因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

JACROW#12『明けない夜』

2009-07-20 | 舞台
*中村暢明脚本・演出 公式サイトはこちら サンモールスタジオ 26日まで
 最近「刑事もの」のテレビドラマに続けてのめり込んだ。渡辺謙主演の『刑事一代』は録画せずに2日間べったり座り込んで見入ったし、森山未來と武田鉄矢共演の『リミット~刑事の現場2』は録画したものをついつい何度も見返してしまう。前者は犯人が誰かという謎解きやアクション、サスペンス的な要素よりも、刑事と犯人が本気でぶつかりあうさまが、後者はどうして犯罪が起きるのか、痛ましい事件はどうすれば防げるのか、簡単に答はでないけれども何とかしなければならない問題と必死に格闘し苦悩する人の姿が自分を惹きつけるからだ。
 今回劇団初見となった本作は1963年の裕福な家庭を突如襲った誘拐事件を描いたものである。
「刑事もの」の舞台は、パラドックス定数の『三億円事件』『怪人21面相』が即座に思い浮かぶ。いずれも実際にあった事件を取り扱いながら、作者の想像力(と創造力)によって、思いも寄らない事件の裏側やその後のことを描いたものだ。当日リーフレットによれば今回の『明けない夜』も1960年代に起こった2つの事件をモチーフにしているとのこと。

 応接間の舞台美術のあれこれがとてもきっちりしていて、その空気は登場人物の造形や展開にも隙なく行き渡っており、見ているこちらもまったく気が緩められない。舞台はひたすら和田家の夫婦、和田商店の従業員たち、事件捜査に携わる刑事たちの心象をきっちりと描いていく。その「きっちり具合」は真夏の疲れや睡眠不足の自分を舞台を集中させるに充分すぎる力をもつものであった。裕福だが決して人望の厚くない和田夫婦と、夫婦に傷つけられ翻弄されながら、その支配に屈服せざるを得ない従業員たちの人間関係のもつれが引き起こした事件と言ってしまえばそれまでで、強い社会性や現代に対する問いかけや、現代を読み解く鍵を提示しているとは感じられなかったが、和田家に関わる人物は捨て役がひとつもなく、ひとりひとりの造形やその背景にも細かい神経が張り巡らされており、「いかにもいそうな人物」と簡単に括れない複雑な陰影が感じられるのである。

 所轄と本庁の確執など、刑事4人についてはもう少し深い描写がみたいとの欲が出る。息子を亡くした悲しみを背負っているもの、深刻な病いを抱えているもの、管理職として共感しあうそれぞれの上司たち。犯人が誰か、何のために和田家の娘を誘拐したのかはなかなか読めなかったのに比べて、刑事4人の人物の描き分けは早々に読めてしまったようで、残念なのだ。本作には「外伝~それぞれの事情」という、本編の登場人物によるひとり芝居5分×12人が用意されている。こちらをみれば刑事たちのことも、もっと深く感じられるのかもしれない。ただやはり自分は欲張りなのだろう、だったらこの外伝の内容を本編にたっぷりと盛り込む、あるいは秘かに滑り込ませることはできないかと悩んでしまいそうな予感がするのである。
 
 
 
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1 コメント

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記事掲載、ありがとうございます。 (中村暢明)
2009-07-21 16:17:38
記事掲載、ありがとうございます。
またお忙しい中でのご来場、誠に嬉しく思っております。
上記感想、なるほどなあと。頑張ります。
今後ともJACROWをよろしくお願いいたします。

今後はブログだけでなく、「因幡屋通信」も拝読させていただきます。
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