因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ティー・ヴィジョンPresents短編2本立て『控室』/『はつなつ』

2011-12-03 | 舞台

*しのみや蘭 作 田中昌平 演出 公式サイトはこちら アトリエフォンテーヌ 4日で終了
『控室』トラブルがあって花嫁の到着が遅れている。結婚式披露宴の司会者は急ごしらえの控室で気持ちを落ち着かせようとしている。そこへ招待客らしい女性が入ってきて・・・。
『はつなつ』フリーペーパーの契約記者が評判の占いの店に取材に訪れる。出てきた占い師は新米なのか、まるで取材にならない。しかしお互いの会話がかみ合わないのは別の理由が・・・。
 休憩をはさんで小一時間の短編を上演する企画。アトリエフォンテーヌ来年閉館する由。たしかに受付スペースは狭く、ぜんたいも古くはあるが、舞台と客席の距離、ほどよい客席の傾斜など、入ってすぐに心身がなじむ。この雰囲気は一朝一夕にできるものではなく、ここで多くの作品が上演されて、それを受けとめる観客がいてこそ生まれたものだろう。

 最初の『控室』はこれまで何度も上演されており、男性版もあるそうだ。登場人物2人に対して、ダブル、トリプルキャストで6人の女優が出演する。結婚披露宴は華やかで幸せと祝福に満ちた場であるが、その裏側にはとても見せられず、言えないような修羅場がひそむ。特に新郎新婦の過去の恋愛がからんだ問題は深刻だ。現実に見聞きしたり体験したことはないが、心から祝福できない者が現場に乗り込んでくるという話はドラマなどで数回みた記憶がある。
 結婚式場に着飾った女性がわけありな風情でやってくるだけで、観客は、ははん、あれは新郎の元カノだ、自分を捨ててほかの女を選んだ恋人を恨んで披露宴をめちゃくちゃにするつもりに違いないとすぐに下世話に想像し、流れを読んでしまうきらいがある。
 披露宴に直接乗り込むのではなく、司会者の控室に来る。なかなか自分の正体を現さず、じわじわと司会者に迫ってゆく様相が本作のみせどころになるのだが、女優ふたりの演技が大きすぎることが気になった。細かいことだがプロの司会者はもう少し地味目で、それでいて洗練された服装をしているものだ。まだ若い司会者という設定もあろうが、フレアータイプのミニスカートというのはいささか垢抜けず、くだけすぎてはいまいか。
 女優がひとりかわるだけで、芝居ぜんたいの雰囲気が大きく変わる可能性があるだろう。男性版をぜひみたい。こちらのほうがずっと恐そうだ。

 次の『はつなつ』は今回が描き下ろしの初演である。できればいろいろな演出や俳優でこれからも上演を続けてほしい作品であり、この場で詳細を書くことにためらいがあるのだが、ひとことで言うと時間と空間が交錯し、父と娘が演劇ならではの再会を果たす物語、いわば『バック・トゥー・ザ・フューチャー』である。
 過去の部分には自分にとっても懐かしい四半世紀前の(!)世相を示すあれこれが、決して説明台詞ではなく表現されている。対して現在の部分については、やはりこれも細かいことだが記者を演じる女優のヘアスタイルや服装が「いかにも」的な装いではないところは好ましいものの、もうひと工夫必要ではないだろうか。

 今回は演出面、それも極めて表面的なところが気になって、戯曲そのものについて考えるところまで至らなかったのは残念であった。次の課題である。
 次回公演は2013年春、しのみや蘭の『タバコ・バラッド』上演とのこと。この作品は第4回かながわ戯曲賞最終選考に残ったものだ。楽しみにしている。

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