐かしくもプラートのアルベルティ美術館から来ていた!!このジョルジョーネ、ティツィアーノ、ヴェロネーゼと続く第1室だけで満足してしまう。続く展示室がちょっと寂しくても許してあげる(笑)。
ベネツィア派の風景画がフランドル絵画やデューラなどの影響を受けているのはよくわかるが、やはりティツィアーノあたりからヴェネツィア派独自の表現になっていくのが見えた気がする。

■ラヴェンナ
・ラヴェンナ市立絵画館(Museo d’Arte della citta di Ravenna)
Miseria e splendore della Carne Caravaggio, Courbet, Giacometti, Bacon...」

ラベンナ市立絵画館。隣の立派な教会はサンタ・マリア・イン・ポルト教会。

今回の旅行の最目的はこの展覧会だった。カラヴァッジョ作品はロベルト・ロンギ財団《蜥蜴に噛まれる少年》だけだが、カラヴァッジョをどのような文脈で語るのかに興味があって出かけた。
この展覧会はロベルト・ロンギの弟子で評論家ジョヴァンニ・テストーリ(Giovanni Testori 1923-1993)に捧げるものだった。このテストーリおじさんはミラノ近郊出身でロンギの弟子だから当然カラヴァッジョ研究もしている。テストーリがロンバルディアの画家たちを愛し、カラヴァッジョを通じて、現代に至る画家たちを批評した軌跡が展示されたとでも言って良いだろう。やはり、クールベやジェリコーはわかるし、現代に至ってのサザーランドやベーコンへ受け継がれていった共通項は「リアリティ」なのだよね。今回私的になるほど!と思ったのがジャコメッティだった。並べてみると、ベーコンはジャコメッティとサザーランドに影響を受けているのではないかと思ってしまった。それ以上にジャコメッティって凄いかもしれない。結構面白い展覧会だったので詳細はまた書きたいと思う。

・サンタ・ポッリナーレ・ヌォーヴォ聖堂(Basilica di Sant Apollinare Nuovo)
・ネオニアーノ洗礼堂(Battistero Neoniano)
・サン・ヴィターレ聖堂(Basillica di San Vitale)
・ガッラ・プラチーディア廟(Mauseleo di Galla Placidia)
・アリアーニ洗礼堂(Battistero degli Ariani)
・大司教博物館(サンタンドレア礼拝堂)(Cappella di Sant Andrea)
・サンタ・ポッリナーレ・イン・クラッセ教会(Basilica di Sant Appollinare Classe)
・テオドリック王廟(Mausoled di Teodorico)


サン・ビターレ聖堂《ユスティニアヌス帝と従臣たち》

ラヴェンナの世界遺産に登録されている史跡を駆け足で回った。黄金のモザイクが美しく、なおかつ素朴な造形から高度な技巧まで、それぞれの聖堂や廟にふさわしい荘厳さに心打たれた。ビザンチンの残光がラヴェンナには色濃く残されている。

ざっと急いで旅レポートを書き飛ばしたが、個々の展覧会や美術館・教会等の詳細感想文をできるだけ書きたいと思う。でも毎度オオカミ少年だから期待しないでお待ちあれ(^^;;;