2014年12月04日
児玉克哉
三重大学副学長
小選挙区制をなめてはいけない。
風なき選挙のわずかな風が勝敗を大きく左右するのです。
選挙評論家と言われるいわゆる「プロ」の選挙予想がほぼ出揃いました。
私もこれまでの選挙予想では、ほぼ完璧に近く当ててきました。
今回も11月24日に予想をしています。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kodamakatsuya/20141124-00040951/
児玉の衆議院選挙予想(2014年11月24日現在)
自民党 合計300(小選挙区236 比例64)
民主党 合計77(小選挙区34 比例43)
維新の党 合計35(小選挙区7 比例28)
公明党 合計34(小選挙区8 比例26)
共産党 合計15(小選挙区0 比例15)
次世代の党 合計4(小選挙区2 比例2)
社民党 合計3(小選挙区1 比例2)
生活の党 合計1(小選挙区1 比例0)
無所属 合計6(小選挙区6 比例0)
今日、公表された各紙の選挙の動向調査では私の予想にかなり近い予想がされています。
主要な選挙評論家や週刊誌の予想の中で私が予想した自民党300議席は最も多い数です。
私の最初の分析結果は自民党310議席でした。
これから逆風が吹くと考え、300議席に落として予想をしたのです。
つまり今でも私の予想は、自民党が300から310議席を獲得するというもの。
なぜこれほどに自民党が大勝するのでしょうか。
7つの要因をあげてみましょう。
1.なにはともあれ、以前より期待感がある
アベノミクスに対する批判がかなりでています。
確かにいまのところ夢の経済政策ではありません。
しかし、1990年のバブル経済の破綻からほぼ一貫して日本経済は厳しい状況に置かれました。
小泉旋風の吹いた時期は、短期ながら日本も金融バブルの好景気を迎えていました。
ただそれもリーマンショックとともにあっという間に終わりました。
これまでの24年間の中ではなにはともあれ、経済の浮揚の期待感を持たせる時期であることは確かです。
「とりあえずは民主党にやらせてみよう」ということで政権交代が前々回の衆議院選挙ではありましたが、その期間も日本経済は浮揚しませんでした。
自民党の他に現実的な選択肢がみえないのです。
野党は、アベノミクスを批判するだけでなく、具体的で期待のもてる経済政策を提示する必要があります。
2.超低投票率
今回の選挙はあまりに話題がありません。
そもそも日本人が政治に無関心になりつつあるのですが、これまでの選挙では、「政権交代」とか「郵政民営化」とかかなり話題になるテーマがありました。
何が選挙の争点かわからない、とよく言われます。
テレビもほとんど選挙について報道しません。
今回の選挙はマスコミが好む「劇場型」にならないのです。
「総選挙 予想」と検索するとAKBの選挙予想がでてくる時代に、ほとんど争点もなく、劇場要素のなく、というのでは、歴史的な低投票率になります。
こうなると組織的なバックのある政党が強くなります。自民党、公明党、共産党が伸びるのです。
3.野党の準備が整っていない
野党の選挙への準備はほとんど整っていませんでした。
自民党は前回選挙で大勝していますから、現職議員がたくさんいます。
候補者擁立に困ることはありません。
公明党も現職プラスアルファで対応できます。
問題は野党。
民主党は現職が出馬することは当然としても、新人の擁立が困難でした。
いきなりの解散総選挙には備えることができなかったのです。
空白区もたくさんあります。
これは維新の党などにもいえること。
前回の擁立数を大きく減らしています。
これは、比例の獲得票数にも影響します。
民主党や維新の党などの野党は浮動票を獲得することが重要です。
しかし小選挙区に候補者を立てれず、メディアでの報道も少なく、投票率が低いという状態では、大きく票をのばすことはできません。
結果として自民党が勝利するのです。
4.資金
自民党は、日本経済の低迷とともに資金難に陥っていました。
議席も減らす中で、政党助成金も減っていき、かなり厳しい状況がありました。
しかし、前回の衆議院選の大勝で、一気に資金的にも余裕が出来ました。
アベノミクス効果は、企業の政治資金の投入という形にもなっています。
最近の選挙の中では、企業が自民党候補者を支援し、盛り上げる形がかなりできているのです。
それと比較して、民主党は厳しくなっています。
現職の多い自民党の(元)議員には(元)秘書などもついています。
資金力の差は歴然です。
金で票が確実に獲得できるわけではありませんが、金がある方が優位に戦えることは事実。ここでも差があります。
5.まだ強く残る民主党政権ショック
国民の多くが民主党政権に期待をかけました。その期待が裏切られる形となりました。
その時のショックはまだ引きずっています。
小選挙区制では与党がだめなら、野党第一党に票が移るものですが、民主党に移る票はまだ限定的です。
民主党政権ショックから立ち直るにはまだ時間がかかります。その間は自民党が優位になります。
6.薄い野党のリーダーの印象
最近の選挙ではリーダーのイメージは非常に重要です。
安倍首相はなにはともあれ、印象あるリーダーとして復活できました。
批判されることも印象が高いというもの。
海江田氏の印象が強くないことは民主党が票を獲得することにおいてはハンディと言えます。
日本維新の党は橋下氏の個人的な人気に引っ張られたところがあります。
しかしさすがに今回は橋下フィーバーはなくなっています。
みんなの党の渡辺氏は金の問題から党首の座を明け渡し、今ではみんなの党も消滅。個人的な人気のある野党の党首がいないのです。
浮動票を引き入れる力がないのです。これは次世代の党や民主党にもいえます。次世代の党には厳しい戦いです。
7.消費税増税ショックが思っているより小さかった
消費税を増税した後はこれまで与党は議席を減らしてきました。
これが怖くて増税をなかなかできなかったといえます。
ある意味、ちょっとしたトリックがあります。
今回の5%から8%への消費税増税では、移行期間として価格表示を必ずしも税込でなくてもよくなっています。
実際に多くの店では税抜価格表示がなされています。
これだと5%の税金込価格よりも安く表示されるのです。
実際には値上がりしたのに、値上がりした感覚が和らぎ、ショックが思ったより小さかったのです。
「安い」と思って買ったらレジで「あれ?」と思った人は多いでしょう。
税抜価格表示の影響で、消費税増税ショックは和らいだことは確かです。
確かに安倍自民党に順風が吹いているわけではありません。
しかし、野党にも順風は吹いているわけでもないのです。
優位なポジションの自民党が大勝するというシナリオになるのです。
どこが勝つにしても、政策の本質的な議論と評価がなされる選挙となるかどうか。
これがポイントなのですが、残念ながら今回の選挙ではそうしたことは起こっていません。
自民が勝とうと、野党が勝とうと、敗者は国民です。