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アスリートであるということ (ゆづる病顛末記 その4)

2014-11-09 | スケート
昨日のフィギュアスケートGPシリーズ第3戦中国杯、男子FSでのアクシデント。
私のようなフィギュアお茶の間応援者が今さら物申す段階ではありませんが、自分の気持ちの整理のためにメモ書きしておきます。

今回の中国杯、とても楽しみにしていました。
フリーの「オペラ座の怪人」は世界初披露、衣装はどんなのかな?構成は?…テレビの前でワクワク。

しかし、それは目の前で起きました。
演技直前の6分間練習のとき、お互いに後ろ向きで滑ってきたゆづるくんと、中国のハンヤン選手(テレビでは閻涵=エンカンと発音してた)と激突。二人ともリンクに倒れこんだまま動きません。



スポーツとは全く無縁の私でも、仰向けのまま動かないゆづるくんを見て「あ、もしかして脳震盪…」と思ったし、リンクから降りようとするときに、彼の額と顎が血まみれになっているのを見て、自分の血の気が失せました。
表情が虚ろになっているのを見て、誰もが「これは棄権だな」と信じたはず。

でも違った。再びリンクサイドに登場したゆづるくんの頭は包帯がぐるぐる巻きになっていて、顔には絆創膏。
オーサーコーチは棄権を促したようだけど、そんなことを素直に聞くはずはないことはうすうす感じていました。

そのころ私はTwitterに何度も「棄権して!出るのは止めて!」と発言していて、それはTwitter民の総意でもありました。
あのとき「出たほうがいい」と思っていたのは、きっと世界中でゆづるくん一人だけだったと思います…

結局試合は続けられ、棄権するものと思われていたのに出てきたハンヤンくんに続き、ゆづるくんの番。よく見ると衣装にも血の染みがついている。



しかし私は大変不謹慎ながら、「これって革命モノの舞台みたいだなぁ…」と思って見ていました。
今思えば衣装がレミゼのアンジョっぽい配色だったからだと思うけれど、頭の包帯の巻き方も血が滲む顔も、劇的。
そう、もうここからは「なんて劇的なんだ」という感想しか出てきません。

演技そのものはボロボロでした。冒頭の4回転は予想通り転倒、イナバウアもビールマンも省略してました。
でもあとから聞くところによると、再開した練習時間の間に、彼はリンクの真ん中で数を数えながら指さし確認してたとのことだから、「転倒しても4回転回る」「後半のコンボは3回転にしてタノをつける」と綿密に計算していたことは想像できます。

でも、
転んだら、また立ち上がる。
転んでも転んでも転んでも転んでも、そのたびにまた立ち上がって、また滑り出す。
「1秒でも早く終わってほしい」と切実に思いながら見ていた4分30秒がやっと終わって、演技後に見せた清々しい表情の清らかさ。
ここで私の涙腺も大崩壊、赤の他人のアクシデントのために自分が号泣したのは、あっきーの超猿中止事件以来でした。
この日の演技を、私は一生忘れないと思います。



一晩経ち、私の気持ちも落ち着いてきました。今は国民的レベルで「棄権するよう説得すべきだった」「第三者が判断するルールを作るべき」「帯同ドクターは何してたんだ」などの意見が噴出しているので、もう私ごときが何か意見を挟むレベルではありません。

ただ今にして思うのは、やっぱり彼は「羽生結弦」であるということです。
あとで映像を見て気がつきましたが、棄権を勧めるスタッフとやりとりした後、彼はリンクの天井に向かって「跳ぶ!」と叫んでいます。
その形相を見て「ああこの人はどこかのネジが外れてしまったんだ」と思いました。ある意味病んでいる目つきでした。
それを、震災復興のために奔走する様子になぞらえて「サバイバーズ・ギルトからくるもの」と言われているのも知りました。

ああ、それが何でゆづるくんなんだろう。
そもそもあの6連のときにリンクにいたのは6人なのに、よりによってなんで彼と(国交的に問題を抱える)中国選手なんだろう。
「神様は試練を乗り越えられる人にしか与えません」…なんて詭弁はこの際横に置いとくとして、彼だからこそ、これほど「劇的」になってしまったのだと思います。
早く言えば、「よいこはまねしないでね」ということかも。アスリート中のアスリートだからこそ、許される結果。

それでも、私は同じ十代の少年の母親として、強く思います。やっぱり棄権してほしかった。
あなたは息子としてはGOEマイナス3、サイテーです。

どうかどうか、精密検査の結果何も異常がありませんように。
これからもハンヤンくんともども、思う存分スケートができまうように。日本の片隅からこっそり祈っています。

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