学習障害と英語指導を考える

特別支援の視点から。
どの子もハッピーになるような指導を。

2ヶ月間の音韻意識+読み書きトレーニング終わり

2017年05月21日 | 学習障害について

3月から2ヶ月間実施していた中学生へのスカイプレッスンが終了しました。

 

これまでToe by Toeを使ったデコーディング指導(2014年LD学会発表)

ジョリー・フォニックスを用いた多感覚でのアルファベット文字指導を経て

フォニックス指導で躓いた生徒への音韻意識指導(2016年LD学会発表)で音韻意識をもっと簡単に教えられないかと思い、

昨年度からはチャレンジ教室で小学生への音韻意識指導に取り組んできました。

 

今回は、チャレンジ教室の生徒さんではないのですが、

小学校中学年から漢字がなかなか覚えられない、中学校では英語も難しくなり、

好きだった英語が学び方で嫌いになってしまっているというお子さんでした。

音韻意識とフォニックスを同時に進める指導法を検討中でしたので

指導や検査の結果等を 学会等で紹介することをご了承頂いた上で、

スカイプでの個別指導をスタートしました。
 
結果をブログでも簡単に紹介します。
 
 

Aくんは性格はとても明るくて物怖じせず、お母さんと仲が良く、

勉強にもしっかり向かう気持ちのある生徒さんです。

夜8時からのレッスンではAくんはいつもとても前向きにがんばってくれ、

読めると本当に嬉しい顔をしてくれるので

私も楽しんですることができました。

 

1回の指導時間は15分、
指導回数は合計29回になりました。
 
WISC-IVでは、全検査が65です。

言語処理は良好ですが知覚処理が低め、ワーキングメモリは71でした。

 

指導は、

1文字1音がほぼできている段階からの単語の読み書き指導となりました。

指導教材は、いま作成中の読み書きワークを使いました。

これは、2文字のブレンディングから始まり、

3文字、ダイグラフ、多音節と読み書きを進めていきますが、

音素とオンセット-ライムの音韻意識の操作も同時に行うことで

フォニックスで文字が多くなると生じる操作上の誤りを減らすことを目的にしたものです。

読み書きの前に音韻意識をちゃちゃっとやるだけのことですが。

 

オンセット-ライムはワーキングメモリの負担が少ないため、

単語の読みとスペリングではオンセット-ライム単位を徹底して指導しました。

 

音節に含まれる母音の前の子音をオンセット、母音とその後ろの子音をライムと呼びます。

たとえばbatでは、bがオンセット、atがライムです。

3文字くらいではb, a, t とつなげても間違いませんが、

これが spot, strap, scratchなど文字が増えると

単音節の単語でも1音ずつ混成していくのは時間がかかる上に、

順序をワーキングメモリに保持するために負荷がかかり、

誤りがぐっと増えます。

そのため、単音節ではつねに母音の前と後ろの2つのかたまりで捉え、

混成したり、分解したりといった操作をします。

そうすると、strapでは、strとapの2つの塊になり、ずっと操作が楽になりますね。

 

 

2文字の指導は音素操作を練習しています。

これは既に1文字1音が入っているため、 

2音でしっかりと母音へのアクセントを徹底していきます。

 

3文字単語、子音連結単語では、ひたすらオンセット-ライムです。

文字数が5文字になってもほとんど間違えず「簡単だ」と思ってくれたようで、

「ふはは。これは簡単じゃないのに簡単だと思ってるな。しめしめ」とほくそ笑みました。

だって、オンセット-ライム単位だと、間違えないんです!

フォニックスをしている先生方にも、やってほしい・・・

 



 

アセスメントテストは以下です。

① アルファベット小文字の読み書き(音読み)

② Sutherland PA test

③ 無意味語と有意味語のデコーディング、エンコーディング(読み、書き取り)

 

①のアルファベットテスト8割以上できなければ、

デコーディングができませんのでその確認のためでしたが、

事前テストでは読みが21点/28問、書きが21/28

事後テストでは読みが26点/28問、書きが26/28

事後テストでは母音がきちんととれていたこと、ダイグラフができるようになっていました。

 

②の音韻意識テストは、11種類のテストで

音節、ライム、オンセット-ライム、音素の4項目の操作を確認します。

まったく指導しなかった音節意識の点数は変化がなかったのですが、

オンセット-ライムの混成と削除課題は満点、

音素の混成、削除、分解課題もほぼ正解となりました。

もとから音韻意識は良いAくんでしたが、

特に向上したのが音素レベルで、

混成課題と子音の削除課題はとても良くできていました。

子音の削除課題というのはいくつかあるのですが、

単語の一番最初の子音を除くもの(/box/の/b/を取ると? 答えは/ox/)

もう少しレベルが高いものは、

連続子音(pl, cl, stなど)の削除課題で、第1子音の削除(/plat/の/p/を取ると?答えは/lat/)、

そして第②子音の削除課題(/plat/ の/l/の音を取ると?答えは/pat/)です。

この課題ができるためには、音素の単位で音韻を正しく捉えていること、

そして順序を正確に把握している必要があります。 

 

 

「それが何の役に立つの」と思われる方のために簡単に説明すると、

音韻意識の混成課題は、単語の読みの正確さとスピードに関係します。

また、分解課題はスペリングに関係します。

これらの音韻意識課題が十分に育っているということは、

読み書きの基礎にとても大切なのです。

 

③のデコーディング、エンコーディングですが、

デコーディングの事前テストが9点/20問、事後では18/20でほとんど間違えず。

マジックeのルールを忘れていたようです。

 

エンコーディングは事前テストが8点/20問、事後は10/20でした。

無意味語は、読むよりも書き取る方が当然難しいのですが、

Aくんの誤りは、lとr、vとbの聞き分け間違いといった問題がほとんどでした。

つまりそれほど深刻な誤りではないと言えます。

深刻な誤りは、先ほど示したように音素の単位で音を認識していないことによる

音の脱落、入れ替え、全く違う音の挿入などです。

書き取りの誤りは、その子がどのように音韻を把握しているかを理解するのにとても参考になります。

  

今回は、単音節の単語の読み書きのみで、

多音節の語の読み書きまでは指導しませんでしたが

これから多音節の単語の指導をするとすれば、

音節感覚を指導しながら進めるほうが良いように思います。

(音節の音韻意識は全くできなかったので)

 

Aくんへの指導方法と、誤り傾向の分析は、

もしLD学会宇都宮大会に参加することになればそこで発表できたらな・・・と思いますが、

その前にも英語ユニバーサルデザイン研究会などで指導は紹介していきます。

 

短い期間ですがよく頑張ってくれました。

伸びてくれて、よかった、よかった。

 

 


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