タワーに向かって歩いていると、さきほどホテルで店頭直後の全体像を
みていた、そのタワーの足元が見えてきた。
ぼくは去年もここにやってきた。
東京タワーの夜景をみるために。
なんだか今年のライトアップは去年よりもさらに違う感じがする。
スカイツリーが出て来て、テレビ塔としての役目を終えようとする前の光
なのだろうか。それでも、タワーにはたくさんの人が訪れていて、それは
カップルもいれば親子連れも年配のご夫婦だっている。
南極犬たちの像の前で記念撮影をしている家族連れのちびっこだって
こんなクリスマスツリーの下ではしゃぎまわっている。
そもそも東京タワーが電波塔としての役割を持っていようがいまいが
そんなことは関係ないのだ。リリー・フランキーのように、この塔が
全国から人を呼び寄せる中心のようにぐるぐる同心円を描いた重力を
もった不思議な力をもっているとか、そんなベタなことまでは思いつけ
ないけれど。
ぼくは、気の利いたことも言えずに口をあけて上をむく。
少しはうまく撮れるようになったカメラを向けて、同じように口をあけて
眺めている家族連れをぬって進む。
19時30分からライトアップをいったん消して、期間限定のshow-time に
なります。
こう放送が入り、みんながざわついてきた。
こうしてぼくらは、いったん中に入ってごはんを食べてくることに
したのだった
ごはんを食べたあと、すぐでてきたときにはタワーは真っ暗だった。
それからぽつぽつと違う電飾が光り始めて…
なんだか少しはかなげな飾りになった。それと並行して音楽が流れてくる。
クリスマスってこうですよ と言わんばかりに。
カップルも、家族連れもそれを眺める。
ぼくらは「近所のマンションの人とか大変だねえ」とか言いながら
それを眺めている。
次々といろんな局が流れる。東京タワーから流れるのだからメジャーで
なければならないとでもいうように。
MISIA , WHAM ! , DREAMS COME TRUE…
それは近所の方も納得させられる曲の選考基準なんだろうか
でも批判的な意見を封じ込めるような塔のきれな状態をみたら、だれだって
これをきれいと言うだろう。
ぼくらはくるりとタワーの一周をまわってみて、4分の3周した一番端っこの
駐車場の出入り口あたりで柵にもたれて上を眺めていた。
ここが一番きれいに見えるような気がした。近くにはアマチュアか
プロかわからないけど、本格的に三脚と一眼をかまえたカメラマンが
数人と、カップルらしき若者と…そして何人かの年配の人が同じように
お話しながらみあげている。
白い恋人たち <PV>
たとえばこんな曲が流れ、そして時刻は20時を超えた。
30分のshow-time
そう予め言われていたからか、混雑を避けるためなのかクルマで来ている
人たちが一斉に帰りだした。ぼくらが見上げるすぐ後ろをゆっくりゆっくり
ガードマンの先導で家路につき始めると、あたりも人数は少しずつ減り
始めた。
タワーは最後のお楽しみだよというようにハートマークを出したりしながら
それでも少しずつ電飾の数を少なくして…
最後にきれいにきれいにクリスマス前の東京を彩ると・・
ふっと消えてしまった。
それからshow-time の前のような真っ白な表情に姿を戻し、なにごとも
なかったかのようにまた通常のライトアップを始めた。
ぼくらはそれをいろんな方向から眺めているうちにタワーを一周した
ことになった。
去年読んだ中村航の小説では、最後傷心の兄のために妹がぐるぐる
その場で何度も何度もまわり、慰めてくれる。
ぼくらは、そんなの実際にここに来たらはずかしくてできないね、とか
言いながら、タワーのまわりをぐるんと一周まわったわけだ。
それは誰かのためではなく、自分のために。
そう思うと、ふと考える。
今年、自分自身の想いとか、そんなまっすぐな感情で
成果をだした一番すてきなことってなんだろうか
もしかしたら初めてオムレツをひとりで作ったこととか
一周タワーのまわりをまわったこととか、案外その程度の
ことがいちばんシンプルですてきなことだったかもしれない。
まあ、そう考えても今夜のできごとは悪くなかったのだ。
大阪で雨に降られている夜なんかよりも、ずっとずっと。