①韓国、「MERS」と「対中国外交」躓きの原因は根拠なき先入観
サムスン病院が元凶とは
SERS影響は尾を引く
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
2015-07-02
韓国で、中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)感染が広がっている。
米国は感染拡大防止策として、韓国を渡航警戒地域に指定した。
ここまで騒ぎが広がると、韓国経済にとって打撃は極めて大きくなる。
米国は、MERSに対してエボラ出血熱と同様に、政府が安全保障の観点から新薬やワクチン開発を支えるというのだ。
MERSは、ついにエボラ出血熱と同じレベルの高度警戒体制に入った。
誇り高き韓国が、途上国のアフリカと同じ扱いである。
さぞや口惜しいであろう。その悔しさを忘れてはなるまい。
韓国の混乱している段階で、日本から「もの申す」のは控えるべきかも知れない。
だが、防疫体制はほぼゼロ同然であった。
この点については、私もブログで取り上げている。
外交問題も同じである。
日本を批判して中国へ身を寄せる。
それが韓国の安全保障上、いかなる問題を引き起こすか。
単なる感情論で外交問題を扱っているのだ。
かくのごとく、物事全般に対して警戒姿勢が足りないことは否めない。
韓国は、中国に対して「親戚」とでも思っている。
そういう節が多々、見られるのだ。
日本については悪口雑言を並べ立てるが、中国に対しては寛容である。
朝鮮戦争では中国から100万人単位の「義勇軍」(最前線だけで20万人規模、後方待機も含めると100万人規模)が送り込まれて、
韓国領土を戦場にされた。
それについての批判は聞かれないのだ。
不思議な心情と言うべきだろう。
「儒教」で中韓は繋がっているにしても、被害者意識がないのだろうか。中国に対する善悪の判断基準が狂っているのだ。
韓国には、通常の感覚である善悪を超えた「先入観」が働いている。
サムスンへの絶対的な信頼という「先入観」によって、MERS騒動は予想外の拡大を招いた。
つまり、サムスンが経営するサムスン・ソウル病院が、MERS伝染の感染源になるとは考えてもみなかったのだ。
外交面では中国への根拠不明な信頼感が存在する。
日本を批判しても、中国には従順な「朝貢国」として振る舞っている。
日本と中国の政治体制の違いなど眼中にない。
日本は「敵」であるが、中国は韓国の旧宗主国として保護してくれる。
そう言った錯覚を持っているとしか思えない行動を見せてきた。
MERSも中国問題も、両者は同じ過信という「先入観」に原因が求められる。
サムスン病院が元凶とは
『朝鮮日報』(6月15日付け)は、社説で次のように指摘している。
① 「韓国国内で最高の技術と設備を持つとされるサムスン・ソウル病院が、
今回の中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスの感染拡大では最も多くの感染者を出す最悪の病院となった。
6月14日に感染が確認された138人目の患者はこの病院に勤務する医師で、
しかもこの病院の医師としては2人目の感染者だった。
この医師は隔離対象に指定されないまま、つい最近までずっと外来患者の診察を行ってきた。
この病院の救急病棟に勤務する137人目の患者も、
6月2日からMERSの自覚症状が出ていたが、
その後も6月10日まで9日間にわたり通常通りの勤務を行い、少なくとも76人の患者の対応に当たった」。
② 「このように病院に勤務する人間の無自覚かつ無責任な行動が原因で、
サムスン・ソウル病院を通じて感染した患者は全国各地に広がっている。
通常であれば、病院の建物の中では一般の肺炎患者もマスクを着用するよう指導されるはずだ。
MERSの感染が拡大する中、
サムスン・ソウル病院の救急病棟を訪れた14人目の患者は、
マスクも着用しない状態で病院内を歩き回り、ウイルスをばらまいた。
サムスン・ソウル病院はこの患者がやって来る1週間前の5月20日、韓国国内で初めてMERS感染者を確認したにもかかわらず、
別の感染者が再び病院にやって来る事態は全く想定していなかったのだ」。
サムスン・ソウル病院は、一種の「治外法権」的な存在であることが分かる。
別格扱いなのだ。
空気感染という伝染性の疾患に対し全くの無防備である。
ソウル大学医学部長が、
韓国には防疫専門家が片手程度しか存在しないと嘆いていたが、
まさにそれを地で行く話しである。
空気感染にもかかわらず、院内でマスクもつけないとは、ただただ呆れかえるだけである。
③ 「国もサムスン・ソウル病院を何か聖域でもあるかのように対応し、問題を大きくしてしまった。
保健福祉部(省に相当)の文亨杓(ムン・ヒョンピョ)長官は、6月2日『MERS患者が発生した病院に対しては、
病院そのものあるいは病棟全体を隔離する』との方針を示した。
この方針を受けソウル市内の病院は病院全体、あるいは一部の病棟が閉鎖、隔離された。
国はサムスン・ソウル病院に対してだけは独自の判断に委ねた」。
国の保健福祉部(省に相当)が、サムスン・ソウル病院に対して、腫れ物に触るような対応していることが不思議である。
病棟の閉鎖問題について、全国一律の病院通達でなく、サムスン・ソウル病院だけは自主判断を認めたのだ。
この理由については、次のパラグラフで説明されているが、韓国社会は近代化されていないという実感を強くする。
④ 「6月2日にサムスン・ソウル病院の35歳のある医師がMERSに感染していた事実が確認された。
これについても、国は2日後にやっと公表した。
サムスン・ソウル病院は、全国の病院が加盟する大韓病院協会に支払う会費が全国で2番目に多いため、非常に強い発言権を持っている。
この病院協会も、
『国民の間に広がる戸惑いや不安を解消しなければならない』とした上で、サムスン・ソウル病院を含むMERSを広めた病院リストを公表しようとしたが、
どういうわけか保健福祉部がこれに待ったをかけていた」。
韓国政府が、サムスン・ソウル病院を特別扱いした理由は次の点にあった。
「サムスン・ソウル病院は、全国の病院が加盟する大韓病院協会に支払う会費が全国で2番目に多い」という事実なのだ。
韓国が、「事大主義」であることはよく知られている
。規模が大きく権威を持っていれば、大きな権力を振るえる。
したがって、そういうところに身を寄せていれば安泰である。
まさに、儒教社会固有の「復古主義」的な振る舞いを、人々は納得しているという驚くべき後進性である。
韓国社会がいかに古い纒で身を包んでいるか。
それを証明する話しである。
一刻を争う伝染性疾患予防において、
サムスン・ソウル病院だけを特別扱いし、
全国一律の防疫体制から除外する。それが、
結果としてMERSの患者と犠牲者を増やしたのだ。
先にも少し触れたが、
韓国が中国を特別扱いする背景は、
サムスン・ソウル病院を別格扱いする心情とよく似ている。
中国はあらゆる面で、朝鮮の隣国として時空を超えて影響を与え続けてきた。
それが韓国にとって、何とも不都合なことと感じなくなっている理由であろう。
むしろ、中国に依存していることで韓国は精神的な安堵感を得ているのかも知れない。
この「共依存」という関係が、韓国外交の幼児性を招いている原因であろう。
6月22日が日韓基本条約締結の50周年記念日であった。これに当たり、『朝鮮日報』社説の一部に次のような文言が出てくる。中韓一体論を自ら立証しているのだ。
⑤ 「韓国の貿易総額で日本が占める割合も一時は40%台を占めていたが、
今ではわずか7%にまで縮小した。
このような状況に危機感を覚えた日本は、社会が右傾化する傾向を帯び始めた。
日本国内の良識ある声は力を失い、中国警戒論や嫌韓といった異常な心理も広まりつつある。
そのような流れの中で成立した安倍政権は、
長期政権を目指すと同時に日本を『戦争ができる国』へと少しずつつくり替えようとしている」。