鳩山テラス


里山の四季、遥かなる山稜 ・ ・ ・
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残雪の遠見尾根          2015年4月26日 ~ 27日 ( 1泊2日 )

2015-04-26 | 

[1日目] 白馬五竜スキー場 ― 小遠見山 ― 大遠見山 (テント泊)
[2日目] 大遠見山 ― 五竜山荘往復 ―小遠見山 ― 白馬五竜スキー場                                  
                                                         長野県 ・ 白馬村

 1年間、ずっと楽しみにしていたゴールデンウィークの残雪登山。今年は北アルプス・遠見尾根から、五竜岳、鹿島槍ヶ岳を間近に眺めるプランを考えた。このコースは白馬五竜スキー場のゴンドラ利用により、比較的楽にこれらを展望する場所にたどり着け、尾根には幕営に適した雪原が数ヵ所あることから、今年はここにテントを張って春山を満喫して来ようと思う。


   [ 1日目
 ]   快晴
 
 
白馬山麓も、間もなく桜が満開になろうかというこの時期。残雪残る後立山連峰を望むところに、1年ぶりにやって来た。
  白馬五竜スキー場のゴンドラ乗り場で、水道水の調達と登山カードの提出を済ませ、さっそくゴンドラ車中の人となる。大方のスキーヤー、ボーダーは既に上部ゲレンデに行っているのか、ゴンドラ乗り場に人の列は無く、一人でゆったりとキャビンを占有できた。山頂駅までの8分間に、スパッツ装着、ストック組立、日焼け止めクリーム塗りと、手際よく準備を済ませた。

  春スキーを楽しむ人達の歓声が交差するゲレンデ内を、横切るところから今回の登山がスタート。天気が良いので薄着で登る。リフトの最上部からひと登りの地蔵ノ頭に立つと、これから登る遠見尾根が見渡せた。まだまだ雪がたっぷりと残り、春山全開の尾根歩きが楽しめそうだ。
 まずはブナ林の直登。まだ歩き始めという事もあり、アイゼンとストックでガシガシ進めた。小尾根まで登り着くと、昨年登った八方尾根がおおらかに見渡せ、振り返れば白馬山麓の集落や道路が箱庭のように見える。
 雪上の一歩一歩に息は切れるが、自由なルート取りと目前に迫る白馬の大パノラマに、疲れを感じない雪尾根歩きを楽しめた。
 
                      眼下に広がる山麓の家並み
                                

  正午過ぎに小遠見山に到着。ここからの眺めは圧巻で、鹿島槍、五竜岳、唐松岳、白馬岳と、後立山連峰の名だたる峰々が目前に迫る。振り返れば、足元に広がる山麓の田園風景を隔てて、遠く火打山、妙高山や戸隠、斑尾方面の山並みがのどかに映る。雪山の景色に恋しくなったら「ここに来よう。」と、ひそかに自分のお気に入りスポットに入れた。


                                            五竜岳へと続く遠見尾根


               小遠見山山頂は鹿島槍(左)と五竜岳(右)の好展望台


                           五竜岳をバックに 
 
  ところで、スキー場からここまで、数組の人達と同じようなペースで進んできていたので、この人達もこの先でテントを張るのだろうと思っていた。これならば雪山の一夜も心細い思いは無さそうだと、少しホッとしていたのだが、実は、全員ここまでの日帰り組だったことが、このあとわかる。「さあ、そろそろ引き揚げますかー」的に、おもむろに帰路に着く準備を始め出したのだ。
 「そっかー、ここまでが目的の人達だったんだ・・・。」
どおりで皆、やけにのんびり昼食タイムを取っているなと思っていた。
  今夜の幕営地点は、大遠見山を越えたあたりの平たい雪原を予定しているので、あと2時間ぐらいで到着する。これならばゆっくり進んでも、明るいうちにテントの設営が出来るが、ここから先は私一人か・・・。

 小遠見山から遠見尾根は右に曲がり、五竜岳の隣の白岳へと続いている。小さなアップダウンが幾つかあり、それを越えるたび、針葉樹越しに五竜岳や鹿島槍がいい感じで迫って来るので、何度もカメラを出してはシャッターを切ってしまう。足を進めている時間より、こうしてカメラを構える時間の方が長いくらいだ。


                中遠見、大遠見、西遠見とアップダウンが続く


                            五竜岳



                          鹿島槍ヶ岳

 中遠見山を過ぎたあたりでは、尾根の右側に続く雪庇に気を取られ、ついつい左側にルートを取り過ぎてしまう。尾根へ戻るために急な斜面を登り返さなくてはならなくなり、ここで今日初めてピッケルを出し、谷への滑落に備えた。
 ここを突破すると、広々とした雪原のような尾根に出て、ここが大遠見山の幕営適地だと分かる。なるほど数日前に、誰かがテントを設営した際の、風よけブロックが残っている。そして、なおも進んだ所には、それが数ヵ所にかたまって残っていたので、その一つを今宵のテントサイトにすることにした。

 やはり誰もいない・・・。広々とした雪原に、ぽつんと私だけのテントが張られるのだ。今はまだ午後の日差しが明るく、見晴らしの効く気持ちの良い場所だが、暗闇が訪れたときが問題だ。はやる気持ちに微妙に手が震えているので、ここはあえてゆっくりとテント設営をすることにした。腕時計にちらっと目をやり、設営完了までの時間も把握する。幸い、風が無いので着々と進む。
 前回初めて雪上でテント設営をした涸沢では、土嚢袋に雪を入れてペグの代わりとしたが、2回目の今日は、通常のアルミペグを寝かせて、雪に埋め込むやり方にした。ピッケルで雪を堀り、ロープを巻いたペグを埋め込む。締まった春雪なので、なかなかしっかりと効いている。このやり方の方が簡単で、風に対する強度もありそうだ。設営に要した時間は、室内の整理も含めてちょうど1時間だった。

 不思議なことに今まで無風だったのが、やっとテントのなかでゴロっと横になった時、ゴォーーという音とともに風が吹き始めた。その急な変化に驚いたが、気圧配置的には安定しているはずなので、この風は陽が傾いて気温が下がり、空気の流れが変わった時に吹き出す風ではないかと思った。設営後は少し周りを散歩したが、稜線の向こうに陽が隠れると急に風が冷たくなって、着込んでいてもガタガタと震えた。

 夕食後は早々にシュラフにもぐり、寝てしまうことにした。熊やお化けが出ないよう、匂いのする残飯はジップロックで密閉し、携帯ラジオはNHK第一放送をかけたままにして・・・。
 
夜中に一度トイレに起きたが、遠くにきらめく大町市街の夜景と、自分の背後の暗闇にそびえる岩峰に身震いがした。

 
                          幕営地の朝

     [ 2日目 ]   快晴

 目を覚ました時、もう外は明るくなっていた。今日も快晴だ。テントから這い出して、ふと五竜岳の方に目を凝らすと、白岳手前の斜面を登っている登山者が見えた。私以外にもこの尾根に幕営していた人が居たのだ。その人影は雪の急斜面をトラバースして、五竜山荘へと向かっているようだ。このトラバースは、上部からの雪崩に要注意の場所なので、その行動は大胆にさえ見えた。

 今日の予定は、テントはそのままに、まずは五竜山荘に登る。そこで雪の状態と時間をみて、五竜岳への山頂往復をするかどうかを決め、再びテントに戻り、撤収して往路を下るというものだ。ただ、今の意気込みでは、頂上往復はパスしてもいいかな・・・、それよりのんびりと雪歩きを楽しみ、早めに山を降りたら降りたで、帰りに軽井沢に寄って買い物でもしよう・・・、という気持ちの方が強かった。

  昨日の白米の残りとインスタント味噌汁で朝食を済ませ、6時に出発。まだ気温も低く、雪も締まって歩きやすい。西遠見山と思われるあたりまで来たとき、一張のテントを発見。さっき白岳の斜面をトラバースしていた人のものだろう。そして、そこからわずかに進んだ広い雪原の端にも、数日前のものと思われるテント設営の跡が幾つか残っていた。
 このあたりまで来ると、鹿島槍の双耳峰が望められる角度となり、五竜岳に至っては菱形の紋章が圧巻の迫力で迫ってくる。


                   昨年、同じ時期に登った唐松岳と八方尾根 


                      鹿島槍ヶ岳の双耳峰と北壁

 いよいよ雪に覆われた白岳の登りが目前に近づいた。鞍部を隔てて仰ぎ見る斜面には、幾つかの踏み跡があり、どのルートで登るか迷う。とりあえず最初は尾根筋と平行に取り付き、ある程度まで登った地点から、左へトラバースする踏み跡を行くことにする。
 ここからはカメラはザックに締まって登攀に専念。雪崩に注意しながら慎重に歩を進める。上部に幾つかの雪の割れ目ができているが、人間一人が横切ったところで、びくともしなさそうである。このスケールでは、私など雪の傾斜を行くアリ1匹といった感じだ。それでもなるべく立ち止まらないようにして、斜めに登りきり、五竜山荘の建つ稜線に着いた。

 営業開始の数日前の山荘に人の姿は無く、外にテントが一張あるだけだった。小屋の玄関を開け、声を掛けるが、奥の方で人の気配はするものの返事は無い。仕方なく無断で外トイレを使わせてもらうが、特筆すべきはここのトイレ。扉を開けた時には気がつかないが、しゃがんだ瞬間、目の高さに来るアルミサッシの窓からの眺めにびっくり。窓越しの五竜岳が実に鮮やかなのだ。用を足している時に見える景色の良さと、この解放感は、おそらく北アルプス随一だろう。

 
                五竜山荘からの山頂。残雪が少なく、夏道が露出している。

 山荘から眺める五竜岳山頂への稜線には、思っていたほどの雪が無く、ほとんど夏道が露出していた。出てきた山荘の人に聞いたら、「こんなに雪が無いのも珍しい。小屋の入り口を掘り出すくらいの雪が残る年もあるというのに・・・。」と言っていた。今年は春先が暖かかったし、雨量も多く、雪解けの進み具合も速かったのだろう。雪の少ない頂上往復に興味を削がれ、やはり、ここで引き返すことにした。

 下山の最初は、またカメラをザックにしまい、慎重に雪の斜面を下る。だいぶ雪が柔らかくなっていたので、ズボズボと大股で鞍部まで下った。朝、見かけたテントのところまで来ると、テントの主が居て、ちょうど撤収が終わったところのようだった。挨拶をしてその脇を通り、自分のテントまで戻って来た。上々な気分でテントを撤収し、いよいよ下山開始だ。
 今日は鹿島槍や五竜岳を背にしての
アップダウンを経て、昨日と同じような時間帯に小遠見山に再び立った。昨日と同じように、ここまでの登山者が何人かいて、同じように昼食を取りながら展望を楽しんでいる。迫力のある鹿島槍ともここでお別れ。まぶたにしっかり焼き付け、スキー場への下りについた。
 

                 *  *  *  *  *  *  *  * 

 

 今年の残雪登山。雪上のテント泊は、おととしの涸沢に続き2回目であるが、100張もあろうかというテント村での前回に比べ、今回は雪原に私一人だけという一夜を過ごした。これである程度の度胸も付いたし、これからの残雪登山の楽しみ方に幅が出てくることを感じさせる山行になった。

 

≪コースタイム≫
 ~1日目~ 
白馬五竜スキー場アルプス平 9:30 ― 小遠見山 12:00 ― 大遠見山 14:40(テント泊)

 ~2日目~
大遠見山 6:00 ― 五竜山荘 7:50 ― 大遠見山テント場 9:50 ― 小遠見山 12:40
― 白馬五竜スキー場アルプス平 13:50
 



                                                          

                                 


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