週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
韓の企業実力差に驚愕
日本のR&D強さの秘密
7月初め、中国の習近平国家主席が訪韓した以降、韓国内の中国ムードは微妙な変わり方をしている。
このまま中国を信じ、日本との溝を深くして大丈夫なのか。
そう言った心配が吹き出てきた。その裏には、経済的な理由が絡んでいる。
まさに、外交と経済は一体であるという、私の持論が裏付けられると思う。
中韓の技術格差は、ほとんどなくなりつつあるのだ。
これまで韓国が、中国に対して抱いていた「優越感」を粉砕されつつある。
サムスンのスマホが、中国市場で地元企業に激しい追い上げを食っている。
安全保障面では、日米韓三カ国は一体的な関係を結んでいる。
あれやこれや考えると「反日・親中」は、経済的にもつながりの深い日本との関係を反故にする。
そのリスクの大きさに、身震いしたと見られる。
韓国が、少し立ち止まって冷静さを取り戻しつつあることは疑いない。
私は、四六時中、中韓の公開情報を丹念に追いながら、韓国の「心変わり」が静かに始まっていると見る。
その裏には、米国の水面下での韓国説得が行われているであろう。
日韓が喧嘩状態の「冷戦」のままでは、中朝両国に足許を見透かされる。
何としても「喧嘩別れ」を防がなければならない。
そう言った趣旨の説得が韓国に向けられているはずだ。
韓国も、慰安婦問題に対する朝日新聞の「誤報」承認によって、何時までも強気を言ってはいられない。
静かに軌道修正する時期なのだろう。
これを、全国経済人連合会(全経連)がデータを持ち出して、だめ押しをした。
日韓企業間には、韓国企業がとうてい飛び越えられない実力の差がある。
それを、韓国国内に周知させたいといった狙いが明確になっているのだ。
それでなければ、何故この時点で、こうしたデータが公表されるのか。理解不能である。
日韓の企業実力差に驚愕
韓国紙『朝鮮日報』(8月19日付け)は、次のように伝えた。
① 「全経連は、『韓国の製造業の一部は業績が日本の同業を上回っているが、総合的に韓日の企業競争力の差は過去数年縮まっていない』と指摘した。
将来の競争力を左右する研究開発(R&D)投資を見ると、
欧州委員会(注:EUの行政機関)が2012年、企業のR&D費用を基準に集計した『世界のR&D上位2000社』に日本は353社が含まれたが、韓国は6分の1の56社にとどまった。
12年のR&D投資が1兆ウォン(約1010億円)を超えた企業は、日本の29社に対し、韓国はサムスン電子、LG電子、現代自動車の3社にすぎなかった」。
一国経済の潜在成長力は、生産年齢人口とこのR&Dの規模によって左右される。
日本はすでに、生産年齢人口比率は低下に向かっている。
韓国も明年から低下していく。こうなると生産性上昇が一段と大きな課題になる。
そのテコの役がR&Dである。
欧州委員会が2012年、企業のR&D費用を基準に集計した『世界のR&D上位2000社』では、日本が353社。
韓国はその6分の1になる56社に過ぎなかった。
これでは、韓国が「反日」という旗を振ったところで、日本企業は何の痛痒も感じない。「あ、そうですか」と言った程度の反応に止まるはずだ。
すでに、日本企業は韓国への進出よりも、ASEAN(東南アジア諸国連合)へと軸足を移している。
中国に対しても「素通り」を始めている。
中国は、「日本による中国排除に向けた投資戦略の一環だ」と主張する記事を掲載。
「中国から距離を置き始めている国もあり、日本の離間計(りかんのけい、
仲違いさせる策略の意)が奏功し始めている」と(中国メディア『和訊網』8月15日付け)と言い出している始末だ。
中国も日本企業の冷めた対応に、驚き始めている。
日本企業が、わざと中国を避けてASEAN進を急いでいるわけでない。
中国の人件費高騰、成長率の下方修正、社会騒乱、「反日」といった諸事情が働く自然な結果であろう。
「世界の工場」と豪語してきた中国すら、日本企業には魅力ある投資先でなくなっている。
ましてや韓国は、「問題外」である。
韓国企業が慌て始めた事情は、こういったところにあるだろう。中韓は、日本企業から「見捨てられる」リスクを抱えているのだ。
② 「トムソン・ロイターが、特許保有件数を基準に昨年選んだ『世界の100大革新企業』でも、日本は28社が選ばれたのに対し、韓国は3社だけだった。
科学分野のノーベル賞受賞者は日本が16人に対し、韓国はゼロだ。
世界の輸出市場でシェア首位の品目数(12年現在)は、日本が231品目、韓国は64品目だった」。
特許保有件数を基準に昨年選んだ「世界の100大革新企業」で、日本は28社が選ばれた。
韓国は3社だけだった。
世界の輸出市場でシェア首位の品目数(12年現在)は、日本が231品目、韓国は64品目である。
円安でも日本からの輸出が伸びない理由として、韓国はこれまで「日本の競争力低下」という見立てをしてきた。
これに対して私は、その間違いを指摘してきた。
日本製品は、すでに海外で生産されている。あえて日本本土から輸出するに及ばないのだ。
改めて、日本技術が持つ優秀性がここで立証されているのである。
日本企業の底力を韓国は見くびってきた。
韓国から中国への輸出高が首位(2013年25.5%)であることに幻惑されて、中国への「ご機嫌取り」に走ったのだ。
哀しい振る舞いと言うべきである。
ところが、今年に入って事情は一変している。
対中輸出の伸び率は昨年の8.6%から今年1~4月は2.7%増に落ち込んでいたが、
5月にはついにマイナスに転じた。
1~5月の対中貿易黒字も、昨年の26億5000万ドルから今年の19億4000万ドルへと27%も減少したのである。
これで、すっかり「中国熱」は冷めてしまった。現金なものだ。カネの切れ目が縁の切れ目になっている。
『中央日報』(8月19日付け)は、前記の全経連レポートについて、次のように伝えている。
③ 「全経連によると、2013年基準のGDPで韓日間の経済格差は4倍である。
GDP基準で1980年代に両国の差は、17倍であった。それが、2000年に8倍。2010年に5.4倍へと急激に縮小した。
韓国が半導体とテレビ、携帯電話を中心にした電子産業の急速な発展、自動車産業の善戦が原因である」。
GDP規模で見ると、日韓の差は確かに縮まっている。
2013年基準で韓日間の経済格差は4倍になっている。
過去の推移を見ると、1980年代は17倍であった。
2000年に8倍、2010年に5.4倍へと急激に縮小して既述の通り、現在(2013年)の4倍へ縮まった。
この背景には、日本が急激な円高がある。国内生産を放棄して、やむなく海外へと生産機能を移転したからだ。
日本の海外生産を織り込めば、日韓の経済的な実力が接近しているとは考えがたい。
韓国は誤解して、「日本与しやすし」と見た。
「反日・親中」はそれを象徴している。
後のパラグラフで、日本企業の実力を示す研究開発実績は、とうてい韓国企業の及ばないことを淡々と指摘している。
④ 「経済の“基礎体力”とされる研究開発(R&D)分野では、日本が韓国の6倍以上である。
また、外国為替取引分野で『円』は、取引規模でウォンの約8倍に達する。
このほか、『円』は世界の外国為替取引の23%を占める3大通貨となっている。
ウォンは取引の割合が1.2%にとどまった。
グローバル競争力分野でも韓国企業は日本に大きく後れを取っている」。
一国経済の「基礎体力」は、R&Dとしている。その通りだ。
中国のようにGDPは世界2位だが、R&Dはきわめて脆弱である。
「世界の工場」になっているので、外資が中国国内で生産して、中国のGDPに寄与している。
他人の褌で相撲を取っているに等しいのだ。
日本企業が中国へ進出して、中国のGDPに相当な寄与をしている。
中国はそのことの認識が希薄である。自力で、GDP世界2位になったと錯覚している。
日本から見れば可笑しくもあり、「大いなる錯覚」と言うほかない。
事実上、日本の経済的な実力は、以前と変わっていないと言うべきだろう。
外国為替取引分野で「円」は、世界の外国為替取引の23%を占める3大通貨となっている。
韓国の「ウォン」は1.2%にすぎない。
「円」と「ウォン」では、横綱と十両ほどの違いがある。韓国は、この現実を受け入れるべきだ。
日本のR&D強さの秘密
⑤ 「世界の輸出市場シェア1位品目数(2013年)を見ても歴然と差が表われる。
世界1位製品の数は日本が231品目で韓国の64品目より3.61倍多かった。
2010年の3.54倍に比べ少しも差を減らすことができていない。
『フォーチュン500大企業』に含まれる数も日本が57社で韓国の17社を大きく上回っている。
全経連アジアチーム長のチョン・ボンホ氏、はこうした競争力の差はR&Dと投資から始まったと指摘した。
日本はこれまで19人のノーベル賞受賞者を輩出した。このうち16人が化学と医学分野で賞を取った。
これに対し韓国は受賞が1度もない。両国の格差を象徴的に見せる数字だ」。
世界の輸出市場シェア1位品目数は、2013年で日本231品目。韓国64品目である。
日本は韓国の3.61倍である。2010年の3.54倍に比べ、韓国は少しも差を減らすことができずにいるのだ。
こうした競争力の差は、両国のR&Dと投資の差から始まっている。
これも否定しがたい事実である。日本が、ノーベル賞の化学と医学分野で16人の受賞者を出している。
韓国はゼロである。この象徴的な違いが、日韓企業の競争力の差を生んだ原点になっている。
実は、この件(くだり)を読みながら、私が近著『韓国経済がけっぷち』(アイバス出版)で、縷々指摘した点とまったく同じであることに気づいた。
韓国企業がどうひっくり返っても、日本企業に敵うはずがない。
私は繰り返し、このように指摘している。韓国側が、これを素直に認めて、「反日」の旗を降ろして来るならば、これに越したことはない。
韓国が、日本に対して肩肘張って立ち向かうより、未来志向の姿勢に転じる方がプラスであろう。
中韓という「R&D弱者連合」が組んで、日本に対抗してもそれは無駄である。
私は近著で、こうも指摘してあるのだ。中韓には、論理学の祖である墨子学派が育たなかった。
近代科学の原点は、論理学である。
日本は、江戸時代から論理学が育ち数学(和算=日本古来の数学)は、世界的なレベルにあった。
それが、現在の日本のR&Dを支えている。
中韓にはお気の毒だが、自らの歴史を恨むしかない。
「反日」という形で、日本を逆恨みすべきでないのだ。植民地問題とは異質のことである。
中国は、珍しくトヨタ自動車を高く評価している。
「グリーンカー」(環境車)で世界をリードする立場への理解であろう。トヨタの販売台数が現在、世界一であることも手伝い、「応援メッセージ」を送っているのだ。
『人民網』(8月15日付け)は、次のように伝えている。
⑥ 「今年上半期、ドイツのVW(フォルクス・ワーゲン)の中国市場における販売台数は、前年同期比18%増の181万台だった。
一方のトヨタは同46万5900台と、VWの4分の1だ。
世界に目を向けると、2社の立場は逆転する。
2014年上半期、トヨタの世界における販売台数は前年同期比3.8%増の509万7千万台だったのに対し、VWは同5.9%増の497万1千万台と、12万台以上の差があった」。
トヨタ経営は、日本企業の典型例とされる。
戦後の経営苦難期を経験しているだけに、他社とは違う企業文化を持っている。
社内での失敗例は即、全社内で共有化すべく文書にして周知徹底化させる。
失敗=共有財産としているところは、出色の存在と言える。
先に、米国でのトラブルは、企業規模拡大によって日本本社への報告が遅れたことも一因である。
この失敗から現地主義に切り替え、すべて現地(海外も含む)で迅速な処理をさせている。
改めて、失敗=共有財産のポリシーを確認したと言える。
⑦ 「販売台数の差が、純利益に差が出た主な原因かもしれない。
しかし、原因はそれだけではない。
例えば、トヨタの『グローバル化』の程度はVWに勝っている。
トヨタが世界各地に合理的な進出をしているのに対し、VWは中国市場に過度に依存している。
また、1台当たりの収益力もトヨタが勝っている。
米国自動車研究センター の調査結果によると、13年、自動車メーカーのうち、1台当たりの収益力が最も高かったのがトヨタだった。
統計によると、トヨタの1台当たりの利益は1588ユーロ(約21万7000円)。一方のVWは616ユーロ(約8万4000円)だった。
また、VW傘下のアウディやポルシェの収益力も低い」。
トヨタは、2011年3月11日の東日本大震災によって、部品関連企業が大きな打撃を受けた。
その結果、自動車生産が停滞して「世界一」の座を降りたが、再び返り咲いている。
大震災をきっかけにして、さらなる生産方式の見直しを進めている。
設備増強をしないで、現有設備に工夫を加えれば増産可能という「利益を生み出す」トヨタ方式を生み出した。
トヨタの1台当たりの利益は、2013年で約21万7000円。VWは同約8万4000円であるから、2.6倍もの差があるのだ。
これは、大がかりな設備投資をしないでも増産可能というトヨタ方式が生み出したものだ。
ただ、R&Dには積極的である。
年内には、究極の環境車と言われる燃料電池車(「水素自動車」)発売を予定している。
世界最初の「快挙」である。日本経済の屋台骨を支える役割も期待されている。
燃料電池車は、世界の自動車メーカーがしのぎを削る競争を繰り広げている。
先ずは、一番乗りを実現した形である。
中国が、トヨタへの応援メッセージを送る理由は、燃料電池車への期待表明とも言えるのだ。中国の大気汚染は、原因の半分以上が自動車の排気ガスとされている。トヨタに期待するゆえんである。
⑧ 「VWのブランド管理もトヨタに劣る。
VWは、傘下に12のブランドを抱えているが、その全ての販売台数を合わせても、トヨタの販売台に及ばない。
また、VW傘下の各ブランドの車種が互いを補い合っているというわけではなく、競争も存在している。
それが、VWがトヨタに及ばない理由かもしれない。
『リーン生産方式』と呼ばれるトヨタの生産方式は世界中で認められ、VWを含む多くの企業が研究している。一方、VWは長年、おおざっぱな企業経営をしていただけでなく、権威の集中も問題になった」。
リーン生産方式とは、トヨタの看板である。
「在庫を持たない」生産方式であり、需要=供給という最も、効率的な生産である。原点は、原材料や製品の在庫保有で無駄な資金を寝かせない、というものだった。
創業当初、資金繰りに苦しんだトヨタが、やむを得ず選択した生産方式である。
「必要は発明の母」と言われる。トヨタには、こうした「イノヴェーション能力」が染みついている。
トヨタの「企業文化」である。ピンチをチャンスに変えるのだ。この点は、大なり小なり、多くの日本企業に共通した部分であろう。
韓国企業が、こうした日本の企業文化をどこまで理解できるのか。
現在の韓国は、「反日」によって、すべて日本の過去を否定し去ろうしている。
これでは、真の日韓の和解は困難である。
韓国経済の置かれている状況からすれば、謙虚に日本の良さを理解することが必要であろう。そこから、何らかのヒントを得ることだ。
先にローマ法王は、韓国で次のような示唆を残した。
「法王は韓国を離れながら南と北の兄弟愛を強調した。
7回ではなく77回までも許せと要請した。訪韓最後の日に明洞聖堂で、隣人の(他宗派)宗教指導者らと会っては、互いに認めて兄弟のように共に歩いていこうと求めた」(『中央日報』8月19日社説)。味わうべき言葉である。
争いよりも和解である。過去よりも未来重視だ。
今回の全国経済人連合会(全経連)のレポートは、それを韓国社会に訴えたいに違いない。朴大統領には、ぜひこのレポートを熟読して貰いたいのだ。
(2014年8月28日)