鳩山テラス


里山の四季、遥かなる山稜 ・ ・ ・
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早春の谷川岳 (天神尾根 往復)         2014年3月23日

2014-03-23 | 

                                            ― 上信越 群馬県水上町 ―

 雪と戯れる春の山登りがしたくなり、3月後半の谷川岳へと向かった。
 ジグザグの登山道もヤブも岩も、そのすべてを豪雪が覆い隠してしまう上越国境は、この時期まさにパラダイス。まずは雪山初級者でも歩ける、ロープウェイ利用の天神平から山頂往復をめざすこととした。

 数日前から天気図を眺め、高気圧の中心が本州に移動して西高東低の気圧配置も緩み、穏やかな晴天になるであろう、と確信してやってきた。しかし、なぜか谷川岳方面だけは雲がとれない。車を走らせながら見える浅間も赤城も日光方面の山々も、その白銀の姿を朝日に輝かせているというのに・・・。

 谷川岳ロープウェイ駅の駐車場に到着しても天気の状況は変わらず、30分ほども車の中に居て進退を考えた。
 今日はあきらめて帰るか、それともせっかく来たのだから、一ノ倉沢の岩壁を眺めに山麓を周遊しようか、あるいは白毛門の往復に切り替えようか・・。
 
ただ、ロープウェイの山頂駅はずっと見えていて、視界は良好だし、気のせいか雲の流れが速くなったようにも感じられる。そして、なによりスマホで確認する天気図は、高気圧が予想通り本州上空に来ている。だから次第に雲も取り払われて、紺碧の空が広がって来るに違いない・・・、と、期待を込めて決行することにした。
 (
一番嫌なのが、あきらめて別案に変更したとたん、天気が回復して晴れてくることだった)

 登山カードの提出を済ませ、スキーヤーやボーダーとともにロープウェイに乗り込む。時折、雲が割れ、朝日が差し込むとキャビンの中でも歓声が上がる。しかし、谷川岳の山頂付近は、まだここからも姿を見せてはくれない。

 
山頂駅に着き、改札口の詰所でポリタン満タンに水を頂いて、スパッツ、アイゼン等雪支度を整え、さあ出発。昨年秋に来た時、登山道は小尾根を巻き気味に樹林帯の中へと進んだが、積雪期はスキー場北側の端をロープに沿って直登するようだ。トレースはしっかりとついていて、前方には見えるだけでも10人くらいの登山者が歩いている。小規模な雪庇のようなところを真下から乗り越えると、スキー場から完全に離れた。
 いよいよ谷川岳へと続く雪稜歩きとなる。見上げる山頂方向の、黒い岩影のあたりから上部はガスに覆われ見えないが、そこまでの雪稜にも、さらに20人くらいの先行登山者が見える。既に登頂を終えた下山組もいるようで、予想していたより多くの人が登りに来ているのだなと思った。

 昨年秋、休憩したことのある熊穴沢避難小屋が立つ地点まで来たが、建物はまだ足元の雪の下で、その姿は無い。おそらく4メートル位の積雪なのだろうが、雪がすべての凹凸を覆い隠して、そこを歩くのは本当に楽しい。

                                                                                                                              
                       熊穴沢避難小屋はこの雪の下。


 避難小屋を過ぎてからは吹きさらしの稜線歩きとなり、振り返れば天神平スキー場が次第に下方になってゆく。天狗の留まり場とよばれる岩のあたりで、一息入れているころから断続的に強風が吹くようになった。ここで引き返す山スキーの人達も出てきたが、予想以上に多くの登山者が登っていて、トレースもそれなりに残っていることから、これから先、視界が効かなくなっても何とか肩ノ小屋までは行ける、と判断し前進する。昨年秋の時もほとんど視界が効かないなかでの前進だったし、とにかくこのまま雪の斜面を直登すれば良い。そして傾斜が緩くなったところが肩の広場で、小屋は左横に目と鼻の先だ。視界は20メートル程と、ほとんどホワイトアウトに近い状態であったが、幸いなことに時折ガスの中から現れる下山者にも助けられ、目印の竹棒を見落とすことなく登り切り、肩ノ小屋の姿を見つけた。

 
結局、ロープウェイ山頂駅から2時間という、かなり早い時間で到着した。 ここから山頂(トマノ耳)までは5分くらいだろうが、白一色の何も見えない頂上に、この強風を突いて進む気はしなかった。昨年秋に続いて、山頂からの360度の大パノラマは又もおあずけ。
(うーん・・・、なかなか見せて貰えないな・・。)

 小屋には10名程が休憩中で混雑していた。特に玄関付近はアイゼン、スパッツの着脱をしている人が二人いるだけで上がり口を塞いでしまうほど狭く、空いた時を見はからっての出入りが必要だった。板の間に上がり防寒着を脱ぐと、身体からは盛んに湯気が昇った。

  小1時間の休憩後、相変わらずの強風と視界の無いなか小屋を出た。肩ノ広場で降り口を西黒尾根方向に間違えると面倒なことになるので、地図とコンパスで天神平スキー場の方角だけはしっかりと再確認して下山を開始。しばらくはホワイトアウトの斜面に自分ひとりきりの下降が続いた。
 
幸運にも下から一人の登山者が登って来て、すれ違う際に、
「小屋はこっちでいいですか?」 と聞かれ、逆にこちらからは
「天神平からですか?」
と尋ね、お互いに進む方向を確かめ合うことができた。

 さらに下ると目印の竹も1本見つけることができ、やがて登りの時に小休止をした天神ザンゲ岩の黒っぽい影を見つけたときにはホッとした。ここで雲の下に出たのか急に視界が利き、天神平スキー場も足元に見えている。これで大丈夫、と小休止していると、上から単独の人が降りてきて、少し話をすることができた。
 聞くとその人は西黒尾根を登ってきて、コルから上にトレースは無く、視界も効かない中で撤退しようかと迷っていたら、一人の若い人が下から追い越してきて、「これくらいなら大丈夫ですよぉ」 と、どんどん登って行ったとのこと。その人のトレースを追うことで山頂まで来れたのですよ・・、と話してくれた。
 
西黒尾根も山頂近くは、今も雲に覆われてその姿は見えないが、そこまでの急峻な登り角度と、稜線のいたるところにある雪庇を見る限り、西黒尾根は自分の力量ではまだ無理だと思った。        

                                       天神平スキー場を目指して下る登山者。



 
 ここまで降りてくれば視界は良好。めざす天神平のスキー場もしっかり見えているので、ここからはのんびりと雪原と戯れながら下った。頭上を流れる雲の直ぐ上には、やはり紺碧の空があって、今、こうして雪の上に寝転んでそれを眺めていると、つい1時間ほど前まで厳しい山登りをしていたことが嘘のようだ。
スキー場エリアに入ってしまうギリギリの地点でもまた腰を下ろし、30分ぐらいも奥利根源流の白い峰々に目をはせた。そして充分に雪山の眺望を堪能したのち、再びスキー場内へと下った。

     *   *   *   *   *   *   *   *   *   *

 今日は晴天を確信して谷川岳にやって来た。しかし、夕方になっても谷川岳山頂付近だけは雲がとれず、これが魔の山と呼ばれる所以なのだろうか? 
 ロープウェイを利用した天神尾根ルートの往復は、この時期、天候に恵まれれば気軽に山頂をきわめることの出来る楽しいコースだ。今後、このような残雪期のスノーハイクにハマってしまいそうな、そんな今日の山登りだった。

 

(山行メモ)

天神平ロープウェイ山頂駅10:00発  ~ 肩ノ小屋 11:50着 12:40発 ~ 天神平ロープウェイ山頂駅 15:40着

・アイゼン、ピッケル使用。ストックの方が役に立ったと思うが、唯一、耐風姿勢を取らなければならない時のみピッケルが役に立った。
・アンダーウェア ― 薄フリース ― レインウェアで対応。
・登山者数30~40人程度。そのうち半数がスキーヤーやボーダ―で、山頂直下の大斜面から西黒沢に滑り込むグループもいた。
・肩ノ小屋は土足では上がれない。混雑時、アイゼン・スパッツの着脱場所が狭いので、そのまま取らないで玄関付近で休憩したほうが良さそう。