鳩山テラス


里山の四季、遥かなる山稜 ・ ・ ・
               グラスを持ってテラスに出よう!

厳冬の赤岳                  2016年2月7日 

2016-02-07 | 

 

美濃戸口 ― 行者小屋 ― 地蔵ノ頭 ― 赤岳山頂 ― 文三郎尾根道分岐 ― 
― 行者小屋 ― 赤岳鉱泉 ― 美濃戸口
                                              長野県 ・ 山梨県            
                     

 週末の好天気予報に誘われ、どこかの雪山を歩いてみたくなった。どこにしようかと迷ったが、結局、最も歩いてみたかったのが、かねてから想いを募らせていた雪の八ヶ岳・赤岳だった。暖冬とはいっても、この時期の赤岳が自分のレベルを超えているという自覚はあり、とりあえず行者小屋あたりまでのスノーハイクでも良し、というぐらいの気持ちで向かうことにした。

 

 出発の前夜、19時に就寝。夜中に起き出して、自宅の玄関を開けた時の降雪にはびっくりしたが、山梨方面の好天を信じて降雪の中を出発。案の定、甲府盆地に入ったあたりで星空となった。中央道を諏訪南ICでおり、登山口の美濃戸口へと向かう。満点の星空の中、早朝4時過ぎに八ヶ岳山荘前の駐車場に到着すると、既にたくさん(70台くらい)の車で埋まっていた。まだ暗闇の山中で、山荘の1階ロビーだけが煌々と照明がつき、多くの登山者が出発の準備をしている。さすがに人気のこのエリア、思っていた以上に多くの登山者が入っている感じだ。

  ヘッドランプをつけ、きゅっ、きゅっと雪を踏みしめ、まだ暗い林道を行く。時折、後方から四駆の車がやってきて、そのたびに道を譲りながら進む。ようやく空が明るくなり始めた頃、7年程前に来た時に、見覚えのある建屋が並ぶ美濃戸に着いた。
 当初ここからは、氷の踏み抜きなどの不安の少ない北沢ルートで入山する予定でいたが、実際に来てみるとそんな不安は感じられず、迷わず南沢コースで直接行者小屋を目指す。厳冬の赤岳鉱泉名物“アイスキャンデー”(人工氷瀑)は帰路に眺めることとしよう。

 南沢に入ると片栗粉のような雪も一段と深くなり、
 (この雪を踏みに来たんだ・・) 
と、真冬の八ヶ岳に来ている喜びをかみしめる。トレースはしっかりと付いていて不安もない。スケートリンクのような氷上を横切り、氷瀑登りの人達のテント群の脇を抜け、明るい沢の上を行くと、八ヶ岳の主稜がどんどん近づいて来た。

 雪をまとったコメツガの森が途切れ、人の声が聞こえ始めると、見覚えのある行者小屋が現れた。まだ陽が射す前の雪原には、十数張りのテントも張られている。赤岳鉱泉方面からのルートがここで交差し、小屋の前にはたくさんの登山者が、稜線への本格的な登りを前に身支度を整えていた。


               陽のあたりはじめた阿弥陀岳を望む。   行者小屋より
                
 天気は快晴。風も無いが、まだ阿弥陀岳の上部にだけにしか陽が当たっていないこの時間は、とにかく空気が冷たい。カメラをザックから取り出したり、操作をしたりしているだけで、素手の痛さに顔がゆがむ。慌てて小屋に入り、玄関のストーブで手をこすり合わす始末だ。下山時に美濃戸口で見た寒暖計が-10℃だったことを考えると、この時の気温は-20℃近いと思われる。グローブをしたままでも身支度が出来るようにならないと、ヤバいかもしれない。

 行者小屋は積雪期でも週末のみ営業していて、冬の八ヶ岳を楽しむ登山者のベース基地のひとつになっている。美濃戸口からの2本の入山ルートのほか、地蔵尾根、文三郎尾根、そして阿弥陀岳北陵の3本の登攀ルートがここから延びていて、それぞれを見上げると既に多くの登山者がアリのように行き交っていた。
 (意外に稜線が近いな・・・)
7年前の夏に感じたのはもっと急峻で高度感のある稜線への道のりだった。雪が険しさを覆っているのかもしれないが、躊躇することなく赤岳山頂を目指す。

  地蔵尾根ルートに分け入って行くと、さらに雪がフカフカになった。多くの人が入っているので、トレースはしっかりと付いており、進む方向に迷うことは無い。前方の稜線から、この日初めての陽が射してきた。振り返ると真っ白に輝く阿弥陀岳が神々しい。
 森林限界を越えたあたりからいよいよ足元が切れ落ち、雪に埋まったクサリに沿ってトレースを慎重にたどる。雪がもっと固かったり、強風にさらされていると緊張する場面かもしれないが、今日はそのようなこともなく主稜線まで来れた。このコースで難所と言われるナイフリッジも “ ここがそうなのかな? ”  と思う程度で通過してしまった。


                        地蔵尾根上部を行く

 地蔵ノ頭に立つと、もう目と鼻の先に赤岳天望荘があり、そのから山頂に向けて真っ白な急斜面が突き上げている。赤岳のこの雄姿を見れただけで、今日、ここまで来れた喜びを感じた。後から登って来た登山者と言葉を交わした時に、 “ 以前に来たときの風は普通に立っていられない程だった。今日はまだ穏やかなほう。” と話してくれたが、それでも風が肌に痛い。 

                                                                                                                                                         
              稜線(地蔵ノ頭)に出ると赤岳が悠然と視界に飛び込む



                 厳しい自然の中で冬期営業している赤岳展望荘
 

                地蔵ノ頭からの阿弥陀岳。 手前は地蔵尾根ルート最上部


小屋の山梨県側で風を避けながら休憩し、いよいよ山頂への雪面に踏み出す。7年前の夏に山頂から下って来た時、かなりの急勾配だったように記憶していたが、雪も適度に付いていてそれ程でもない。ピッケルをしっかり刺し、アイゼンを効かせて一歩ずつ慎重に・・・、という感じの登りではなく普通に登れた。ただ北西の季節風が、このあたりから一段と強さを増し、顔の右半分が痛くなってきた。

 赤岳山頂に着いたが、風の冷たさにカメラさえ取り出す気にならず、すぐに赤岳頂上小屋(冬季閉鎖中)の建屋の外で風を避けての休憩をとる。ザックから取り出したおにぎりは、明太子がシャリシャリのシャーベット状になっていたし、水筒の飲み口も氷でふさがれ、鉛筆1本分の穴しか開いていなかった。

 ここでの休憩中に凍傷の疑似体験ともいえる経験をした。1枚ぐらいは記念スナップを、と三脚をセットしたり、セルフタイマーの設定に手間取っている間に、最初感じていた手の痛みが、スナップを撮り終えた時には、両手ともに指の感覚が無くなっていたのだ。
 慌てて手をこすってみるも感覚が無く、少し焦り気味に股間や内股に手を入れ、直に肌の体温で温めること5分。やっと感覚が戻って来たのだった。今朝も身支度をしているときに感じたことだが、グローブを付けたまま身支度が出来るようにならないと本当にヤバい。


 

 
 下りは文三郎尾根でのルートをとる。ところが山頂からの出だしで、いきなりルートを誤ることとなった。山頂に残されたトレースに導かれるまま阿弥陀岳側に下りかけたが、7年前に通過したルンゼ状の岩場とは違う。おかしいと思い、すぐに引き返したが、赤岳の岩壁を登ってくるバリエーションルートに進んでしまったようだ。やはり、雪山を目指す前には一度必ず夏道を歩いておくべき・・とは、このことだと思った。

 正しいルートは権現岳方面への縦走路を少し南下し、大きな岩の覗き窓のようなところからルンゼ状の岩場へと下るものだった。この岩場には鎖を頼りに登った記憶があり、岩と雪のミックスになるここの下りが、今日のルートの最大の難所と位置付けていた。しかし実際には、雪が溜まっている箇所が結構あり、そこを選んで足を置くように下ると、逆に楽しい下降となった。そして何より、南西向きのこのルンゼは、地形的に強風が避けられ、太陽の暖かさにホッとできる所だった。


                    山頂南西面直下、ルンゼ状の岩場の下降


 岩場を降り切り北西側に回り込むと文三郎尾根道の分岐があった。こここそ息も出来ないほどの強風が吹き荒れているものと想像していたが、不思議と風はおさまり、しばらくここでザックを降ろした。

  見上げれば赤岳の雪壁に圧倒され、目の高さには、阿弥陀岳の肩越しに遠望する諏訪の街並みに高度感を感じ、眼下に広がる白い樹林は、稜線の雪と一体となり、そのまま紺碧の空へと溶け込むかのよう・・・。
 (まだ降りたくない・・。)
 人の姿が消えた午後のこの時間帯、冬の八ヶ岳の森を見下ろす高台で、まるで別世界に居るような感覚にとらわれた。


                           八ヶ岳ブルー !!!



                       中岳(手前のピーク)と阿弥陀岳


 
                    文三郎尾根道の途中で赤岳北西壁を見上げる
 
 
 今朝通ってきた行者小屋の前を再び通過し、赤岳鉱泉につながる森へと入った。森に積もった雪が風音や足音を吸収するのか、とても静か。赤岳の登攀を終えた安堵感もあって、午後の木漏れ日にほっこりとする道が続いた。

 赤岳鉱泉には、冬の名物 “ 人工氷瀑 ” (通称:アイスキャンディー)なるものが出現していて、午後の日差しを浴びて輝いていた。ここで氷壁クライミングに興じている人達を眺めながら雪の上に腰を降ろす。大同心、小同心といった八ヶ岳の稜線をバックに、今ここだけにしか無い、なかなかの光景だった。


                     赤岳鉱泉付近の樹林帯から大同心を見上げる


 
                   赤岳鉱泉に出現した ” アイスキャンディー ”

 
 もう15時を過ぎようかという時間。凍りかけのシャリシャリしたおにぎりを全部お腹に詰め込んで、いよいよ下山を開始。アイゼンもここではずして、これで八ヶ岳ともお別れだ。

 遠くなる主稜線をたびたび振り返っては、今日一日、最高の天候に恵まれたことに感謝しながら、美濃戸口までの長い道のりを急いだ。

           *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   

 ( コースタイム )
 美濃戸口 5:15 ~ 行者小屋 8:30 ~ 地蔵尾根経由 ~ 赤岳天望荘 10:45 ~
 ~赤岳山頂 12:00 ~ 文三郎尾根経由 ~ 赤岳鉱泉 14:40 ~ 美濃戸口 16:50

                                                  


最新の画像もっと見る

コメントを投稿