① 韓国、「中韓FTA仮署名」工業品輸出の実利は「ゼロ」
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
2015-03-10
FTA効果半減
中国の政治宣伝
「蓋を開けてビックリ」。やっぱりと言うべきか。
韓国は2月25日、中国との自由貿易協定(FTA))の仮署名を終えた。
その内容が明らかになって驚いている。
韓国国内では、中韓FTAが発効すれば自動車など工業品関税がゼロになって、すぐにでも輸出が増えるものと期待していた。
ところが、それは10年先であることが判明。
「取らぬ狸の皮算用」に終わった。落胆も一入である。
中国の「外交巧者」にしてやられたのだ。
昨年11月10日、中韓が徹夜でまとめた中韓FTAは、中国の外交術に韓国がまんまとはまり込んだ結果であろう。
私は、昨年11月18日のブログで次のように「先読み」していた。以下に再録する。
「今回の中韓FTA(自由貿易協定)妥結は中味が乏しいようだ。
中韓の強い政治的な絆を日本に見せつける。
そういう『政治的ショー』の臭いが多分にする。
11月10日のAPEC会議での中韓首脳会議で発表された。劇的効果を演出したかったのだ。
両国の首脳会談2時間前まで、中韓は徹夜で協議を重ねていた。
何としても、中韓共通の『敵』である日本を牽制し、羨ましがらせたい狙いであったのだろう」。
「中国は、あれだけ批判してきた日本と首脳会談を実現した。
韓国は、中国の『裏切り』と見る。韓国メディアは、中韓の『歴史同盟』に亀裂という受け取り方をしている。
中国は、韓国の懸念に応えなければならない。
そこで、格好の手みやげが『中韓FTA妥結』なったとも見られる」。
「私がこうした見立てをする理由は、次の点にある。
FTA自由化率(貿易品目の関税撤廃)は、92%(韓国)と同91%(中国)の実現期間が20年と長いことである。
20年後の『入籍』を約束するような結婚話なのだ。
工業製品の競争力では、中国が目下のところ不利である。
だが、20年もかければ中韓が逆転できると見ているはずだ。
中国は、自国産業に被害が及ばぬ形で韓国とのFTAを妥結させた。
中国にとって、この程度の深慮遠謀は得意中の得意である。
韓国は、日中首脳会談による外交的な孤立を恐れ、まんまと中国にしてやられたと思う」。
私の自慢めいた内容で気恥ずかしい。
だが、誰でも私のごとき年齢になると、だいたい中韓の思惑は透けて見えるもの。
「亀の甲より年の功」ということでお見過ごしいただきたい。
FTA効果半減
『朝鮮日報』(2月26日付け)は、次のようにその落胆ぶりを報じている。
① 「韓国政府が2月25日に仮署名した韓中自由貿易協定(FTA)では、韓国の主力輸出品目の多くが対中国貿易の関税免除対象から外されていた。
その結果、FTAの効果が半減し、韓国企業は相対的に不利だと指摘する声が上がっている。
無関税推進対象から外れた品目は数多い。
業界が次世代成長の起爆剤として推進している有機発光ダイオード(OLED)パネル、二次電池、サムスン電子やLG電子が10年近く世界1位を誇るカラーテレビなどが代表的な例だ。
リチウムイオン電池は関税率が現在12%だが、5年後にやっと9.6%に引き下げられる程度だ」。
この記事を読むと、明らかに韓国は不利である。
韓国は、こんな内容のFTAをなぜ「有り難がって」受け入れたのか。
むしろ、疑問はここに向けられる。
上記の私のブログ(昨年11月18日)で示したように、韓国が日中首脳会談実現で孤立感を深め、浮き足だっていたところを、見事に中国に狙われた。
中国は、韓国の孤立感を誘うために日中首脳会談を設定したとも言える。
こうなると中国は、なかなかの「曲者」である。
日中首脳会談実現で、膠着した日中関係に少々の温風を吹かせてみせたからだ。
現実は、逆の仕掛けを行っている。
中国外交は、転んでもただで起きないところがある。
現在、日本の歴史認識を非難している。
形ばかりとは言え、首脳会談をやった日本に対して、再び斬りかかってくる姿は尋常なものではない。
中国とは、こういう「二刀流」遣いを平気でやる国家だ。
それを認識する必要がある。
日本の国際的な評価を貶めて、自らの地位向上を謀る。
個人として見れば、爪弾きされる所業を恥じることもなくやっている。
気の毒なほど精神性の貧しい国家である。
やっぱり、「永遠の発展途上国」に止まらざるをえない国家パターンなのだ。
② 「韓国の主力輸出品目である液晶表示装置(LCD)パネルは発効後9年目から関税が下がることになった。
韓中FTAが今年末に発効しても、関税引き下げ効果が生じるのは2024年になってからだ。
業界関係者は、『中国のディスプレー・メーカーの技術力向上は速いため、それを考えると9~10年後の無関税適用は事実上、意味がほとんどない』と話す。
冷蔵庫も500リットル以下の小型冷蔵庫だけが10年後に関税撤廃となり、サムスン電子などが中国へ主に輸出しているプレミアム大型冷蔵庫は20年後から関税がなくなる」。
技術革新の激しい工業製品について、9~10先の無関税化は意味をなさないのだ。
中国はその間に力を付けて、韓国製品に対抗しようという狙いである。
こういう内容のFTAを中韓は結んだ。
日本がこんなFTAを結ぶはずがない。
中韓は、日本を含む日中韓3ヶ国のFTA締結が理想としている。
だが、日本にとってはメリットが少なく、デメリットだけが目立つ片務的な内容である。
日中韓FTAを結ばなかったのは大正解である。
③ 「韓国が競争力を持つ主な輸出品目が、韓中FTAで関税引き下げのメリットを得られないことは、昨年11月の実質的な妥結宣言直後から問題になっていた。
韓国の主力輸出品目である自動車はもちろん、
韓流ブームに乗って中国人に人気のスキンケア化粧品・シャンプー・リンスなどの生活用品、船舶用エンジンなどの高付加価値製品もすべて、
高いレベルでの配慮が必要な『高度センシティブトラック』に指定され、無関税の恩恵が受けられない」。
自動車や化粧品など中国で人気の韓国製品が、すべて「高度センシティブトラック」という棚に上げられてしまった。
主力製品が、関税引き下げと無関係なFTAに、実質的な意味があるのか。
韓国のメディアが、不満を述べるのはもっともである。
中国は工業製品では「無傷」のままでFTAを結んだ。
この裏には、韓国が国内農業を保護するという要因が強く、中国との交渉で強く出られなかった側面がある。
だが、韓国の雇用改善という課題を考えれば、別の選択もあったはずだ。
朴大統領は、「経済無策」のレッテルと張られるに違いない。