“反日行脚”を経て初めて訪日した韓国外相 交錯する配慮と歴史への執着
ZAKZAK
2015.06.23
中東呼吸器症候群(MERS、マーズ)コロナウイルスの感染拡大で国を挙げて大騒ぎとなっている韓国から、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が日韓国交正常化50年の記念日に合わせて訪日した。
朴槿恵(パク・クネ)大統領が訪米を延期するなど、政府あげて対応に追われる中、対日関係改善への姿勢を見せた格好だ。
ただ、尹外相が岸田文雄外相との21日の会談で、
日本の世界遺産登録に向け韓国側の意向を反映させたように、
韓国は慰安婦をはじめとする日本との“歴史認識問題”には、相変わらず執着し続けている。
(ソウル 名村隆寛)
■感染報道一色のなかで
日常的に日本には厳しい報道を展開する韓国メディアが、5月下旬からはMERS報道一色だ。
政局でもMERS。経済がらみでもMERS。
4月末の安倍晋三首相による米議会演説のときのような激しい日本バッシング、反日報道は影をひそめた。
安倍首相演説の際は、直前に李完九(イ・ワング)前首相ら朴大統領の側近による裏金疑惑が起こり、メディア報道も一時期は「裏金疑惑報道」が占めた。
だが、こちらも鳴りを潜め、忘れ去られたかのようだ。
朴大統領自らが「国家的困難」と言うほどに、韓国は今、MERS感染への対処で苦闘している。
ただ、日本に関する報道がMERS騒動のさなかで、完全に消えうせたわけではない。
大手紙には「韓日国交正常化50周年を機に、失意と苦痛を感じる韓国国民に対し、安倍首相が隣人、友人として慰労のために訪韓すればいい。
安倍首相がMERSの完治患者を“抱きしめる姿”を見せればいい」(中央日報)といった理解に苦しむ大型コラムまで登場した。
国内での騒動に加え、世界が韓国のMERS感染拡大に注目するなか、尹炳世外相の訪日は“電撃的”に発表された。
韓国外相の訪日は、なんと4年1カ月ぶりだ。
■韓国主導で関係改善?!
国難のまっただ中にもかかわらず外相を派遣した朴槿恵政権。
しかも、尹外相は韓国でも「対日強硬派」として認識されている。
2013年2月の朴政権発足とともに外相に就任したが、
別所浩郎・駐韓日本大使と一対一で会談したのは昨年9月が初めてだった。
特に歴史認識をめぐっては、日本にかたくなな態度をとってきた。
一方で、日本政府はこれまで、繰り返し尹外相の訪日を打診し、
呼びかけてきたが、韓国側が応じなかっただけだ。
国交正常化50周年に合わせての訪日に関しては、ソウルの日韓外交関係者の間でも悲観的な見方が主流だった。
しかし、尹外相は今月中旬の訪米で、米政府に訪日の意向を伝えた。
日韓の関係改善を促していた米国政府からは「歓迎された」という。
尹外相の訪日について、
韓国では「国交正常化50周年を契機に両国関係改善を韓国が主導するとのメッセージ」(中央日報)とか、
「歴史認識問題への日本の前向きな回答に圧力を加えることができた」(同紙が専門家の意見として紹介)やらと、
都合よく、好き勝手に解釈されている。
一見、韓国が対日歩み寄りの姿勢を示したとも受けとめられる。
韓国側では、尹外相をようやく「訪日させてやった」ことで、形の上では50周年をうまく演出できたつもりでいるかのようだ。
しかも、韓国の主導で。
韓国メディアによる、いつもの報道パターンだが。
■余裕なくとも反日行脚
韓国が今回も自画自賛したように、MERS感染拡大を抱えた状況で尹外相を訪日させるだけの余裕が、はたして韓国側にはあったのだろうか。
尹外相はMERS騒動の最中の今月12日、
世界遺産委員会の現在の議長国を務めるドイツを訪問。
シュタインマイヤー独外相と会談し、
日本が世界遺産への登録を目指している「明治日本の産業革命遺産」について、
28日からドイツで開かれる同委員会で登録に反対するよう協力を求めた。
「産業革命遺産には戦時中に朝鮮半島の人々が強制徴用された施設7カ所が含まれている」と反発する韓国政府の立場に基づいたものだ。
尹外相は続いて、世界遺産委員会の委員国であるクロアチアも訪問し、同じように要求。
その足で米国に向かいニューヨークで、マレーシアのアマン外相と会談し、
またしても登録反対への協力を要請した。
短期間に尹外相は、まさにフル回転で世界を駆け巡ったわけだ。
本国で拡散しているMERS感染に世界が懸念を込めて注目するなかでの、“反日行脚”。
日本との歴史問題で見せる韓国の“執念”を感じさせる。
■日本への配慮と焦り
国家の非常時にもかかわらず、わざわざ各国に出向き、日本の世界遺産登録阻止に奔走した韓国。
内政は内政、外交は外交なのだろう。
だが、今はむしろ、MERS対策で頑張っている姿をアピールし、世界を安心させるときではないのか。
そして、尹外相は日本を訪れた。
「MERSで韓国国内が大変でも、外交分野だから訪日は許されたのだろう」と、ソウルの外交筋は朴政権の胸の内を推し量る。
世界遺産の委員国に「反登録」を訴え回ったものの、韓国は奇妙なことに、日本にも気を使っていた。
韓国外務省のユネスコ担当当局者は、しきりに「産業革命遺産すべての登録に反対しているわけではないのです」と切々と繰り返す。
懐柔するかのような、日本メディアの記者への説明には、一種の涙ぐましささえ感じる。
登録をめぐって、同当局者は「韓国は不利な状況にある」とも話していた。
「登録反対」を“例”によって各国に触れ回っていた尹外相は21日、
日本を訪れての“直談判”で、登録問題について「韓国の推薦案件とともに日韓が登録で協力することで一致」(岸田外相)するまでに持ち込んだ。
あれほど日本を無視し続けていた尹外相を日本に送り、韓国の意向をくませる一方で、「日韓関係の前進」を演出させた。
背景には、韓国側が抱く危機感がちらつく。“焦り”の裏返しとでもいおうか。
■日本にソッポを向かれては…
デフレ傾向にある韓国経済の見通しは、ただでさえ悪い。
そのうえにMERSの感染拡大が“2次被害”として、経済悪化へもろに拍車をかけている。
海外からの観光客は激減し、韓国への渡航キャンセルは、すでに10万件を突破した。
国内でも各種行事の中止が続出。
外出は避けられ、高速鉄道「KTX」の乗車率は25%も減少し、ソウルの公共交通の利用客も約22%減った。
飲食店の客の入りも減り、MERS感染で消費は冷え込んでいる。
朴大統領自身も認めていることだ。
国債格付け会社のムーディーズは18日、「MERSが韓国の格付けには否定的だ」と評価する報告書を出した。
同報告は「MERSのために韓国では消費心理が冷え込み、内需の不振と輸出の低迷によって景気回復は困難になる」と分析している。
韓国の有力シンクタンクが予測した「6月末までだけでも約4500億円規模の損失発生」との見通しは、ほぼ当たりそうな状況にある。
韓国経済は確実に後退しているのだ。
MERS感染が発覚する前から、
韓国では財界を中心に「日本との関係改善」を切望する声が強かった。
経済の悪化から抜け出すためには、何としても日本との協力を避けては通れないからだ。
朴大統領自身が5月にソウルで開かれた「日韓経済人会議」で、
日韓経済協力の重要性をしきりに訴えたように、日本との経済関係が大切なことを韓国政府は痛感している。
国際社会での“孤立”を自覚し、
さらにはMERS感染で苦悶(くもん)する今、
日本にソッポを向かれては困るのだ。
■国交50年よりも、戦後70年談話に注目
国交正常化50周年に合わせ、日韓双方では必ずしも目立ってはいないものの、官民でさまざまな行事が行われている。
7月以降の今年後半にも多くのイベントが待っている。
イベントの一覧表を見ると、表向きは2002年に行われた日韓共催のサッカーW杯が再現されるかのようだ。
だが、日韓国交正常化50年よりも、韓国の目は完全に、日本の戦後70年に合わせて安倍首相が8月に出す見通しの「安倍談話」の方を向いている。
安倍首相が慰安婦問題などについて、談話の中でどのように触れるのかに注目している。
今年の前半、特に2月末から5月にかけて韓国メディアは安倍首相に対し、執拗(しつよう)に「謝罪」を要求してきた。
インドネシアでのバンドン会議や、
米ワシントンでの議会演説など、
韓国とは直接関係のない場所での謝罪を求め続けた。
謝罪をさせるため執念の火を燃やし続けた韓国(特にメディア)では、
慰安婦への謝罪がなかった当然の演説のあと、一種の喪失感が漂っていた。
安倍首相は、過去の政権の姿勢や方針を引き継ぐという趣旨の発言をしているのに、
それでも韓国は不満らしい。安倍首相に絶対、謝罪させねばならないようなのだ。
世界遺産登録問題で“一致”し、日韓国交50周年の記念日が過ぎても、
慰安婦問題は依然、協議が続けられる。
消えていない韓国の“謝罪要求の炎”は8月に向けて、また勢いを増しそうにある。
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