韓国経済ウォッチ~5カ月連続の輸出減少
韓国経済ウォッチ
日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
韓国銀行は、財貨とサービスの輸出入総額を国民総所得で割って算出する貿易依存度を毎年発表している。
その統計によると、
韓国の2011年度の貿易依存度は113.5%、
12年度は112.8%、13年度は106.1%、
14年度は99.5%である。
このように、韓国は貿易依存度がかなり高く、輸出は韓国経済成長の一番大きな支えになっている。
ところが、今年になって輸出額は5カ月連続で減少していて、
韓国経済への悪影響が懸念されている。
内需が低迷しているなかで、
韓国経済の最後の頼りでもある輸出が減少しただけに、
韓国政府では今後の行方に神経をとがらせている。
さらに、
通常ならば輸出が減少すると経常収支の黒字額が減少し、
その結果ウォンが安くなって、
輸出の価格競争力を取り戻すメカニズムが働くが、
今回は輸出が減ったにも関わらず、
輸入が相対的にもっと減少することで経常収支は黒字が続き、ウォン高になっている。
一方、日本は超量的緩和策を実施して円安に誘導しているし、
中国も金利の引き下げで、ウォン高はなかなか解消されるどころか、
ウォン高がよりいっそう進み、
韓国の輸出は苦戦を強いられている。
最近、MERSの影響で、
内需の大きな埋め合わせであった観光収入も急減し、 韓国経済は大打撃を受けている。
韓国経済のさらなる悪化を懸念するなかで、
輸出減少は一時的な現象で輸出が再び増加して活気を取り戻せるのか、
それとも輸出鈍化は避けられないものか、今回考えてみたい。
産業通商資源部によると、
15年5月の輸出額は前年同月比で10.9%減少したことが明らかになった。
月間の輸出額が2ケタの減少幅を記録したのは、世
界金融危機のあおりを受けた09年8月以来、5年9カ月ぶりである。
5月の輸出額は423億9,200万ドルで、
輸入額は15.3%減の360億7,200万ドル、
貿易収支は63億2,000万ドルの黒字となった。
輸出額の減少が深刻に受け止められている理由は、
輸出額の減少が続いていることと、減少幅が拡大している点である。
15年1月には、前年同月比0.9%の減少、
2月には3.3%の減少、
3月には4.3%の減少、
4月には8.1%の減少、
5月にはそれがもっと拡大して2ケタの減少になっている。
このままの状況が続くと、
今年の輸出総額は5,620億ドルくらいになって、
3年ぶりに前年対比で1.9%くらい輸出が減少することになるだろうと韓国銀行では予測している。
韓国経済において、
前年対比で輸出が減少したのは、
過去4回(1998年(2.8%減少)、
01年(12.7%減少)、
09年(13.9%減少)、
12年(1.3%減少))だけである。
それでは、どのような背景で輸出額の減少は起きているだろうか。
まずは、世界経済の成長鈍化が挙げられる。
すなわち、韓国だけでなく、世界的に輸出は減少しているということである。
WTO(世界貿易機関)によると、第1四半期の世界70カ国の商品輸出額は9.1%減少している。
輸出が伸びたのは中国(4.7%増加)だけで、
アメリカ4.6%の減少、
ドイツ14.3%の減少、
日本6.0%の減少、
フランス15%の減少になっている。
そのなかで韓国は2.2%の減少なので、
それなりに良い結果を出していることになる。
WTOは今年の年間輸出額においては、7~8%くらいの減少を予測している。
また、IMF(国際通貨基金)では、
原油安の影響で、輸出入の単価は平均で11%くらいの下落を見込んでいる。
韓国の最大輸出国は、中国である。
中国は韓国輸出の26%を占めていて、韓国の輸出に与える影響はかなり大きい。
5月の中国輸出は、3.3%減少している。
中国への輸出が減少している理由としては、
中国側の問題と韓国側の問題に分けることができる。
中国側の問題としては、
中国の成長が鈍化していること、
中国の成長戦略が内需中心に転換したこと、
韓国の主要輸出品目である中間財の自給率が上がったことなどである。
韓国は今まで、
中国で賃加工して第3国に輸出する加工貿易の比重が高かったため、
中国の輸出が減ると、韓国の輸出にすぐ影響が出てくる構造になっている。
中国政府は、加工貿易の禁止品目を増やすなど、
加工貿易には逆風が吹いている現状である。
その代わり、内需中心の成長に転換したことにより、消費財の市場は成長している。
しかし、韓国側の問題は、
韓国は消費財においては、まだ競争力がそれほどないため、
消費財の輸出ではすぐ輸出増加は見込めない。
中国は2010年以降、かなり力をつけてきていて、韓国と競合する商品も増えている。
このような要因は中国国内だけでなく、海外でも韓国の輸出を減少させる要因に働いている。
アメリカの場合、
韓米FTAの締結により、輸出増加を期待していたが、それほどでもない。
今年の1月~3月までは、それなりに対米輸出は好調であった。
しかし、
4月は2.7%の減少、それから5月は7.1%の減少になって、減少幅が拡大している。
その要因としては、
シェールガスの需要減少で、韓国の鉄鋼輸出が大きな減少になったことが影響している。
その他に、円安、ユーロ安も韓国の輸出減少にかなりの影響を与えている。
韓国は日本と世界で競合する品目が多い。
そのなかでの円安は韓国の価格競争力をなくし、輸出の減少をもたらしている。
とくにその傾向が顕著な品目は、自動車である。
トヨタ、日産などの日本自動車メーカーの好業績とは裏腹に、
現代自動車の業績は伸び悩んでいる。
以上で見たように、
韓国の輸出減少は外部要因によるものである。
そのため、韓国の努力だけでは、ある意味改善の余地が少ない。
しかし、
産業の構造調整を含めて、韓国の輸出を再点検する良い機会ではないかと思う。
輸出中心の成長戦略の妥当性をはじめ、今後の戦略を見直す時期に来ているのは間違いない。