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残雪の阿弥陀岳            2017年3月12日 ( 日帰り )

2017-03-12 | 

  
 
  美濃戸口 ― 行者小屋 ― 文三郎道 ― 中岳 ― 阿弥陀岳 ― 御小屋尾根 

  ― 美濃戸口                                         長野県 茅野市 


 残雪の八ヶ岳を歩きに、ほぼ1年ぶりの美濃戸口にやって来た。初めてだった昨年より季節が1ヶ月ほど進んでいるので、雪は幾分少なめ。その分、厳しい寒さもなく、また、八ヶ岳山荘前の駐車場に着いた時の空は、同じ時刻であっても幾分明けていた。

 山荘のロビーで駐車場の支払いや、トイレ、登山計画書の記入等を済ませ、カラマツ林に延びる林道を歩き始めた。途中、ショートカットの踏み跡に分け入ろうとする私を見て、「後を付いて行ってイイですか?」と、気軽に話しかけてきた単独行の人と進む。
 数年前に山を始めたらしいその人は、昨年夏にはもう北アの大キレットや西穂高岳~奥穂高岳間を歩いていて、今日が雪山デビューとのことだった。くしくも昨年、私が鹿島槍~白馬鑓温泉間を歩いていたとき、お互い同じようなところを歩いていたので、とても話が合い、単調な林道歩きのはずが、あっという間に美濃戸に着いた。

 ここでアイゼンを付けるというその人と別れ、南沢ルートへと踏み入る。昨年の時と同様、急にフカフカの雪が増えてきた。昨年のトレースでは沢のつるつるした氷の上を何度か歩かされたのに対し、今年のトレースは沢に降りることは無かった。

 雪原にカラフルなテントが並ぶ行者小屋前に到着。歩き始めからここまで、休憩することなく一気に来てしまった。今回の目標の一つに、“ 山に居る時間をゆっくり楽しむ ” というのがあったので、ここはゆっくりコーヒーでも・・と、お湯を沸かし、一息入れた。

 稜線をぐるっと見上げると、もう多くの人が各ルートに取り付いていて、これから向かう文三郎道にも人影が見える。
 
今日は素手でアイゼン装着をしていても、指の冷たさに顔がゆがむことも無く、昨年、小屋の中に駆け込んでは玄関先のストーブで手をこすっていた初心者マークの自分が懐かしい。

 

             これから登る阿弥陀岳をバックに

 
 
阿弥陀岳北陵ルートなどへの直登トレースを右に分け、文三郎道分岐を目指す。夏道のハシゴ段はまだ雪の下で、その上に刻まれたステップを息を切らして登る。そして、ここを登りきると、いよいよこれからの登る阿弥陀岳と真っ向対峙できる地点にまで達した。
 
昨年、頂上へ続く雪の急斜面を見て、おおいに登攀意欲をかきたてられ、今、こうしてまた来ているのだ。普通、目の前に現れる急斜面を見れば、これから強いられるアルバイトに気が重くなるのに、このワクワクする気持ちはいったい何なのだろう・・・。
 
「 さあ、楽しもーっ 」
と声を出した。

 
               文三郎道分岐からの阿弥陀岳全容

 


        雪崩の危険はあるものの中岳沢ルートにはしっかりとしたトレースが。
           樹林帯中央の白い雪原に雪を被った行者小屋が見える。


 文三郎道の分岐で直角に向きを変え、ここからは赤岳を背にして中岳への鞍部へと、広々とした斜面を少しだけ下る。今日はほとんど風が無いが、このあたりは強風地帯で雪も飛ばされている感じだ。

 
下り切ったところからが、いよいよ楽しみにしてきた登りだ。適度に緩んだ雪に恐怖心は覚えず、斜面に取り付く。ピッケルを差し込み、足を運ぶという動作を数回続けては、ひと呼吸休む・・。この時、片膝を斜面に添えられるほどの急勾配。
 これを無心に繰り返しながら、ふと前を見上げると目の前が空だけとなった。
「えっ、もう登り切っちゃうの?」
と、物足りなさと自分のパワーに驚きながらも登り切ろうとした次の瞬間・・・、大きく阿弥陀岳が現れた???

            
            中岳からの阿弥陀岳。中央やや左上のトレースに下降者がいる。

 
 まず手前に中岳のピークがあり、その後いったんコルへ下ってから阿弥陀岳本峰への登りがあることは理解していた。にもかかわらず
進む途中で錯覚してしまい、今登っていた中岳の斜面が、感覚のなかで阿弥陀岳頂上への斜面になっていたのだ。
 
さすがにこの時は、現れた本番の急斜面にたじろいだものの、すぐに “ 楽しもー ”  モードに気持ちが切り替わった。
 このあたり
中岳のピークは馬ノ背状になっていて、一人分のトレースしかない。強風下での通過には緊張が強いられそうだ。

 コルを隔て、迫る阿弥陀岳の急斜面を2組の登山者が降りて来ていた。目を凝らして見ていると、四つん這いになって降りて来ている。涸沢から奥穂高岳・北穂高岳への斜面や、剱岳の平蔵谷の下降でもそこまではしなかったので、相当な傾斜のようだ。
 ( 楽しみーっ

 中岳の登りと同様、ピッケルを差し込み、一歩ずつ足を進める。見上げると上からまた降りて来る人がいて、その人も四つん這いになって降りて来ている。その足元からは雪の塊が落ちて来るが、雪を落とすなと言っても無理な相談だ。そしてすれ違いでは、登り優先という山のセオリーどおり、私はそのまま直進、その人は少しだけ避けてくれていた。
 すれ違う時にちらっとその人に目をやると、深く差し込んだピッケルを両手でつかみ耐風姿勢を取っていた。
 
(そこまでするか・・?)と内心思ったが、この傾斜ではそれが普通かも知れない。お互い顔を見て挨拶を交わすほどの余裕はなかった。

 頂上も近くなり、少し傾斜が緩んだ所で振り返ってみた。やはりこの傾斜角度だと、下降は相当な恐怖心を覚える。四つん這いでないと下れないっ!!


 
             山頂から眺める八ヶ岳主峰・赤岳

 
 正午過ぎ、頂上に立った。阿弥陀岳は八ヶ岳連山の中でも少し独立した位置にあり、360度の展望が待っていた。違う角度からの赤岳を眺め、南側を覗き込めば南陵が複雑な地形をのぞかせている。
 権現岳の向こうには南アルプスや富士山、奥秩父も遠望でき、北に目をやれば遠く上越国境の山々から左へ、志賀高原の横手山、妙高、白馬、後立山、槍・穂高、乗鞍、木曽御岳までの連なりが一望できた。

 この時、山頂にはちょうど南稜を登り終えた風な二人連れのパーティーがいたが、御小屋(おこや)尾根方面へと行ってしまうと、もう誰もいなくなった。山頂でお湯を沸かして昼食を、とも考えていたが、これから先のひと気の無い御小屋尾根を、一人で下るにはまだ危険な個所もあるので、安全な地点に降り着くまで昼食は我慢しよう。足元から延びる尾根も、美濃戸口までまだまだ遠そうだ。


 
               山頂をあとに御小屋尾根へ下る

 
 下り始めてすぐ、高度感たっぷりの西ノ肩の稜線通過があった。もし強風にあおられバランスを崩そうものなら、そのまま右か左に滑落だ。なおも続く急斜面をロープに沿ってジグザグに降り、やがてモミの灌木が現れるようになってようやく危険地帯も終りを告げた。

 しばらく行くと日向ぼっこに良さそうな雪の緩斜面が現れたので、ここで大休止。お湯を沸かして昼食とした。日焼けや雪目にならないように太陽を背にして腰を降ろす。小1時間の休憩の間、1組のパーティーが通り過ぎただけの静かなランチタイムだった。


 
              御小屋尾根の途中で阿弥陀岳山頂を振り返る

 ここから先、傾斜は緩くなるものの、美濃戸口までの下りはまだまだ長い。午後の木漏れ日の中、ここからはモミの樹林帯にほっこりとした雪歩きを楽しもう。
 
雪の上を行く自分の足音以外、音のしない時間が延々続く。ネット情報だと、ここから先は我々登山者より、何倍も多くのカモシカさん達が生息しているらしい。子連れのシカにバッタリ出くわし、突進でもされようものなら無事で済むわけがない。時折、独り言を口にしたり、ストックをカチカチ叩いて音を出しながら下った。

   

 
 御小屋(おこや)山に着いた時、すでに15時を回っていた。真冬に比べ陽は長くなったとはいえ、はじめてのルートゆえ不安がつきまとう。お昼休憩を終えて出発しようとした時に、阿弥陀岳山頂の方から降りて来る二人連れの姿があったことを確認していたので、自分より後にまだ人が居るのは心強いが・・・。

 美濃戸口への道を間違えないよう、ケータイのグーグルマップで位置情報を確認しながら慎重に歩き出す。
 
雪が次第に少なくなり、さらに傾斜も緩くなって別荘分譲地へと入っていった。やがて yatsugatake J&N  の電飾が見えてくると、やっと長い下りも終了。早朝、車を停めた駐車場に車はほとんど残っていなかった。
  

               *    *    *    *    *

 

 昨年2月、はじめて雪の八ヶ岳に足を踏み入れた時、たっぷりの雪に覆われた阿弥陀岳山頂への登攀ルートに強く心を動かされた。そして、ここにトライすることと、そのあとに続く御小屋尾根の静かな雪尾根下りを楽しみに1年を待った。そして念願かなった今日の山行き。穏やかな晴天にも恵まれて、雪と戯れる楽しい1日となった。


 美濃戸口 6:00  ―  行者小屋 8:30  ―  文三郎道分岐 10:40  ―  阿弥陀岳山頂 12:15
 ―  昼食休憩地点 13:10  ―  御小屋山 15:05  ―  美濃戸 16:40


 

                               

 


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