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「スリル・ミー」 7/19 マチネ 

2012-07-20 | 舞台

ミュージカル「スリル・ミー」 7/19(木)マチネ 銀河劇場1階G列下手

【原作・音楽・脚本】STPHEN DOLGINOFF
【演出】栗山民也
【出演】田代万里生 / 新納慎也  朴勝哲(ピアノ演奏)

刑務所での囚人仮釈放審議委員会。
審議官に問われるまま、「私」は34年前に犯した自らの罪を語り始める。
「私」と「彼」は、なぜ子供を殺したのか。
飛び級で大学を卒業するほどの明晰な頭脳を持った二人に、いったい何が起きたのか・・・。
物語は、34年前に静かに遡っていく――――。

19歳の「私」と「彼」は高等学校以来、久しぶりに再会。
法律大学生で、頭脳明晰、幼なじみでもある彼ら。
ニーチェを崇拝し、自らを特別な人間だと語る「彼」は、『犯罪』を行うことでしか自分を満たすことができない。
「私」はそんな「彼」を愛するがゆえに、求められるままに犯罪に手を貸していく。

より深い束縛を求める二人は、互いの要求の全てに応えるという契約書をつくり、血でサインをする。
裏切りが許されない契約書のもと、二人の犯罪は次第にエスカレートしていった・・・。(公式HPより)

(以下盛大にネタバレしているので未見の方はご注意ください)



去年の初演は高評価だったのに見逃していたので、再演が楽しみでした。
今回の4組のキャストのうち、初演から演じているニイロさんと万里生くんをチョイス。
二人とも他舞台ではさんざん観ているので、作品は初見でもなぜか懐かしい感じ。


シンプルな舞台セット。中央に鉄製の階段があり、2階部分の上手にピアノが見える。
中央に立った「私」(田代万里生)が訥々と過去を語り始める冒頭から、ミステリーめいた雰囲気が漂う。
そして一気に34年前の世界へ飛び、「彼」(新納慎也)がバードウォッチングをしている「私」の背後から声をかける。

ニイロさんは私の中では「イケメンなのに中身は関西のおばちゃん」なのですが、
その立ち姿の格好良さにびっくり。
顔と体のバランス、スーツの着こなし、踵を返すときの颯爽とした動き、
そしてサディスティックな一面を見せる横顔の冷たさ。

そして「彼」に愛されたくてどうしようもない「私」。
もともと仔犬のような万里生くんが、眉間に皺をよせながら歌う
『誰も僕の代わりができない、君を知っているのは僕だけだ』の歌詞の切なさ。

そんな「私」に対して、「彼」は自分が企ているおぞましい計画を持ちかける。
しぶしぶ承諾した「私」を抱きしめ、「彼」はそっとキスをする。
でもそこで「彼」は、「私」を見つめながらこんな仕草をします。
『ほら、口を開けるんだよ。ほら。もっと大きく』
んで「私」の空いた口をめがけてディープなキス!!!!!

ああ~っなんてセクシーなんだろっ!こんな彼に私もいじめられてみたいっ!(←バカ)
しかもこの後「彼」に『これで満足か?』と聞かれ、顔を上気させる「私」の色っぽさ。
万里生くん、なんて健気なのっ!

…と自分の萌えポイントは置いといて(笑)
後で思い返すと、これはとても重要な演出だったと想像できます。
見ている私たちが「私」に感情移入する瞬間。
「私」が彼を追い求めるあまりに引き返せないところまで来てしまっても、
それを受け止める魅力を、「彼」は舞台余すところなく放出する。
こんな「彼」だから、どうなっても構わない…

そして物語は常軌を逸脱した犯罪の詳細を描きますが、
(正直言えば、この誘拐犯の場面だけはまともに見られなかった。家に息子を残している身分には見るに堪えなかった)
見ている観客は「私」と一心同体になり、
一緒になって犯罪に手を染め罪の意識におののき、一緒になって全てを告白する。
ラストは衝撃的などんでん返しがあるんだけど、そのときに「私」が得られるのと同じ大きさで
見ている私たちも大いなるカタルシスを得て開放される…

ここまで私たちを引きつける「私」は、ひとえに万里生くんの表現の素晴らしさに成立しています。
デュエットのときはニイロさんに合わせそれなりなんだけど(笑)、
一人ソロで歌うときの繊細な声、震えるビブラートと一緒に私たちの心も震える。

2時間にも満たない芝居でしたが、濃密な経験ができました。
効果音も担当するピアノが情熱的で素敵でしたが、曲が少し凡庸な印象があったのが残念…
(難曲なのかもしれないけれど)
これは別キャストだと全然違ったアプローチになるかもね。
終演後の「リピータチケット売場」が行列になっていたのも良く分かります。
物語がサスペンス仕立てだと「もう一度観たい」とのハードルが下がりますが、
そっちの世界で萌えたい人、ペア変わりの表現違いを楽しみたい人、純粋なミューファン、
意外と全方位向けでした。
ホリプロだけに限らず、広い幅でキャスティングをして長く再演してほしい作品です。

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